2010年09月18日

貧困の増大―子ども、若年層、中小企業―だれのため何のための政治か

 2009年の米国の貧困層人口。前年より400万人近く増大して、51年前の調査開始以来最多の4370万人に上ることがわかった。 米国民の7人に1人が貧困状態にある。AFPによると、貧困率を人種別にみると、黒人およびヒスパニック系は、 白人およびアジア系の約2倍に及んでいる。黒人およびヒスパニック系の約4分の1が貧困状態にある。また子どもや若年層の困窮が目立ち、 18歳未満人口の5人に1人、1550万人が貧困状態に。

(Y記者のニュースの検証=小鷲順造)

 CNNによるとオバマ大統領はこれについて、声明で「国勢局の公表したデータは2009年がいかに厳しい年であったかを示すものだ」 「不況に見舞われる前から中間層の所得は低迷し、米国の貧困人口は受け入れがたいほど多くなっていた。 今回の結果は我々の仕事が始まったばかりであることを明確にしている」と述べた。

 そうしたなか米国は、中小企業向けの融資促進を通じて50万人の雇用創出を見込むプログラムの実現に向かっている。米上院は16日、 420億ドル規模の中小企業支援法案を61対38の賛成多数で可決した。この法案は約3カ月前に下院をすでに通過している。 上院の法案と一本化したうえで、オバマ大統領の署名で成立する見通しとなっている。

 CNNによると、バックボーンとして、財務省が運営する300億ドルの基金を創設し、 資産規模100億ドル未満の銀行に資金を提供することで、中小企業向け融資の大半を担う地方銀行への資金供給を通じて、 中小企業向け融資の促進を図るという計画だ。また、投資促進を図るために、今後10年で120億ドルを投じて税控除を拡大する。 州の融資制度に対して15億ドルの補助金を拠出する、政府支援の融資限度額拡大などの中小企業向け融資対策を盛り込んでいる。

 日本の政治はどうか。中小企業対策、若年層の困窮対策、ともに中途半端なものでしかない。 きょうの朝日新聞が社説に<銀行の資本規制―日本の金融変革の糧に>を掲げたが、<世界金融危機の引き金となったリーマン・ ショックから2年。「危機を繰り返すまい」という誓いから出発した、銀行に対する国際的な規制作りが大きく前進した>、 <日本のメガバンクの中核的な自己資本の比率は7%台半ばから5%弱とされ、欧米の強豪より低い。 合意された水準は年々の利益を地道に積み上げれば達成可能だが、不況などで利益が思うように出なくなると、 貸し渋りで景気が悪化する懸念もある。そんな事態を招かないためにも、まずは基礎になる収益性を高めることが喫緊の課題だ。 収益性が低いから増資もままならない現状を考えれば、なおさらだろう。19年までの猶予期間は、 銀行の自己変革のために与えられたと考えるべきだ。預金で国債ばかり買っていては、 本来の役割を果たせない><伸びる企業と技術を見きわめる力を養い、思い切った融資で支援し、成長の果実を分け合う。 そういう力強い銀行への飛躍こそが求められる>という趣旨そのものには筋はあるものの、そうした流れ、文脈とあわせて、 有効な政策を迅速に立案、実行していく政治の力との両立こそが、社会を有効に機能させ、再生へと駆動し始める。

 数値としての「財政再建」のみに足をとられ、総合敵視野を書いた菅政権は、国民が実現した「政権交代」の意味と期待を、 どこまで負っているのか。責任感はあるのか。

 子どもたちの問題にしても、高校の授業料負担をなくすにとどまらず、 小泉の亡国経済政策によって高校を途中でやめねばならなかった子どもたちを再浮上させるところまで眼を配ってこそ、将来に向けた「対策」 として有効性を帯びてくる。社会の足場から突き落とされ、暗闇に孤立している人々、 潜在力は十分にあるのに将来に希望を抱けなくなっているところにしっかりと光をあてていくことで、日常・ 一般的な施策の効果のほどもより計測しやすくなってくるはずである。

 国を国として機能させていくうえで、国民を視野に入れないおざなりの自己満足政治であれば、そこに存在意義は生じることはない。 民意は、さらなる「政権交代」を模索し始めるほかなくなる。時間とコストを垂れ流すだけの無為・無策の政治を、 これ以上続けるようなことがあってはならない。菅氏が突然もちだした消費税の論議にしても、「増税」「増税のありよう」 ばかりが前面に出た議論では、けっして国づくり、日本再生の議論になることはないのと、同様である。

 10月に日本への約1万人の団体旅行を予定していた中国の大手企業が17日、団体旅行を取りやめた(→朝日新聞等参照)。 きっかけは、東シナ海の尖閣諸島沖で中国の漁船が海上保安庁の巡視船に衝突、船長が逮捕された事件に抗議してのことだとされている。

 これは、去る7月、日本政府が中国人の個人観光客のビザ発給要件を緩和した後、 <日本政府観光局が海外からの団体旅行としては最大規模として誘致の成功をアピール>(朝日新聞)していた件だ。日本側は、 少なくとも数億円の経済波及効果を見積もっていたとされる。それがなぜ、中国漁船の船長逮捕で、訪日中止に至るのか。
 直接的きっかけだけに眼を奪われれば、前原誠司(前国土交通相)のように、「中止の決定は残念だが、外交関係にはさまざまな波がある。 長い目で見れば1万人といわず2万人くらい来ていただくように話をすることが大事だ」というあたりがせきのやまということになろうが、 成長著しく、かつ貧富の差、所得乱高下・所得格差に敏感になっている中国社会が、「外国」それも「世界第二位の経済大国」 による中国を対象とした「経済活動」に過度に敏感になったり、中国内部の矛盾が「世界第二位の経済大国」 に対する非難としてあらわれてくるのは、時流の必然といってもいいのだろうと思う。少なくとも、 そうした見方をしていくことも必要になっているではないかと思う。

 米国がブッシュの膨大な戦費負担によって、ゼロから出直しを図っている時代である。その戦争にいち早く賛同して、 小泉自公亡国政権が敷いてきた縮小均衡の連鎖による負のスパイラルがもたらした日本の実情は、もはや「世界第二位の経済大国」 「訪日観光客を増やして経済成長を目指す政府」の戦略などと見栄を張ったところで、周辺諸国に誤解を与えるだけである。破綻した年金、 蔓延する貧困、止まらない自殺、床が抜けながらさらに暗闇へと突き落とされ続ける中小企業の苦境。

 日本の政治家は、だれのため何のための政治なのかを思い出す必要があろう。日本の重たすぎる現状を直視する謙虚さと、その解決・ 再生への熱意・真摯さ・苦闘の姿こそが、「金満ニッポン」「カネの亡者:ジャパン」の負のイメージを脱却する道へとつながっていくだろう。 カネへの妄執はカネから出て、急速に膨張する。それは権力への妄執と同様なのかもしれないが、そのエネルギーを敵に回すのか、 それとも相互の利益につなげるのか。国と国の関係だけでなく、人と人の観点から、 再生を期すこの時代に適合した姿勢と施策とを素早くタイムリーに打ち出す政治家と政治が求められているのだと思う。

(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)


米国7人に1人が貧困、調査史上最多4370万人に
http://www.afpbb.com/article/economy/2756865/6192700?utm_source=afpbb&utm_medium=topics&utm_campaign=txt_topics
米貧困人口、過去最多に=金融危機で4360万人―09年
http://news.goo.ne.jp/article/jiji/business/jiji-100917X574.html
09年の米貧困人口が過去最多 失業増で4356万人
http://news.goo.ne.jp/article/kyodo/business/CO2010091701000090.html
米国 09年の貧困率14.3% 94年以来の高水準
http://www.cnn.co.jp/usa/30000242.html
米上院、中小企業支援法案を可決
http://www.cnn.co.jp/business/30000236.html
銀行の資本規制―日本の金融変革の糧に
http://www.asahi.com/paper/editorial.html#Edit2
尖閣衝突に抗議 中国、1万人訪日旅行中止(朝日新聞)
http://www.asahi.com/international/update/0917/TKY201009170193.html

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