2010年03月07日

新しい「密約」を産み出す動きが生じていないか=桂 敬一

 現在私は、沖縄密約裁判(沖縄返還時に米国が負担すべき米軍基地の復元費用を日本政府が「肩代わり」 した密約関係資料の情報公開を求めた裁判)の原告共同代表の一人として、きたる4月9日に出る予定の判決の行方を注目している。ところが、 3月3日前後の新聞何紙かに、岡田克也外務大臣が省内に設置した、過去の対米密約を調査する「有識者委員会」(座長・北岡伸一東大教授)の 「報告」によると、「費用の肩代わりはあったが、政府間の密約には当たらない」ということになりそうだ、とする予測報道が出たので、 怪訝な感じを受けた。いや、主任弁護士、小町谷育子さんは大いに怒っている。私も同感だ。

 まず「報告」なるものの内容もさることながら、それこそ、これも「リーク」というべき前打ち報道を利用して地均しし、 「密約断定できず」の玉虫色の結論ですませ、政府のレジティマシーに傷を付けないようにすませようとするやり方に、腹が立つ。 これは政府と御用学者のやり方がけしからん、ということだが、みすみすその手に乗るメディアも情けなく、腹立たしい。この「報告」は、 9日に正式に全文が発表されるということだが、核密約など、過去のいろいろな「密約」のどの事項にせよ、きちっと認定され、 政府の責任が厳しく問われることとなると、私たちの裁判への跳ね返
りもさることながら、5月の決着を迫られている普天間問題の解決の仕方にも、大きな影響が及ぶだろう。

 2月2日、起訴目前という絶体絶命の状況にあった小沢民主党幹事長に、カート・キャンベル国務次官補がわざわざ来日、 ルース駐日大使まで同伴させ、会ったではないか。話し合われたことは普天間だ。そして、小沢幹事長は不起訴となり、 5月初めには議員団を連れて訪米する、という約束までした。さらに3月4日になると、平野官房長官主導という色合いを帯びた、キャンプ・ シュワブ陸上部への普天間基地移設で収拾とする、まことしやかな説が、各紙報道を通じて飛び交う事態が生じるにいたっている。

 この状況は混沌たるものだろうか。一見そのように見えるが、秘密裏に連絡を取り合っているもの同士が、いくつかの確かな黙契、 「密約」をひそかにつくり出すことができれば、実は簡単に落としどころがつくれる状況になりつつあるのではないか。「解決」が表に出たとき、 それは、アメリカがうんと譲歩し、現地住民への配慮も最大限したかに装っているが、見えないウラには新たな「密約」があり、 改めてアメリカに手厚い代償を与えることが約束されるものとなるのではないか。その結果かえって、 いっそう長期にわたって日本の国民が蒙る経済的負担や人権侵害の程度はひどくなり、対米従属もより深刻なものとなる、 というようなことになる恐れがあるのではないか。

 しかし、有識者委員会の「密約」認定が厳しく行われ、私たちの裁判も「密約認める」の貼りビラが出せる判決をかち取ることになれば、 5月末の締め切りを控えた普天間問題は、表向きの解決を取り繕うために、このように見え透いた「密約」を総動員するということが、 不可能になるだろう。無理にそれをやれば、地元・沖縄は怒り、国民全体も、政府やアメリカに対する不信を強めるばかりとなるはずだ。私は、 このような事態の発生を危惧する政府や有識者委員会が、大きな危機感の下で、「報告」の書き方を手加減し、その発表の仕方にも、 工夫を凝らしているように思えてならない。

 3月1日から4日までの新聞各紙を見比べてみると、有識者委員会「報告」の予想される内容、普天間問題解決をめぐる政府・ 与党の動き、同じくアメリカの動きなどの情報が、絡み合っていろいろ出現するようになっている。その全体がどうも臭くて臭くてしょうがない。 どこかが書けばよそも書く、というような状況が色濃くなるばかりなのだ。こうなると、情報源側の情報操作はとてもやりやすくなる。 さらに読売・日経・朝日は、日米関係維持最優先という抜きがたい体質に害されている。ある新聞は、意図的に政府・有識者委員会側の「危機感」 を増幅し、別のある新聞は、ついそれに同調してしまうなど、たくさん弱点を抱えている。

 有識者委員会の「報告」が3月9日発表というのなら、メディア側(この場合は外務省の記者クラブ)は、その日を記事解禁日とし、 情報源機関=外務省に、それ以前は断片情報も出さないよう求め、自分たちもそれまではいっさい書かない、放送しない、とする協定 (エンバーゴ)を結ぶべきではなかったのか、とさえ私は思う。もちろん情報源以外の関係筋や学者・研究者、沖縄現地などの取材は自由だから、 その間、多方面の関係取材を行っておき、「報告」が出たら、その内容、影響等について、十分に吟味を加え、 一気に重厚な報道を競い合えばいいのだ。もちろん、沖縄密約裁判・普天間問題への影響、安保・日米関係の将来のあり方に対する影響なども、 しっかり論じてもらいたいものだ。

(かつら・けいいち/元東京大学教授、日本ジャーナリスト会議会員)

 


 

☆3月20日(土)13:00〜16:30☆
日本記者クラブ・10階ホール(千代田区内幸町2−2−1日本プレスセンター内)
「普天間問題」のウラに隠された真実―進行中の米軍グアム統合計画の意図を探る―
          吉田健正  前田哲男  鳥越俊太郎
     コーディネーター:桂 敬一(マスコミ九条の会呼びかけ人)

posted by JCJ at 17:33 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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