2009年04月06日

封印された記憶を残しておきたい〜現役プロデューサーの志〜

 3月27日、NHKの現役プロデューサーを招いて第32回放送フォーラムが開催された。
 ゲストは、NHK番組制作局の塩田純氏。南京大虐殺の史実にも踏み込んだNHKスペシャル「日中戦争〜なぜ戦争は拡大したか〜」で、
文化庁芸術祭テレビ部門大賞を受賞するなど活躍している。 「こういう場で話すのははじめて」という塩田氏は、番組制作の秘話から現代史ドキュメンタリーにかける思いまで、 40名を超える参加者を前に語りかけた。

 塩田氏はNHKスペシャル「日中戦争」(2006年8月放送)について、 「一人の兵士がなぜ人を殺めてしまうのか、という一兵士の視点と、 一発の砲弾がなぜあれほど大きな戦争に発展してしまったのかという構造的問題をちゃんと見てみたい」という思いで提案したという。 小泉首相の靖国参拝問題が注目されていた当時、歴史認識が争点となっているテーマの番組は提案を通すのが難しい状況だったとのこと。

 塩田氏と4人のディレクターは、「一次資料で裏付けられない情報は使わない」 「これまで取材されたことのない証言者をみつける」ことを確認し調査を進めた。 徹底した取材と緻密な編集によって番組は南京大虐殺の史実もリアルに描きだし、放送後、視聴者からたくさんの励ましの声が届いたという。

 昨年8月に放送されたETV特集「シリーズBC級戦犯(1)韓国・朝鮮人戦犯の悲劇」 では、戦後60年を経て、やっと名誉回復を果たし語り始めた元戦犯たちを取材した。離ればなれになっていた元戦犯が再会する場面では、 かつて日本兵として動員された老人が突然「君が代」を歌い始めるショットがある。軒先をとぼとぼと歩きながら、 当時教え込まれた日本語の歌詞でもって……。

「あるとき突然、封印していた記憶が噴出する瞬間がある。 そういう瞬間に出会うすごさをスタッフ一同体感した。ドキュメンタリーは記憶の掘り起こしであり、だからこそTVで記録する意味がある」。 塩田氏は取材テープを初めてみたときの衝撃をふりかえり、そう語った。

 NHKという大きな組織で番組を通していく難しさと、 NHKだからこそ出来るという面と両方あると述べる塩田氏。かつて、政権寄りのスタンスだと指摘されていた海老沢会長や諸星理事がいた頃は、 「アメリカを批判したりイラク戦争を問題にしたりできない状況だった」という。

 それが変わり始めたのは、2005年。政治家の圧力で改変されたETV2001 「戦争をどう裁くか 問われる戦時性暴力」の担当デスクが内部告発し、直後、海老沢会長は辞任に追い込まれることになった。 NHK上層部が代わり、やっと作りたい番組を提案できる環境になってきたそうだ。

「日本では現代史の史実が神話化されたり、夫婦愛の物語に流されてしまう傾向がある。 特に加害者性とアジアの視点を欠いてしまいがちだ。メディアの力が衰退している今日、 何が構造的問題でどういう背景があるのかしっかりと描いていきたい」、と締めくくった。

放送を語る会会員 T・ O
放送を語る会HPより許可を得て転載)

posted by JCJ at 12:15 | TrackBack(0) | 放送 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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