われわれはこれまでも、橋下徹大阪市長のファッショ的政治手法に懸念を表明してきたが、それを浮き彫りにしたのが
「労使関係に関する職員のアンケート調査」と称した「思想調査」である。
この調査について、「職務命令、処分等の威嚇力を利用して職員に回答を強制するもので、到底許されるものではない」(大阪弁護士会)、
「回答するか否かによって市長への忠誠さを示す『踏み絵』まがいの調査」(民主法律協会)などの批判が相次ぎ、大阪府労働委員会(府労委)
は2月22日、大阪市労働組合連合会の救済申し立てを受けて、労働組合法が禁止する「不当労働行為のおそれがある」
として調査の中断を勧告した。
こうした批判や府労委勧告は調査のやり方や項目を見れば当然のことである。
アンケートとは本来任意のもののはずだが、この調査は「市長の業務命令」で強制し、
正確な回答がなければ処分の対象になりうるとの脅しまでかけた異常きわまる手法をとっている。
その内容も、例えば「この2年間、特定の政治家を応援する活動に参加したこと」があるかと質問し、「自分の意思で参加したか、
誘われて参加したか」「誘ったのは誰か」「誘われた場所と時間帯は」との選択肢への回答を強制している。
これは明らかに、勤務時間外の正当な政治活動、選挙活動への回答を強制するものであり、
憲法が保障する思想信条の自由や政治活動の自由を正面から侵害するものである。さらに「誘った人」は大阪市職員に限定されていないことから、
一般の市民・国民への違憲・違法な「思想調査」にもなっている。
また、「労働条件に関する組合活動に参加したこと」があるかとし、ここでも「自分の意思で参加したか、誘われて参加したか」
「誘った人は誰か」「誘われた場所と時間帯は」との選択肢への回答を強制している。
これも、労働組合活動への参加を抑制し、組合活動の自由を侵害するものである。
市労連の申し立てを受け、調査を担当する市特別顧問の野村修也弁護士は2月17日、
回収したアンケートの開封や集計作業を一時凍結すると発表したが、橋下市長は府労委勧告にも「僕は抵触していないと思っている」と突っぱね、
「市民のために活動するのは選挙で選ばれた僕がやる。組合は労使間交渉を一生懸命にやっていればいい」などと強弁している。
この「思想調査」と同時に、大阪市が市長部局の職員が送受信した業務用メールを対象に通信内容を極秘に調査していたことも分かった。
こうしたことがまかり通れば、「反体制的」だと疑われた市民の「自白」をもとに、さらに多くの人が尋問され、
市民同士の疑心暗鬼による恐怖政治が行われないとは言い切れない。
なによりも「自由な社会」を求め続けてきたわれわれは、何重にも憲法に違反した「思想調査」の即時中止と、
回収したデータの即時廃棄を要求するものである。
2012年2月26日
日本ジャーナリスト会議
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