◆11月期出版物売上げ前年比101.5%
週刊誌が前年超えとなり、「ジャンプ GIGA 2024 AUTUMN」が売上げを牽引。書籍は実用書・ビジネス書・専門書・学参が前年超え。実用書では『梅津瑞樹セカンド写真集 飛べ、現へ』(主婦と生活社)、『前田拳太郎 Personal Photo Book 藍色』(KADOKAWA)などの写真集が好調。コミックは「ONE PIECE 110」が売上を伸ばしたものの、前年には及ばない結果となった。
◆新文芸誌『GOAT』完売で重版
小学館から11月27日発売の『GOAT』が大好評で、「売れない」といわれる文芸誌としては異例の大重版を決定し、累計3万部になる。本文に色上質紙を使用するため時間を要し、2刷りは12月27日頃より店頭に並ぶという。大ヒットの要因は、小説ファンだけでなく小説を読まない人たちから注目されたことにある。
12月6日発売の小学館文庫には、『GOAT』の表紙にいる“ゴートくん”の特製しおりを作成し封入する。ゴートくんが手に持っているハートを、ページに挟んで活用してほしい!と意気込む。
◆船井倒産と「秀和システム」
10月24日に倒産した船井電機の負債総額は470億円。実質的な負債は800億円に上るとも言われている。同社の迷走は、2017年に創業者の船井哲良氏が亡くなり、2021年5月に船井電機を出版社「秀和システム」が買収。この出版社は1974年に設立され、ITエンジニア向けの専門書を中心に、幅広いジャンルの書籍を発行している。
船井電機を買収した秀和システムの社長・上田智一氏は、新たに持株会社の船井電機・ホールディングスをつくり、“新事業”として、なんと脱毛サロンのミュゼプラチナムを買収する。その原資は船井電機の本社不動産などを担保にした借金によるといわれ、分かっているだけでも50億円が流出した。
船井電機HDの事業報告書を見ると、3年間で純資産が300億円も減少、急速に財務が悪化していた。破産を選んだのはこれ以上の被害を防ぐためとみられている。仮差し押さえの前に脱毛サロンのミュゼプラチナムは売却され、上田氏は9月に退任。会長には原田義昭元環境相が就任し、船井電機の復活を目指すという。
◆ソニーがKADOKAWA買収へ
現在、ソニーはKADOKAWA株を2.1%保有している。KADOKAWAの株総額は、現在の時価で約6000億円。ソニーがKADOKAWAの完全子会社化を狙う場合、ここ数年の国内エンタメ業界では最大規模のM&Aとなるだろう。
すでに両社は2021年、ソニーのアニメやゲームの世界的な展開力とKADOKAWAのコンテンツ力を組み合わせた、長期的な関係強化を目的にして資本提携がなされている。それ以降、提携の度合いは加速し、関係は深まっていた。
とはいえ近年、KADOKAWAが力を入れる教育事業(N高・ZEN大学など)や「ニコニコ動画」はどうするのか。ソニーはKADOKAWA買収に当たって、これらの事業も継承し経営戦略に入れているのか。不透明であるのは間違いない。
さらにここにきて、韓国IT大手のカカオが、KADOKAWAの株を買い増し、24年4月には実質的な筆頭株主(11.37%)となっている。その成果として、つい最近KADOKAWAがカカオピッコマと業務提携し、画期的電子マンガマガジン「MANGAバル」を共同で立上げ、国内最大級のIP創出装置に発展させ、無料で読める連載作品の最新話を毎日更新するという。
今やカカオのKADOKAWA株占有率は、ドワンゴの創業者である川上量生氏(5.00%)や、22年まで会長を務めていた角川歴彦氏(23年3月まで2.06%)も大きく上回っている。ソニーはKADOKAWAの筆頭株主であるカカオを、どのように攻略するのか。これらの株主の動きが激しくなるにつれ、KADOKAWA株の安定性や信用度がふらつく危険も浮上している。
割安な日本企業の株を、海外資本が買う動きはKADOKAWAに限った話ではない。セブンイレブンを運営するセブン&アイ・ホールディングスがカナダ流通大手から買収提案を受けているし、エンタメ企業に対しても買収、資本参加が相当数行われているのは確実だ。
◆今村翔吾さん「書店復活」挑戦続く
全国で書店が減っていく中、直木賞作家・今村翔吾さんが昨年12月3日、JR佐賀駅にオープンした「佐賀之書店」が、この3日で1年を迎えた。同駅内では2020年に書店が閉店したが、全国の書店減少に危機感を抱く今村さんが新たな形で復活させた。
開店1年を記念したイベントが11月24日に開かれた。佐賀駅の飲食街に設けられた会場のトークショー第1部で、今村さんは愛野史香さんと対談。愛野さんは嬉野市在住で桜田光のペンネームで書いた『真令和復元図』が今年の角川春樹小説賞を受賞した。第2部では2019年に本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんと対談。軽妙な掛け合いに、何度も笑いが起きた。
今年4月27日、東京・神保町に今村さんがオープンした書店「ほんまる」も好評だ。本を売りたい人に書棚を貸し出す「シェア型」の店で、1階と地下1階に364棚を備える。「本好きのサポートにより、書店の減少に歯止めをかけたい」と願いを込める。