「NHKは大事なんだよ」という田原総一朗氏の言葉が印象的なオビ。だが、その中身は読む者に「NHKは本当に必要なのか」という重い問いを突きつけてくる。
著者は、NHKで社会部や国際部の記者として数々の調査報道の特ダネを書いた実績を持つジャーナリストである。この著書を際立たせているのは、NHK在籍中に自らが体験した出来事だけでなく、NHKをめぐる不祥事について、NHKのOBを始めとする関係者から、直接取材をして生々しい証言を得ていることである。
著者はNHKの各組織が抱える様々な問題にメスを入れる。森元首相の「神の国」発言への指南書問題の内実、NHKという巨大放送組織の実態や権力構造、さらには佐戸美和さんの過労死をめぐるNHKの不可解で冷淡な対応にも話は及ぶ。
そこで明らかにされたのは、NHKと政治の距離の近さ、時の政権への忖度、視聴者に対する閉ざされた対応、自らの不祥事に誠実に向き合おうとしない官僚体質など、公共放送NHKが抱える病理の深刻さである。
著者は、NHKが生まれ変わるために、過去の不祥事をウヤムヤにせず組織として真摯に向き合必要性を説く。「巨大さ を追及した官僚機構としてのNHKに終止符を打つこと」だとも。
現役の役職員は、この指摘を、どのように受け止めるのだろう。NHK放送センター内の書店では、本書が1カ月以上、一般書のベストセラー1位の座に留まっている。来年は放送開始から100年。それを意識して多くの職員が手に取っているなら、それは公共放送再生に向けて一筋の光となるかもしれない。(地平社2000円)