「毒を食らわば皿まで」
政治家の圧力に屈したNHK幹部にそう言わしめた、無惨な改変番組『ETV2001 問われる戦時性暴力』。
その放送から10年にあたる1月30日、日本軍「慰安婦」問題とメディアを問うフォーラムが、放送を語る会の主催で開かれた。
講師は、元NHKディレクターの池田恵理子さん。91年、NHKではじめて日本軍「慰安婦」問題を番組で取り上げた。その後、
ETV特集など10本近くの「慰安婦」関連の番組を制作。「慰安婦」問題に対してはNHK局内に強い抵抗があるが、
「抵抗があるテーマこそが大事なテーマであり、そこを掘っていけば鉱脈にぶち当たる」という確信を持ったという。
96年、池田さんは人事異動を経て、一市民としてこの問題に関わる決意をする。『問われる戦時性暴力』
の取材現場となった女性国際戦犯法廷では、主催するNGOのメンバーとして準備に奔走した。番組改変をめぐる裁判においては、
原告の一員として真相の究明に力を尽くすこととなる。
「あと数年もしたら被害者自身がいなくなってしまう。彼女たちが求める謝罪と賠償を実現するため、どうすればいいか苦しみぬいている」。
池田さんはこの10年を振り返り、今こそ「慰安婦」問題の解決へ向けて市民の力を結集する必要があると訴えた。
討論では、『問われる戦時性暴力』の担当プロデューサーだった永田浩三さんが登壇した。なぜ、NHKで「慰安婦」
問題が放送されないのかとの問いに、NHKの多くのドキュメンタリーは市民の力を借りて作られていることを強調。
NHKの側が改変事件を総括し、池田さんたちNGOが蓄積してきた情報を取材できるような関係を作ることが必要だ、と指摘した。
会場からは、女性国際戦犯法廷で証言した元日本兵・金子安次さんの知人、倉田冨士雄さんが発言した。金子さんの証言は中国戦線での日本軍
「慰安所」の実態を伝えるものだった。放送前にはNHKの担当者から、「あなたの実名を放送に出しても宜しいですか」と確認の電話もあった。
しかし、放送を見守っていた金子さんは裏切られることとなる。そして、無念の思いを抱いたまま昨年11月に他界した。
「NHKは戦前、日本を戦争に導く役割を果たした。戦後、いまだ天皇の戦争責任や慰安部問題などを避け続ける姿勢はとても残念だ」
と倉田さんは語る。
改変事件から10年。NHKは「政治介入による番組改変はなかった」との見解を変えていない。(放送を語る会)
(JCJ機関紙『ジャーナリスト』2011年2月25日号より)