昨年秋以降、NHKのドキュメンタリーの健闘が光る。11月30日の『ETV特集 誰のための医療か〜群大病院・模索の10年〜』は、2014年に医療事故が発覚して大問題となった群馬大学附属病院のその後を見つめた。腹腔鏡手術で8人、開腹手術でも10人の患者が死亡した事態を受け、事故調査委員会は徹底した医療安全の改革を提言した。以後10年、病院は、重大事例について科を超えた合同カンファレンスで検討する、カルテ情報を患者と共有するなど、前例のない改革を進めてきた。さらに、患者自らが医療スタッフと共に自分の治療に参加する「患者参加型医療」にも着手した。死亡患者の遺族、改革に当たってきた医師たち、心臓の持病ゆえに妊娠中絶を勧められながら、「患者参加型医療」で出産を果たした母などを取材、病院改革の試行錯誤を描いた。
12月7日の『NHKスペシャル “国境の島” 密着500日 防衛の最前線はいま』は、台湾からわずか111kmに位置し、「国防の最前線」と位置付けられる与那国島が舞台。防衛の“南西シフト”の第1弾として陸上自衛隊の駐屯地が置かれて以降、ミサイル部隊の追加配備や駐屯地の拡張などが次々と打ち出された。町も島民も、島の振興のためにと自衛隊との共存を選んだが、伝統行事が隊員頼みになったなどの事態も生まれている。さらに、有事の際の佐賀県への“全島避難”も検討され始めた。土木業を営む町民、「自衛隊依存」に批判的な元保守系町議、将来の観光振興を視野に、国策を利用して港湾などの基盤整備を進めたいと考える町長に密着、“国境の島”の変貌を町の側から見つめた。
今年1月4日の『NHKスペシャル “冤罪”の深層〜警視庁公安部・内部音声の衝撃〜』は、「軍事転用可能な機器を不正輸出した」とされた大川原化工機の冤罪事件を追った第3弾。取材班は新たに、警視庁公安部内の会議の音声記録を入手。そこには、強引な法令解釈で事件化に固執する幹部らと、それに懸命に抗う部下たちの対立が記録されていた。番組取材チームが培ってきた信頼が、内部告発を次々と引き出しているのだろう。
注目したいのは、群馬大、与那国島、どちらも地元局の長期密着取材の成果だという点だ。全国に放送局を持つNHKならではの強みを生かしたこのような手堅いドキュメンタリー枠の拡充こそ、テレビが人々の信頼を取り戻す王道では、と初夢を描いた。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年1月25日号