2025年01月22日

【出版界の動き】いかに出版活動をアクティブ化するか、真に問われる2025年=出版部会

◆24年紙の出版物・総売上1兆円確保か
 日本の出版界、今年はどうなるか。昨年2024年1〜11月期の紙の出版物売り上げは9172億円(前年同期比5.7%減)。書籍は5471億円(同4.2%減)、雑誌は3702億円(同7.4%減)。12月期の実績額によるが、「年間での販売金額1兆円割れを回避できそうだ」といわれている。
 日販の「出版物販売額の実態」最新版(2024年版)によると、売り上げの構成比が、この17年間(2006年〜2023年)でコミック、文庫、児童書は増えたが、雑誌、新書、文芸は減っている。
 注目すべきは児童書ジャンルである。2023年における売上は推計で953億円、総売上に占める構成比は7.1%。構成比・売上ともに増加している。その一方、雑誌は2006年比で6割強も減らしている。

◆24年度の電子出版市場
 出版科学研究所による2024年度の電子出版市場の売り上げは集計中だが、上半期(1〜6月)の電子出版市場は2697億円(同6.1%増)。電子書籍・電子雑誌ともにはプラス成長だった。下半期が上半期と同じ成長率と仮定すると、1年間では電子コミック5145億円、電子書籍450億円、電子雑誌85億円、計5679億円となる。

◆マンガの海外輸出2240億円
 マンガ・アニメIP市場調査によると、マンガの海外輸出は2022年の時点で2240億円に達したという。ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース」を基に、日本の出版物の海外市場3200億円のうち7割がマンガであると仮定して算出したもの。
 また海外向けマンガは「前年比15〜18%(推定値)程度で拡大している」との推定もあり、さらに拡大しているのは間違いない。

◆通販雑誌『ハルメク』48万部へ
 『ハルメク』は定期購読型の月刊誌。50代以上の女性を対象に、65歳くらいから80代をコアの読者にしている。60代になると、配偶者やご本人が退職を迎え、年金受給が始まり、生活や人付き合いに変化が訪れる。この世代に向けて悩みや願望に寄り添う情報を届ける内容が、驚異の部数増につながった。
 工夫の1つは本誌に綴じ込みの読者ハガキを付け、自由に書き込めるコメント欄を設け、月2000通ほど編集部に届く。重要な意見はすぐ共有し、特にコメントの多い500通ほどは毎月データベース化をして、いつでも読者の考えを誌面に活かせるようにした。
 2つは社内シンクタンク「生きかた上手研究所」が行う読者満足度調査。毎号、雑誌を読み終わったころを見計らってアンケートを送付し、年間約3000人の読後の満足度や閲読率を調べる。この結果を雑誌作りに反映し、広告制作や商品開発にも活かす。
 3つめは受容度調査。雑誌の企画を立てる際、興味を持って受け容れてもらえるかを編集部とマーケティング課で調べる。ハルメクを読んだことのない方を対象に、バイアスのかからない意見を集める。
 これら3つの工夫が効果を発揮しているという。

◆24年度売れた本、昨年と同じ顔ぶれ
 今年も発表された書籍の年間ベストセラーランキングを振り返ると、日販の1位:雨穴『変な家』、2位:鈴木のりたけ『大ピンチずかん』が、どちらも人気シリーズの第2作だったことだ。
 『変な家』はウェブメディアで発表され、YouTubeで人気が爆発した後に書籍化された。しかもシリーズ第2弾がベストセラーとなるのは前代未聞である。『変な家』は、2024年3月15日に映画が公開され、追い風をうけ第2弾が上半期ベストセラーランキング1位となる。映画と連動して書店店頭での動きが大きくなれば、10代の若年層にも大きく影響した可能性がある。
 『大ピンチずかん』は7月9日に発行部数が100万部を超え、同時にシリーズ累計が167万部といわれる。

◆紀伊國屋「キノベス!2025」発表
 紀伊國屋書店で働く全スタッフが、自分で読んでみて本当に面白いと思った本へのコメントをもとに、選考委員19名の投票で「おすすめ本ベスト30」を決定。2月1日(土)から全国の紀伊國屋書店およびウェブストアでフェアが開催される。
 そのうち「ベスト5」は、1位:朝井リョウ『生殖記』(小学館)、2位:間宮甲改衣『ここはすべての夜明けまえ』(早川書房)、3位:野崎まどか『小説』(講談社)、4位:かまど/みくのしん『本を読んだことがない32歳がはじめて本を読む―走れメロス・一房の葡萄・杜子春・本棚』(大和書房)、第5位:三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)

◆読書バリアフリーへの対応
 2023年に芥川賞を受賞した市川沙央『ハンチバック』の広げた波紋は大きく、2024年は読書バリアフリーやアクセシビリティに関する取り組みが進んだ。
 4月には、日本文芸家協会、日本推理作家協会、日本ペンクラブが「読書バリアフリーに関する三団体共同声明」を発表。6月には日本書籍出版協会、日本雑誌協会、デジタル出版者連盟(旧・電書協)、日本出版者協議会、版元ドットコムが「読書バリアフリーに関する出版5団体共同声明」を発出している。
 しかし、制作プロセスだけの対応ではダメで、流通や利用の過程も変わっていく必要がある。つまり電子取次・電子書店・電子図書館の対応が伴わなければ、普及はとん挫する。利用者へのガイドも含め、対策が求められている。
 図書館振興財団は、視覚に障がいがある方や、紙の本の読書が難しい方に読んでもらうために、まずは機関誌『図書館の学校』を、音声読み上げ等に対応したリフロー型電子書籍として公開。
 公開方法:当財団ウェブサイトhttps://toshokan.or.jpやSNSを通じて各電子書籍にアクセスする。
 これから公開する電子書籍には、例えばリフロー型電子書籍に印刷版ページ番号情報を入れ、一般的な用途にも役立てるよう改善するなど、より利用しやすい電子書籍を模索していくという。
posted by JCJ at 01:00 | TrackBack(0) | 出版 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする