2024年12月31日

【JCJ オンライン講演会】令和の公害か「PFOA(ピーフォア)」の恐怖  講師:中川 七海さん(ジャーナリスト)25年1月13日(月・祝)午後2時から4時 

 
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■開催趣旨:
  自然界で分解されず永遠の化学物質≠ニ呼ばれる有機フッ素化合物
「PFAS(ピーファス)」。約1万種類のうちとりわけ毒性が強いのが「PFOS(ピーフォス)」と「PFOA(ピーフォア)」で、泡消火剤、フライパン、防水スプレー、食品包装紙などに使われる。
 在日米軍基地や工場周辺から検出され地下水汚染に進展している。水道水への影響を懸念する住民は不安な日々を送る中、WHO(世界保健機構)は2023年11月、PFOAを発がん性があるPFOSを発がん性の可能性があるとした。環境省などは水道水調査結果を発表したが、大半は汚染源が不明。しかし、大阪府摂津市のPFOA汚染源はダイキン工業淀川製作所と国、自治体も断定し、長年のPFOA製造・使用をダイキンも認めている。体内でのPFOA曝露≠住民は訴えるが、健康被害はないとダイキンは主張。
 『終わらないPFOA汚染』(旬報社から24年10月刊行)の著者で気鋭のジャーナリスト・中川七海氏は、放置される公害≠ノ肉薄した。

■講演者プロフィール:中川 七海 (なかがわ・ななみ) ジャーナリスト
1992年、大阪生まれ。大学卒業後、米国本部の国際NGO「Ashoka」に3年間勤務。2020年から探査報道に特化した非営利独立メディア「Tokyo Investigative Newsroom Tansa」に加入し、ジャーナリストに。原発事故下の精神科病院で起きた患者死亡事件の検証報道「双葉病院置き去り事件」でジャーナリズムXアワード大賞 (2022年)、ダイキン工業による大阪での化学物質汚染を描いた「公害PFOA」で、PEPジャーナリズム大賞(2022年)とメディア・アンビシャス大賞[活字部門]優秀賞(2023年)を受賞。

■zoomにてオンライン 記録動画の配信有り。
■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0113.peatix.com)で参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部名を明記の上お申し込み下さい)

■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
    03–6272-9781(月水金の13時から18時まで)
      https://jcj.gr.jp/
■JCJ会員の方はJCJホームページ・ユーザー登録をすることで記録動画をご覧になれます。
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2024年12月30日

24読書回顧―私のおちおし 穏やかな日常が一瞬に奪われて=後藤秀典(24年JCJ賞受賞者)

 
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 福島第一原発事故と司法に関する本をひたすら読んだ一年だった。まずは馬場靖子撮影・著『あの日あのとき ふるさとアルバム 私たちの浪江町津島』(東京印書館)。

 集落のみんなが集まっての田植え、合間にお茶を飲みながら笑う、孫と散歩する女性、地元の高校生が仮装して町を練り歩く、カメラに向かって笑いかける老夫婦…そこには、日々の変わらぬ暮らしを営む人々の素顔を写っている。

やさしさに包まれた写真だが、私は、とてつもない恐怖を感じてしまった。写されたのは、東京電力福島第一原発事故前の福島県浪江町津島地区の人々の暮らしだ。撮ったのは、アマチュアカメラマンの馬場靖子さん。浪江小、津島小で22年間も先生を務め、退職後に写真を始めたという。

 福島第一原発事故で津島は全住民避難を強いられた。私が津島の人々を取材したのは、彼らが起こした「ふるさとを返せ 津島原発事故訴訟」を通じてだった。津島の人々は、国と東電にふるさとに戻れることを求めている。私は、この写真を見て、穏やかな日常が本当にあったこと、そしてそれが一瞬にして奪われたことを実感し恐怖した。

 長島安治編集代表『日本のローファームの誕生と発展』(商事法務)この一年間で最も繰り返し読んだ本だ。本の上と横にはたくさん付箋が貼られ、本文には赤と青の線がびっしり引いてある。

 今年の最大のテーマは、最高裁、電力会社、国と巨大法律事務所の結びつきをより明らかにすることだった。その主役の一人、巨大法律事務所が日本でどのように生まれ成長してきたのか。設立した本人たちがその過程を記したのがこの本だ。

 戦後、日本人の若手弁護士がアメリカに留学し大法律事務所で経験を積み日本で巨大法律事務所の礎を築く。そしてバブル崩壊後金融機関が次々に破綻していく中で、急成長していく。日本経済の危機の中で巨大法律事務所がいかに肥大化してきたか、初めて知った。
「あの日 あのとき…」後藤秀典・本文収載.jpg
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2024年12月29日

【沖縄リポート】土砂搬出、山が消えら台風直撃=浦島 悦子

               
4面 沖縄リポート 奄美市要請 (002).jpg
  
 辺野古新基地建設を強行する沖縄防衛局の横暴が留まるところを知らない。
 沖縄戦の遺骨が混じる南部の土砂採掘が県民の強い反対で暗礁に乗り上げる中、奄美大島からの埋立用資材調達が再び浮上。奄美大島4市町村の採石場と港湾を9月に視察し、住民の深刻な被害状況の訴えを受けた辺野古土砂搬出反対全国連絡協議会の阿部悦子代表らは各市町村宛て要請行動に取り組んだ=写真=。
 奄美大島には多くの採石場があり、住民はこれまでも粉塵・騒音・振動・赤土流出による海の汚染に悩まされてきた。
 11月20日、うるま市宮城島から辺野古埋立用石材・土砂搬出が突如として始まった。宮城島は沖縄島中部の与勝半島から海中道路を通り、隣の平安座島、伊計島と橋でつながる小さな島で、採石場の規模も小さく、埋立土砂全体の1%余を賄うに過ぎない。これも国の焦りの表れだろう。
 採石場入口に駆けつけたある島民は「採石場の山は台風から島を守ってくれる大切な場所。これがなくなったら島に住めなくなるのではないか」と悲痛な声を上げた。

 また、大浦湾に隣接する名護市安部区には、沖縄海洋資源開発(株)なる業者が200万円を持って訪れ、海砂採取への協力を求めたが、区長は受け取りを拒否。区民臨時総会の全会一致で断固反対の決議を上げた。長年の海砂採取で海や生活環境を破壊され、これ以上は我慢ならないという区民の総意だ。

 一方、沖縄防衛局は6月末の安和桟橋での死傷事故以来中止していた塩川港からの土砂搬出を12月2日に強行した。事故の原因究明もせず、市民の抗議行動を「妨害行為」と臆面もなく言いつのる防衛局の悪質さは度を越している。

 土砂全協は早ければ来年度にも動き出しそうな奄美大島からの石材・土砂搬出の断念を求めて、緊急全国署名(第一次集約は1月末)を開始した。是非多くのご協力をお願いしたい。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
 
       

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2024年12月28日

【月刊マスコミ評・出版】偽情報とディープフェイク、国民生活の困窮=荒屋敷 宏

 文春ムック『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』は、アメリカ大統領選挙の結果が出る前に印刷したため、トランプ氏かハリス氏か、誰が当選してもいいように編集されている。
 『世界』1月号(岩波書店)の特集「そしてアメリカは去った」で、酒井啓子、三牧聖子、川島真の3氏による座談会「戦争を止められるか―『国際秩序』の果てから」は、現在の国際情勢を手際よく整理している。戦争を止めることは、ジャーナリズムにとっても、最大の目標であろう。
 「現在、世界的に政権与党に逆風が吹いており、それはアメリカも例外ではありません」(三牧氏)、「中東諸国は、ガザ紛争に関しても冷静に見ています」(酒井氏)、「中国は先進国と非先進国という対立軸で世界を見て、中国自身がグルーバルサウスの中心にあると認識しています」との指摘に学びつつも、国際秩序を動かす力に言及しない点が気になった。

 アメリカ大統領選挙の分析については、『地平』1月号(地平社)の緊急特集「アメリカ選挙と民主主義」が参考になる。内田聖子氏の「偽情報とディープフェイク―もう一つの大統領選」は、SNSなどのネット上の言論空間について「『ネット選挙』『SNS戦略』として矮小化してはならない、政治の質をも変えていく大規模のプロジェクトであり、日本でも起こりうる」と警鐘を鳴らしている。なるほど、兵庫県知事選挙などを想起したくなる。
 内田氏は、今回のトランプ勝利が他国の市民社会に大きな影響を与えていることを強調したうえで、米国における白人男性至上主義の根深さを指摘する。白人男性至上主義を増殖させ、拡散する媒介を果たしたのがSNS上の言説や偽情報、ディープフェイクだったというわけだ。
 重要な論点だが、SNSだけでトランプ氏の勝利に結びついたかというと、疑問が残る。

 『前衛』1月号の萩原伸次郎氏「ドナルド・トランプ前大統領は、なぜ返り咲きに成功したのか?−画餅に帰したバイデン・ハリス政権の経済政策」は、ハリス氏敗北の最大の要因が急激なインフレによる国民生活の困窮にあるとの説を論証しようとしている。
 国際秩序や選挙の結果の背景にあるのは、それぞれの国の国民生活、市民社会であり、世論である。資本主義社会の行き詰まりという論点を打ち出している論者もいるのだから、出版界は、除外しないで俎上にのせてほしいものだ。
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
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2024年12月27日

【月刊マスコミ評・新聞】社説は「生活者の視点」忘れていないか=白垣 詔男

 総選挙後の臨時国会が11月28日に召集され翌29日、石破茂首相が所信表明演説を行った。その内容について30日の朝刊社説は、例外なく「演説の評価」を取り上げた。
 「問われる『熟議』の実行」(朝日)、「熟議で開く未来が見えぬ」(毎日)、「目指す国家像が判然としない」(読売)、「国民に見える法案審議に」(西日本)、「対中認識が甘すぎないか」(産経)の見出しで、少数与党の政権に対して審議方法への注文に重点を置きながら内容を吟味した。産経のように「対中国問題」を中心に書いた内容もあったが、少数与党の石破政権に対して、これまでと違う国会審議を望むといった趣旨が目についた。

 ところで、「石破演説」には「貧困問題」や「マイナ保険証による困惑」といった、国民が生活する上での「心配や不安をどう解消するのか」の視点が全くと言っていいほどなかった。
演説では「国民の皆さまの暮らしが豊かになったと感じていただくためには、現在や将来の賃金・所得が増えていくことが必要です。…『国民の安心・安全と持続的な成長に向けた総合経済対策』を策定しました」と言っていたが、「豊かにな」る前に、増え続ける「子ども食堂」が象徴するように「貧困世帯」が多くなっている現実を、どう認識しているのか。

 また、12月2日から運用が始まった「マイナ保険証」については、病院通いが常態化している中高年齢層を中心に大きな不安が広がっている。しかし、演説にはその点には触れていなかった。日常生活で不安を抱えさせる「改革」を強引に始めた政府の責任について、政府は何らかの弁明なり説明が必要だったのに不問にした。

 以上の2点について、各紙社説もまた、素通りしている。石破演説の中身を吟味するだけならば「石破作文に対する感想文」と言われても仕方がないのではないか。「社説」は、読者の生活に根差した視点で、石破演説を吟味して、論評をしなければ、「新聞の役目を果たした」とは言い難い。

 新聞が「ジャーナリズム」の一角を占めているのは、政府のすべてをチェックしなければならないのはもちろんだが、その先にある「読者の生活」を見据えて説得力のある社説を求めるのは、ない物ねだりなのだろうか。
         JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
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2024年12月25日

【おすすめ本】立岩陽一郎『NHK 日本的メディアの内幕』─続く不祥事,生々しい証言 公共放送の再生をめざして=高野真光(月刊「マスコミ市民」発行人・編集委員)

「NHKは大事なんだよ」という田原総一朗氏の言葉が印象的なオビ。だが、その中身は読む者に「NHKは本当に必要なのか」という重い問いを突きつけてくる。
 著者は、NHKで社会部や国際部の記者として数々の調査報道の特ダネを書いた実績を持つジャーナリストである。この著書を際立たせているのは、NHK在籍中に自らが体験した出来事だけでなく、NHKをめぐる不祥事について、NHKのOBを始めとする関係者から、直接取材をして生々しい証言を得ていることである。
 著者はNHKの各組織が抱える様々な問題にメスを入れる。森元首相の「神の国」発言への指南書問題の内実、NHKという巨大放送組織の実態や権力構造、さらには佐戸美和さんの過労死をめぐるNHKの不可解で冷淡な対応にも話は及ぶ。

 そこで明らかにされたのは、NHKと政治の距離の近さ、時の政権への忖度、視聴者に対する閉ざされた対応、自らの不祥事に誠実に向き合おうとしない官僚体質など、公共放送NHKが抱える病理の深刻さである。
 著者は、NHKが生まれ変わるために、過去の不祥事をウヤムヤにせず組織として真摯に向き合必要性を説く。「巨大さ を追及した官僚機構としてのNHKに終止符を打つこと」だとも。
 現役の役職員は、この指摘を、どのように受け止めるのだろう。NHK放送センター内の書店では、本書が1カ月以上、一般書のベストセラー1位の座に留まっている。来年は放送開始から100年。それを意識して多くの職員が手に取っているなら、それは公共放送再生に向けて一筋の光となるかもしれない。(地平社2000円)
                     
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2024年12月24日

【焦点】世界の原発建設費コストは今や数兆円、日本はわざと過小に評価=橋詰雅博

 経済産業省が12月17日に発表した第7次エネルギー基本計画(エネ基)原案で最大限活用に転じた原子力発電所だが、肝心の原発建設費はどうなっているのか。今の物価高騰に伴い建設費も大幅にアップしている情勢を鑑みると相当に上がっているのは予想がつくが、具体的な数字を見てみたいと思い調べてみた。国際環境NGO「FoE Japan」のブログ(24年10月10日)によると、原発建設費は当初予算の数倍の数倍も膨らみ、今や数兆円は当たり前と報告している。各国の実例はこうだ。

●2023年本格稼働したフィンランドのオルキルオト原発3号機(出力160万キロワット)。建設期間が16年以上に及び、当初計画よりも12年も延長しました。当初見積もられていた建設費用は30億ユーロ(4,800億円)でしたが、実際にはその3倍以上の110億ユーロ(1兆7,000億円)にも達しました。
●23年7月と24年4月に相次いで稼働したアメリカのボーグル原発3、4号機(出力110万キロワット)。スリーマイル島原発事故後、米原子力規制委員会が30年ぶりに建設許可を出した原発として原子力産業界の期待を集めました。2013年に着工しましたが、工事は何度も遅延し、総工費は当初計画の2倍以上の計310億ドル(約4.4兆円、一基あたり約2.2兆円)にまで膨らみました。これはウエスチングハウス(WH)の経営破綻につながり、当時WHの親会社であった東芝は債務超過に陥る事態となりました。
 ボーグル原発の建設費の膨張は、各世帯の電気代に転嫁されました。毎日新聞の連載「原発・出口なき迷走 米国編/1 電気代、年間100万円 怒り(その2)安価な電力“神話”は昔」(24年9月30日)では、驚くことに、同原発では、特例措置により、完成前から建設費の一部を電気料金に上乗せされており、1世帯平均で累計約1000ドル(約14万円)も支払われてきたというのです。そういう意味では、今日本で検討されているRABモデルの制度を先取りしたともいえます。
●07年に着工したフランスのフラマンビル原発は、12年に完成予定でしたが、さまざまなトラブルが発生。工事が大幅に遅れ、17年後の24年9月に稼働しました。建設予算は30億ユーロ程度でしたが、総費用は132億ユーロ(約2.1兆円)に達しました。
●イギリスで建設中のヒンクリーポイントC原発でも、工事がどんどん遅延しています。16年5月当時、EDFエナジー社は2基で180億ポンドと試算していましたが、24年1月段階では、総工費は310〜340億ポンド(約5.8〜6.4兆円)に増加しました。当初25年までの運転開始を予定していましたが、30年前後に延期。物価上昇率を考慮すれば、一基当たり約4.6兆円になると見込まれます。

 翻って日本はどうか。政府の「発電コスト検証ワーキンググループ」では原発の発電コストの前提として原発建設費用+追加安全コストを6,169億円としています。「これは最近の世界の原発の建設費からみると、かなりの過小評価」と分析している。
 建設費の爆上がり≠ヘ結局、利用者の電気料金に上乗せというツケが回されることになる。原発コストは安いはウソだ。


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2024年12月23日

【JCJ12月集会アピール】戦争をくいとめるために=日本ジャーナリスト会議

 今から83 年前の12 月8 日、日本海軍の真珠湾奇襲攻撃で、太平洋戦争が始まりました。中国での戦争が膠着化するなかで、ラジオの勇ましい大本営発表のニュースに多くの国民が熱狂し、この戦争を支持しました。その3 年8 カ月後に、多くの人が犠牲になり、国土が焦土化し敗戦を迎えることを、この時、予想した人はほとんどいなかったのではないでしょうか。

 しかし、歴史を振り返れば、そもそも初めから勝目などない戦争であることを知りながら「勝つだろう」などと空虚な希望的観測のもとに、軍や政府が戦争へと踏み込んでいったことを知ることができます。人のかけがえのない命や暮らしを戦火に投げ込んだ権力者たちに、大きなりを覚えます。そして、無批判に軍に雷同し、事実を伝えず、率先して国民を戦争に駆り立てていった当時の新聞、ラジオといったメディアの責任の大きさも、改めて指摘するまでもありません。

 私たちは、もう間もなく戦後80 年、という節目を迎えます。「もはや戦後ではない」とする言説もありますが、次の戦争を起こさないためにも「戦後〇年」という区切りは、大事な防波堤の役割を果たすのではないでしょうか。
 一方で戦後80 年の2025 年は、集団的自衛権の発動を可能にした安保法制が成立してから10 年になります。“ 安倍一強” の自公政権が進めてきた、日本を「戦争ができる国」にする政策は、ついに「敵基地攻撃能力」の保持に至り、防衛費が大幅に増額されるほか、米軍の基地負担に苦しむ沖縄には追い討ちをかけるように自衛隊の新しい基地や施設が次々に建設・整備されています。

 「二度と戦争のために、ペン、カメラ、マイクを持たない」との決意のもとに設立された日本ジャーナリスト会議(JCJ)は、軍拡に抗い平和を守る取り組みとして、8 月集会を開催したのに続き、本日ここに12 月集会の場を持ちました。今回のテーマは、「なぜ戦争を止められなかったのか」。集会での講演・シンポジウムを通して、この問題を考えることは実はコインの表裏のように「どうすれば戦争をくいとめられるか」を考えることにもつながりました。過去から学び、二度と戦争への道に踏み込んではならない、そのために私たちが、日常の中でできることは何なのか。

 JCJ は本日の12 月集会の成果をもとに、来年の戦後80 年も引き続き「戦争の準備」ではなく「平和の構築」を目指して、市民のみなさまと一緒に活動を進めていきます。
                 2024 年12 月22 日 日本ジャーナリスト会議(JCJ)
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2024年12月22日

【お知らせ】NHK子会社で受けたパワハラ係争中の非正規職員への署名活動に協力を、本紙11月号で記事掲載=橋詰雅博

 本紙11月25日号3面に掲載した「NHK職場のパワハラ」と題した記事(http://jcj-daily.seesaa.net/article/505948616.html)は、職場の上司の部長からパワハラを受けたNHKグローバルメディアサービスのデジタルニュース部門に所属する非正規職員・原田勤さん(元埼玉新聞記者)自らその実態を明らかにしている。
 そのパワハラは@2022年4月、NHKニュースウェブの原稿の校閲作業中に難癖をつけに来た部長(元NHK社会部記者)がいきなり校閲者の原田さんの手を払いのけた暴力行為、A深夜帰宅のタクシー券の記入ミスの報告にこの部長が説明をさえぎり「認知、認知、認知だよ」と罵倒した―など。原田さんは一人加盟の民法労連放送スタッフユニオンに加入後、23年に会社に訴え、4月に団体交渉を行った。
 会社は認知発言を認めたが、暴力事件については部長をけん責処分にとどめた。このため原田さんは23年9月に部長に損害賠償、会社に安全配慮義務違反があるとして東京地裁に提訴。係争中だ。
 民放労連放送スタッフユニオンは、「NHK職場からハラスメントをなくそう!安心して働ける職場環境の実現を!!! Change.org」でオンライン署名活動を行っている。「公正な審理を通してパワハラの責任を明確にし、再発防止策を強化させ、NHKグループ全体でハラスメントがなくなってゆくよう、裁判官に向けての署名に取り組んでいます」という同スタッフユニオンは署名に協力してほしいと訴えている。
https://www.change.org/p/nhk%E8%81%B7%E5%A0%B4%E3%81%8B%E3%82%89%E3%83%8F%E3%83%A9%E3%82%B9%E3%83%A1%E3%83%B3%E3%83%88%E3%82%92%E3%81%AA%E3%81%8F%E3%81%9D%E3%81%86-%E5%83%8D%E3%81%8D%E3%82%84%E3%81%99%E3%81%84%E8%81%B7%E5%A0%B4%E7%92%B0%E5%A2%83%E3%81%AE%E5%AE%9F%E7%8F%BE%E3%82%92?recruiter=1343287275&recruited_by_id=05d19b90-3d47-11ef-ab53-557e97cc5d77&utm_source=share_petition&utm_campaign=share_petition&utm_medium=copylink&utm_content=cl_sharecopy_490212464_ja-JP%3A2

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2024年12月21日

【袴田事件】マスコミの責任は? 罵詈雑言連ねて犯人視 「不作為」にも反省を=小石 勝朗(ライター)

                  
袴田さん、無罪確定の写真・2024年10月.JPG
       無罪確定の報告集会で 静岡市葵区の静岡労災会館、撮影・小石 勝朗
 袴田事件(1966年)でいったん死刑が確定した元プロボクサー、袴田巖さん(88)が再審で無罪になった。究極の刑罰である死刑が対極の無罪に覆るというあってはならない事態は、マスコミにも大きな課題を突き付けている。18年前からこの事件の取材をしてきたライターが問題提起する。

異常性格者や
二重人格とも

 静岡地裁が無罪判決を言い渡した9月26日以降、新聞各社は相次いで袴田さんへのおわび記事を掲載した。事件発生当時の報道は、捜査機関の見立てを根拠に袴田さんを犯人視していた。
 逮捕された日の連行時には袴田さんが「不敵なうす笑い」を浮かべていたと描写し、「ぐれた元ボクサー」と揶揄した。犯行を認めない間は「だんまり戦術」と批判的に伝え、「自白」時点で「ジキルとハイド」にたとえた記事もあった。
 起訴の3日後に毎日新聞の地方版に掲載された静岡支局長の署名記事は、袴田さんを「とても常人のモノサシでははかりしれない異常性格者」と決めつけ、「悪魔のような$l間」「悪ヂエだけが発達した男」と罵詈雑言の限りを尽くしている。
 静岡新聞や読売新聞も「異常性格者か」「典型的な二重人格」との大学教授の談話を載せた。
 確定審の一審・静岡地裁の担当裁判官で、無罪を主張したが1対2で死刑に決まったと告白した熊本典道氏(2020年11月逝去)は、2人の裁判官が有罪を唱えた理由を「あれだけの犯人視した記事を読めば無罪とは言えなかったのだろう」と推察していた。報道(主に新聞)が少なからず重刑に加担した面は否めまい。

指摘受けても
顧みない各社

 そもそも、袴田さんに対する行き過ぎた表現は、仮に有罪であったとしても重大な人権侵害だ。だが、指摘を受けても新聞各社は顧みてこなかった。
 毎日新聞社はつい3年前に「異常性格者」の記事の検証や謝罪を求めた袴田さんの支援団体に対し、「掲載から55年が経過しているうえ、筆者がすでに他界していることもあり、執筆の意図や経緯の確認はできませんでした」と他人事のような回答をしている。
 「袴田事件」という呼称もマスコミが名づけたものだ。静岡地裁で再審開始決定が出た後になって、各紙は記事中でこの呼び名を使うのをやめ「静岡県で一家4人が殺害された事件」などと言い換えた。だが、理由を紙面できちんと説明した新聞は、私の知る限りない。

「忘れられた
事件だった」

 もう1つ、忘れてはいけないマスコミの責任がある。長い間この事件ときちんと向き合わず、ほとんど取り上げてこなかった「不作為」だ。
 朝日・毎日・読売・日経の4紙を対象に「袴田巌」のキーワードで記事検索をして各年の掲載本数を調べると、静岡地裁で再審開始決定が出た14年は425本、東京高裁で再度の再審開始決定が出て公判が始まった23年は518本ある。
 これに対し、第1次再審請求が審理されていた02年や05年はわずかに各7本。地方版の集会のお知らせ記事を含んでこの数字だ。データベースへの収録条件は一定でないとはいえ、この時期に各紙が関心を寄せていなかったことは明らかだ。
 静岡放送の記者だった02年からこの事件を取材し、映画「拳と祈り ―袴田巖の生涯―」を最近公開した笠井千晶監督は、当時の状況を「忘れられた事件だった」と述懐している。同感である。

総局長「読者
の関心ない」

 朝日新聞静岡総局の記者だった私は、この事件の取材を始めて間もない06年に、総局長に原稿をボツにされたことがある。袴田さんの支援団体の取り組みを地方版向けに短く書いたものだったが、総局長はデスクを飛び越して私を呼びつけ、こう言い放った。
 「この事件に読者の関心はない。これは社内の主流の考えだ」
 その時点でも冤罪を疑わせる要素はいくつもあった。読者に関心がないから取り上げないのではなく、関心を喚起するために記事にするのが、新聞の本来の役割であることは論を待つまい。
 総局長の「暴言」は、ある意味で当時のマスコミのスタンスを象徴していたのかもしれないが、その後の朝日新聞の取材態勢や膨大な記事の量を見ていると、全くの的外れだったことは間違いない。私にとっては、この事件の取材を続ける原点になった。

自らの「姿勢」
謙虚に見直せ

 10月下旬に中日新聞社の幹部が袴田さん宅を訪れて事件当時の報道を謝罪した際、姉の秀子さん(91)はこう答えたそうだ。
 「私は(当時)新聞もテレビも見なかったので、何が書いてあったか存じません」
 この言葉には、教訓をどう生かすか自分たちでしっかり考えなさい、という含意があるのではないだろうか。
 おわび記事を出すまでに、なぜ58年もかかったのか。検察に捜査や公判手続きの検証を求めるだけでなく、マスコミ各社もこれまでの姿勢を謙虚に、子細に見直して、今後の事件報道に反映していかなければならない。
 そして、真剣に責任を感じているのであれば、すぐに着手すべきテーマがある。日本弁護士連合会などが提唱している再審法制の整備を強力に後押しすることだ。

「証拠」開示 
制度化が急務 


 袴田さんの雪冤(せつえん)に長い期間を要した原因として、検察が持つ証拠が開示されなかったことや、検察が再審開始決定に不服申し立てをしたことが挙げられている。検討項目にはほかにも再審請求審の公開や進行協議の正確な記録といった取材にかかわる内容が含まれており、制度化が急務になっている。
 法改正に猛反対するであろう検察におもねることなく、大々的なキャンペーンを展開して世論を動かすくらいのアクションが必要だ。
                            ◇
 このたび『袴田事件 死刑から無罪へ〜58年の苦闘に決着をつけた再審』(現代人文社)を出版しました。無罪判決までの裁判の推移と、この間の事件に関連する動きを丹念に追い、雪冤に至った経緯を分かりやすく詳らかにしています。
                
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      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
  

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2024年12月20日

【裁判】「NHK文書等開示請求訴訟」が原告側完勝と言える勝利的和解で終了 JCJ会員らも原告団に加わる=放送を語る会

 NHK文書開示等請求訴訟原告団事務局長・長井暁氏が原告への報告とお礼を述べた。要旨は以下の通り。

 2021年6月の提訴以来、私たちが3年半にわたって取り組んで来たNHK文書開示等請求訴訟は、12月17日に東京高等裁判所で和解が成立したことにより終了いたしました。
 私たちが隠されてきた経営委員会での会長厳重注意(2018年10月)の議事録の開示を求めて提訴するすると、その一か月後に議事録(粗起こし)が開示されました。しかし、経営委員会が公表を拒んだために、私たちは議事録の公表と森下俊三経営委員長の責任の明確化を求めて裁判を続けることといたしたました。

 その結果、2024年2月20日に東京地方裁判所で原告勝訴の判決が言い渡されました。NHKと森下氏は判決を不服として控訴いたしましたが、一審原告勝訴の流れを受けて東京高等裁判所で和解協議が進められた結果、経営委員会が会長厳重注意の議事録をNHKのホームページに公表すること、森下氏が解決金として原告一人につき1万円(計98万円)の金額を支払うという和解が成立しました。私たちの求めてきた二つの目標(公表と責任の明確化)がほぼ達成された内容であると評価いたします。

 なお和解金はこれまでほぼ手弁当で裁判を担当して来てくださった4人の原告弁護団の先生方にお支払いする弁護士費用に充てさせて頂きたく存じます。
 また、多くの原告・支援者の皆さまからお寄せいただいたカンパの残金は、「ニュース」の発行と、この裁判に関する何らかの書籍の出版と、皆さま方にお送りする郵送費等に使わせて頂きたく存じます。何卒ご了解ください。

 裁判は終わりますが、皆さま方におかれましては、公共放送NHKが放送法の精神に基づき、自主自律を堅持し、健全な民主主義の発展に資するように、監視・批判・激励を続けて行って頂きますよう、お願い申し上げます。
                                                      2024年12月18日


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2024年12月19日

【沖縄シンポA】フィールドワークも実施 自衛隊駐屯地訪れる 八重山戦争マラリア学ぶ=米倉 外昭(JCJ沖縄)

  シンポジウム前日の26日には、島外、県外から9人が参加して、「石垣島の平和と自然を守る市民連絡会」のメンバーの案内によるフィールドワークが行われた。

 最初に昨年3月に開設されたばかりで施設の工事が続く自衛隊石垣駐屯地を訪れた。県の環境アセス条例施行の経過措置ぎりぎりで着工した姑息なアセス逃れや、強引な土地取得などの説明を受けた。
               
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 次に、沖縄戦時の野戦病院後に立つ「暁之塔」を訪ねた。塔には、看護師として学徒動員され16歳で戦病死した八重山高等女学校生、ア山八重さんの名前が刻まれている。現場で八重さんのおいに当たるア山錦士郎さんが、公務死を証明する当時の書類なども示しながら説明した。
                
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 続いて展望台から自衛隊駐屯地や、ラムサール条約登録湿地のアンパル、ゴルフ場計画地などを見て、生態系や景観への影響などについて理解を深めた。
 八重山戦争マラリア犠牲者慰霊之碑では、戦争マラリアの実態と、政府が個別補償を拒んだ経緯などを学んだ。
 最後に新栄公園にある「戦争放棄の碑」を訪ね、平和を求め続けた市民の運動や、現市政が平和行A政に背を向けている実情を聞いた。
   JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
 

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2024年12月18日

【沖縄シンポ@】沖縄・琉球弧の声を届ける会連続講座 地域間での連携・行動を確認 石垣島で初の開催=米倉外昭(JCJ沖縄)

                       
シンポジウム (報告者).jpg
       
「沖縄・琉球弧の声を届ける会」の第5回連続講座=写真=が10月27日、石垣島で開かれた。これまで4回は那覇市で開かれており、今回初めて離島で開催された。新たに自衛隊基地ができたことで激変する地域の実状や環境問題について各地からの報告や専門家の提言などが行われた。「島の中でも温度差があり、小さな島も日本の縮図である」との指摘もあり、地域間で連携し行動し続けることを確認した。

 シンポは、石垣駐屯地に隣接して暮らす嶺井善おもと公民館長、与那国島で畜産を営む小嶺博泉さん、「ミサイル基地いらない宮古島住民連絡会」の上里清美共同代表が、それぞれ現地の状況を報告に続いて、砂川かおり沖縄国際大准教授が基調講演した。
嶺井さんは、沖縄戦の後、両親が玉城村(現南城市)から計画移民として開拓に入り、厳しい生活を営んできた歴史を振り返った。「自分たちは自然に生かされている。未来の人たちにいい形で残していくよう努力したい」と結んだ。
 上里さんは、自衛隊駐屯地や訓練場が次々に建設される中で、家賃・地価、物価の高騰で住みにくい島となったと訴えた。今後、下地島空港の軍事利用が大きな問題になると話した。
元町議の小嶺さんは「国境の島に住民がいることが(振興策を得るための)外交カードだったが、駐屯地ができてカードがなくなった」と話した。
        
         住民生活にリスク 環境アセスそのものに欠陥

 砂川准教授は「南西諸島の軍事要塞化に係る環境アセスメントの課題」と題して語った。
自衛隊施設に対して、環境アセスだけでなく火薬取締法などでも規制が弱いと指摘し、住民生活へのさまざまなリスクを解説した。そして、環境アセスの年間実施数が、米国が3万〜5万件であるのに対し、日本は20〜100件と極端に少なく、累積影響を導入していないなど、制度そのものに欠陥があると強調した。

 そして、市民がお金を集めて土地を買い取り保全するナショナル・トラストや、条例で「自主アセス」を規定するなど8項目の提言を行った。討論では、小嶺さんが「攻められたらどうするんだ、とよく言われるが、抑止力はハードにハードだ。最後は原爆だとなって何の解決にもならない。ハードに対してソフトで行くべきだ」と訴えた。
 国民保護計画の説明会や避難訓練の様子についての質問には「避難なんてできないとみんな思っている」「市の担当者も困っている」などの説明があった。
       JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月17日

【出版界の動き】出版社「秀和システム」の動きとソニーがKADOKAWA買収=出版部会

◆11月期出版物売上げ前年比101.5%
 週刊誌が前年超えとなり、「ジャンプ GIGA 2024 AUTUMN」が売上げを牽引。書籍は実用書・ビジネス書・専門書・学参が前年超え。実用書では『梅津瑞樹セカンド写真集 飛べ、現へ』(主婦と生活社)、『前田拳太郎 Personal Photo Book 藍色』(KADOKAWA)などの写真集が好調。コミックは「ONE PIECE 110」が売上を伸ばしたものの、前年には及ばない結果となった。

◆新文芸誌『GOAT』完売で重版
 小学館から11月27日発売の『GOAT』が大好評で、「売れない」といわれる文芸誌としては異例の大重版を決定し、累計3万部になる。本文に色上質紙を使用するため時間を要し、2刷りは12月27日頃より店頭に並ぶという。大ヒットの要因は、小説ファンだけでなく小説を読まない人たちから注目されたことにある。
 12月6日発売の小学館文庫には、『GOAT』の表紙にいる“ゴートくん”の特製しおりを作成し封入する。ゴートくんが手に持っているハートを、ページに挟んで活用してほしい!と意気込む。

◆船井倒産と「秀和システム」
 10月24日に倒産した船井電機の負債総額は470億円。実質的な負債は800億円に上るとも言われている。同社の迷走は、2017年に創業者の船井哲良氏が亡くなり、2021年5月に船井電機を出版社「秀和システム」が買収。この出版社は1974年に設立され、ITエンジニア向けの専門書を中心に、幅広いジャンルの書籍を発行している。
 船井電機を買収した秀和システムの社長・上田智一氏は、新たに持株会社の船井電機・ホールディングスをつくり、“新事業”として、なんと脱毛サロンのミュゼプラチナムを買収する。その原資は船井電機の本社不動産などを担保にした借金によるといわれ、分かっているだけでも50億円が流出した。
 船井電機HDの事業報告書を見ると、3年間で純資産が300億円も減少、急速に財務が悪化していた。破産を選んだのはこれ以上の被害を防ぐためとみられている。仮差し押さえの前に脱毛サロンのミュゼプラチナムは売却され、上田氏は9月に退任。会長には原田義昭元環境相が就任し、船井電機の復活を目指すという。

◆ソニーがKADOKAWA買収へ
 現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%保有している。KADOKAWAの株総額は、現在の時価で約6000億円。ソニーがKADOKAWAの完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界では最大規模のM&Aとなるだろう。
 すでに両社は2021年、ソニーのアニメやゲームの世界的な展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた、長期的な関係強化を目的にして資本提携がなされている。それ以降、提携の度合いは加速し、関係は深まっていた。
 とはいえ近年、KADOKAWAが力を入れる教育事業(N高・ZEN大学など)や「ニコニコ動画」はどうするのか。ソニーはKADOKAWA買収に当たって、これらの事業も継承し経営戦略に入れているのか。不透明であるのは間違いない。
 さらにここにきて、韓国IT大手のカカオが、KADOKAWAの株を買い増し、24年4月には実質的な筆頭株主(11.37%)となっている。その成果として、つい最近KADOKAWAがカカオピッコマと業務提携し、画期的電子マンガマガジン「MANGAバル」を共同で立上げ、国内最大級のIP創出装置に発展させ、無料で読める連載作品の最新話を毎日更新するという。
 今やカカオのKADOKAWA株占有率は、ドワンゴの創業者である川上量生氏(5.00%)や、22年まで会長を務めていた角川歴彦氏(23年3月まで2.06%)も大きく上回っている。ソニーはKADOKAWAの筆頭株主であるカカオを、どのように攻略するのか。これらの株主の動きが激しくなるにつれ、KADOKAWA株の安定性や信用度がふらつく危険も浮上している。
 割安な日本企業の株を、海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けているし、エンタメ企業に対しても買収、資本参加が相当数行われているのは確実だ。

◆今村翔吾さん「書店復活」挑戦続く
 全国で書店が減っていく中、直木賞作家・今村翔吾さんが昨年12月3日、JR佐賀駅にオープンした「佐賀之書店」が、この3日で1年を迎えた。同駅内では2020年に書店が閉店したが、全国の書店減少に危機感を抱く今村さんが新たな形で復活させた。
 開店1年を記念したイベントが11月24日に開かれた。佐賀駅の飲食街に設けられた会場のトークショー第1部で、今村さんは愛野史香さんと対談。愛野さんは嬉野市在住で桜田光のペンネームで書いた『真令和復元図』が今年の角川春樹小説賞を受賞した。第2部では2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんと対談。軽妙な掛け合いに、何度も笑いが起きた。
 今年4月27日、東京・神保町に今村さんがオープンした書店「ほんまる」も好評だ。本を売りたい人に書棚を貸し出す「シェア型」の店で、1階と地下1階に364棚を備える。「本好きのサポートにより、書店の減少に歯止めをかけたい」と願いを込める。
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2024年12月16日

【おすすめ本】樋口健二『新版「原発崩壊」』原発の不条理は変わらない 草わけ的写真集の再刊=坂本充孝(ジャーナリスト)  

  筆者の原発取材歴は1972年ごろから。50年以上も一貫して原発労働の過酷な実態、事故の悲惨さを写真と文で記録し続けてきた。
 前著の「原発崩壊」(合同出版)が絶版となり、写真を入れ替えての再刊。それでも色褪せた感じがしないのは、原発の問題自体が解決の糸口すら見いだせず、むしろ状況悪化の一途をたどっているからにちがいない。

 2011年3月の福島第一原発の事故により日本人は原発の恐ろしさを肌で知った。 だが、それは遅すぎた。日米原子力協定が仮調印された1955年以後、この国は有り余る難題を承知の上で強引に原子力政策を進めてきた。白を黒と嘘を重ねた結果として、幾多の事故があり、そ
の延長線上で福島第一原発は爆発したのだ。

 筆者が一番力を入れて伝えているのは、原発労働者の悲劇である。ろくな知識も与えられぬままに、高線量の発電所で下請け仕事をさせられ、体調を崩して働けなくなると「原発ぶらぶら病」などと揶揄された人々。「(原発企業は)社会的弱者を徹底的に使役し、搾取し、病気になればボロ雑巾のように捨てたのである」
 
 彼らの証言を発表しようとすると、兄弟や家族が原発で働いているからと拒否されたことが多々あったという。そうして悲劇は闇へと葬られた。闇の上に胡坐をかき、原発は増殖したのだ。
 福島第一原発の核燃料デブリの取り出しが始まった。高線量下で時間に追われ、危険な作業を担うのは、また下請け作業員だ。事故はいつ起きてもおかしくない。(現代思潮新社2800円)
         
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2024年12月15日

【映画の鏡】音楽創造の原点を淡々と 『シンペイ 歌こそすべて』大衆と向き合う生き方描く=鈴木 賀津彦

              
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             🄫「シンペイ」製作委員会2024

 音楽家を含め、あらゆるクリエーターの原点とは大衆との向き合い方なのだろうと気付かせてくれる描写に共感した。『シャボン玉』『ゴンドラの唄』『東京音頭』など今もなお多くの曲が歌い継がれ、誰もが知る作曲家中山晋平(1887〜1952)の生涯を音楽とともに綴っている。ドラマチックな展開がある訳ではないが、淡々と曲作りへの想いを掘り起こしていて、シンペイの生きる姿勢が伝わってきた。監督は神山征二郎。

 演出家・島村抱月の書生となって苦学した晋平は、抱月が旗揚げした芸術座の第3回公演『復活』の劇中歌で「日本の新しい歌を」と作曲の要請をされ、『カチューシャの歌』をつくった。1914年27歳だ。翌年に母が病死、悲しみの中から『ゴンドラの唄』を生み出す。作詞家野口雨情が児童文芸誌「赤い鳥」の童謡運動に賛同して書いた『シャボン玉』の詩に曲をつけた時は、雨情の最初の子どもが7日で亡くなったという話を知り、雨情の想いを曲に込めている。

 18歳で上京し苦学して音楽の道に進んだ晋平が、母と一泊した時に言われた「母ちゃんが歌える歌、いっぱい作ってくれ」の一言。精力的にヒット曲を書き2000曲もの作品を残した晋平の心の内を掘り下げた映像から、現代へのメッセージを受け取りたいと感じた。

 映画を観ながら、NHKの朝ドラ「エール」が作曲家古関裕而の物語で好評だったが、それなら中山晋平を取り上げたらもっとインパクトある朝ドラになるのではと妄想した。22日から長野県で先行公開中、1月10日から都内など全国順次公開。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
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2024年12月14日

【Bookガイド】12月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)

 ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)

川崎興太『福島の原風景と現風景―原子力災害からの復興の実相』 新泉社 12/9刊 3000円
「福島の原風景と…」.jpg 福島復興の光と影。時間の経過とともに福島原発事故はローカルな問題となり、忘却の忘却が進む。まるで事故はなかったかになりつつある。都市計画、コミュニティデザイン、社会学などの観点から、福島の復興に関する多彩な原風景と現風景を提示し、福島の問題を当事者として経験する手がかりを提供する。著者は福島大学教授、専門は福島の復興。
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小林真樹『深遠なるインド料理の世界』 産業編集センター 12/13刊 1800円
「深淵なるインド料理の世界」.jpg 甘いバターチキン、デカすぎるナン、流行りのビリヤニ。インド料理のルーツを求めて、インド亜大陸を東奔西走。元バックパッカーの著者が足繁くインドに通い、ディープなインド料理を求めて、隅々まで食べ歩いた、インドへの深い愛と溢れ出す知識を詰め込んだ食エッセイ。インド食器・調理器具の輸入卸業を主体とする有限会社アジアハンター代表。
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瀬川至朗編著『「忖度」なきジャーナリズムを考える』早稲田大学出版部 12/13刊 1800円
「忖度なきジャーナリズム…」.jpg 統一教会と政界の癒着、裁判所の事件記録廃棄問題、PFAS汚染、精神科病院の「死亡退院」、南米アマゾンの「水俣病」、新型コロナワクチンの健康被害、性加害問題などなど。権力や権威に屈することなく問題の本質を追い、他のメディアが報じなくてもニュースを伝え、固定化した社会に諦観せず小さな声に光を当てるジャーナリストたちの軌跡をたどる。早稲田大学・人気講座「ジャーナリズムの現在」に登場した9人の講義録。
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高世仁『ウクライナはなぜ戦い続けるのか─ジャーナリストが戦場で見た市民と愛国 』旬報社 12/16刊 1700円
「ウクライナはなぜ…」.jpg 「ここは私の国です―自由を失うわけにはいきません。私たちは政府も大統領もあてにしていません」─ロシアの軍事侵攻が始まって2年半以上、ウクライナの人々は兵士、民間人ともに現在も粘り強い抵抗を続けている。ボランティアとして、独自に兵士や激戦地の住民へ支援を行う者も少なくない。報道・ドキュメンタリー番組を数多く制作し現在はフリーの著者が、ウクライナを現地取材し戦う彼らの姿を伝える。
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江渕 崇『ボーイング 強欲の代償─連続墜落事故の闇を追う』新潮社 12/18刊 2200円
[ボーイングの…」.jpg 最新鋭旅客機はなぜ墜落したのか? アメリカ型資本主義が招いた悲劇に迫る。2018年にインドネシア、2019年にエチオピア、ボーイングの旅客機737MAXが立て続けに墜落。事故後、墜落原因となった新技術の欠陥が判明する。なぜアメリカを代表する企業は道を誤ったのか? 株主資本主義の矛盾をあぶり出し、日本経済の行く末を問うノンフィクション! 著者は朝日新聞記者。国際経済報道や長期連載「資本主義NEXT」を主に担当。
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朝日人文社会部編『ルポ 子どもへの性暴力』 朝日新聞出版 12/20刊 2000円
「ルポ子どもへの性暴力」.jpg 子どもが性暴力に遭う"場面"は身近に潜む。家庭、学校、サークルなどで頻発する実態に迫る。朝日新聞連載「子どもへの性暴力」は、大きな反響を呼んだ。その迫真のルポを書籍化。家族や教師による性暴力、痴漢や盗撮、JKビジネス、男児の被害、デートDV──、被害者たちが語ったこととは何か。誰も思い描けない、想像しえない現実の恐ろしさに身がすくむ。
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斎藤文彦『力道山─「プロレス神話」と戦後日本』岩波新書 12/24刊 960円
力道山.jpg 空手チョップを武器に外国人レスラーと激闘を繰り広げ、戦後日本を熱狂させた力道山。大相撲から、アメリカで大人気を博していたプロレスへ転じ、テレビの誕生・発展とともに国民的ヒーローとなった。神話に包まれたその実像とは。そして時代は彼に何を仮託したのか。1963年12月15日、力道山が刺されて39歳で死去するまでの軌跡を、長年にわたる取材の蓄積と膨大な資料を駆使して描き出す。著者は1962年生まれ、早稲田大学や筑波大学の大学院でスポーツ科学を学び、現在プロレスライター。
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永田浩三『原爆と俳句』大月書店 12/25刊 2800円
「原爆と俳句」.jpg 原爆を俳句で記録した人たちの軌跡をたどり、そこに込めた想いをすくいあげる。人類にとって、最も悲惨な原爆という重いテーマに対して、俳句がどのように向き合ってきたのか。原爆投下直後のヒロシマやナガサキで詠まれた俳句を通して、俳句で原爆を記録し、今も火種を絶やさずつなぐ人たちに、長年の取材を通して光をあてる。著者は武蔵大学教授(メディア社会学)。元NHKプロデューサー。
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2024年12月13日

【リレー時評】「リベラルな国際秩序」理念の実質化=吉原 功(JCJ代表委員)

 自民党・立憲民主党の党首選に続く衆院議員選挙、さらには米国の大統領選挙でこの夏から秋まで日本メディアは選挙報道に明け暮れた。衆議院選挙では自公政権が過半数割れ、米大統領戦ではトランプ元大統領が大方の予想に反して圧倒的勝利を収めて帰り咲いた。

 与党の過半数割れで日本の国会は従来のように閣議決定ですべて決まることはなくなるとの期待の声が高い。だが懸念もある。野党が全体的に保守側にシフトしており、主要野党の殆どが日米同盟を日本外交の基軸だと表明していることだ。メディアもそれが当然という風情で、安全保障問題、軍拡問題を争点として提起しなかった。

 米大統領戦では両候補の非難合戦ばかりが目についた。難民問題や関税問題、「もしトラ」などに注目が集まったが重要問題が素通りされたような選挙戦であり報道であったように思う。
 世界的に焦眉の問題はウクライナ戦争とガザからレバノンへと戦禍が拡大する中東問題だろう。この両者に米国は深く関わっているが大統領戦では、イスラエル支援を止めるよう求める若者たちの運動が拡がったものの、両陣営で政策を闘わせることはなかった模様だ。

 そのため日本のメディアでも米国との関連はほとんど報道していない。見落としがあるかも知れないが唯一の例外が11月1日放送のBS-TBS「報道1930」である。
 同番組は、米国がイススラエルに、この1年間で178億ドル(2.7億円超)の軍事支援をし、殺傷能力の高い武器の提供を続けてきたこと、それらの武器群が、多数の子ども、女性、市民を殺傷していることなどを明らかにしていた。和平努力の姿勢を見せながらジェノサイドの手助けを続けていることを、同番組としてもめずらしく明確に示したのである。
 大統領選での大混乱、ジェノサイドを支援する米国、フェイクを厭わない大統領の2度目の選出。日本はこのような国と同盟を結びさらにそれを深化しようとしている。

 ガザでのイスラエルの所業はかつて欧米諸国がアジア・アフリカ・ラテンアメリカで行ったことと同類であり、その所業を支援・支持する諸国も同じ国々である。これらの国々は未だにに植民地主義を克服してないことを暴露している。
「リベラルな国際秩序」は第二次世界大戦後、米国を盟主とし西側諸国が主導する民主主義・法治主義・人道主義などを旨とした国際的秩序を指す概念とされる。

 国際法に違反してパレスチナの地に、イスラエルの国家建設を強行したのも、建国後のイスラエルが国際法違反を繰り返していることを黙認してきたのもこれらの国々である。

 日本は、軍事同盟の強化に走るのではなく「リベラルな国際秩序」が掲げた理念を実質化する新たな国際秩序の確立に努力・貢献すべきではないろうか
      JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
 


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