2011年07月22日

セシウム汚染牛1349頭に――急いで政府の「過小評価」の呪縛を解け

 国の暫定基準値(食品衛生法、1キログラム当たり500ベクレル)を超える放射性セシウムに汚染した肉牛について、厚生労働省は、 当初の11頭の段階では、(汚染牛は)「市場には流通していない」と広報していた。また、汚染牛が42頭へと拡大し、 流通先も少なくとも29都府県へとひろがった段階でもまだ、「仮に一度食べても健康上の問題は考えにくい」などと、 厚生労働省は安易な姿勢を続けた。

(JCJふらっしゅ「Y記者のニュースの検証」=小鷲順造)

 とはいえ、「仮に一度食べても健康上の問題は考えにくい」の文言をよくみておきたい。「仮に一度」食べてもの部分、 「問題は考えにくい」の部分。すでに官房長官の「ただちに」の詐欺的広報(原子力安全委という名の「原発しがみつき委員会」や、安全・ 保安院という名称の「原発安全と思い込ませ促進院」の合作)で、その意味するところを十分すぎるほど「告知」された国民にとって、この 「仮に一度食べても」、や、「問題は考えにくい」が、どれほど<不安定で危険>な状況を言外に指し示しているか、 わかりすぎるほどわかっているといえるのだろう。

 セシウム汚染牛は、これまでに計1349頭が出荷・流通していた。このなかには、20日判明した岩手、秋田、群馬、岐阜、 静岡5県の614頭を含んでいる(これまでは福島、山形、新潟、埼玉の4県だった)。汚染牛判明エリアの拡大は、 放射性セシウムを含む稲わらをエサとして肉牛に与えていたことが影響しているとされているが、その汚染稲わらそのものが、福島、宮城のほか、 福島第1原発から約170キロ離れた岩手県内でも確認されている(さらに、肉牛だけでなく、 汚染わらの販売先そのものもさらに広範囲にわたる)。

 それもこれも、水素爆発などによる放射性物質の放散範囲について「過小評価」に終始し、その被害を与える範囲も「過小に評価」 しようとやっきになってきた安全委、保安院の犯罪的保身と隠蔽が基本となっている。それが政府の基本姿勢である以上、役所はその方針・ 方向に従うからである。隠しきれずに徐々に上げた原発事故の「評価」、そしてメルトダウンの事実のあまりに遅い「発表」。 すべてが後手後手で事故影響範囲の「過小」な評価の犯罪的なひどさ、実態とのズレが、この「汚染わら」の判明範囲に象徴されて出ている。

 何度も繰り返すが畜産農家は被害者であり、かつ、セシウムの付着はわらに限らない。問題はわらや牛だけではない。 人も水も海も自然環境も町村部の環境も、重大な長期にわたる監視範囲となっていることが如実に浮かび上がっている。

 政府及び関連機関が軽視もしくは無視しようとした「内部被曝」については、その監視が広大かつ微細になっていること、 そしてそれらはおおざっぱな想定(つまりおおざっぱなモニタリング)ではまったく機能しないことがはっきりしたといえる。

 「内部被曝」については、かなり悲観的なものから相当楽観的なものまで、種々の見方が出ている。 チェルノブイリの経験はあるとはいうものの、今回、日本が引き起こした福島第一原発事故は、人類にとって未曽有・未経験の事態である。 これまでの政府及び関係機関、東電の手法は事実を正確に伝えようとしない点で論外だが、今後の事故対策と被害の最小化、事態の沈静化、 廃炉への取り組みを進めるに当たっては、どのような「説」が危機をあおり、社会をいたずらに「ヒステリック」に導くものなのか、また、 どのような見方が楽観が過ぎて将来に悲劇を増大させるものなのか、即断できる状況にはない。

 それはいま、そして今後の対応のありようによっても、大きく揺れ動いていく変動性を伴っているといえる。政府は、 原子力安全委及び安全・保安院が国に占める位置を早急に転換して、すべての公的機関を縛り込んでいる「誤謬」に満ちた前提条件を取り外して、 正しく機能する機動的な「原発事故対策」の機構・ネットワークをきめ細かく、広範囲に組織する必要がある。(7月21日)

▽「原発不可欠」「非核2.5原則」 自民党:「政権公約」 に向けた報告書にみる退行現象

 東京電力など9電力会社(原発を持たない沖縄電力を除く)の役員ら206人から、2009年の1年間に判明しただけで、 約2800万円の献金を受けていた自民党。これで居直ったか、ふんぎりでもついたか、 <既存原発の稼働維持が不可欠>と明記した次の総選挙向けの「政権公約」のための報告書を20日に発表した。

 当面のエネルギー政策について、再生可能エネルギーの促進を掲げたものの、 将来の原発の<存廃>には触れていないところが自民党らしい。ようやく本音、本性をあらわしたか自民党。これで相当、 わかりにくかった国会での質疑も、多少は解読できるようになるかもしれない (自失点をださないように自己防衛に走ってきたのは内閣や与党民主党だけでなく、自民党もその傾向が顕著だからだ)。

 この次の総選挙向けの「政権公約」は、先日「脱原発」を掲げた菅首相(民主党代表)への対抗姿勢を鮮明にしたものともいえそうだが、 将来の原発の<存廃>に触れない<原発の稼働維持は不可欠>の路線は、真っ向から民意と対立する。原発の「安全強化策」 実施を掲げるに留まる自民党は、依然として、原発推進路線の枠組みを捨てていない<旧勢力>であることを、うかがわせるに十分な「公約」 といえる。

 また、この「政権公約」では、核兵器の一時的な持ち込みを容認する「非核2.5原則」への転換も打ち出した(→朝日新聞)。 自民党は、「原発」路線維持支援層と「核兵器」容認層とが重複するとみているか、日本のこれからのありようについて、そうした「生き方」 「価値観」を共有できる層を対象にした政治をさらに強めて志向していくことを明確にしたともいえそうだ。

 これではやはり自民党は、財界への単純依存のちょうちん持ち勢力としての存在感のみを頼みに生きる勢力としかいえそうにない。 (7月21日)

(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)


汚染疑い牛、1300頭超す 新たに5県で614頭出荷判明 岩手のわらからセシウム
(日本経済新聞21日)
http://www.nikkei.com/news/headline/article/g=96958A9C93819695E0E2E2E4968DE0E2E2E5E0E2E3E39180EAE2E2E2
汚染疑い牛、「流通業者含め損害補填」 官房長官(日本経済新聞20日)
http://goo.gl/4n3vw
原発稼働維持を明記…自民が政権公約への報告書(読売新聞20日)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20110720-OYT1T00935.htm
自民、原発は当面維持 中長期政策、将来の存廃は触れず(朝日新聞20日)
http://www.asahi.com/politics/update/0720/TKY201107200200.html
自民党報告書要旨(時事通信20日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol_30&k=2011072000276
原発推進の9電力会社役員206人 自民に献金2800万円
やらせメールの九電も157万円 09年(しんぶん赤旗16日)
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik11/2011-07-16/2011071615_01_1.html


■関連情報
<JCJふらっしゅ>7月16日付
http://archive.mag2.com/0000102032/20110716135617000.html
  ・菅首相の「脱・原発依存は私的な考え」と閣僚や党執行部の対応
  ・「極めて純情、純真な青年が夢を語った」与謝野経財相
  ・福島県 「脱原発」を基本理念に据えた復興ビジョンまとめる
  ・原発推進の9電力会社役員206人 自民に献金2800万円
  ・東電 幼稚園や老人ホーム、診療所への仮払い拒否
  ・<原発ゼロ社会をめざす社説特集>朝日新聞
  ・経産省の「改革派」官僚肩たたきが示す 菅政権の迷走
  ・ストレステスト 保安院と安全委の温度差?
<JCJふらっしゅ>7月17日付
http://archive.mag2.com/0000102032/20110717050000000.html
  ・仮設住宅での「孤独死」相次ぐ 被災者の生活をどう支えるか
  ・日本には原発まだ必要 日本は核武装すべき 石原都知事
  ・事態の「過小評価」が招いた深刻な事態 自治体は汚染状況の徹底チェックを
  ・原発推進勢力の隠蔽と刷り込みと監視の「情報戦術」 徹底監視を!!!

posted by JCJ at 08:09 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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