2011年03月05日

NHK経営委の<会長選出>プロセスにおける混乱が意味するもの

 上から下まで不祥事の続くNHK。松本正之・前JR東海副会長を会長に迎えたNHKの新体制がスタートしたが、 人選過程で経営委員会の不手際が露呈し、小丸成洋経営委員長が混乱の責任を取って辞任した。
 毎日新聞3日付<記者の目>が<会長選びで混乱したNHK経営委>をあらためて問題提起している。 本来であれば刑事事件とはなりにくい性格のものとしか思えない<入試事件>がメディアを埋め尽くしているが、 この記事のタイトルである<会長選びで混乱したNHK経営委>の問題は、それよりはるかに国民的な重大なテーマであることは明白である。 限られた紙面で問題点をよく整理した力作であり、たいへん参考になった。この記事に触発されての感想、あるいは一部について、 私なりの異論もある。

(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)

 ◆記者の目:会長選びで混乱したNHK経営委(毎日新聞)
 http://mainichi.jp/select/opinion/eye/news/20110303k0000m070132000c.html

 以下に毎日新聞3日付<記者の目>の内容を私なりに要約を試みる。

1)特殊法人のNHKは、執行部と経営委という独特の二元体制で運営されている。
2)NHKは公的な存在であり、受信料で運営される公的機関である以上、監督を受ける必然性があるが、 報道機関として独立性を担保するために政府とのクッション役として経営委を置いた。
4)経営委は現在、放送法で、NHKの最高意思決定機関として位置づけられ、執行部が立てた経営計画の承認、 会長の人選や執行部の監督を任せられている。
5)だが、経営委はこれまで、事実上執行部の追認機関的存在だった。
6)05年ごろからの不祥事続発で、経営委は管理・監督の役割を強く期待されるようになった。
7)07年の放送法改正では常勤委員が誕生するなど権限も強化された。
8)経営委の最大の任務は会長人事だが、予算承認権を国会に握られている性格から郵政族議員やNHK内部の思惑が選考に影響を与えてきた。
9)07年の前回も、安倍晋三首相(当時)と近しい古森氏が候補者探しを一任され、水面下で動いたことから「密室審議」と批判を浴びた。
10)今回は「一般の公共機関並み」の透明な選任を決定して、委員それぞれに推薦権があることを確認し、委員会の場で決定するまで、 候補者と独自に事前交渉しないと申し合わせた。
11)与党になった民主党はこの問題と距離をとり、関心が薄いように思われ、「独立性を示すチャンス」(経営委員) と受け止める経営委員もいた。
12)だが経営委は、自力で事を進める準備が不十分で、今回の<会長選びで混乱したNHK経営委>騒動は、その力不足が露呈した結果である。
13)経営委には、政治との微妙なバランスを保つNHKを管理・監督するという、高度な能力が求められ、同時に、 NHK執行部とも緊張感を保ちつつ、協力して運営に当たらねばならない。委員は単なる名誉職ではない。
14)経営委は、会社経営者や有識者、文化人らで構成されており、放送については素人といっていいだろうが、 だから視聴者の代表という意味もある。
15)委員会の開催は月に2回しかない。そうした制限の中で、巨大な公共放送の運営に関わるのは生半可な覚悟ではできないだろう。
16)経営委は変化の途上にあり、独立性を発揮する土壌もできつつある。まず、委員一人一人が自らが担う役割について自覚を深めてほしい。 そして、会長選びについて明文化する必要も含め、経営委のあり方について議論を重ねてほしい。
(要約ここまで)

 この会長選挙については、2月25日付でNHK監査委員会が、「新会長任命に至るまでの過程についての調査報告書」を公表している。

 ◆NHK監査委員会「新会長任命に至るまでの過程についての調査報告書」
 http://www.nhk.or.jp/kansa-iinkai/condition/pdf/report_110225.pdf

 この「調査報告書」について、NHK問題に詳しい醍醐聰氏が翌26日、 ご自身のブログで<問題の核心に迫らなかったNHK監査委員会の調査〜会長選考の調査報告書を読んで〜>を発表している。
 なぜ、NHK監査委員会は、会長選考の調査で、問題の核心に迫ることができなかったのか。醍醐氏の指摘から学ぶところが多いように思う。 上記の<記者の目>とともに、ぜひ一読されたい。

 ◆問題の核心に迫らなかったNHK監査委員会の調査(醍醐聰のブログ)
 http://sdaigo.cocolog-nifty.com/blog/2011/02/nhk-3d5f.html

 そのなかで醍醐氏は、<調査が迫らなかった問題の核心>を挙げている。以下の点を指摘している(醍醐氏の問題提起は、 できるだけ広く共有することが必要な内容である。ここでは私なりの要約を試みるにとどめる)。

1)各委員に調査の後遺症、自己規制を生まないように

・監査委員会が報告書の冒頭で、「本調査対象事象は、 NHKが最も尊重すべき報道の自由の根幹である取材源の秘匿に関する調査であること、 経営委員会は公開と透明性を旨として運営されるべきことには十分な尊重と配慮を払いつつ本調査を実施した」(2ページ) とする姿勢は評価したいが、<個々の委員を呼び出して情報管理のあり方を聞き取り調査>する姿勢は、一人一人の委員の今後の言動を委縮させ、 「後遺症」や発言の「自己規制」を生まないか、注意深い監視が求められる。

2)問題発生の中枢にいた小丸氏の「逃げ得」で終わってはならない

・経営委員会・指名委員会が候補者の実名、打診の優先順位を決めた12月21日の2日前の12月19日に、小丸氏は安西氏と接触し、 同氏を会長候補と見立てた対話をしていた。これは、委員会でまだ合議されていないNHK会長の候補者に、独断で接触したことを意味する。 同氏の服務規律違反は明白である。

 だが小丸氏(経営委員長:当時)はは聞き取り調査に応じなかった。そのことが、 今回の調査を中途半端なものに終わらせている最大の原因となっている。小丸氏の姿勢は、 委員会の合議無視の独断専行を調査されるのを忌避するためと受け取られてもしかたがない。同氏が経営委員長を辞任するだけでなく、 会長選考の迷走の事後検証を待たず、経営委員の辞任も申し出、「一市民となったので」という口吻で聞き取り調査に応じなかったのは、 <独断専行>の調査から免れるためだったのではないかという疑いが残る。

3)財界人脈主導の選考を意味した水面下の選考ルートの解明を

 上記と関連して見過ごせないのは、松本正之氏を会長に選ぶ段階でも、経営委員会の合議を脇に置いて、財界の人脈で会長候補の模索・ 打診が水面下で進行した形跡があるという点だ。数紙の記事にも記されたように、 具体的な人選まで経済界の人脈を頼って進められたと伝えられている。

 松本正之氏の名前が経営委員会で出る2日前に、JR東海の葛西敬之会長を通じて間接的に会長就任を打診されていたと明かしている( 『毎日新聞』2011年1月16日)。これが事実とすれば、大多数の経営委員が与り知らないところで、 経済界の人脈を通じて松本氏への打診が進行していたことになる。これでは、あからさまな財界主導の会長選びであり、名実ともに 「類は友を呼ぶ」である。

 安西氏に対する打診の過程にとどまらず、NHK会長に松本氏を最終決定する過程でも、ほとんどの経営委員が与り知らないところで、 経営委員でもない同じ業界の財界人が仲介に入って、松本氏への打診が進められたことになる。この点が事実かどうかを調査する必要がある。 そこまで進めなければ、NHK会長選考が残した問題点を掘り下げて解明したことにはならない。 同じ業界に属する経営委員に対する厳正な調査と狭い人脈や知己に依存した選考方法の限界・ 弊害を経営委員会全体で抜本的に見直す努力が不可欠である。

 醍醐氏は上記の指摘の最後を、<報道によれば、経営委員会は今後も、次回のNHK会長選考に向けて、選考のあり方を検討するという。 その推移を注視するととともに、2月22日に「NHKを監視・激励する視聴者コミュニティ」が経営委員会・監査委員会、安田経営委員長代行、 井原監査委員に提出した3通の質問書に対して、どのような回答をするのか注目したい>と結んでいる。
(要約ここまで)

 さてここで、もう一度<記者の目>(の要約)を振り返っておきたい。

<記者の目>(の要約)
13)経営委には、政治との微妙なバランスを保つNHKを管理・監督するという、高度な能力が求められ、同時に、 NHK執行部とも緊張感を保ちつつ、協力して運営に当たらねばならない。委員は単なる名誉職ではない。

 この点からも、 醍醐氏が指摘する<同じ業界に属する経営委員に対する厳正な調査と狭い人脈や知己に依存した選考方法>から脱却することが必要不可欠となっていることは、 もはやいうまでもないことだろう。

<記者の目>(の要約)
14)経営委は、会社経営者や有識者、文化人らで構成されており、放送については素人といっていいだろうが、 だから視聴者の代表という意味もある。

 経営委員会のメンバー選出のありようについて、視聴者の代表という意味合いをさらに強めるためにも、単に<会社経営者や有識者、 文化人らで構成>というおおざっぱな枠組みを容認するのでなく、(1)どのような人物(狭い人脈や知己に依存した選考からの脱却) という着眼点ばかりでなく、(2)どのような構成=どのような構成にすることが、公共放送としてのNHKを管理・ 監督する陣容としてふさわしいか、また公共放送として果たすべき使命・役割をまっとうできるかについての検討も急がれよう。

 もちろん、構成と委員の選出方法の<公平性><公正性><公開性>をいかに実現するかが問われている。 そのことをNHK経営委はしっかりと自覚しなければならない。問題は監査委員会の担うべき水準をはるかに超えて存在しているは明らかである。 経営委は広く間口を広げて、各界からの提言に耳をかたむけるべきである。それさえできないのであれば、NHK経営委員会のうえに、 さらに経営委員会検証委員会をつくるほかなくなるという、無駄と無能と無責任をさらけだすことになりかねない。

<記者の目>(の要約)
15)委員会の開催は月に2回しかない。そうした制限の中で、巨大な公共放送の運営に関わるのは生半可な覚悟ではできないだろう。
<記者の目>(の要約)
16)経営委は変化の途上にあり、独立性を発揮する土壌もできつつある。まず、委員一人一人が自らが担う役割について自覚を深めてほしい。 そして、会長選びについて明文化する必要も含め、経営委のあり方について議論を重ねてほしい。

 私には「覚悟」の問題のようには思えないのである。構成と人選の基準やルールの曖昧さが、今この国で、今公共放送を管理・ 監督してほしい人の起用をさまたげているとしか思えない。NHKに君臨し食い物にしてきた旧体制からの打破を実現するには、 NHKの経営委員会の構成について、開かれたメディア・オンブズマン、あるいはメディア評議会のありようをイメージしてみるなどして、 視聴者、表現者、NPO・NGO、労働界、経営界、メディア専門家(学者・研究者、メディア・言論・ICT経験者)、法曹界、地域と産業、 伝統文化、その他の分野の専門家など、現代の放送、現代のNHKが担うべき職務について執行部を指導し、 執行部とともに時代対応を果たしていける委員構成・候補選出方法を開かれたものとして明確に構想していくことが、 不可欠になっているのではないかと思う。

 そうした開かれたNHKづくりのための議論でさえ、NHK自身が拒絶し、閉じたままでいることが、私はNHKの体質転換をはばみ、 時代対応を遅らせる要因となっているのではないかと疑っている。

 放送法は第2章第3節第16条「経営委員会」(委員の任命)で、<委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることができ、 広い経験と知識を有する者のうちから、両議院の同意を得て、内閣総理大臣が任命する。この場合において、その選任については、教育、文化、 科学、産業その他の各分野及び全国各地方が公平に代表されることを考慮しなければならない>と定め、続いて委員になれない者、 兼業の禁止などを定めている。

 NHKは経営委員の現状について、1月25日付で<本日の経営委員会において、小丸成洋 経営委員会委員長が、 委員長を辞任することになりました。なお、後任の委員長は、当面空席とし、安田喜憲 委員(委員長職務代行者)が、 委員長職務を代行することといたします>と告知した。

 経営委員の一覧は下記URLで見ることができる。

 ◆NHK経営委員一覧
 http://www.nhk.or.jp/keiei-iinkai/index.html

 経営委員会のありようを再構築するには、醍醐氏の指摘するように、 経営委員の選考方法について<狭い人脈や知己に依存した選考方法>から脱却するほかに方法はないはずだ。私には、 現在のかたちでNHKの経営委員会に課された役割を果たせるようには思えない。

 日本社会は、自民党があたかも独裁党のように長期政権を維持してきた時代はすでに終わっている。 もはや日本社会はそのような閉じられた社会であってはならない。NHKの経営委員会のありようについても、あらためて放送法の精神に照らし、 広く社会に開かれたものへと、大急ぎでつくりかえていかねばならない時期をむかえているのではないだろうか。

 フェイスブックやツィッターやYOUTUBEなどなど、 市民個々がインターネットを活用して自らの手で社会に広く情報発信できる時代をむかえている。私たちは、 そうした環境のもとで<新たなメディア>づくりに乗り出す必要とともに、<既存のメディアのつくりかえ>という課題も背負っている。 特に<公共放送>については、番組批判や番組評価にとどまらず、これからの<公共放送>のありようを構想し、 現在の<公共放送>をつくりかえていく作業は、私たち市民にとって、また次代にむけた日本社会をつくり、残し、未来を展望していくうえで、 まったなしの重大な課題となっていると、私には思えてならないのである。

(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)

posted by JCJ at 00:48 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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