3月24日、福島第1原発3号機でタービン建屋の地下で作業員3人が被ばく。
現場のタービン建屋地下にたまった水の放射性物質の濃度が、1立方センチメートル当たり390万ベクレルに達していた。東電が明らかにした。
通常の炉心の水の1万倍の濃度。
原子力安全・保安院はこの事故について25日午前、検証が必要だが、<原子炉が壊れている可能性がある>との見解を示した。
枝野官房長官も25日午前の会見で、同原発から半径20キロ─30キロ圏内の住民について、
「自主的に退避していただくことが望ましい」との考えを示した。理由としては、「商業・物流に停滞が生じ、
屋内退避している人の生活を長期にわたり維持するのは困難な状況にある」ことをあげ、「こうした社会的要請から」、
「自主的に退避していただくことが望ましい」というレトリック。
ずるずるズルズルと、このウソと保身と事なかれ主義と、
権威主義に浸かりきった人々は、日本社会をいったいどこへひきずっていこうというのだろうか。それに比して、
現場で東電が協力会社と呼ぶ下請け会社の作業員の惨状。多数の被災者の惨状。
AFPが24日夜、<繰り返された検査漏れ、問われる東電と政府の姿勢>の記事を出して、その体質を描き出している。
東電は2月28日、原子力・安全保安院に、
運転開始から40年が経過しているこの原発の1〜6号機で計33機器の検査漏れがあったと報告した。これは、
他の電力会社の原発で点検漏れが発覚したことを受け、
保安院が電力各社に原発機器の点検が適切に実施されているかどうか調査するよう指示したことによる。
東電は調査を行い、点検漏れの事実を2月28日の報告に盛り込んだが、その調査の際に、今回の深刻な事故を引き起こす引き金となった、
非常用ディーゼル発電機やポンプのモーターなど、冷却システム関連の装置を対象にしていなかった。
記事は指摘する。
1)2月28日の報告書が公表された時点で、福島県は「信頼性の根本に関わる問題」だとして、東電に再発防止の徹底を求めていた。
2)この報告の前に東京電力は柏崎刈羽原発の検査漏れも明らかになったと報告していた。別の保安院関係者は、「
(東電が柏崎刈羽の検査漏れを)報告したのは、報告しなかった場合に問題になることを恐れたから」だと語った。
3)東電は2002年、原発施設の点検記録に不正・改ざんがあったことを認め、
調査のために福島原発を含む同社の全17基の原子炉が停止される事態となり、会長と社長が引責辞任。2007年には新潟県中越沖地震で、
同じく東電が操業する世界最大級の柏崎刈羽原発で放射能漏れが起きている。<この時の放射能漏れは当初の東京電力の発表を上回り、
東電は後になって、施設に対する地震の影響を過小評価していたと発表した>。
そして今回である。
――東京電力の株価は震災後暴落し、同社の市場価値は1兆9300億円も失われた。――
原子力安全・保安院(経済産業省)は先日、福島第1原発事故について「レベル4」から「レベル5」に引き上げ修正したが、
ロイター通信によると、周辺への影響は同レベルの評価を受けた米スリーマイルアイランド原発事故を既に上回っており
「最終的にレベル6以上になるのは確実」との見方が海外の専門家に広がっている。
また、オーストリア気象地球力学中央研究所は23日、福島第1原発の事故後3─4日間に放出されたヨウ素131とセシウム137の量は、
旧ソ連チェルノブイリ原発の事故後10日間の放出量の約20─50%に相当するとの試算を明らかにした。
ロイター通信はまた、フランスの放射線防御原子力安全研究所(IRSN)が22日に明らかにした、<福島原発事故・
漏えい放射性物質の量はチェルノブイリ事故の約10%>との見解を紹介しつつ、1)チェルノブイリの事故では原子炉が爆発したが、
福島原発の事故では放射性物質が比較的ゆっくりと漏えいしている、2)放射性物質が陸上に拡散したチェルノブイリとは異なり、
福島原発の事故では放射性物質の多くが太平洋上に飛散しており、両事故の比較は難しい、との見方を示している。
放射性物質が比較的ゆっくりと漏えいしていることから、圧力容器はまだ大丈夫でも格納容器の一部破損が疑われる。
NHKは26日早朝、3号機だけでなく、1号機のタービン建屋の地下でも、
運転中の原子炉の中の水のおよそ1万倍という高い濃度の放射性物質を含んだ水がたまっていることが分かったと伝えた。
東京電力は、1号機も3号機のいずれも「原子炉の核燃料が損傷し、何らかの形で放射性物質を含んだ水が流れ出た」とみているという。
NHKはここで、「東京電力は、作業の妨げになるとして、たまった水を施設の外に出さないように取り除くことにしていますが、
1号機については、放射性物質を含んだ水を処理する装置が故障しているため、同じタービン建屋にある、
本来は蒸気を水に変えるための装置にいったんためるとしています。東京電力では、2号機から4号機でも水を取り除く方法を検討し、
外部電源の復旧を急ぐことにしています」と、話を「水を取り除く方法」にスライドさせてしまっている。
こういうところにも、上述した東電の「情報管理」(たとえば、一部を認めて全体をごまかすやり方)と、それにまんまと乗せられる、
あるいは自分から乗るために結局追随・依存して、ゆがんだ情報環境を形成してしまうメディアの弱点が現れる。その原因はどこにあるのか。
原発関連施設や放射性物質などについての専門知識や専門用語が難しくて、
どうしても専門家や事業者のいうことに引きずられる傾向もないとはいえないだろう。しかし、
それでは何のために専門の論説や解説委員がいるのかわからない。原発行政を客観的あるいは批判的な視点から検証できる専門家も、
日本にも世界にも多数存在する。そういう知的資源を総動員して、視聴者や読者にわかりやすく、「今言うべきことを今言い、
今伝えるべきことを今伝える」(新井直之)のがジャーナリズムの果たすべき役割である。
大事なときにそれができない理由は、おそらくもっと別のところにあるのだろうと思う。
寄らば大樹のお上志向か。力に寄り添い追従しようとする権威主義か。25日夜の菅首相の発言に顕著だったように
原子力発電所の現状について、「まだまだ予断を許す状況に至っていない。引き続き、極めて高い緊張感で、
一つ一つの事態にあたっていかなければならない」と述べて、事態収拾に全力を挙げるといいながら、巧妙に「専門家」
に責任を転嫁するような姿勢のように、専門的なことは専門家にお任せという責任逃れ・事なかれ主義だろうか。
この機会に、原発依存行政のありようだけでなく、
日本のメディアのありようと民主主義のありようについても抜本的に見直していく必要があろう。
なお、CNNとオピニオン・リサーチ社が共同実施した世論調査(調査実施期日:3月18〜20日、調査対象:1012人、調査方法:
電話)によると、米国民の原発に関する意識に、福島原発の事故が与えた影響がほのみえている。調査結果によると、原子力発電所の「新規建設」
に反対は53%、賛成は46%だった。昨年実施した同様の調査と比較して、「反対」が6ポイント増えたという。また、
原子力エネルギーの国内利用(の継続)については、地震発生が予想される地域や海沿いにある原発については、「安全でない」45%、
「一応安全」42%、「十分に安全」12%だったが、全般的にみると、米国民の57%が原子力エネルギーの国内利用を認め、反対は42%。
現存する原発すべての継続利用については68%が賛成で、27%が一部は閉鎖されるべきとした。
米国世論は、米スリーマイルアイランド原発事故が発生した1979年には原発「賛成」が53%、
チェルノブイリ原発事故が起きた1986年には、原発「賛成」は45%だったことなどを考えあわせても、米国では「原発依存」
の傾向とそこから脱却すべきとする意見は拮抗している。チェルノブイリ以降、原発の新規建設など推進政策には慎重だった米国だが、
オバマ政権は地球環境保護の観点からクリーン・エネルギー政策の推進を打ち出し、その一環として原発推進政策を盛り込んできた。
そういう観点から、この世論調査の結果を見直してみると、別の側面が浮かび上がる。EUなどで「原発見直し」
の機運が勃興しているのと比較して、米国は全体として相変わらず「原発賛成」を示しているように受け止めるべき数値を示しているものの、
原発の「新規建設」には反対が53%、賛成は46%と逆転していること、地震発生が予想される地域や海沿いにある原発については、
「安全でない」45%、「一応安全」42%、「十分に安全」12%と慎重姿勢が極めて高くなっていることなどから、見事に「地震」のおそれのある地域と
「海沿い」の原発は「危険」という見方が深く浸透していることがわかる。
日本列島はまさしくその塊である。日本の原発依存行政は根本から見直すべきときをむかえている。
福島第1原発の事故とその影響と今後の原発のありようについて、日本のジャーナリズムはいかなる報道・言論活動を求められているのか。
大急ぎで見直し、再構築しなおす局面をむかえているように思う。
(小鷲順造/日本ジャーナリスト会議会員)
3号機原子炉損傷の可能性、20─30キロは自主的避難望ましい
(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-20256120110325
繰り返された検査漏れ、問われる東電と政府の姿勢(AFP)
http://www.afpbb.com/article/disaster-accidents-crime/accidents/2792227/6995860
レベル6以上と海外専門家(ロイター)
http://jp.reuters.com/article/jp_quake/idJP2011032501000690
福島原発の放射性物質、
チェルノブイリを下回る=オーストリアの研究所
http://jp.reuters.com/article/mostViewedNews/idJPJAPAN-20220820110324
米国民57%が原子力の国内利用を支持、最新世論調査(CNN)
http://www.cnn.co.jp/usa/30002241.html