2011年11月29日

【日弁連会長声明】「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」の抜本的見直しを求める

 本年11月9日、第1回「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」(以下「本件WG」という。)が開催された。 本件WGは、本年8月25日に政府が設置した放射性物質汚染対策顧問会議(以下「顧問会議」という。)の下に設置されたものであり、 警戒区域や計画的避難区域の解除に向け、低線量放射線による住民の健康影響や、放射線の影響を受けやすい子ども・ 妊産婦にどのような配慮が必要かについて、12月上旬まで1週間に2回のペースで集中的に議論し、その結果を政策に反映させるという。
 低線量被ばくの人体影響については、専門家の間でも大きく意見が分かれている。低線量被ばくとは、 累積しておおむねゼロから約100ミリシーベルト(mSv)程度までの被ばくを指すと理解されている(米国科学アカデミー 「電離放射線による生物学的影響」調査委員会報告 BEIR−VII2005年等)。 このような低線量域での被ばくについては危険性が無視できるという見解と、 これ以下であればがんなどが発生しないというしきい値は存在しないという見解が併存し、科学的にも決着が付いていない。

 ところが、本件WGの構成員には、広島・長崎の原爆被爆者の健康影響の調査研究に携わる研究者が多く、 低線量被ばくの健康影響について、これに否定的な見解に立つ者が多数を占めている。しかし、原爆症の認定をめぐっては、 これらの研究者らが関与して策定された審査方針に基づく判断を覆した裁判例も少なくない。

例えば、広島地裁2006年(平成18年)8月4日判決では、 上記審査方針では認定されなかった41名もの原告全員について原爆症と認められ、その中には、被爆後13日目(8月19日) 後以降に広島市内に入って医療活動に従事して後年がんを発症した低線量被ばく者も含まれていた。度重なる国敗訴の判決を受けて、2008年 (平成20年)3月には審査方針が改定されたが、その後も国は敗訴を続け、東京高裁2009年(平成21年)5月28日判決は「審査の方針 (13年方針)は原爆症認定の判断基準として相当とはいえない」とも判示した。

同年6月には審査方針を再び改定しているが、その方針でも救済されない被爆者についても原爆症と認める判決が相次いでいる。 このことは、本件WGに参集した委員が含まれた審査会で策定された方針では、 低線量被ばくのリスクを十分に評価していない可能性があることを示している。

 本件WGの人選は、顧問会議の座長が一方的に指名できることになっており、本件WGの会合もマスコミ関係者を除き、 一般市民は傍聴もできず(第2回からインターネット中継はされている。)、議事録も公表されていない(11月24日現在)。

 事故後の政府の対応は、既に国民の間に抜きがたい不信感を形成しており、 今回のような方法を採ること自体が更なる不信感を招くことは明白である。

 低線量被ばくのリスク管理については、国民の関心も高く、このような重要な政策課題が、このように市民に開かれず、 公正であるとは考えられない構成員により短期間の議論のみで決定されるのは看過し難い。

低線量被ばくの影響が現れるのは数年から数十年後であり、 今科学的に解明されていないからといって後に影響が現れる可能性がないとはいえない。影響が現れた後に、 「あのときに対策を講じておけばよかった」と後悔しても遅いのである。

 そもそも、低線量被ばくのリスク管理のような科学者の間でも見解が分かれるような課題は、 科学者だけで決定できる性質の問題ではない。将来に禍根を残さないようにするために、社会全体として、そのリスクをどの程度受忍できるのか、 今、被ばくの低減や健康被害の防止のためにどのような対策を取るべきかなどについて、幅広い分野の専門家も交えて、 十分な議論を尽くした上で社会的合意を形成することが求められている。

そのためには、本件WGは、低線量被ばくのリスクも無視できないという立場に立つ研究者はもちろん、被災地に居住している、 又は居住していた市民、被災者の支援に関わってきたNGO、弁護士会及びマスコミ関係者の参加を保障するとともに、議事を公開し、 広く国民の意見を聴取した上で、合意形成を図らなければならない。

 よって、当連合会は、政府に対し、閉ざされた「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」を即時に中止して、 多様な専門家、市民・NGO代表、マスコミ関係者の参加の下で、真に公正で国民に開かれた議論の場を新たに設定し、 予防原則に基づく低線量被ばくのリスク管理の在り方についての社会的合意を形成することを強く求めるものである。

2011年(平成23年)11月25日
日本弁護士連合会
会長 宇都宮 健児

*日弁連HPより
http://www.nichibenren.or.jp/activity/document/statement/year/2011/111125.html


 

【日弁連意見書】

東京電力福島第一、 第二原子力発電所事故における避難区域外の避難者及び居住者に対する損害賠償に関する指針についての意見書

( 趣 旨 )

意見書の全文は下記URLにてお読みください。(PDFファイル;193KB)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/111124.pdfb


2011年11月24日
日本弁護士連合会

■意見書について

 日弁連は、2011年11月24日付けで「東京電力福島第一、 第二原子力発電所事故における避難区域外の避難者及び居住者に対する損害賠償に関する指針についての意見書」を取りまとめ、 文部科学大臣に提出いたしました。

■意見書の趣旨

1 政府指示区域以外からの避難についても、合理性がある場合には救済対象とすることを指針に明記すべきである。その避難には、 十分な情報がない中で東京電力福島第一原子力発電所からの大量の放射性物質の放出による被ばく等の危険を回避するためのもの(第一類型) と低線量の被ばくの危険を回避するためのもの(第二類型)があるとしても、両者は時期的に重なりある部分もあることを認めるべきであり、 一期、二期という表現ではなく、類型という表現が適切である。

2 第一類型については、東京電力福島第一、第二原子力発電所事故後、大量の放射性物質放出の危険があったこと、 情報が混乱していたこと、アメリカ合衆国政府が2011年(平成23年) 3月17日に福島第一原子力発電所から80km圏内について避難勧告をしたこと(この避難勧告は同年10月6日まで継続された。) などを考えると、最低でも、福島第一原子力発電所から80km圏内となる部分がある市町村については、全ての者について、 対象とすべきである。

3 第一類型における避難開始の終期としては、政府の認定でも、安定冷却・ 水素爆発の危険性が消失したとされるステップ1の達成後である、2011年(平成23年)7月末以降とすべきである。

4 第二類型については、低線量の被ばくの危険を回避するためのものである以上、対象地域を指定する際に考慮する要素として、 放射線量を挙げるべきであり、第1に、少なくとも3月当たり1.3mSv(年間5.2mSv、毎時約0.6μSv) を超える放射線が検出された地域については、全ての者について対象とすべきであり、第2に、 追加線量が年間1mSvを超える放射線量が検出されている地域についても、少なくとも子ども・妊婦とその家族については対象とすべきである。

5 いずれの類型においても、対象地域の指定に当たっては、コミュニティの分断や混乱を避けるために、 原則として市町村単位とすべきであり、市町村の中に一部でも上記要素に該当する部分が存在する場合には対象とすべきである。

6 対象とされた市町村以外であっても、福島第一原子力発電所からの距離、放射線量、避難者の属性等から、個別に、 避難に合理性が認められる場合には賠償されることを指針に明記すべきである。

7 損害賠償が認められるべき項目としては、避難者に対しては、生活費の増加分を含む、 避難費用と精神的損害について認められるべきである。避難者の生活費の増加分については、全てが精神的損害と一括されるのではなく、 避難に伴い、家族や地域社会が分断させられたために、一人当たり月1万円以上増加した携帯電話代や交通費等については、 「高額の生活費の増加」として、精神的損害とは別に賠償されるべきである。

8 上記の第一類型及び第二類型の対象地域に居住する者についても、生活費の増加分及び精神的損害について賠償がされるべきである。

9 早急な除染実施の必要性は高いが、他方、除染によって、全ての問題が解決するわけではなく、相当長期にわたり、避難の必要が生じ、 また、対象地域居住者の精神的・経済的負担が続くことを確認すべきである。

(※意見書本文は下記PDFファイルをご覧ください)
http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/111124.pdfb

posted by JCJ at 12:39 | TrackBack(0) | パブリック・コメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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