2010年12月21日

新防衛計画大綱の「鋭利な刃」=水島朝穂

 平成22年度日米共同統合実動演習が12月3〜10日、日米4万4000人が参加して、日本周辺海域と国内基地で行われた。 米側の呼称は「鋭利な刃(キーン・ソード)2011」。表向きの演練項目は、(1)弾道ミサイル(BMD)対処を含む航空諸作戦、(2) 島嶼防衛を含む海上・航空作戦、(3)統合輸送、(4)基地警備等、(5)捜索救助活動である。だが、実際、 どのような具体的な作戦想定で演練しているかは外部からは見えない。
 参加部隊は、日本側が折木統幕長を統裁官に陸海空の隊員約3万4100人、艦艇約40隻、航空機約250機、PAC3部隊など。 米側は米第13空軍司令官のハーバード・カーライル中将を統裁官に、陸海空軍と海兵隊計約1万400人、原子力空母「ジョージ・ワシントン」 など艦艇約20隻、航空機約150機が参加した。1986年から開始され、今回で10回目だが、その規模は過去最大である(『朝雲』 2010年12月9日付)。米軍の呼びかけで、韓国軍関係者も「オブザーバー」として参加した。

 「ジョージ・ワシントン」艦上では、米海軍第5空母打撃群司令官のダン・クロイド少将が、 「海自との相互運用性や即応態勢などを高めるために海上で行われる世界最大規模の演習」と位置づけている(『朝雲』 2010年12月16日付)。原子力空母を海自艦艇が護衛するというパターンはこれまでも行われてきたが、今回の注目は「島嶼防衛」 との関連である。空母艦上からの「密着取材」の映像はNHKも含めて盛んに垂れ流されたが、具体的な作戦構想に基づく演習の様子は見えない。 「敵」に占拠された島への逆上陸作戦を含めて、攻勢的な作戦が展開されたはずである。演習そのものが「武力による威嚇」 の効果を持ちうることを知るべきである。

 12月17日、菅内閣は、2011年度以降の10年間の防衛力のあり方を示す「防衛計画の大綱」を閣議決定した。その内容は、 首相のもとに置かれた「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長・佐藤茂雄京阪電鉄CEO)の報告書(2010年8月) の内容に沿うものだった。この安保懇は、メンバー的には自民党時代と重なっていて、何の新味もない。御用学者たちと並び、 制服組の専門委員として、元海幕長の斉藤隆前統幕長が入ったのが目をひいた。陸幕から誰も入っていないので、陸にきびしい「査定」 が出ることは、直言でも予測しておいた。
(→鳩山政権の「政見後退」2010年3月8日 http://www.asaho.com/jpn/bkno/2010/0308.html )

 新防衛計画大綱の中身については、鳩山前首相も菅首相もこの私的懇談会に丸投げしていた。閣議決定された「新大綱」は、 日本のこれまでの「防衛政策」を大きく変えるもので、これだけの重大な転換が、 国会における十分な議論もないままに決まっていくことに危機感をもつ。

 「新大綱」の最大のポイントは2つ。まず、中国の軍事力強化を「地域・国際社会の懸念事項」と捉え、 中国の海洋進出を意識した南西諸島へのシフトを打ち出したことだろう。「北方重視」から「南西重視」への転換である。もう一つは、 全国に部隊を均等配備する根拠ともなっていた「基盤的防衛力構想」と決別して、「動的防衛力」を基本方針としたことである。これは、 「国のかたち」(あまり好きな言葉ではないが)にもかかわる大転換と言えよう。

 安保懇の報告書をベースに、民主党外交・安全保障調査会が11月29日に公表した「新大綱」の提言案には、 「動的抑止力向上と南西方面への対処」と明記されていた。閣議決定では、「動的抑止力」から「動的防衛力」という文言に変わっていた。この 「動的防衛力」という言葉が巧妙なレトリックになっている。

 1976年の三木内閣のときに策定された「防衛計画の大綱」は、仮想敵の脅威が増大するに照応して防衛力を強化するという 「所要防衛力構想」をとらず、「限定的かつ小規模な侵略」に対応できる、必要最小限度の「基盤的防衛力構想」を採用した。自民党政権下で、 内外の軍備拡張を懸念する声を意識して、自衛隊は憲法9条に違反しないという「自衛力合憲論」と整合し得るものとして捻り出された。 これを土台にしたのが「専守防衛」政策である。「基盤的防衛力構想」には、その設計の基本に、 相手の軍拡に応じてこちらも軍備増強をはかるという「所要防衛力構想」とは異なる、「抑制の論理」があった。

 民主党の外交・安保調査会が打ち出した「動的抑止力」の考え方は、この「基盤的防衛力構想」を「静的抑止力」 としてネガティヴに評価する。「静的」よりも「動的」の方が響きはいい。だが、このレトリックの背後には、 安全保障政策の重大な転換の実態と狙いを隠すトリックが含まれている。

 『毎日新聞』12月4日付特集記事「転換期の安保」は、「動的抑止力」のネタ元を明らかにしている。それはやはり米国直輸入だった。 米国が4年ごとに1度見直すQDRに、今年2月、初めて盛り込まれたのが「ジョイント・シー・バトル(JASB)構想」と呼ばれるものだ。 これは、「空と海の兵力を一体的に運用し、海・空軍力を最大限に引き出す新安全保障戦略」であり、中国を念頭に置いたものであるという。 前述の安保懇の委員の一人が、来日したヒックス米国防副次官から、「JASB構想」の必要性を説かれ、それを「日本版JASB構想」 として報告書に取り入れたという。さすがに、委員の間から「QDRと全く同じ表現ではまずい。似た表現にしよう」という声が出て、 「動的抑止力」という表現になった経緯があるという。米国の意向を忖度する委員ばかり集めた懇談会だから当然と言えば当然だが、 何とも情けない。


(つづきを読む)
水島朝穂の<平和憲法のメッセージ「今週の直言」>へ飛びます。

posted by JCJ at 11:06 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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