◆第1回:11月27日(金)
18時15分〜21時
テーマ:「マスメディアの危機的状況と現場の課題―放送の内側から見る」
――NHK放送現場40年、そこで体験したこと、ジャーナリストとして目指したもの、これからの放送ビジョンなどを語る
報告者:桜井 均さん(元NHKプロデューサー)
◆第2回:12月17日(木)
18時15分〜21時
テーマ:「民主党政権下の安全保障政策」
報告者:半田 滋さん(東京新聞編集委員)
司会:桂 敬一氏(元東京大学教授・マスコミ九条の会呼びかけ人)
会場:東京・神田神保町 岩波セミナールーム
【 企 画 趣 旨 】
私たち「マスコミ九条の会」は昨年から今年にかけて、
(1)公開市民セミナー:日本はなぜ「対米従属」を断ち切れないのか─政治・経済・軍事の日米関係の構造を解き明かす(2008年5〜7月。
講義5回、総括シンポジウム1回)、
(2)シンポジウム:米国は「チェンジ」、日本は「9条」―反貧困・雇用 在日米軍再編 東アジアの明日(2009年6月)、
(3)民主・共産・社民3野党討論会:国民はどのような新政権を求めているか(同7月)、という3つの情勢討議のための集会を開催、
多くのマスコミ関係者・市民の方々とともに、憲法を活かすたたかいにとって今なにが問題か、討論を重ねてきました。
この期間は、2005年・郵政民営化選挙で大勝した小泉政権の遺産を、安倍・福田・麻生の3政権が食いつぶしていく過程であり、 その背景には、ブッシュ政権の言いなりになってきた小泉政権の対イラク戦争協力、アメリカ主導のグローバリズムと市場原理主義に盲従した 「構造改革」の矛盾が、急速に破綻をみせる状況が出現していました。
安全保障面では、空自によるイラク戦争でのアメリカの兵員・武器の輸送への加担、 アフガン戦争支援のための海自のインド洋給油活動の延長、アメリカの新世界戦略構築のための在日米軍基地再編・日米軍事一体化への協力など、 アメリカとの関係は実質的に、憲法9条が禁じている集団的自衛権の行使に該当する、というべきものに変わりつつありました。
他方、経済面でも、「構造改革」がアメリカの要求を容れ、製造業では禁じられていた派遣労働を解禁、また、流通、金融・証券・ 保険の自由化・規制緩和を加速するなど、国内工業を基盤として発展してきた日本の資本主義を、金融・ 資本取引での利得を目指すものへと変質させ、国境を越えた世界金融の激変のなかへと追い立てていきました。さらに社会保障費を年々削減、 福祉事業の民営化、制度の受益者負担型への転換など、政府の関与を縮小していきました。その結果、多数のワーキングプア、ネットカフェ難民、 ホームレスが生じる「格差社会」が出現するに至りました。これでは、憲法25条が保障する生存権は踏みにじられている、 としかいいようがありません。
このような状況のなかで、まず目覚ましい変化がアメリカに生じました。米国初めての黒人大統領、オバマ大統領が誕生したからです。
彼は、すでに行き詰まり明白なイラク戦争の収束を約束していました。
また、大統領就任直前の2008年秋、米国大手の投資銀行・証券会社、リーマン・ブラザースが倒産、アメリカ発の世界金融危機、
世界的大不況が発生しました。ブッシュ政権の負の遺産ですが、これもオバマは解決しなければなりません。彼は、「Change」
を約束していましたが、いずれにせよ、戦争についても、経済的な困窮についても、
ブッシュ時代とは違ったやり方で問題を解決しなければならないことになったのです。
そして日本でも、2009年まで、足かけ55年つづいてきた「55年体制」(1955年の自由党・民主党合併=保守合同体制)が、
小泉対米従属政治の破綻を体現する麻生政権の失政によって、終焉に近づくことになりました。在日米軍再編に伴う普天間米軍基地の名護移転は、
むしろ沖縄の軍事植民地化を深めるだけです。その沖縄の米海兵隊グアム移転に、なぜ日本が巨額の費用を負担しなければならないのでしょう。
そういう約束をした「55年体制」政権には、このような日米関係を変える能力はありません。反貧困のたたかいが急速に盛りあがっていますが、
従来の「構造改革」路線を走るだけの「55年体制」政権には、これにも有効な答を出す用意がありません。
日本でもこれに代わる政権の出現が待望される状況となっていたのです。
2009年8月30日、総選挙に示された民意は、自公政権に退場を求め、代わって民主党に新政権を委ねる、とするものでした。
そうした民意の突出による政権交代は、歴史的事件ということができるでしょう。
しかし、どの政党もどのメディアも、今度の選挙は「歴史的な転換期」を画するものだ、歴史的転機となる可能性を持つものだ、
と口々にはやし立てたものの、ではこれまでと異なる、どのような新しい歴史が到来するか、というビジョンとなると、
だれも的確にそれを示すものがいなかったのが実情でした。
この点は、選挙後もそう変わっていません。というよりは、いくつもの大新聞が新政権に向かって「日米同盟を変えるな」
「インド洋給油を続行せよ」「普天間移転の約束を早く実行せよ」などといったり、「製造業の派遣禁止は雇用不安を募らせるから反対だ」
「郵政民営化はさらに進めるべきだ」「社会保障費の財源として消費税を引き上げよ」などといったりしているのを見るにつけ、
これでは新政権に「55年体制」を変えるな、つづけよ、といっているに等しいではないかと思わざるを得ません。
この点はオバマ大統領も同じ目に遭っているようです。アフガン戦争に関しては、なまじ続行を口にしてきたせいで、
泥沼化を回避する策がうち出しにくくなっているし、貧しい人向けの公的医療保険制度の導入も、自己責任論に固執する共和党系の反対に遭って、
スムーズには進んでいません。日米どちらもこれでは、新政権に歴史的転機となる政策の創出や展開を促したり、それによって大きな
「Change」を生み出させることはできません。
本来なら、政権にこのような隘路を突破させ、新しい可能性を追求させていくのがメディアの役割ではないでしょうか。
1945年8月以後、メディアは、国民を敗戦の虚脱状態から立ち直らせ、みんなして新しい日本の未来を模索していくために、
民主主義の下での政治や経済のあり方についてともに語り合う役割を、一生懸命果たそうとしてきました。今、自民党単独支配の「55年体制」
はかたちとしては壊れ、新しい政権体制が出現しました。
しかし、これを政策の内容の体系性や展開の一貫性において「55年体制」と完全に無縁なもの、新しいものとしていくためには、
メディア自身が「55年体制」を脱却する必要があるのではないでしょうか。そのためには、まずジャーナリストが、
生じつつある歴史の変化を的確に把握し、それを自覚的な変革へと転換していく先導役を担うことが求められている、といえるように思います。
新鮮な驚きを蘇らせ、研ぎ澄ました問題意識に基づいて発見したことを、感動を持って受け手に伝えていくジャーナリストの生き生きした仕事が、
今こそ再び強く求められているようになっているのです。
私たち「マスコミ九条の会」は今回、現場で長く番組制作、報道取材に従事してきたジャーナリストの方を招き、 これまでに述べたような、伝えるべき状況の変化と伝えるものの役割のうえに生じているさまざまな問題について、 いろいろ気付かれたことを報告していただき、その後、明らかにされたことがらについて、 会場にお集まりのみなさんと討論を交わしたいと考えています。多数の方のご参加を期待しております。
(以上・企画趣旨)
< 第 1 回 セ ミ ナ ー の 詳 細 >
第1回 11月27日(金) 午後6時15分〜9時(開場6時)
場所 岩波セミナールーム
「マスメディアの危機的状況と現場の課題」(90分)
ー放送の内側から見るー
報告者:桜井 均 氏(元NHKプロデューサー)
司 会:桂 敬一 氏(元東京大学教授・マスコミ九条の会呼びかけ人)
<主な論点>
(1)私は「九条の会」の記録になぜかかわったか?
・九条を「護る」から、「活かす」へ
・加藤周一「雑種文化論」から見た九条の普遍性
・国境を越えてアジアの民衆がとらえ返す九条の意味
(2)歴史認識にかかわる番組に対する攻撃にどう向き合うのか?
・ETV2001問題で問われているのはなにか
・ジャパンデビュー「台湾」問題
(3)政権交代とメディアのスタンスはどうあるべきか?
・55体制の検証をぬきにした傍観報道の危険について
・安易な世論調査まかせについて
(4)オールタナティブ・メディアはなにを問いかけているか?
・デモクラシー・ナウの活動、南米テレスールなど独立系オールタナティブ・メディアが教えるもの
・日本のマスメディアの中でオールタナティブ・メディアはどのように可能か