帯の文言―「本当に残酷な『テロ組織』なのか?」が衝撃的だ。思わず手に取って読んでみれば、答えは「ノー」である。著者は長年朝日新聞特派員として中東各地での取材活動の実績を持つ。本書はその蓄積と緻密なデータに裏付けられた納得のいく読み物になっている。
ハマスの誕生は1987年、第1次インティファ―ダと同時であるが、英植民地下でのパレスチナ解放闘争の流れをくむ。ハマスは、パレスチナ解放機構(PLO)の傘下に入らず、貧しい人々への社会慈善運動と対イスラエル闘争の両立という姿勢を堅持した。ハマスは93年にPLOがイスラエル政府と締結したオスロ合意の欺瞞(パレスチ自治政府がイスラエル警察を助けて,占領体制に抵抗するパレスチナ人を取り締まることになる)を見抜き、合意に反対した。
著者はそれを「ハマスの先見の明」と評価する。ハマスは2007年の民主的選挙で選ばれた「政権」政党である。創設時にはパレスチナ全域の解放を目標にしていたが、2107年の新政策文書では、占領地からのイスラエルの撤退と、そこでのパレチチナ国家樹立を求め、イスラエルとの共存を認めるという現実主義に変わった。
現在のイスラエルの戦争目的はハマス壊滅であり、米国も日本もそれを支持しているが、著者は軍事的にも政治的にもそれは不可能と思われるという。理由はハマスがファタハのように腐敗しておらず、パレスチナ民衆とつながり、民衆に支えられているからだ。実際、イスラエル軍報道官も「ハマスの壊滅は不可能」と語っている。(集英社新書1050円)