著者は、探査報道(調 査報道)に特化したジャーナリズム組織「Tansa」を主宰する渡辺周氏の弟子で、新進気鋭のジャーナリストである。
本書で追及する(株)ダイキン工業は、大阪に本社を置き、世界42か国に拠点を持つ空調機、化学製品メーカーである。このダイキンが、摂津工場で有機フッ素化合物PFOAの汚染を引き起こしているにも関わらず、「健康障害の証拠 がない」(=無害だ)と 24年間も言い続けている。
その間、WHOの専門機関であるIARCがヒトへの発がん性を認定。米国や欧州は厳しい基準を導入。日本でも「胎内 曝露で胎児の染色体異常が起こる」(2024年環境省エコチル調査)をはじめ、健康影響の証拠が出ている。大阪府が注目した遮水壁もダイキンは失敗。まさに「権威」の失墜に対して「嘲笑」が最 も痛打である(ハンナ・アーレント)。
しかし、「由らしむべ し、知らしむべからず」 と信じる風のダイキンには効果なく、頑なに態度を変えない。
そこで著者は、精力的に民に広く「知らしめ」 ているのである。ダイキンへの取材は中枢部にも及ぶ。不誠実なダイキンの広報は、応答の矛盾を突かれ「17秒の沈黙」に入った。秒数を数えた著者に、観察者に徹する姿勢が見えた。研究者に対しても徹底して観察者の立場を取る。常に仮説と検証方法と結果の説明を求め著者が確認する。まさにAuditor(監査人)だ。
戦前から続く「国家関連」(加藤陽子) 企業と 官の闇は複雑だ。特にダイキンが「指導を受けている」(神崎川PF OA対策会議議事抄録)経産省との闇は未解明だ。著者の今後の「知らしめ」 に期待したい。(旬報社1700)