2025年01月04日

【映画の鏡】独り暮らし高齢者の震災復興とは『風に立つ愛子さん』寄り添い続けた8年間の記録=鈴木賀津彦

 
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                2024年 IN&OUT
 東日本大震災の直後、宮城県石巻市に入り避難所になった湊小学校を訪れた藤川佳三監督が、愛ちゃんこと村上愛子さんに初めて会ったのは4月29日朝の体育館だったという。

 津波で家を流された当時69歳の愛ちゃんに寄り添いながら、以後、仮設住宅、復興住宅へと移り、亡くなるまでの8年もの間、生活の様子をカメラでとらえ続けている。
 独り暮らしの高齢者が、避難所での集団生活を送った後、仮設住宅や復興住宅に移って「新しい近隣」との付き合いの中で暮らしていかなければならない現実。愛ちゃんの姿は人とのつながりを大切にし明るく力強い一方で、いかに孤独かが伝わってくる。

 震災から14年、「復興」と言って一括りにした捉え方では見えてこないことが、愛ちゃん一人の「生きた証」の映像を見ていると気付けるのだ。高齢化が進む日本の被災者支援は今のままでいいのだろうか。

 先月12日、国立社会保障・人口問題研究所が、2020年の国勢調査に基づき50年までの世帯数の将来推計の結果を都道府県別で公表した。単身世帯の割合は27都道府県で4割超になると予測。65歳以上の高齢者の単身世帯は、32道府県で2割を上回る見通しだという。

 愛ちゃんが監督に電話をかけ留守電に吹き込んだ言葉が流れる場面を観ながら、これからは「おひとりさま」の被災者に寄り添った復興の在り方をもっと正面から考えなければならないと感じた。一人の生き方を記録したこの映画を、復興政策の今後の改善に役立ててほしい。2月下旬よりポレポレ東中野にて公開、全国順次。 
           JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2024年12月25日号
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする