新聞の「常識」から外れた、「異端」の記者と編集者の苦悩を鮮やかに描いた。取り上げたのは福岡、沖縄、秋田、岩手、兵庫、広島に本社を置く6地方紙と朝日新聞。新聞協会賞に輝いた記事もあるが、成功譚ではない。
西日本新聞の章を紹介しよう。1992年2月、福岡県内の山中で小学生の女児2人が絞殺体で発見された。同紙は8月、「重要参考人浮かぶ DNA鑑定で判明」とスクープ、さらに福岡県警が2年後の94年9月にその男性参考人を逮捕する前日にも特報した。その後、男は死刑が確定し、2008年10月に執行された。
物語は9年もたった17年、事件当時の報道に関わった記者の一人が取締役編集局長に就任して動き出す。彼は、逮捕の決め手となった当時最新だったDNA鑑定の証拠能力が08年に否定され、悔恨にも似た気持ちを引きずっていた。冤罪だったのではないかと。そして、既に確定した裁判を検証する企画記事の連載を提案したのだ。
それは、自らのスクープの否定を意味する。当然、社内の反発は強かったのだが―。
「異端」は「正統」の作法を逸脱していると批判される。しかし、本書に登場する記者たちこそ、むしろ正統なのではないか。そこにあるのは、読者が知りたいこと、知るべきことを伝えたいという一念。SNS上にフェイクニュースがあふれ、既存メディアの信頼が揺らいでいる今、著者は「読者に対して誠実に」という原点の必要性を訴えたかったのだろう。(旬報社1700円)
2025年02月27日
【オピニオン】その場しのぎの公選法改正論議、選挙の本質を黙殺=木下寿国(ライター)
公職選挙法改正案が国会に提出された。背景には昨春行われた東京15区衆院補選以降における選挙の混乱がある。だが議論の成り行きを見ていると、その内容がどうも本質からずれているような気がしてならない。
補選やその後の都知事選、兵庫県知事選で何が起きたのかは、ここでは繰り返さない。しかし、法令に書いてなければ何をやってもオーライという風潮がまん延したことは、だれもが感じているところではないか。そこから公選法の見直しを、という声が出てくるのは当然でもあろう。
だが今のところ、国会で出てきているのは風俗店広告などの営業目的のポスターを掲示してはならない、女性がほぼ全裸になっているような品位を損なうポスターを掲示してはならないなどで、もっと大事だと思われるSNSによる誹謗中傷や「2馬力選挙」に関しては、今後の検討課題となっているようだ。いかにも中途半端だし、対症療法にとどまっているように見える。
そもそも筆者が選挙法っておかしいんじゃないのと最初に感じたのは、振り返ってみれば、大学を卒業して間もなくのころだった。東京銀座辺りのデモ行進で「平和を」とコールしていたら、通行人から「何を言っているんだ。日本はいま平和じゃないか」というような声が聞こえてきた。本当はもっと具体的なことを訴えたかったのだが、選挙期間中はダメだということのようだった。不自由なものだと思った。抽象的にしか口に出せないから、気持ちをはっきり伝えられず、はがゆい思いをしたことをいまでも覚えている。
公選法で本当によくわからないのは、戸別訪問の禁止だ。それをして支持を訴えると有権者の投票の自由を奪うことになるらしい。しかし自宅などに来た人に投票を依頼したり、知人などに電話掛けしたりすることはオーケイなのだ。両者の間になにか決定的な質の違いでもあるというのだろうか。
要するに、これは運動する側の“足”の有無にかかわることなのだろうと理解している。昔から草の根運動が得意なのは公明党や共産党ということに決まっている。戸別訪問も可ということになれば、地域をこまめに回る気もなくそんな部隊もない自民党などには圧倒的に不利になるだろう。だから、というわけだ。
選挙プランナーの大濱崎卓真氏は「戦後政治のほとんどの期間、自民党が与党です。そのため、選挙のルールも、自民党の思惑と密接に関係していると私は見ています」(「『コンテンツ化』した選挙を考える 普通選挙法100年の現在と未来」朝日新聞デジタル2・4、14:00)と述べている。公選法改正のこれまでの動きには野党の協力もあったという学者の指摘もあるが、基本的には与党・自民党の思惑や都合が反映されてきたのだろうと考えている。
選挙運動期間が公選法制定時の30日から9回の改正を経て12日(衆議員)と三分の一強まで短縮されてきたのは、金と労力を節約するため選挙運動をさっさと切り上げたい与党側の意識の露骨な表れとしか思えない。そんなに短い期間で、有権者は複雑な国政の何を理解できるというのだろうか。立候補者はといえば、いきおい名前を連呼するしかなくなる。
昨年の総選挙で弊害が目立ったのは、投票権の問題だったろう。地震で被害を受けた能登半島やその他の地方では、投票所が減らされたり投票時間の終わりが繰り上げられたりした。能登では投票に行くこと自体が難しい被災者もいたといわれる。にもかかわらず選挙は強行され、関係者の人手不足を理由に有権者の投票権が事実上制限される事態に追い込まれたのだ。筆者は、これはたいへんなことになりそうだと感じていたが、終わってみればほとんど問題にもされなかった。
いまの公選法をめぐる議論を眺めていると、表面的な部分をなぞっているだけのような気がする。問題は、ネットにかかわるものだけではない。立候補者がさまざまな政治課題を訴え有権者にじっくり判断してもらう、投票権を確保する、言い換えれば有権者に真の意味で政治に参加してもらうといった本質的な側面があまりにも軽んじられているのではないか。選挙本来の役割や機能を深めていくための議論がなおざりにされたままなのだ。いや、むしろその正反対に進んできたようにさえ見える。
補選やその後の都知事選、兵庫県知事選で何が起きたのかは、ここでは繰り返さない。しかし、法令に書いてなければ何をやってもオーライという風潮がまん延したことは、だれもが感じているところではないか。そこから公選法の見直しを、という声が出てくるのは当然でもあろう。
だが今のところ、国会で出てきているのは風俗店広告などの営業目的のポスターを掲示してはならない、女性がほぼ全裸になっているような品位を損なうポスターを掲示してはならないなどで、もっと大事だと思われるSNSによる誹謗中傷や「2馬力選挙」に関しては、今後の検討課題となっているようだ。いかにも中途半端だし、対症療法にとどまっているように見える。
そもそも筆者が選挙法っておかしいんじゃないのと最初に感じたのは、振り返ってみれば、大学を卒業して間もなくのころだった。東京銀座辺りのデモ行進で「平和を」とコールしていたら、通行人から「何を言っているんだ。日本はいま平和じゃないか」というような声が聞こえてきた。本当はもっと具体的なことを訴えたかったのだが、選挙期間中はダメだということのようだった。不自由なものだと思った。抽象的にしか口に出せないから、気持ちをはっきり伝えられず、はがゆい思いをしたことをいまでも覚えている。
公選法で本当によくわからないのは、戸別訪問の禁止だ。それをして支持を訴えると有権者の投票の自由を奪うことになるらしい。しかし自宅などに来た人に投票を依頼したり、知人などに電話掛けしたりすることはオーケイなのだ。両者の間になにか決定的な質の違いでもあるというのだろうか。
要するに、これは運動する側の“足”の有無にかかわることなのだろうと理解している。昔から草の根運動が得意なのは公明党や共産党ということに決まっている。戸別訪問も可ということになれば、地域をこまめに回る気もなくそんな部隊もない自民党などには圧倒的に不利になるだろう。だから、というわけだ。
選挙プランナーの大濱崎卓真氏は「戦後政治のほとんどの期間、自民党が与党です。そのため、選挙のルールも、自民党の思惑と密接に関係していると私は見ています」(「『コンテンツ化』した選挙を考える 普通選挙法100年の現在と未来」朝日新聞デジタル2・4、14:00)と述べている。公選法改正のこれまでの動きには野党の協力もあったという学者の指摘もあるが、基本的には与党・自民党の思惑や都合が反映されてきたのだろうと考えている。
選挙運動期間が公選法制定時の30日から9回の改正を経て12日(衆議員)と三分の一強まで短縮されてきたのは、金と労力を節約するため選挙運動をさっさと切り上げたい与党側の意識の露骨な表れとしか思えない。そんなに短い期間で、有権者は複雑な国政の何を理解できるというのだろうか。立候補者はといえば、いきおい名前を連呼するしかなくなる。
昨年の総選挙で弊害が目立ったのは、投票権の問題だったろう。地震で被害を受けた能登半島やその他の地方では、投票所が減らされたり投票時間の終わりが繰り上げられたりした。能登では投票に行くこと自体が難しい被災者もいたといわれる。にもかかわらず選挙は強行され、関係者の人手不足を理由に有権者の投票権が事実上制限される事態に追い込まれたのだ。筆者は、これはたいへんなことになりそうだと感じていたが、終わってみればほとんど問題にもされなかった。
いまの公選法をめぐる議論を眺めていると、表面的な部分をなぞっているだけのような気がする。問題は、ネットにかかわるものだけではない。立候補者がさまざまな政治課題を訴え有権者にじっくり判断してもらう、投票権を確保する、言い換えれば有権者に真の意味で政治に参加してもらうといった本質的な側面があまりにも軽んじられているのではないか。選挙本来の役割や機能を深めていくための議論がなおざりにされたままなのだ。いや、むしろその正反対に進んできたようにさえ見える。
2025年02月26日
【日本被団協】いまこそ核兵器廃絶へ= 田中田中熙巳さんメッセージ
人類への大きな貢献と世界の平和を目指して、制定されたノーベル賞の2024年度の平和賞に、日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)が選ばれた。12月の授賞式には、日本から多数の被爆者と支援団体の人々が参加、核廃絶の早急の実現を訴えた。授賞式で受賞演説をした、代表委員の一人、田中熙巳(てるみ)さんに、受賞をどう受け止めたか、忙しさを押してメッセージを寄せてもらった。 編集部
昨2024年10月11日夕、私たち日本被団協の役員の誰もが全く思いもかけていなかった「二ホンヒダンキョウ」へのノーベル平和賞授賞のニュースが流れた。当日まで開かれていた中央行動を無事終え、帰宅中の路上や車中で授賞を知った者も少なくない。私も自宅近くの路上で電話を受け一瞬耳を疑った。
事実は動かしがたい。帰宅を待ち受けていたのは報道各社の取材陣で、門外で取材を受けたが、記者から見せられたテレビは、体調不良で広島にいた箕牧代表委員が一人対応していた。
実は、私たち日本被団協の役員たちは、2017年のノーベル平和賞が、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)に授与されたとき、それまで度々有力候補と報道されていた日本被団協の名前が全く挙げられなかったことで、NATO加盟国ノルウェーのノーベル委員会には、米国が投下した原爆の被害者団体の日本被団協に授賞することに、何らかの政治的なためらいがあるに違いない、と詮索していた。だから、私たちにとって、授賞はまさに「青天の霹靂」というのがふさわしかった。
「核超大国のロシアが隣国のウクライナに侵攻し、あからさまな核兵器使用の威嚇で戦闘を長引かせている。中東ではイスラエルがパレスチナ自治区ガザ地区への徹底破壊を行い、多くの子供を含む市民に死傷者を出し続けている。また、核兵器不拡散条約国に参加していない核保有国の政府要人が核兵器の使用について広言した。広島、長崎以来80年、核兵器を使用させなかった障壁の高さを低くする危険な核兵器を巡る国際情勢に、ノルウェーのノーベル委員会も黙示できないとの英断があったのに違いない」―。
私は野外での記者団の質問にこう答えた。
とはいえ、1985年に初めて受賞候補に挙がり、その後も何度か期待しては諦め、そのうえで実現したノーベル平和賞である。受賞の喜びがじわじわと身体を熱くした。
とくに、嬉しかったのは、そのあと、ニュースの映像、新聞の記事などで確認できたノーベル賞委員会・委員長の簡潔で明確な授賞理由の詳細だった。
委員長による日本被団協の組織と運動とその成果についての具体的でかつ正確な紹介は、その認識に感動さえ覚えた。
委員長はその短い言葉の中で、「核のタブ」(タブー)という言葉を3回も使った。私は、その新鮮さと、日本の言葉としても使える含意に委員会の工夫があったのか、と思いを巡らせた。
21分にわたる代表委員としての私の受賞講演は、感動と好意をもって受け止められた。私も多くの被爆者も、残り少ない草の根の証言活動に、精一杯頑張ろうとの決意を促されている。
同時に、忘れられないのは、受賞を一緒に分かち合うことのできなかった多くの仲間のことだ。今回の受賞は、彼らが残してきたものを、次の世代の世界中の人々と生かして、核兵器のない、戦争もない世界を世界のすべての人々と速やかに作り出さなければ、との決意を呼び起こしている。
ノーベル賞委員会のヨルゲン・フリードネス委員長は授賞発表時39歳。授賞式典は40歳で迎えた。その推挙の言葉、授賞式での格調高い講演はノーベル平和賞の歴史に深く刻まれるに違いない。
委員長は、全ての報道機関が紹介した通り、「核のタブー」という言葉に光を当て、原爆被害者たちが体験の証言をとおして粘り強く訴えてきたこと。草の根の活動で、核兵器の使用の非道徳性、非人道性を深く刻みこんできたことを強調し、たゆまぬ運動で築き上げてきたこの言葉の重要性を強調した。そして、一国の首脳の威嚇の言葉として「核の使用」が軽々しく多用されることで、そのバリアーが限りなく低められ、実際に使われるという危機感を強くした。
盟国アメリカに対する気兼ねなどしている余裕はもはやない、と判断したに違いない。あるいは議会の構成の変化がノーベル委員会の人選で大幅な変化があったのかもしれない。
被爆者は年々高齢化し、原爆被害者の「自らの声を通して、核兵器も戦争もない世界の実現を強く訴えることのできる最後の年になるかもしれない」との思いも強い。
いまこそ、私たちは被ばく80周年を前にしたこの判断を全面的に生かし核兵器禁止条約の一層の普遍化と核兵器廃絶への世界の世論形成、強化を急がなければない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月25日
【JCJ12月集会】栗原氏講演 戦争は80年続行中だ 藤森氏 権力との対峙崩さず 中村氏 「報道愛国」か=古川英一
「メディアは8月に集中して戦争体験などを取り上げるが、戦闘は終わっても戦争の被害は続いている。広義の戦争は未完だ」毎日新聞記者の栗原俊雄さんが強い口調で訴えた。
JCJの12月集会は、太平洋戦争が始まった12月にちなみ「なぜ戦争を止められなかったか」をテーマに暮れの22日に東京で開かれた。講演に立った栗原さんは20年近く戦争や戦後補償の問題などの取材を続けている。
講演では、明治憲法体制には、首相が軍部を抑えることができずシビリアンコントロールが効かなかったシステムエラーがあったこと。軍部は願望の上に空想を載せた終戦構想しか持っていなかったこと。さらに総力戦になったらどのくらいの被害を受けるのか誰も想像できなかったことをあげ「もしメディアが政府・軍部の嘘やインチキを暴いていたら国民の世論も違っていたのではないか」と指摘した。だからこそ戦争を防ぐためには「メディアは戦争被害の実態を具体的な例で伝えていき、市民は政府に対して戦争が起きた場合にどのような被害があるのかを算定させて明らかにさせることが必要だ」と述べた。
続いて共にJCJの代表委員で、元朝日新聞論説委員の藤森研さんと、フォトジャーナリストの中村悟郎さんが加わりシンポジウムが行われた。
問題提起のなかで、藤森さんは新聞が戦争を止めることができなかった分岐点は満州事変にあり、その時「普選と軍縮」を唱えた朝日などが軍事行動の追認へと社論を転換したこと、絶対天皇制や、右翼・軍の圧迫、国民から孤立する恐怖などが臨界達したことが要因。では戦後の今はどうか「記事で『わが国』と書くように「権力への姿勢は変わったのだろうか」とメディアへの疑問を呈した。
一方、中村さんは戦後中国からの引き揚げの際に軍は真っ先に逃走して国民を守らなかったと、引き揚げ体験を語った。また自身も取材したベトナム戦争は、メディアがアメリカの世論を動かしたが、多くのジャーナリストが命を落とし、その半数近くの17人が日本人だったことを挙げた。一方で大手メディアの幹部が政府の委員になるなど戦前の「報道愛国」の現代版が進んでいると危機感を示した。
今も世界ではウクライナやガザで戦闘が続き、日本政府は中国への脅威を煽り軍拡へとひた走る。こうした状況に、栗原さんは「8月だけでなく、『常夏記者』として取材を続けていきたい」と決意を述べた。
藤森さんは「記者同士、メディア同士、そして国際間で共同、連帯していければ」と語った。そして中村さんは「自衛隊は基地内にシェルターを作っている。でも住民にシェルターはない。ではどこに逃げればいいのだろう」と疑問を投げかけた。
最後にJCJは集会アピールで「過去から学び、二度と戦争への道に踏み込んではならない、そのために、私たちが、日常の中でできることは何なのか」と問いかけた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月24日
【イベント】いつまで米兵犯罪をみすごすのか 沖縄で抗議の県民大会 148団体 世代超えた怒り=JCJ沖縄
昨年12月22日、沖縄県の沖縄市民会館大ホールで「米兵による少女暴行事件に対する抗議と再発防止を求める県民大会」が開催された。
23年12月に起きた、16歳未満の少女が米兵に誘拐され性的暴行を受けた事件から1年、政府と司法当局の半年間の隠ぺい後に発覚してから半年で、年末の寒い時期に屋内開催となった。2500人超が集まり、宮古島市、石垣市、名護市のサテライト会場から大会を見守る人や、オンライン参加もあった。呼応して東京、大阪でも集会やデモ行進が行われた。
大会決議では@被害者への謝罪と丁寧な精神的ケアおよび完全な補償を行うこと、A被害者のプライバシーの保護と二次被害の防止を徹底すること、B事件発生時の県・市町村など自治体への速やかな情報提供を確実に行うこと、C米軍構成員などを特権的に扱う日米地位協定の抜本的改定を行うこと――の4項目を要求した。
今回は、過去の県民大会以上に若者の発言が重みを持って受け止められた。
東京の大学に通う崎浜空音さんは「東京にいて、米兵に襲われることを恐れたことは一度もなかった」と沖縄の日常の異常性を訴えた。そして、16年に、米軍属による女性暴行殺人事件に抗議する県民大会に参加したことを振り返り「また数年後に中高生の子たちをここに立たせてしまうのか。これで最後の大会にしたい」と訴えた。
沖縄平和ゼミナールの高校生たちのメッセージも、高校生自身の声で会場に流された。「繰り返される米軍の犯罪をいつまで見過ごすのですか」と日本政府の不作為を糾弾し、「誰かの犠牲によって成り立つ平和は本当の平和ではない」と訴えた。
1995年の女子小学生が被害にあった事件で県民大会があってから30年になろうとしているのに、変わらない現状を訴える発言も多く、世代を超えた怒りと悔しさが共有された。
今回、21の女性団体が加盟する女団協(県女性団体連絡協議会)が再三、県議会に県民大会開催要請をしたが、自民会派などは「県議会として全会一致で決議し政府・米軍に抗議と要請をしたことで役割を果たした」と応じなかった。結局、女性団体主導で148の賛同団体による実行委員会主催の開催となった。
大会の9日前には、米兵の刑事裁判の一審判決があった。被告の米兵は少女が18歳だと思っていたとして無罪を主張していたが、懲役5年(求刑7年)が言い渡された。被告はすぐ控訴した。日米両政府も謝罪をしていない。
大会からわずか17日後の1月8日、不同意性交致傷疑いで米海兵隊員が書類送検された。事件は昨年11月に起きていた。県民は再び衝撃を受けている。
一連の米兵事件も県民大会も、全国的な報道は弱い。主要メディアには、悲劇が繰り返された責任は、沖縄に米軍基地を押し付けている日本全体にあるという認識が乏しいと言わざるを得ない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
23年12月に起きた、16歳未満の少女が米兵に誘拐され性的暴行を受けた事件から1年、政府と司法当局の半年間の隠ぺい後に発覚してから半年で、年末の寒い時期に屋内開催となった。2500人超が集まり、宮古島市、石垣市、名護市のサテライト会場から大会を見守る人や、オンライン参加もあった。呼応して東京、大阪でも集会やデモ行進が行われた。
大会決議では@被害者への謝罪と丁寧な精神的ケアおよび完全な補償を行うこと、A被害者のプライバシーの保護と二次被害の防止を徹底すること、B事件発生時の県・市町村など自治体への速やかな情報提供を確実に行うこと、C米軍構成員などを特権的に扱う日米地位協定の抜本的改定を行うこと――の4項目を要求した。
今回は、過去の県民大会以上に若者の発言が重みを持って受け止められた。
東京の大学に通う崎浜空音さんは「東京にいて、米兵に襲われることを恐れたことは一度もなかった」と沖縄の日常の異常性を訴えた。そして、16年に、米軍属による女性暴行殺人事件に抗議する県民大会に参加したことを振り返り「また数年後に中高生の子たちをここに立たせてしまうのか。これで最後の大会にしたい」と訴えた。
沖縄平和ゼミナールの高校生たちのメッセージも、高校生自身の声で会場に流された。「繰り返される米軍の犯罪をいつまで見過ごすのですか」と日本政府の不作為を糾弾し、「誰かの犠牲によって成り立つ平和は本当の平和ではない」と訴えた。
1995年の女子小学生が被害にあった事件で県民大会があってから30年になろうとしているのに、変わらない現状を訴える発言も多く、世代を超えた怒りと悔しさが共有された。
今回、21の女性団体が加盟する女団協(県女性団体連絡協議会)が再三、県議会に県民大会開催要請をしたが、自民会派などは「県議会として全会一致で決議し政府・米軍に抗議と要請をしたことで役割を果たした」と応じなかった。結局、女性団体主導で148の賛同団体による実行委員会主催の開催となった。
大会の9日前には、米兵の刑事裁判の一審判決があった。被告の米兵は少女が18歳だと思っていたとして無罪を主張していたが、懲役5年(求刑7年)が言い渡された。被告はすぐ控訴した。日米両政府も謝罪をしていない。
大会からわずか17日後の1月8日、不同意性交致傷疑いで米海兵隊員が書類送検された。事件は昨年11月に起きていた。県民は再び衝撃を受けている。
一連の米兵事件も県民大会も、全国的な報道は弱い。主要メディアには、悲劇が繰り返された責任は、沖縄に米軍基地を押し付けている日本全体にあるという認識が乏しいと言わざるを得ない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月23日
【寄稿】沖縄戦後80年 ジャーナリストの「立ち位置」 国家への抵抗力を築けたか 戦争・日本・基地と人権から考える=諸見里 道浩
戦後80年のメディアについて、沖縄の出来事から考えてみます。戦争(沖縄戦)・日本(祖国復帰)・基地と人権(少女暴行事件)の3つのことがらを柱に。
米兵による少女暴行事件に抗議する県民大会を報じる2024年12月23日付の沖縄タイムスと琉球新報
基点はナショナリズムへの抵抗力
「一人十殺」。沖縄に配備された32軍参謀長の談話が1945年1月の沖縄新報に載っている。2月の社説は「皇土」を守るため「一人十殺の必殺/これが県民の絶対的使命」とこたえている。翌月、沖縄戦がはじまる。
沖縄新報の記者たちは戦後の48年、沖縄タイムスを創刊、翌年に住民の証言取材に取り組み『沖縄戦記・鉄の暴風』を発刊する。弾雨の中、生死の境をさまよう住民と兵士を克明にたどり、戦(いくさ)の実態を描いている。
私は混乱期の取材力に驚きつつも戸惑いをおぼえた。
米軍におびえ病で任を解かれた司令官、大空襲の前夜に宴を開き「不覚の朝」を迎えた軍幹部、自棄的な将兵、防空訓練を拒む者を国賊とする住民たち…沖縄戦前夜もくわしく、記者の確かな視線がうかがえる。これら戦時下の取材が紙面になることはほぼなかった。
戦後、記者たちは戦争を否定し米軍政に異を唱える新聞をつくり、私たちはその延長にいる。いま確認すべきは、国家と一体となり住民を煽(あお)り事実を書かなかったジャーナリズムの時代があったことだ。
戦後80年、「戦前」のきな臭さが漂う。米軍にくわえ自衛隊基地が増強され、メディアは安易に「有事」をつかう。私たちはナショナリズムや国家への抵抗力を築いてきたのか、という自問からはじめたい。
復帰という新たな差別と疎外
51年のサンフランシスコ講和条約は日本の独立を祝すものだった。同日に締結された日米安保条約は沖縄の米軍基地を前提とし、天皇メッセージは「沖縄の長期リース」を米国へ伝えていた。一方で蚊帳の外の住民は日本復帰を願い、沖縄タイムスも米軍政下で復帰論をかかげた。
施政権返還を決めた69年11月の佐藤・ニクソン日米首脳会談。社説は「万歳を叫ぶほどの感慨はむろんない」と率直だ。日本の戦後を安保強化、自衛隊増強ととらえ「(平和)憲法体制の否定の歴史であった」。その日本へ帰ることに「新たな差別と疎外が待ち構えている」と書かざるをえなかった。この苦渋の論調も私たちは引き継いでいる。
沖縄メディアが学んだこと
「軍隊は女性の人権を脅かす」ことを沖縄メディアは新たに学んだ。
戦後50年の95年、米兵三人による少女暴行事件は起きた。沖縄社会は「少女の尊厳を守れない」悔いと憤りに満ちた。抗議の中心は女性たちで、報道に対して「セカンドレイプ」にならぬよう強く求めた。普天間基地返還と辺野古新基地建設という新たな基地問題のはじまりでもあった
米兵による性犯罪は現在も日常的に続いている。
2024年も暮れの12月22日、米兵による16歳少女の誘拐と性的暴行事件に抗議する県民大会は女性団体が主導した。大学生は「なぜ沖縄に生まれ、基地があるからといって青春を奪われなければならないのか」と訴えた。発生から約半年、外務省、県警は事件を伏せた。「性暴力は権力差のあるところで起きる」と記事は伝える。
30年で進んだ「民意徹底無視」
12月28日、辺野古の海で軟弱地盤の改良工事がはじまった。恒例のごとく年の瀬に基地政策は進む。政府はこの30年で民意を徹底して無視するようになった。
沖縄タイムスは「復帰運動の機関紙」といわれ、現在も「偏向新聞」と名指しされることがある。筑紫哲也氏は著書『旅の途中』で米軍政下の先輩記者の言葉を紹介している。
権力を持つ統治者と基本的な権利を奪われた被統治者を平等に扱うことが公正なのか。「弱い側の立場に新聞が立つことが、不均衡を少しでも改めることに役立てば、それが公正というものではないか」
冒頭にあげた「一人十殺」の社説を書いただろう記者の、戦後のジャーナリストとしての立ち位置だった。
◆略歴 諸見里 道浩(もろみざと・みちひろ)
1951年那覇市生まれ。74年沖縄タイムス入社、元論説委員長、編集局長、専務。著書『新聞が見つめた沖縄』(沖縄タイムス社)など。沖縄対外問題研究会会員、JCJ沖縄顧問
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月22日
【おすすめ本】木原育子『服罪 無期判決を受けたある男の記録』─35年服役してきた男、彼はどう生き直したか=坂本充孝(ジャーナリスト)
二人の命を奪う事件を起し、35年間も服役した男性と出会い、「社会のために、ぜひ僕の話を聞いてほしい」との願いを受け、語られた男の人生に著者は息を呑んだ。そこから紡ぎだされた記録が本書である。
男は北海道の漁村に生まれ、アイヌの血を引いているため、差別と貧困に苦しんだ。さらに不仲だった兄が殺され、犯罪被害者の身内となる。落胆した母は病死し、この理不尽な日々を歯ぎしりしながら過ごしてきた。
町を彷徨するうちに覚せい剤に手を出し、やがて前後不覚の状態で、名も知らぬ二人を殺害してしまう。
ここから35年の獄中生活が始まった。塀の中にあっても差別やいじめがあり、社会のねじれや歪みに思いを巡らすようになった。生きなおしたいと渇望し、模範囚となるよう勤めてきた。その結果、無期懲役囚としては、極めて異例の仮釈放を勝ち取った。
著者が男性と出会ったのは、刑務所関連のイベント会場だったという。著者は現役の新聞記者でありながら、社会福祉士の資格を持ち、ソーシャルワーカーとしても活動している。最初の関心は男が罪を犯すまでに、福祉関係者と連絡が取れなかったのか。日本の福祉行政の是弱性が気になっていたからだ。
そして次第に「悲しい事件を、悲しい被害者を二度と生み出さないために」「教訓は社会で共有していいのではないか」との思いに行きつく。まさに新聞記者の視点だ。
著者は長くアイヌ民族の差別問題も取材してきた。常に社会の片隅に生きる人々を見据える姿勢が結実した一冊。(論創社1800円)
男は北海道の漁村に生まれ、アイヌの血を引いているため、差別と貧困に苦しんだ。さらに不仲だった兄が殺され、犯罪被害者の身内となる。落胆した母は病死し、この理不尽な日々を歯ぎしりしながら過ごしてきた。
町を彷徨するうちに覚せい剤に手を出し、やがて前後不覚の状態で、名も知らぬ二人を殺害してしまう。
ここから35年の獄中生活が始まった。塀の中にあっても差別やいじめがあり、社会のねじれや歪みに思いを巡らすようになった。生きなおしたいと渇望し、模範囚となるよう勤めてきた。その結果、無期懲役囚としては、極めて異例の仮釈放を勝ち取った。
著者が男性と出会ったのは、刑務所関連のイベント会場だったという。著者は現役の新聞記者でありながら、社会福祉士の資格を持ち、ソーシャルワーカーとしても活動している。最初の関心は男が罪を犯すまでに、福祉関係者と連絡が取れなかったのか。日本の福祉行政の是弱性が気になっていたからだ。
そして次第に「悲しい事件を、悲しい被害者を二度と生み出さないために」「教訓は社会で共有していいのではないか」との思いに行きつく。まさに新聞記者の視点だ。
著者は長くアイヌ民族の差別問題も取材してきた。常に社会の片隅に生きる人々を見据える姿勢が結実した一冊。(論創社1800円)
2025年02月21日
2025年02月20日
【出版界の動き】2月:書店の活性化に向けた多様な取り組み=出版部会
◆アマゾン日本売上高は約4.1兆
2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)
◆読売・講談社共同提言
読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。
◆扶桑社が早期退職募集!
フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。
◆「狐弾亭」立川市に開業
トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。
◆「大阪ほんま本大賞」の成果
地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。
◆月刊誌「母の友」最終号
福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。
◆「パレスチナ」書名本押収
イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
2024年アマゾン日本事業の売上高(ドルベース)は、274億100万ドル(約4.1兆円・前期比5.4%増)となった。2ケタ増収は2016年から2021年まで続いたが、直近3年は1ケタ増収にとどまっている。全売上高に占める日本の割合は4.3%、2023年比で0.2ポイント減った。世界各国の24年売上高は以下の通り。
アメリカ → 4380億1500万ドル(前期比10.7%増)
ドイツ → 408億5600万ドル(同8.7%増)
イギリス → 378億5500万ドル(同12.7%増)
日本 → 274億100万ドル(同5.4%増)
その他 → 938億3200万ドル(同14.5%増)
◆読売・講談社共同提言
読売新聞グループ本社と講談社は2月7日、全国各地で書店が衰退し、無書店エリアが拡大している現状に歯止めをかけたいと、書店の活性化へ向けた共同提言を発表した。その内容は、1. キャッシュレス負担軽減 2. ICタグで書店のDX化 3. 書店と図書館の連携 4. 新規書店が出やすい環境 5. 絵本専門士などの活用 この5項目にまとめることができる。
すでに経産省からはアクションプラン案(PDF)が出ており、ICタグ(RFID)関連の環境整備は進んでいる。キャッシュレス負担軽減は、決済事業者に対する補助が必要だから不透明。書店と図書館の連携は、いままさに文科省「図書館・学校図書館の運営の充実に関する有識者会議」で議論が行われている。
この5つの他に、不公正な競争環境等の是正、出版物への消費税・軽減税率の適用などは、この読売新聞社・講談社共同提言にはない。こうした課題はどうするのか。検討が必要なのは間違いない。
◆扶桑社が早期退職募集!
フジテレビは、元タレントの女性トラブルに端を発した問題で、スポンサー離れが加速し業績が悪化している。出版子会社の扶桑社の早期退職募集は、フジテレビの不振が影響しているのではないか。グループ各社に波及する“業績悪化ドミノ”の恐れも言われだしている。
フジグループは子会社89社、関連会社50社を擁するメディア界の“巨大帝国”だ。放送局や制作プロダクションのほか、出版・音楽事業、不動産やホテル事業を行う会社などがある。グループ各社への打撃も甚大である。1月30日には2025年3月期の業績を大幅に下方修正すると発表した。放送収入は前期から233億円減の1252億円まで落ち込む見通し。
いち早く人員整理に動いたのは扶桑社。すでに産経新聞社が発行する「夕刊フジ」は、2025年1月31日をもって休刊となっている。スマートフォンの普及など、生活スタイルの変化で発行部数が減少傾向だったことに加え、新聞用紙の高騰などが理由で、1969年2月の創刊から約56年の歴史に幕を下ろした。
◆「狐弾亭」立川市に開業
トーハンの小型書店開業サービス「HONYAL」を利用して、「狐弾亭(こびきてい)」が2月8日、東京・立川市羽衣町1-21-2にオープンした。初の個人による開業で、「物語を通して妖精と出会える場所」をコンセプトとするブックティーサロン。
23坪の売場に、アイルランドの妖精譚や妖精関連の専門書、妖精が登場するコミックスなど約3000冊(古書含む)を揃え、カフェを併設。
店主の高畑吉男さんは、アイルランドを中心とした妖精譚の専門家で著書も多く、自ら選書した書目を並べ、また所蔵する貴重な文献資料も置き、非売品だが紅茶をオーダーすると店内で閲覧が可能。
◆「大阪ほんま本大賞」の成果
地域ゆかりの一冊を書店員らが選んで表彰するご当地文学賞、そのなかでもユニークなのが「大阪ほんま本大賞」だ。それぞれの書店の店頭で受賞作を大々的にアピールし、少しでも書店の黒字を増やす狙いはもちろん、売り上げの一部は、児童養護施設の子どもたちのプレゼント本に使われる仕組みになっている。
ほんま本大賞を主催しているのは、大阪府内の書店のほか、トーハン、日販、楽天ブックスネットワークといった出版取次会社の有志らでつくる団体「Osaka Book One Project」。実行委員として20人が活動する。「大阪からベストセラーを出したい」という思いで2013年に始まり、第3回までは「大阪の本屋と問屋が選んだほんまに読んでほしい本」、第4回からは「大阪ほんま本大賞」としてお薦めの一冊を選んで表彰している。
選考の対象とする条件は、@ 大阪が舞台の物語、あるいは作者が大阪にゆかりあること、A 文庫本であること、B 著者が生存していること の3つを満たす作品に限っている。
それに加えて「ほんま本大賞」の特徴は、受賞作の売り上げの一部で、児童養護施設の子どもたちに欲しい本をプレゼントし続けていることだ。初回から2024年の第12回を合わせると、1000万円近くの本を寄贈している。
◆月刊誌「母の友」最終号
福音館書店が発行する月刊誌「母の友」3月号(2/3発行)をもって、72年の歴史を閉じる。 1953年に「幼い子と共に生きる人への生活文化雑誌」と位置づけて創刊し、子育ての「ハウツー本」というより、作家や画家の書き下ろしの童話やエッセー、インタビュー、寄稿、読者の投稿などを通して、「言葉」に光を当ててきた。
他社の広告を載せないのも雑誌としては珍しかったが、「昨今の情報メディアをめぐる環境の大きな変化」を理由に、休刊に踏み切った。
最終号のテーマは「『生きる』を探しに」。2022年に亡くなった松居直(ただし)さんが創刊号の編集長として、このテーマを立ち上げた。松居さんは、3人の兄を戦中戦後に戦場や病気で亡くした経験から「生きるということを皆さんと考えたいと思って、この雑誌を作った」と生前に繰り返していたという。
◆「パレスチナ」書名本押収
イスラエル警察は2月9日、東エルサレムのパレスチナ人が経営する「エデュケーショナル書店」を扇動容疑で捜索し、書名に「パレスチナ」とつく約100冊の本を押収、店主ら2人を逮捕した。警察当局は「扇動とテロ支援を含む本を販売した」との理由を挙げた。
1984年に開店した書店は、パレスチナ問題を扱う本を多くそろえ、学者や外交官、記者のたまり場であり、「イスラエル人とパレスチナ人が出会う文化の発信拠点であった。警察の行為は恥ずべきだ」と、多くの人々が憤り書店の「略奪」を非難する公式声明を発表した。
2025年02月19日
【焦点】第7次エネルギー基本計画(エネ基)が18日に閣議決定、原発利権温存が狙い=橋詰雅博
昨年12月27日から今年1月26日まで実施された第7次エネ基に対するパブリックコメント(意見公募)は約4万件に上った。これまでのエネ基のパブコメのなかで最も多く、原発を推進すべきではないなど反対意見が多く出た。例えば<7次エネルギー基本計画(案)を廃案とするべきである。現状において,原子力依存度の増加や再生可能エネルギーの推進不足,市民意見の反映不十分であることから、より持続可能で安全なエネルギー政策への転換を求める>といった具合だ。にもかかわらず原子力政策の基本は変わらなかった。
筆者は今年1月号JCJ機関紙で第7エネ基は「原発回帰」と喝破した(http://jcj-daily.seesaa.net/category/27511239-1.html)。半導体工場やデータセンターの新設による電力需要増大を口実にしたもので、省エネによる電力需要抑制を無視した計画案だった。結局は、原発を主事業とする電力会社(電力業界は自民党への大口政治献金の常連)の経営基盤を守る利権温存が狙い。第7次エネ基では2040年の再生可能エネルギーは4〜5割目標で、EU(欧州連合)がすでに実現している水準にとどまっている。これでは世界に向けた50年温室効果ガス実質ゼロの公約の達成は困難ではないか。
国際環境NGO「FoE Japan」は、<原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。これに抗議する>と声明を18日に出した。
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/
●関連情報
シンポジウム:原発事故から14年−福島と能登から考えるエネルギーの未来
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
珠洲市在住の北野進さん、浪江町から避難した菅野みずえさんによる講演に加え、全国各地の原発や関連施設などの周辺から7名の方にご報告をいただきます。また、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマに若い世代もまじえてパネルディスカッションを開催します。
日時:2025年3月1日(土)14:00-16:30
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見ゲート G401教室 またはZoom
▼詳細、お申込みは以下から
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
筆者は今年1月号JCJ機関紙で第7エネ基は「原発回帰」と喝破した(http://jcj-daily.seesaa.net/category/27511239-1.html)。半導体工場やデータセンターの新設による電力需要増大を口実にしたもので、省エネによる電力需要抑制を無視した計画案だった。結局は、原発を主事業とする電力会社(電力業界は自民党への大口政治献金の常連)の経営基盤を守る利権温存が狙い。第7次エネ基では2040年の再生可能エネルギーは4〜5割目標で、EU(欧州連合)がすでに実現している水準にとどまっている。これでは世界に向けた50年温室効果ガス実質ゼロの公約の達成は困難ではないか。
国際環境NGO「FoE Japan」は、<原発や火力などの大規模集中型の電源による電力の大量生産・大量消費の構造をそのまま維持する内容である。気候危機に向き合わず、一般市民や将来世代に大きな負担を強い、現実からも乖離している。これに抗議する>と声明を18日に出した。
https://foejapan.org/issue/20250218/22944/
●関連情報
シンポジウム:原発事故から14年−福島と能登から考えるエネルギーの未来
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
珠洲市在住の北野進さん、浪江町から避難した菅野みずえさんによる講演に加え、全国各地の原発や関連施設などの周辺から7名の方にご報告をいただきます。また、「エネルギーの民主化を実現するために」をテーマに若い世代もまじえてパネルディスカッションを開催します。
日時:2025年3月1日(土)14:00-16:30
会場:法政大学 市ヶ谷キャンパス 富士見ゲート G401教室 またはZoom
▼詳細、お申込みは以下から
https://foejapan.org/issue/20250130/22214/
2025年02月18日
【映像】オンライン講演「裁判官はこうも堕落したのか」―YouTubeで一般公開=JCJ事務局
11月30日実施した〈JCJ Online講演会〉「裁判官はこうも堕落したのか」、講演者は24年度JCJ賞受賞の後藤秀典さん。後藤さんのご厚意により、記録をYouTubeで一般公開させていただけるはこびとなりました。
このYouTubeコンテンツは、どなたでもアクセス可能ですので、JCJ会員のみなさま始め広くご視聴いただければと思います。JCJ活動の一端として機関紙購読や会員の拡大につながっていくこと期待です。
https://youtu.be/O29yTweWoFY ←YouTube
https://x.com/jcj_online/status/1890613817362546874 ←X(旧twitter)告知
2025年02月17日
【オピニオン】国家賠償と核廃絶 被団協の訴えにどう応える=藤元康之(広島支部)
「1994年12月、2法を合体した『原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律』が制定されましたが、何十万人という死者に対する補償は一切なく、日本政府は一貫して国家補償を拒み、放射線被害に限定した対策のみを今日まで続けてきています。もう一度繰り返します。原爆で亡くなった死者に対する償いは、日本政府は全くしていないという事実をお知りいただきたいと思います」
日本被団協の田中煕巳代表委員のノーベル平和賞受賞式演説で、私が一番感動したところだ。しかし、中継したNHKニュースや直後のテレビ朝日報道ステーションでは、何の説明も解説もなかった。翌日からの報道で「もう一度繰り返します」のところは、用意した原稿にはなく、「いまの世界情勢を考えると、繰り返して言わなければと衝動的に思った」と田中さんは明かしている。
被団協の二つの基本要求は演説のなかで分かりやすく述べられている。一つは、日本政府の「戦争の被害は国民が受忍しなければならない」との主張にあらがい、原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないという運動。二つは、核兵器は極めて非人道的な殺戮兵器であり人類とは共存させてはならない、すみやかに廃絶しなければならない、という運動である。
演説は、原爆死没者への日本政府の補償と言っているが、意味するところは戦争を起こす全ての国家の責任を断罪しているのだと思う。米国による原爆投下から80年も経つのに、再び核戦争の危機が充満する世界にあって、戦争は誤った国策によって国家が起こすこと、それを止める大きな役割をジャーナリストが担っていることを、再認識したい。
残念なことに、広島市の松井一実市長は記者会見で、国家補償を求める被団協の運動は、大切なことと述べながらも、世界から評価されたのは平和や核廃絶を訴える運動に限られているとの見解を述べた。この人は、パールハーバーと広島平和公園の「姉妹協定」締結や市職員研修で教育勅語を肯定的に引用するなど、私から見れば世間常識とはかなりずれていると思うのだが、今回も独自見解を披露してくれた。ただ、これも残念なことに広島のメディアでさえ大きく報じられなかった。
フリー記者の宮崎園子さんのYahooニュースによると、田中さんは「核兵器廃絶と国家補償という私たちの二つの基本要求によって『核のタブー』が形成されたということについて、ノーベル委員会は適切に理解してくださっている」と述べ、ノーベル委員会からは、事前原稿ではなく実際のスピーチの内容を正式文書として残すとの説明を受けたという。
日本国憲法前文は「日本国民は……政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し……」で始まる。80年前に終わった戦争は、政府=国家が起こしたと明記し、二度としないことを日本国民は決意した。しかし、自民党の憲法改正草案(12年)では、この大切な文言は削除され「平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」と、戦争の反省も不戦の誓いも感じられないものになった。そして被爆地広島から選出された岸田文雄前首相は、米国の要求に従って、中国に対抗する軍事力増強に舵を切った。米国のトランプ新大統領は防衛費のさらなる増額を要求すると言われている。
昭和100年、戦後80年のことし、年老いた被爆者の訴えに私たちは、どう応えるのか、きわめて大切な1年になる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
日本被団協の田中煕巳代表委員のノーベル平和賞受賞式演説で、私が一番感動したところだ。しかし、中継したNHKニュースや直後のテレビ朝日報道ステーションでは、何の説明も解説もなかった。翌日からの報道で「もう一度繰り返します」のところは、用意した原稿にはなく、「いまの世界情勢を考えると、繰り返して言わなければと衝動的に思った」と田中さんは明かしている。
被団協の二つの基本要求は演説のなかで分かりやすく述べられている。一つは、日本政府の「戦争の被害は国民が受忍しなければならない」との主張にあらがい、原爆被害は戦争を開始し遂行した国によって償われなければならないという運動。二つは、核兵器は極めて非人道的な殺戮兵器であり人類とは共存させてはならない、すみやかに廃絶しなければならない、という運動である。
演説は、原爆死没者への日本政府の補償と言っているが、意味するところは戦争を起こす全ての国家の責任を断罪しているのだと思う。米国による原爆投下から80年も経つのに、再び核戦争の危機が充満する世界にあって、戦争は誤った国策によって国家が起こすこと、それを止める大きな役割をジャーナリストが担っていることを、再認識したい。
残念なことに、広島市の松井一実市長は記者会見で、国家補償を求める被団協の運動は、大切なことと述べながらも、世界から評価されたのは平和や核廃絶を訴える運動に限られているとの見解を述べた。この人は、パールハーバーと広島平和公園の「姉妹協定」締結や市職員研修で教育勅語を肯定的に引用するなど、私から見れば世間常識とはかなりずれていると思うのだが、今回も独自見解を披露してくれた。ただ、これも残念なことに広島のメディアでさえ大きく報じられなかった。
フリー記者の宮崎園子さんのYahooニュースによると、田中さんは「核兵器廃絶と国家補償という私たちの二つの基本要求によって『核のタブー』が形成されたということについて、ノーベル委員会は適切に理解してくださっている」と述べ、ノーベル委員会からは、事前原稿ではなく実際のスピーチの内容を正式文書として残すとの説明を受けたという。
日本国憲法前文は「日本国民は……政府の行為によって再び戦争の惨禍が起こることのないようにすることを決意し……」で始まる。80年前に終わった戦争は、政府=国家が起こしたと明記し、二度としないことを日本国民は決意した。しかし、自民党の憲法改正草案(12年)では、この大切な文言は削除され「平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する」と、戦争の反省も不戦の誓いも感じられないものになった。そして被爆地広島から選出された岸田文雄前首相は、米国の要求に従って、中国に対抗する軍事力増強に舵を切った。米国のトランプ新大統領は防衛費のさらなる増額を要求すると言われている。
昭和100年、戦後80年のことし、年老いた被爆者の訴えに私たちは、どう応えるのか、きわめて大切な1年になる。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月16日
【国民発議制度創設】有権者の請求で国民投票実施 国会に議連、模擬投票も=小石 勝朗(ライター)
特定のテーマについて一定数の有権者が請求すれば国民投票が実施される「国民発議」制度の創設へ向けた動きが活発化してきた。国会議員による超党派の議員連盟が昨年暮れに発足=写真・小石勝朗撮影=。市民団体はウェブで模擬投票を行い、制度の周知に注力している。
「諮問型」を想定
「『国民発議』制度の導入を目指す超党派議員連盟」=には、自民、立憲民主、維新、国民民主など7会派の衆・参院議員約20人が入会の意向を示している。設立総会で共同代表に船田元・衆院議員と桜井充・参院議員(ともに自民)、杉尾秀哉・参院議員(立憲民主)を選んだ。
当面は、海外の事例調査や課題のあぶり出し、識者の意見聴取などに取り組み、制度の内容を固めて法案を作成することを目標にしている。総会に出席した議員からは「民主主義を根づかせる手段になる」といった声が出た。
憲法41条は国会が「唯一の立法機関」と定めており、選挙による間接民主制を採用しているとして、国民投票のような直接民主制の手法に抵抗感を抱く国会議員も多い。それだけに、国会にこうした議連ができたのは新しい潮流と言える。
制度化に当たっても同条との関係が問題になる。議連に参加する議員らは、国民投票の結果に法的な強制力を持たせるのではなく、政府や国会に尊重義務を課すにとどめる「諮問型」と位置づけることで、憲法との整合性は保てるとみている。間接民主制を補完する、との位置づけだ。
国民発議が注目される背景には、政治や行政への根強い不信がある。内閣府の世論調査(23年11月)によると、国の政策に国民の考えや意見が「ほとんど反映されていない」との回答が26・1%、「あまり反映されていない」が49・6%。両者の合計は1年前より4・3㌽上がっている。
国民投票の対象になるテーマとしては、たとえば夫婦別姓、原発、死刑などが想定される。選挙と違ってテーマごとに意思表示ができるため、実現すれば国民の政治参加を進め、不信の払拭にもつながると期待される。
議連の結成を働きかけたのは、一般社団法人・INIT国民発議プロジェクト。「選挙の時だけでなく365日ずっと主権者でいるために発案・拒否・決定権を行使できる制度を」と22年に発足し、昨年末時点で1820人が賛同者登録している。
INITは昨年12月の1週間、選択的夫婦別姓、消費税、紙の保険証、NHK受信料、死刑、インボイスの6件をテーマに、ウェブで模擬国民投票を実施した。事前に賛同者に何を発議したいか募り、希望を踏まえてテーマを設定した。
各テーマについて賛否の代表的な意見をホームページに掲載。一部のテーマでは双方の論客による公開討論会も開くなど本番同様のしつらえにした。
投票数は、最多の夫婦別姓で3197件。「賛成」が9割近かったが、ほぼ全員が賛否両方の意見を確認したうえで投票していた。INITは「投票結果よりも、学び考えて1票を投じたことが意義深い」と捉えており、国民投票は熟議を促すと自信を深めている。
年内に「原発・エネルギー」(3月)などをテーマにさらに3回の模擬投票を計画する。多くの人に国民投票を「実感」してもらうとともに、プロセスや結果を検証。議連とも連携して制度設計に生かしていく方針だ。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月15日
【JCJオンライン講演会】「トランプ2・0」は世界をこう変える 講師:ロイター通信日本支局長・豊田祐基子氏 3月8日(土)午後2時から4時
米大統領に返り咲いたトランプ氏は、大統領令を次から次に発動。国内外に混乱をもたらし、当事者たちは対応に右往左往だ。ウクライナ戦争とガザ戦闘は奇策≠ナ停戦にというトランプ戦術も大きな波紋を呼ぶ。「ゆすり」「たかり」「脅し」というこれまでの成功体験から生まれた手法を駆使している。金主ゆえトランプ氏が起用した新設「政府効率化省(DOGE)」のトップの実業家・イーロン・マスク氏の言動も波乱の要因。予見不能「トランプ2・0」政権は、世界をどう変えるのか誰もが知りたいところ。日米の政治、経済に詳しいロイター通信日本支局長の豊田祐基子がズバリ予測する。
■講演者プロフィール:豊田 祐基子(とよだ・ゆきこ)ロイター通信 日本支局長
2022年2月から現職。外交・安全保障からエネルギー、金融・財政政策、金融市場、産業まで、日本に関わるあらゆるニュースの取材を統括し、世界へ発信している。ロイター入社以前は25年間にわたり、共同通信で外交・防衛、日銀などを取材した。
2009年から13年までシンガポール支局長、15年から18年までワシントン特派員を歴任。その後は特別報道室次長として共同の調査取材チームを率い、国際調査報道ジャーナリスト連合にも参加、東京五輪誘致に絡む資金の流れを報じた。日米間の外交・防衛関係の取材を重ね、共同通信憲法取材班として日米同盟に関する記事を執筆。新潮社から出版『「改憲」の系譜 9条と日米同盟の現場』で2007年日本ジャーナリスト会議JCJ賞を受賞。早稲田大学で博士号(公共政策)を取得。米ジョンズ・ホプキンズ大学高等国際問題研究大学院の客員研究員を務めた。
■参加費:500円
当オンライン講演会に参加希望の方はPeatix(https://jcjonline0308.peatix.com)で参加費をお支払いください。
(JCJ会員は参加費無料。jcj_online@jcj.gr.jp に支部・部会名を明記の上お申し込み下さい)
■主催:日本ジャーナリスト会議(JCJ)
03–6272-9781(月水金の13時から18時まで)
https://jcj.gr.jp/
2025年02月14日
【月刊マスコミ評・放送】NHK地元放送局の長期密着取材の成果=諸川麻衣
昨年秋以降、NHKのドキュメンタリーの健闘が光る。11月30日の『ETV特集 誰のための医療か〜群大病院・模索の10年〜』は、2014年に医療事故が発覚して大問題となった群馬大学附属病院のその後を見つめた。腹腔鏡手術で8人、開腹手術でも10人の患者が死亡した事態を受け、事故調査委員会は徹底した医療安全の改革を提言した。以後10年、病院は、重大事例について科を超えた合同カンファレンスで検討する、カルテ情報を患者と共有するなど、前例のない改革を進めてきた。さらに、患者自らが医療スタッフと共に自分の治療に参加する「患者参加型医療」にも着手した。死亡患者の遺族、改革に当たってきた医師たち、心臓の持病ゆえに妊娠中絶を勧められながら、「患者参加型医療」で出産を果たした母などを取材、病院改革の試行錯誤を描いた。
12月7日の『NHKスペシャル “国境の島” 密着500日 防衛の最前線はいま』は、台湾からわずか111kmに位置し、「国防の最前線」と位置付けられる与那国島が舞台。防衛の“南西シフト”の第1弾として陸上自衛隊の駐屯地が置かれて以降、ミサイル部隊の追加配備や駐屯地の拡張などが次々と打ち出された。町も島民も、島の振興のためにと自衛隊との共存を選んだが、伝統行事が隊員頼みになったなどの事態も生まれている。さらに、有事の際の佐賀県への“全島避難”も検討され始めた。土木業を営む町民、「自衛隊依存」に批判的な元保守系町議、将来の観光振興を視野に、国策を利用して港湾などの基盤整備を進めたいと考える町長に密着、“国境の島”の変貌を町の側から見つめた。
今年1月4日の『NHKスペシャル “冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜』は、「軍事転用可能な機器を不正輸出した」とされた大川原化工機の冤罪事件を追った第3弾。取材班は新たに、警視庁公安部内の会議の音声記録を入手。そこには、強引な法令解釈で事件化に固執する幹部らと、それに懸命に抗う部下たちの対立が記録されていた。番組取材チームが培ってきた信頼が、内部告発を次々と引き出しているのだろう。
注目したいのは、群馬大、与那国島、どちらも地元局の長期密着取材の成果だという点だ。全国に放送局を持つNHKならではの強みを生かしたこのような手堅いドキュメンタリー枠の拡充こそ、テレビが人々の信頼を取り戻す王道では、と初夢を描いた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
12月7日の『NHKスペシャル “国境の島” 密着500日 防衛の最前線はいま』は、台湾からわずか111kmに位置し、「国防の最前線」と位置付けられる与那国島が舞台。防衛の“南西シフト”の第1弾として陸上自衛隊の駐屯地が置かれて以降、ミサイル部隊の追加配備や駐屯地の拡張などが次々と打ち出された。町も島民も、島の振興のためにと自衛隊との共存を選んだが、伝統行事が隊員頼みになったなどの事態も生まれている。さらに、有事の際の佐賀県への“全島避難”も検討され始めた。土木業を営む町民、「自衛隊依存」に批判的な元保守系町議、将来の観光振興を視野に、国策を利用して港湾などの基盤整備を進めたいと考える町長に密着、“国境の島”の変貌を町の側から見つめた。
今年1月4日の『NHKスペシャル “冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜』は、「軍事転用可能な機器を不正輸出した」とされた大川原化工機の冤罪事件を追った第3弾。取材班は新たに、警視庁公安部内の会議の音声記録を入手。そこには、強引な法令解釈で事件化に固執する幹部らと、それに懸命に抗う部下たちの対立が記録されていた。番組取材チームが培ってきた信頼が、内部告発を次々と引き出しているのだろう。
注目したいのは、群馬大、与那国島、どちらも地元局の長期密着取材の成果だという点だ。全国に放送局を持つNHKならではの強みを生かしたこのような手堅いドキュメンタリー枠の拡充こそ、テレビが人々の信頼を取り戻す王道では、と初夢を描いた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月13日
【Bookガイド】2月の“推し本”紹介=萩山 拓(ライター)
ノンフィクション・ジャンルからチョイスした気になる本の紹介です(刊行順・販価は税別)
◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
◆望月衣塑子『軍拡国家』角川新書 2/10刊 900円
軍拡に舵を切るこの国で、私たちの生活はどう変わる? 5年で43兆円の防衛費増、敵基地攻撃能力の保有など、周辺諸国の脅威が声高に叫ばれる中、専守防衛という国の在り方は大転換した。防衛問題を追い続けてきた著者による最新レポート。
著者は東京新聞社会部記者。入社後、東京地検特捜部などを担当。官邸での官房長官記者会見で、真実を明らかにするべく鋭い質問を続ける。現在は社会部遊軍記者。
◆朝日新聞取材班『ルポ 大阪・関西万博の深層─迷走する維新政治』 朝日新書 2/13刊 900円
4月に開幕する大阪・関西万博。必死なてこ入れで、お祭りムードが醸成されるだろう。しかし、本当にそれでいいのか。会場予定地での爆発騒ぎや、建設費の2度の上ぶれ、パビリオン建設の遅れなど、問題が噴出し続けた。巨額の公費をつぎ込んだからには、成果は厳しく問われるべきだし、その出費や使いみちも検証されるべきだ。。朝日新聞取材班が万博の深層に迫った渾身のルポ。
◆宮崎拓朗『ブラック郵便局』新潮社 2/17刊 1600円
異常すぎるノルマ、手段を選ばない保険勧誘、部下を追い詰める幹部たち。巨大組織の歪んだ実態に迫る驚愕ルポ。街中を駆け回る配達員、高齢者の話に耳を傾け寄り添うかんぽの営業マンなど、利用者のために働いてきた局員とその家族が疲弊し追い込まれている。窓口の向こう側に広がる絶望に光を当てる。
著者は京都大学卒。西日本新聞社入社。「かんぽ生命不正販売問題を巡るキャンペーン報道」で第20回早稲田ジャーナリズム大賞。現在は北九州本社編集部デスク。
◆今村美都『「不」自由でなにがわるい─障がいあってもみんなと同じ』 新日本出版社 2/20刊 1500円
本書の主人公は、重度の脳性まひがある「ともっち」こと山下智子さん。24時間介助が必要ですが、楽器も弾くし、水泳もするし、ゲームもする。サッカーJリーグの観戦にも出かける。障害があるからできないわけじゃない、工夫と行動でみんなと同じをやってきたともっちさんの半生記はすごい!
著者は津田塾大学国際関係学科卒、早稲田大学大学院演劇映像専修修士課程修了し、ダンス雑誌の編集者に。その後、医療コンサルを手がけるIT企業へ、そして医療福祉ライターとして独立。
◆油井大三郎『日系アメリカ人─強制収容からの<帰還>』岩波書店 2/21刊 2900円
1942年2月19日。米国大統領ローズヴェルトの発した立ち退き令が引き金となり、強制収容所に送られた日系アメリカ人。極小マイノリティであるばかりか、収容体験を葬り去るべき「トラウマ」として抱え込んだ彼らが、なぜ謝罪と補償(リドレス)を実現できたのか。アメリカ現代史の第一人者である著者が、30年にわたって追ってきた研究の集大成をまとめた画期的な書。
著者は東京女子大学現代文化学部特任教授、東京大学名誉教授。
◆伊藤和子『ビジネスと人権─人を大切にしない社会を変える』岩波新書 2/25刊 1000円
人を人とも思わないやり方で搾取し蹂躙する社会が国内外の企業活動で生じている。企業は国際人権基準を尊重する責任を負い、国家には人権を保護する義務があり、人権侵害には救済が求められる。私たち一人一人が国連の「指導原則」が示す「ビジネスと人権」の発想を知り、企業風土や社会を変えるための一冊。
著者は国際人権NGOヒューマンライツ・ナウの副理事長、ミモザの森法律事務所所属弁護士。
2025年02月12日
【映画の鏡】94歳 兄の無罪を信じて『いもうとの時間』冤罪事件の理不尽さを炙り出す=鈴木 賀津彦
1961年の事件発生以来、東海テレビが撮り続けてきた映像をふんだんに使って「名張ぶどう酒事件」の全体像を描き直し、冤罪事件の理不尽さを分かりやすく炙り出す。
自白のみで5人殺害の犯人とされた奥西勝さん(当時35歳)は一審では無罪となるが、2審で死刑。判決確定後も獄中から無実を訴え続けたが89歳で亡くなった。再審請求を引き継いだのは妹の岡美代子さん。10度目も再審はかなわず(昨年1月最高裁特別抗告棄却)、美代子さんは現在94歳。再審請求は配偶者、直系の親族と兄弟姉妹しかできない。残された時間は長くはないのだ。検察・裁判所の狙いはそこなのかと愕然としてしまう。
東海テレビは番組だけでなく映画作品としても本事件を多く題材にしてきた。『約束〜名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯〜』(2013)、『ふたりの死刑囚』(16)、『眠る村』(19)に続く4作目で、今回<シリーズ“最終章”>と打ち出している。テレビ局の組織ジャーナリズムの底力を、冤罪が問われている今だからこそ発揮している制作陣の熱量が伝わってくる。
1966 年に起きた「袴田事件」は昨年 9 月 26 日に再審無罪の判決が出た。長期化する再審制度の在り方が問われる中、判決後の袴田さんの姿も追い二つの事件で再審がなぜ認められてこなかったかを捉えている。奥西さんの一審で無罪判決を出した裁判官についての取材の場面がある一方で、再審を認めなかった裁判長らの顔を並べるシーンが印象的だ。そこに憲法 76 条第 3 項「裁判官はその良心に従い、独立してその職権を行い、憲法および法律にのみ拘束される」と映し出される。
公開中。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月11日
【月刊マスコミ評・新聞】予算案の真摯な審議のため監視を=山田 明
2025年元日の全国紙社説タイトルは、朝日「不確実さ増す時代に政治を凝視し強い社会築く」、毎日「戦後80年混迷する世界と日本「人道第一」の秩序構築を」、読売「平和と民主主義を立て直す時協調の理念掲げ日本が先頭に」、日経「変革に挑み次世代に希望つなごう」。各紙の主張と特徴が社説に表れている。産経は論説委員長が年のはじめにで、「日本は数年内に、戦後初めて戦争を仕掛けられる恐れがある」と危機感を煽る。地方紙社説には沖縄2紙など示唆に富むものが多い。
戦後80年の今年は、国内外とも波乱が予想される。トランプ米大統領は就任前から、世界に波紋を投げかけるが、日本の経済社会も揺るがすであろう。日米軍事一体化のもと、とりわけ日米安保のあり方が問われる。今年も参院選など選挙の年だ。
昨年秋の衆院選で与党は過半数を割った。「少数与党」下の政治の歯車が、少しずつかみ合い出したように見える(朝日1月4日社説)。政府与党はこれまでのように、内輪で予算案や政策を固めて、国会審議で押し通すような一方的な運営は通用できなくなった。
だが、昨年末の今年度補正予算案は、わずか4日間の審議で一部修正のうえ、与党と日本維新の会、国民民主党の賛成で衆院を通過した。コロナ禍以降に繰り返される「規模ありき」の予算である。補正予算で注目されるのが、防衛費が過去最大となる8268億円計上されていることだ。能登地域の復旧・復興費の3倍近い規模である。
防衛費は新年度予算案でも8.7兆円も計上され、予算面からも「軍事大国」化が急速に進んでいる。少数与党下で審議される当初予算案は、補正予算のように与党と国民民主などの一部野党が野合することが危惧される。予算案が政策論議をもとに真摯に審議されるよう、メディァの監視を期待したい。
夢洲万博まで100日を切ったが、機運醸成どころか、国民の関心はむしろ低下気味だ。前売券の販売は見込みの半分程度だ。このままだと運営費の赤字は避けられない。災害リスクも懸念されている。メディアも「お祭り」騒ぎを煽るのでなく、万博の現実をシビアに伝えてほしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
戦後80年の今年は、国内外とも波乱が予想される。トランプ米大統領は就任前から、世界に波紋を投げかけるが、日本の経済社会も揺るがすであろう。日米軍事一体化のもと、とりわけ日米安保のあり方が問われる。今年も参院選など選挙の年だ。
昨年秋の衆院選で与党は過半数を割った。「少数与党」下の政治の歯車が、少しずつかみ合い出したように見える(朝日1月4日社説)。政府与党はこれまでのように、内輪で予算案や政策を固めて、国会審議で押し通すような一方的な運営は通用できなくなった。
だが、昨年末の今年度補正予算案は、わずか4日間の審議で一部修正のうえ、与党と日本維新の会、国民民主党の賛成で衆院を通過した。コロナ禍以降に繰り返される「規模ありき」の予算である。補正予算で注目されるのが、防衛費が過去最大となる8268億円計上されていることだ。能登地域の復旧・復興費の3倍近い規模である。
防衛費は新年度予算案でも8.7兆円も計上され、予算面からも「軍事大国」化が急速に進んでいる。少数与党下で審議される当初予算案は、補正予算のように与党と国民民主などの一部野党が野合することが危惧される。予算案が政策論議をもとに真摯に審議されるよう、メディァの監視を期待したい。
夢洲万博まで100日を切ったが、機運醸成どころか、国民の関心はむしろ低下気味だ。前売券の販売は見込みの半分程度だ。このままだと運営費の赤字は避けられない。災害リスクも懸念されている。メディアも「お祭り」騒ぎを煽るのでなく、万博の現実をシビアに伝えてほしい。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号
2025年02月10日
【オピニオン】増える貧困若者、高齢者たたく世代間対立≠フ解決法は=木下寿国
今年は団塊の世代が75歳以上となり、社会保障財源などへの圧迫が強まるのだという。そこから「2025年問題」などという呼称まで生まれているらしい。
政府は、高齢者が増えると現役世代の負担増が必須になると強調してきた。それを擁護するかのように、成田悠輔氏による「高齢者の集団自決」論が世論をにぎわした。このような言説が、現役世代、最近ではとりわけ若い世代と高齢世代の利害は相いれないものだとする世代間対立の背景をなしている。
こうした状況の中でマスコミは、政府や一部野党の言い分である「税と社会保障の一体改革」を持ち上げ、財源となる消費税増税を主張する。それを回避すれば、ツケは将来世代に先送りされるのだという。
だが、ここには論点の大きなすり替えがある。社会保障や貧困問題の研究に取り組んできた唐鎌直義・佐久大学教授は、こう指摘する。「そもそも社会保障は、世代間で支え合うものではありません」(「赤旗」1.6)。税の社会的再配分(再分配)を行うものだという。わかりやすく言えば、同世代内で分かち合うものだということだ。経済的にゆとりのある層が、ない層を支える。つまり「応能負担の原則」、これが社会保障本来の基礎的概念だともいえる。
そこを意図的にゆがめているのが政府であり、マスコミは往々にしてそのお先棒を担いでいる。現実は、大企業減税や富裕層優遇税制が野放し状態にある。応能負担原則をないがしろにしたままで、低所得層により負担の重い消費税増税に頼る「一体改革」を進めれば進めるほど、社会的ゆがみは拡大してゆくしかない。
高齢世代をたたいたところで、いまある社会問題が解決しそうにないことは少し考えてみればわかりそうなものだ。だが、ここに一歩踏み込んでみるべき問題が存在する。筆者はこれに関連して「X」で少しばかりからまれた経験があるが、そこで気づいたのは、要するに高齢者を攻撃する多くの若者が本当に言いたいのは、自分たちが苦しんでいるということなのではないか。だから、頼るものが何もない自分たちからすれば、いろいろな制度があって恵まれているように見える高齢者をたたきたくなる。それでウサをはらしたくなる。
阿部彩・東京都立大学教授の貧困研究(「相対的貧困率の動向」2021、24)によると、この数年間に20代前半の相対的貧困率は目立ってアップした。若者の貧困状態が厳しさを増しているのだ。世代間対立を煽り立てているのは、政府やマスコミのミスリードによるところももちろんあろうが、同時に若者が実際に厳しい現実に追い込まれていることも大いに関連しているに違いない。
さきの唐鎌氏は「社会保障から遠ざけられている若い世代や非正規雇用に置かれた人の暮らしぶりにもっと目を向ける必要がある」と注意を喚起している。世代間対立をよりましな方向に持っていけるかどうかは、若い世代の悩みに具体的にこたえられるかどうかにもかかっているといえよう。
個人的には解決策の一つとして、住宅問題への取り組みを挙げたい。住宅政策を人々の貧困を包括する社会保障として立て直してゆくのだ。若い世代も公営住宅に入れるようにしたり(そのためには、現状の閉鎖的な公営住宅政策の見直しが必要だ)、普遍的な住宅補助の実現で住宅費負担を軽減したりできれば、それだけでも低収入の若い世代にとっては大きな助けになるだろう。何よりそれは、孤立感を抱いているかもしれない若い世代への社会の応援歌ともなるはずだ。
政府は、高齢者が増えると現役世代の負担増が必須になると強調してきた。それを擁護するかのように、成田悠輔氏による「高齢者の集団自決」論が世論をにぎわした。このような言説が、現役世代、最近ではとりわけ若い世代と高齢世代の利害は相いれないものだとする世代間対立の背景をなしている。
こうした状況の中でマスコミは、政府や一部野党の言い分である「税と社会保障の一体改革」を持ち上げ、財源となる消費税増税を主張する。それを回避すれば、ツケは将来世代に先送りされるのだという。
だが、ここには論点の大きなすり替えがある。社会保障や貧困問題の研究に取り組んできた唐鎌直義・佐久大学教授は、こう指摘する。「そもそも社会保障は、世代間で支え合うものではありません」(「赤旗」1.6)。税の社会的再配分(再分配)を行うものだという。わかりやすく言えば、同世代内で分かち合うものだということだ。経済的にゆとりのある層が、ない層を支える。つまり「応能負担の原則」、これが社会保障本来の基礎的概念だともいえる。
そこを意図的にゆがめているのが政府であり、マスコミは往々にしてそのお先棒を担いでいる。現実は、大企業減税や富裕層優遇税制が野放し状態にある。応能負担原則をないがしろにしたままで、低所得層により負担の重い消費税増税に頼る「一体改革」を進めれば進めるほど、社会的ゆがみは拡大してゆくしかない。
高齢世代をたたいたところで、いまある社会問題が解決しそうにないことは少し考えてみればわかりそうなものだ。だが、ここに一歩踏み込んでみるべき問題が存在する。筆者はこれに関連して「X」で少しばかりからまれた経験があるが、そこで気づいたのは、要するに高齢者を攻撃する多くの若者が本当に言いたいのは、自分たちが苦しんでいるということなのではないか。だから、頼るものが何もない自分たちからすれば、いろいろな制度があって恵まれているように見える高齢者をたたきたくなる。それでウサをはらしたくなる。
阿部彩・東京都立大学教授の貧困研究(「相対的貧困率の動向」2021、24)によると、この数年間に20代前半の相対的貧困率は目立ってアップした。若者の貧困状態が厳しさを増しているのだ。世代間対立を煽り立てているのは、政府やマスコミのミスリードによるところももちろんあろうが、同時に若者が実際に厳しい現実に追い込まれていることも大いに関連しているに違いない。
さきの唐鎌氏は「社会保障から遠ざけられている若い世代や非正規雇用に置かれた人の暮らしぶりにもっと目を向ける必要がある」と注意を喚起している。世代間対立をよりましな方向に持っていけるかどうかは、若い世代の悩みに具体的にこたえられるかどうかにもかかっているといえよう。
個人的には解決策の一つとして、住宅問題への取り組みを挙げたい。住宅政策を人々の貧困を包括する社会保障として立て直してゆくのだ。若い世代も公営住宅に入れるようにしたり(そのためには、現状の閉鎖的な公営住宅政策の見直しが必要だ)、普遍的な住宅補助の実現で住宅費負担を軽減したりできれば、それだけでも低収入の若い世代にとっては大きな助けになるだろう。何よりそれは、孤立感を抱いているかもしれない若い世代への社会の応援歌ともなるはずだ。
2025年02月09日
【署名活動】今しかない!メディアは ”オールドボーイズクラブ ” からの脱却を!はじめの一歩として女性役員を3割にすることを求めます=MIC
「今変わらなければ、この先変わるチャンスは二度と訪れないかもしれない」民放労連は、2018年から女性役員の割合を3割に引き上げるよう求めており、意思決定層の多様性の欠如が日本のメディア業界におけるコンプライアンス意識の低下や国際競争力の影響を及ぼしていると指摘しています。特にフジテレビの問題は、業界全体の構造的な課題であり、高齢男性が意思決定層を占める現実が多様な視点を排除し、問題を見過ごす要因となっています。メディア関係者は自ら反省し、信頼される情報を伝えるために女性割合の増加などの取り組みが重要であると強調しています。
【圧倒的に少ない女性役員】
2023年1月27日に行われたフジテレビの記者会見では、登壇者全員が年配男性であり、多様な価値観が反映されていないことが問題視されました。フジテレビに限らず、日本のマスメディア全体に共通する課題です。民放労連は、意思決定層における女性の割合を30%以上に引き上げるよう要請してきましたが、3年経っても状況は改善されていません。ま新聞社でも女性管理職の割合や新卒女性採用の増加がある一方で、意思決定層における女性比率は依然として少ない。
【今こそメディアを変える そのために力を貸してください】
この問題を解決する最初の一歩として、私たちはメディア各社に「女性役員3割」を直ちに実現するよう求めます。この大きな衝撃を、目の前の火を消すためではなく、根本的に意思決定の構造を変える力にして、多様な声が反映される組織に生まれ変わりたいと思っています。そうしてこそ、視聴者、聴取者、読者の皆様に信頼されるメディアになる、より良いコンテンツを生み出せるようになる。そう信じています。私たちは、メディア従事者として、メディア業界改革のために声を上げます。どうか皆さんの力を貸してください。
【署名の発信者】
民放労連(日本民間放送労働組合連合会)、 MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)
【提出予定】
集まった署名は3月初旬に民放キイ5局、民放連に提出したいと考えています。また、新聞協会、書籍協会、雑誌協会にも同様の要請を行う予定です。下記URLから「Change.Org」に入って賛同署名をお願いします。
https://x.gd/TvAWo
【圧倒的に少ない女性役員】
2023年1月27日に行われたフジテレビの記者会見では、登壇者全員が年配男性であり、多様な価値観が反映されていないことが問題視されました。フジテレビに限らず、日本のマスメディア全体に共通する課題です。民放労連は、意思決定層における女性の割合を30%以上に引き上げるよう要請してきましたが、3年経っても状況は改善されていません。ま新聞社でも女性管理職の割合や新卒女性採用の増加がある一方で、意思決定層における女性比率は依然として少ない。
【今こそメディアを変える そのために力を貸してください】
この問題を解決する最初の一歩として、私たちはメディア各社に「女性役員3割」を直ちに実現するよう求めます。この大きな衝撃を、目の前の火を消すためではなく、根本的に意思決定の構造を変える力にして、多様な声が反映される組織に生まれ変わりたいと思っています。そうしてこそ、視聴者、聴取者、読者の皆様に信頼されるメディアになる、より良いコンテンツを生み出せるようになる。そう信じています。私たちは、メディア従事者として、メディア業界改革のために声を上げます。どうか皆さんの力を貸してください。
【署名の発信者】
民放労連(日本民間放送労働組合連合会)、 MIC(日本マスコミ文化情報労組会議)
【提出予定】
集まった署名は3月初旬に民放キイ5局、民放連に提出したいと考えています。また、新聞協会、書籍協会、雑誌協会にも同様の要請を行う予定です。下記URLから「Change.Org」に入って賛同署名をお願いします。
https://x.gd/TvAWo