G20の財務相・中央銀行総裁会議がパリで始まった。
昨年以来、食糧価格の上昇が顕著になっている。その影響で途上国では4400万人が新たに貧困層入りしたという報告もある。
新興国では食糧価格の高騰がエネルギーのほか物価全般の価格上昇につながっている。途上国における貧困層の増大が、
<チュニジアに始まった反独裁政権デモの背景>(毎日新聞)にもなっている。
(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造/BLOG増補版)
G20の果たすべき役割が問われている。
19日付の毎日新聞社説は、価格高騰の背景としてまず、(1)干ばつなど気象に起因する農作物の生産減少、(2)
多数の人口を抱えた新興国の需要増、を挙げ、ここからは途上国への技術支援など増産に向けた中長期的取り組みを求める。
また価格高騰の背景には(3)食料や石油などを国際的に取引する商品市場に、高い利回りを狙った投機資金が流入し、 価格変動を増幅させている面もあると指摘、<議長国のフランスはそうした投機資金の管理強化を通じて高騰の抑制を図りたい模様だ。 アジアの新興国も同調しているようである>と投機資金の管理強化を図る流れを紹介しつつ(新興国に流れ込む逃げ足の速いマネーについても、 資本規制で制限する動きがある)、投機資金を悪玉に仕立てて規制する手法は実効性への疑問や副作用が指摘されており、 反対も根強いことを挙げて、これとは別の提案を試みる。
(1)そもそもなぜ投機資金が市場にあふれるのかという点にもっと目を向ける必要がある。
(2)金融緩和というマネーの蛇口は全開のまま、特定の市場への流入だけ制限しても抜本的な解決にはならない。
(3)最大の蛇口である米連邦準備制度理事会をはじめ先進国の中央銀行が、大規模な金融緩和の見直しに向けた検討を始める時である。
(4)G20諸国が、農産品の輸出制限など、価格高騰に拍車をかける政策をとらないと約束することも重要だ。
そのうえでG20以外の国にも協調を求めていくべきだ。
毎日新聞社説は上記を提起して、<先進国でも景気が予想以上の回復を見せており、 物価上昇はもはや新興国だけの問題ではなくなってきた。インフレの回避で共同歩調をとることはG20の責務である>と提言した。
CNNは19日、<食料価格の上昇の影響で昨年6月以降約4400万人の人々が貧困に陥り、
常に空腹状態の人の数も10億人近くに増加した>と、世界銀行が今週発表した予測を報じた。
中国は世界最大の小麦生産国だが、穀物生産の中心地である北東部の山東省が過去60年で最悪の干ばつに見舞われ、
小麦収穫量の減少が懸念されている。中国の食料価格は1月に10.3%上昇し、経済の過熱が懸念されている。
ロシアも、昨年夏の干ばつの影響で、小麦の収穫が4割近く減ったため、小麦の輸出を禁止した。新品種の生産で小麦の輸出再開をめざすが、
今年は小麦畑の1割近くが使えない。干ばつによる土壌の傷みは、そこまでひどいのだという。
インドでは、玉ねぎのキロ当たりの価格が9月から12月にかけて2倍近くに上昇した。玉ねぎの輸出禁止措置が取られたが、
農民の反対や価格の急落がおきて禁輸は今週解除されたという。
世界の食料価格は過去1年間に29%上昇している。小麦と砂糖は20%、料理用の油脂や食用油は22%上昇したという。背景として、
中国やロシアの干ばつなど気候要因やそれに引き続く輸出禁止の措置のほか、バイオ燃料の需要増、ブラジル、インド、
中国など新興国における食料需要の増加が挙げられている。
その一方、米国の1月の消費者物価の上昇率は1.6%だった。しかし、新興国の需要増に伴って原材料費が高騰している。そのため、衣料、
電化製品、食料の価格の上昇が懸念されている。
毎日新聞社説は、<議長国のフランスはそうした投機資金の管理強化を通じて高騰の抑制を図りたい模様>と書いているが、 週刊東洋経済は、困窮の度合いを増す途上国支援の課題のひとつとして、<経済危機で低迷するODA>の問題に着目して、 フランスの外務大臣時代に、同国で国際連帯税の導入を推し進め、今も国連事務総長特別顧問、UNITAID(国際医薬品購入ファシリティ) 理事長として、その世界的な導入を目指す、フィリップ・ドスト=ブラジ氏に話を聞いている。
同氏は国際連帯税を導入する必要性について、世界で二つの矛盾する現象が起きていることを挙げている。
(1)約15億人にも上る人たちが、1日1ドル以下で暮らしている。社会福祉、飲料水、食料、衛生、保健、医療、
教育といった基本的人権にアクセスできない状況にある。
(2)経済危機により、各国から途上国援助に回るおカネが急減したこと。早急に彼らを支援するための資金を見つける必要がある。
その役目を担うのが、国際連帯税である。05年にフランスが導入した、国際線の航空券に1ドル(約80円)を足す航空券税は、 国際連帯税の一環といえるという。国にとっては財布が痛まず、負担する個人にとっても1ドルなので、非常に払いやすい。
本来、その目的を果たすためのODAであるはずだが、ODAは毎年、各国議会の承認を得て決まるため、
翌年また更新されるとは限らない。3〜5年かけて行われる一般的な援助支援プログラムにはなかなか合わないという実情があるという。
国際連帯税の仕組みは、継続的に、予測できる形で、安定した資金が創出できる点でODAの仕組みとは異なっており、
これは特に医療や教育など、プロジェクトやプログラムが長期にわたるの分野では重要なことだ、と同氏は指摘している。
記事によるとフィリップ・ドスト=ブラジ氏は、1953年仏オート=ピレネ県ルルド生まれ。 トゥールーズの病院でのインターンを経て医師に。トゥールーズ大教授。政治家としても活動。1995年に文化相として初入閣。外相も務める。
パリで始まったG20の財務相・中央銀行総裁会議について、毎日新聞社説の整理、提言も貴重だが、 もう一歩突っ込んだところから国際的な議論の動きを伝えた週刊東洋経済のインタビューには触発されるところがあった。 全文に目を通しておく価値があるように思う。
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
社説:G20パリ会議 インフレ対応で結束を(毎日新聞19日付社説)
http://mainichi.jp/select/opinion/editorial/news/20110219k0000m070127000c.html
経済危機で低迷のODA 国際連帯税導入が急務に――国連事務総長特別顧問、UN
ITAID理事長 フィリップ・ドスト=ブラジ(1) (週刊東洋経済
http://www.toyokeizai.net/business/interview/detail/AC/adb9b7a707adcafd66c794fe00eec949/page/1/
世界に広がる食料価格高騰の懸念(CNN)
http://www.cnn.co.jp/business/30001860.html?ref=ng