前原誠司外相は、沖縄県・尖閣諸島(中国名・釣魚島)沖で海上保安庁巡視船と中国漁船が衝突した事件について、「偶発的な事故」 との見方を示した(19日のNHKの番組)。事件をめぐり日中関係が険悪化しているが、「冷静に中国側にも対応してもらいたい」と語った (→時事通信)。出来事をきっかけに反日デモも発生しているが、前原氏は「散発的な抗議活動で、中国政府も抑制の努力をしてくれている」 と話した。
(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)
18日には北京(日本大使館)、上海(日本総領事館)、香港(日本総領事館)で「船長を釈放しろ」「釣魚島を返せ」 などのデモがあったが、いずれも警官隊が警戒に当たり、大きな混乱はなかったようだ。中国政府の「抑制の努力」がみてとれるが、一方で、 下旬の国連総会に合わせた日中首脳会談は見送られることになった。こうしたデモには、 この日が満州事変の発端となった柳条湖事件からちょうど79年という日であることも影響しているのかどうか。日本経済新聞によると、 中国政府は、<(18日に)反日デモを呼び掛ける動きがあることを踏まえ「日本人への暴力行為が起きれば、 日本に弱みを握られ中国は守勢を強いられる」と指摘し、冷静な対応を呼び掛けた>という。
また、東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁)開発について、予定されていた第2回交渉の延期を中国側が一方的に発表したことも、 衝突事件とそれにつづく日本側対応(日本側は船長を逮捕、送検)が影響しているものと見られている。中国側には、 これまではこの地域でのトラブルは大事にせずに解決する努力をして、日本側が「国内法にのっとり粛々と手続きを進める」(前原氏) ようなことにまで発展させなかったにもかかわらず、今回はこれまでと異なると映っている可能性がある。
東シナ海のガス田については、2008年6月に共同開発などで合意し、すでに中国が開発を進めている「白樺」 については日本が出資することになった。日本企業が出資の形で開発に参加することで合意し、中国側はこれを受けて、 それまで続けてきた開発作業を停止してきた。だが、中国側が予定されていた第2回交渉の延期を発表し、 また白樺の洋上施設に掘削用とみられる機材を搬入したことで、日本政府は「対抗措置」の準備も進めているという情報もある。
共同通信によると、18日、菅首相は東シナ海のガス田「白樺」(中国名・春暁) で中国が掘削作業に踏み切った場合の対抗措置の検討に着手した。中国側が白樺の洋上施設に掘削用とみられる機材を搬入したことを重視し、 同日午後に前原外相、仙谷官房長官らと公邸で協議。政府部内では中国側の施設周辺で日本単独での試掘に踏み切ることも含めた「複数案」 (政府関係者)が浮上している、という。
協議には外務省の佐々江賢一郎事務次官、斎木昭隆アジア大洋州局長、細野哲弘資源エネルギー庁長官らも出席して、 中国側の動向を注視するとともに、外交ルートを通じて自制を求めていく方針を確認した、とされる。白樺周辺では、 海上自衛隊哨戒機P3Cによる警戒監視活動を強化する方針ともいう。中国が掘削作業に踏み切った場合の対抗措置としては、 国際海洋法裁判所への提訴も選択肢となる可能性がある、と共同通信は付け加えている。
種々の可能性についてシミュレーションして、いかなる事態にも対応できるよう準備をする必要はあるにしても、選択肢と代替案が 「中国が掘削作業に踏み切った場合」に偏っているように感じられる。政府の動きが、前のめりになっていないか。また、現地での「衝突」と 「これまでと異なる」日本側の対応は、本当に適切だったのかどうか、 これまでの対応と突出した感じを抱かせかねないものを含んでいなかったどうかも、しっかりチェックしておきたいところである。 自民党の下野で、反中国、中国蔑視の政治家の声が相対的に減少していいはずだが、日中間の互恵による共生の時代に逆行する考えの人々が、 中枢に居残っていくことがあれば、何がおきてもおかしくはない。後々、「藪の中」の状況へ持ち込むことが得意な人々はどこにでもいる。 それに踊らされたり、それとしらずそれを増幅したり、引っ込みのつかないところへ誘導されたり、誘導してしまったりすることなどのないよう、 メディアには留意が求められる。
尖閣諸島周辺に眠る有力な石油資源の発見が、中国の強い関心を呼び寄せたことは明白であろうが、当該地域での「衝突」と 「これまでと異なる」日本側の対応が原因で、第2回交渉の延期発表、 そして洋上施設への掘削用とみられる機材搬入へと中国側を突き動かしたのだろうか(中国側は機材搬入について、「修理のため」 と説明している)。機材搬入は、海上自衛隊のP3C哨戒機が上空から確認した。
中国側は19日の拘置期限を控えて、「船長を拘置する時間が長いほど代価が大きくなる」 というメッセージを流すなどして船長の解放を求めているが、前原誠司外相は19日、「衝突」について「偶発的な事故」との見方を明確にした。
中国の大手企業が17日、10月に日本への約1万人の団体旅行を予定していたが、それをを取りやめた。「尖閣諸島沖衝突事故」 と船長逮捕に抗議してのことだとされている。あとで振り返って、この「旅行取りやめ」が、不毛な「日中経済摩擦」 スタートの号砲だったなどということにならないよう、日本政府は前のめりの姿勢を重々戒めてかかる必要があるのではないだろうか。
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
衝突事件は「偶発的」=中国に冷静対応呼び掛け−前原外相(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2010091900032
日中、ガス田でも神経戦=単独開発なら対抗措置−政府
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&rel=j7&k=2010091800332
船長逮捕に中国各地で抗議デモ、尖閣諸島の漁船衝突(AFP)
http://www.afpbb.com/article/politics/2756926/6198141
香港でも抗議デモ=漁船船長の釈放要求(時事通信)
http://www.jiji.com/jc/c?g=int_30&k=2010091800312
ガス田で首相、対抗措置を検討 単独試掘案も(共同通信)
http://www.47news.jp/CN/201009/CN2010091801000823.html
掘削ドリル?中国、東シナ海ガス田に機材搬入(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20100917-OYT1T00485.htm#
東シナ海ガス田に機材搬入 中国「合法」と談話(日本経済新聞)
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C9381959FE3E5E2E1938DE3E5E2EBE0E2E3E29C9CEAE2E2E2