2024年12月15日

【映画の鏡】音楽創造の原点を淡々と 『シンペイ 歌こそすべて』大衆と向き合う生き方描く=鈴木 賀津彦

              
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             🄫「シンペイ」製作委員会2024

 音楽家を含め、あらゆるクリエーターの原点とは大衆との向き合い方なのだろうと気付かせてくれる描写に共感した。『シャボン玉』『ゴンドラの唄』『東京音頭』など今もなお多くの曲が歌い継がれ、誰もが知る作曲家中山晋平(1887〜1952)の生涯を音楽とともに綴っている。ドラマチックな展開がある訳ではないが、淡々と曲作りへの想いを掘り起こしていて、シンペイの生きる姿勢が伝わってきた。監督は神山征二郎。

 演出家・島村抱月の書生となって苦学した晋平は、抱月が旗揚げした芸術座の第3回公演『復活』の劇中歌で「日本の新しい歌を」と作曲の要請をされ、『カチューシャの歌』をつくった。1914年27歳だ。翌年に母が病死、悲しみの中から『ゴンドラの唄』を生み出す。作詞家野口雨情が児童文芸誌「赤い鳥」の童謡運動に賛同して書いた『シャボン玉』の詩に曲をつけた時は、雨情の最初の子どもが7日で亡くなったという話を知り、雨情の想いを曲に込めている。

 18歳で上京し苦学して音楽の道に進んだ晋平が、母と一泊した時に言われた「母ちゃんが歌える歌、いっぱい作ってくれ」の一言。精力的にヒット曲を書き2000曲もの作品を残した晋平の心の内を掘り下げた映像から、現代へのメッセージを受け取りたいと感じた。

 映画を観ながら、NHKの朝ドラ「エール」が作曲家古関裕而の物語で好評だったが、それなら中山晋平を取り上げたらもっとインパクトある朝ドラになるのではと妄想した。22日から長野県で先行公開中、1月10日から都内など全国順次公開。
    JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年11月25日号
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする