2024年12月30日

24読書回顧―私のおちおし 穏やかな日常が一瞬に奪われて=後藤秀典(24年JCJ賞受賞者)

 
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 福島第一原発事故と司法に関する本をひたすら読んだ一年だった。まずは馬場靖子撮影・著『あの日あのとき ふるさとアルバム 私たちの浪江町津島』(東京印書館)。

 集落のみんなが集まっての田植え、合間にお茶を飲みながら笑う、孫と散歩する女性、地元の高校生が仮装して町を練り歩く、カメラに向かって笑いかける老夫婦…そこには、日々の変わらぬ暮らしを営む人々の素顔を写っている。

やさしさに包まれた写真だが、私は、とてつもない恐怖を感じてしまった。写されたのは、東京電力福島第一原発事故前の福島県浪江町津島地区の人々の暮らしだ。撮ったのは、アマチュアカメラマンの馬場靖子さん。浪江小、津島小で22年間も先生を務め、退職後に写真を始めたという。

 福島第一原発事故で津島は全住民避難を強いられた。私が津島の人々を取材したのは、彼らが起こした「ふるさとを返せ 津島原発事故訴訟」を通じてだった。津島の人々は、国と東電にふるさとに戻れることを求めている。私は、この写真を見て、穏やかな日常が本当にあったこと、そしてそれが一瞬にして奪われたことを実感し恐怖した。

 長島安治編集代表『日本のローファームの誕生と発展』(商事法務)この一年間で最も繰り返し読んだ本だ。本の上と横にはたくさん付箋が貼られ、本文には赤と青の線がびっしり引いてある。

 今年の最大のテーマは、最高裁、電力会社、国と巨大法律事務所の結びつきをより明らかにすることだった。その主役の一人、巨大法律事務所が日本でどのように生まれ成長してきたのか。設立した本人たちがその過程を記したのがこの本だ。

 戦後、日本人の若手弁護士がアメリカに留学し大法律事務所で経験を積み日本で巨大法律事務所の礎を築く。そしてバブル崩壊後金融機関が次々に破綻していく中で、急成長していく。日本経済の危機の中で巨大法律事務所がいかに肥大化してきたか、初めて知った。
「あの日 あのとき…」後藤秀典・本文収載.jpg
posted by JCJ at 02:00 | TrackBack(0) | おすすめ本 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする