昨年12月18日NHKホームページで6年前の経営委員会議事録が公表された。「NHK文書開示等請求訴訟控訴審において和解が成立したことを受けて」との但し書きのついた2018年10〜11月開催分議事録の非公開部分だ。放送法41条は、経営委員長に、遅滞なく速やかな議事録公表を義務付けている。議事録はなぜ6年も放送法に反して隠されていたのか。
事の起こりは、2018年4月24日に放送された「クローズアップ現代+」(郵便局が保険を“押し売り”!?)に遡る。メディアの「かんぽ不正報道」が始まる前の優れたスクープで、番組への反響は大きく続編を企画、インターネットで視聴者に情報提供を呼びかけた。これに対し、郵政三社幹部が「詐欺、押し売りなどの犯罪的営業を、組織ぐるみでやっているかのような印象を与える」などと抗議。
森下俊三経営委員長代行(当時)は旧知の鈴木康雄郵政副社長(元総務事務次官)と密かに面談、郵政幹部の意を受けて経営委員会で番組攻撃を主導した。この議事録を、経営委員会は「自由な意見交換と多様な意見の表明を妨げるおそれがある」と非公表にしてしまった。
「議事録隠し」が明るみに出たのは、1年後の2019年9月の「毎日」新聞スクープだった。この報道がきっかけで、その後多くのメディア・市民団体がNHK情報公開制度などを利用した議事録開示要求、森下辞任の運動を数年間繰り返したが、森下ら経営委員会は頑なに拒否し続けた。経営委員会の放送法違反を必死に隠し続けたと言われても仕方がない。
2021年6月、しびれを切らした視聴者・市民110名余りが議事録開示と森下の責任明確化を求めて東京地裁に提訴、「NHK文書等開示請求訴訟」が始まった。裁判では森下側が「議事録を作っていない」と主張したため、2024年2月の一審判決では、議事録作成の基礎資料である「録音データの開示」と森下・NHK両者に損害賠償を命じた。原告全面勝訴の画期的判決だった。
判決を不服として森下とNHKは控訴したが、原告側は一審勝訴判決を踏まえて「議事録開示」という本来の目的を達成すべく和解を提案した。控訴審では、森下らが主張を変え、これまで議事録と認めなかった「粗起こし」(2021年7月原告及びメディアにのみ開示)を「放送法41条所定の経営委員会議事録として作成したもの」と認め、NHKも認めた。
こうして12月17日の和解成立に至った。和解条項は@被告森下とNHKが「稲葉NHK会長(当時)に厳重注意」した時の経営委員会議事録をNHKのホームページに公表し、A被告森下は原告らに解決金98万円を支払うというもの。これによって、隠されていた議事録は全面的に公表され、原告の完全勝利とも言える和解によって裁判は終結した。
しかし、和解成立後18日の記者会見で稲葉NHK会長は、「かんぽ生命の問題を報じた当該番組に関して、放送の自主・自律、あるいは番組編集の自由が損なわれた事実はなかったと理解している」と答え、古賀信行現NHK経営委員長も「番組介入したという感じはほとんど受けていない」と述べた。これでは、NHKも経営委員会も和解条項を誠実に受け止めているとはいえず、経営委員会の番組介入が繰り返される危険は残ると言わざるを得ない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号