導入当初に想定していたほどの効果は発揮しなかった−−−−。日銀は過去25年間の金融政策を評価した「金融政策の多角的レビュー」で、黒田東彦総裁(当時)のもとで実施した量的・質的金融緩和(異次元緩和)について、効果が限定的だったことを認めた。当然だ。黒田総裁が打ち出した「2年で2%の物価上昇」を達成できなかったのだから、それを手放しで評価する方が無理がある。ただ「全体としてみれば、わが国経済に対してプラスの影響をもたらした」と前向きな見方も示した。筆者はこの結論には賛成できない。
今後の副作用
経済学者警戒
日本経済新聞は1月18日付朝刊で、経済学者47人を対象とした日本経済研究センターとの共同アンケート調査結果を掲載した(回答は46人)。それによると、日銀のこのプラス評価が妥当か否かについては、ほぼ半数の49%が「どちらともいえない」と回答した。「どちらともいえない」と答えた経済学者の間では、今後の副作用を警戒する意見が目立ったという。筆者も同意見だ。足元では円安などの副作用の影響がどこまで広がるかまだ分からず、その分析を抜きにして結論を出すのは時期尚早だ。
円安は輸出企業にとってはプラスとなるが、輸入物価の上昇が直撃する中小企業や家計にとってはマイナスでしかない。レビューは円安と異次元緩和との関連については言及を避けたが、物価上昇2%を目指した無理な緩和が影響した可能性は否定できない。為替は現在も円安水準で推移しており、交易条件悪化の一因になっている。負の影響は当面続くだろう。
資産バブルを
生んだ低金利
筆者は異次元緩和について、@無理な2%目標にこだわった結果、過度な円安を招いたA低金利のぬるま湯が長く続いたことで「ゾンビ企業」が増加し、経済の活力を削いだB日銀が大規模に国債を買い入れたことで財政規律の緩みにつながったC首都圏マンション価格の上昇など局所的な資産バブルを生んだ−−−−などの問題点があったと認識している。
黒田総裁は異次元緩和導入時の会見で「資産バブルが膨れ上がるという懸念は持っていない」と強調したが、2023年に東京23区で売り出された新築マンションの平均価格は1億1483万円となり、初めて1億円を超えた(不動産経済研究所調べ)。24年は若干下がったものの、依然として1億円台をキープしており、もはや庶民が買えるレベルではない。価格高騰の背景には人材不足や資源高などがあるが、低金利も一因になっているのは間違いない。
Bについても検証が必要だ。レビューでは「金融政策の目的は物価の安定であり、政府による財政資金の調達支援が目的の財政ファイナンスではない」と日銀の主張を繰り返したが、異次元緩和では財政ファイナンスと受け止められても仕方がない直接引き受けに近い金融市場調節(オペ)も実施した。そうした姿勢が財政規律の緩みにつながった可能性も否定できず、この分析を避けて異次元緩和は評価できない。
2%物価目標
すべての元凶
筆者はすべての元凶は日本の実態に合わない2%の物価目標にあると判断している。レビューは引き続き2%の物価目標のもとで金融政策運営をしていくことが適切との方針を示したが、無理な目標がもたらした弊害は指摘した点以外にも多岐にわたる。将来、同じ過ちを繰り返さないためにも、これらの副作用から目を背けてはならない。
JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2025年2月25日号