2012年12月07日

【映画の鏡】幼児持つ母、若夫婦の異常な日常描く 原発事故をフィクションで『おだやかな日常』=木寺清美

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今年の日本映画、原発糾す作品多数

 今年の日本映画は、東日本大震災と、福島原発の事故から、一年以上が経って、それらと、それらの関連を題材にした映画、特に何らかの角度から、それらを 記録した映画が、多数作られ公開された。それらは、概ね日々のテレビ報道などでは、扱われないものが多く、役場ごと全住民が、埼玉県に移住し た、福島県双葉町の一年の記録『フタバから遠く離れて』のように、大傑作と呼ぶにふさわしい記録映画も誕生した。今年の日本映画のベストテン は、半分は、こうした震災・原発関連の記録映画で占めるのではないかと、私などは思いたい方である。


真摯な原発映画が、多数知られず終る
 しかし公開された、それらの映画そのものは、他の地域では、殆んど公開自体が知られず、興行成績も悪かった。映画として一般に知られたものは、映画芸術の本質と、どういう関わりがあるかを、議論しないままに、見世物映像として、流行に流され、次々と公開された、デジタル映像による3D映画が殆んどで、それらは、震災や原発事故とは、何の縁もないものだった。アメリカ映画を中心に蔓延するこの3D病は、日本映画にも伝染し、2D,3Dの双方が作られた時代劇大作や、過去のヒット映画を、3Dにしてリバイバルすることなどが流行し始め、大手の映画会社は、震災・原発に向かい合うよりは、その方が忙しかった。

原発問題を、観念性排し日常で捉える

 そんな中で作られ、間もなく公開される『おだやかな日常』は、『かざあな』『ふゆの獣』で知られる、ピア・フィルムフェスティバル出身の新人監督内田伸輝が、福島原発を題材にした、フィクション・ドラマに挑戦したもので、先に園子温監督が発表した、原発事故関連のフィクション・ドラマ『希望の国』に続くものだが、『希望の国』よりも、リアルな日常生活に、ドラマの根幹を据え、『希望の国』にあった、観念性や寓話性を排し、観客も身につまされる出来ばえにしている点が、震災原発関連の記録映画とは別に、注目されるところである。



情報なくやみくもに避難、東京も不安

 『おだやかな日常』は、福島第二原発から、30キロ圏内の人々が、正確な情報もないままに、とりあえず強制的に、次々と避難させられているころの、東京近郊の同じ時間をドラマの時間に据え、ここにも死の放射能が降り注ぐのではないかと、不安がる住民を描いている。そして登場人物は、そうした地域のマンションに住む、部屋が隣同士の二組の男女である。彼らが住むマンションの周辺には、避難命令は出ていないものの、風向きなどでは、ガイガーカウンターが鳴ることもあった。その程度の放射能は、許容範囲だといっても、ノイローゼを生むには充分であった。

幼稚園児育てる若い母、夫とは不仲

 幼稚園に通う一人娘清美を育てているサエコとその夫は、原発事故の発生する少し前から、夫婦仲が悪くなっていた。事故についての風評が届き、子供を戸外で遊ばせてはいけないと、近所中で囁かれるようになった、まさにそのときに、夫は離婚を宣言して、新しい女ところへ行ってしまう。「よりによってこんなときに」「娘のためにも、今離婚の決断をしないで」と、サエコは夫の行動を必死になって、阻止しようとするが、夫は、放射能など無関心で、近所に漂う風評をあざ笑って、出て行ってしまう。

引越し急ぐ妻、夫は仕事優先同調せず

 まだ子供のない、隣室のユカコ夫妻は、離婚の危機などはないが、仕事人間の夫で、妻が案じる放射能被害などにも関心が薄い。ユカコは、フリーライターとして、主として自宅で仕事をしていたために、近所の風評は、すぐに耳に入ってきた。だから日々の生活が不安になり、放射能被害の全くない地域に、引越しをしようと提案する。しかし夫は、会社の仕事が忙しく、そんなことを考える暇はないとつれないし、第一、マンションのローンをどうするのかといった、馬鹿にはならない経済負担がのしかかっていた。
 この二組の夫婦の反応を、過剰反応だとは笑えない。とくに女性は、子供にも思いを寄せる母性があるだけに、放射能恐怖症は、本能的に備わっているのではないかと、思えるほどである。一方男性は、自己中心的で、仕事となれば、経済上止むを得ないと、原発推進もやりかねない、非人間的経済感覚がある。そういう男女のすれ違いが、ありふれた日常的リアリズムの中で、描かれていく点が、この映画の、すごく身につまされる点である。

放射能ノイローぜを正しい問題意識に

 サエコのノイローゼは、だんだんと亢進し、幼稚園でも娘の戸外での遊びを厳しく制限、ガイガーカウンターで、幼稚園中を計りまくり、園児を運動場に出すなと、園に抗議するようになる。それを異常行動として、他の父兄らからも、白眼視されるようになり、遂に、自宅でガス栓を開け、子供とともに心中をはかることになる。
 瓦斯のにおいに気づいて、二人を救出し、心中を未遂にとどめたのは、隣室のユカコだった。ここで初めて隣同士の接点が生まれ、原発問題を、単なる個人の逃避願望や精神病質の問題から、共同して考え行動する問題意識に高めるきっかけができる。ドラマの形を取っているが、今行われている総選挙での、原発問題のケンケンガクガクを、シンボライズしたような結末を迎えていく映画で、まさに、震災・原発関連の映画が、たくさん公開された2012年の締めくくりを、象徴するかのような映画である。

若い映画人の覇気がみなぎる一作

 監督の内田伸輝氏については、すでに書いたが、本作の誕生については、サエコ役の女優杉野希妃も、大変な情熱を燃やし、自ら製作を買って出ている。彼女は韓国で女優デビューし、キム・ギトク監督の『絶対の愛』などに出演してきた人だが、帰国してからも、篠原哲雄監督の『クリアネス』、深田晃司監督の『歓待』(製作も)、在日中のイム・テヒョン監督の『大阪のうさぎたち』などに出演した28歳で、来年も主演作3本が既に待機しているなど、今後が注目される映画人である。またユカコ役の篠原友希子も、06年以後、山下敦弘監督の作品などに端役出演し、劇団ポツドールの舞台にも立ち、今回抜擢された31歳で、来年も、青山真治監督の『共喰い』(田中慎弥の芥川賞小説の映画化)が、既に主演作として待機するなど、これまた期待の人だ。こういう若い才能が結集した、新しい原発関連映画としても、『おだやかな日常』は、注目したい一作である。何よりも、穏やかでない日常を描いて、「おだやな日常」とは、その皮肉が光る。
(上映時間1時間42分)
写真提供:(C)odayaka  film partners
東 京 渋谷ユーロスペース 12月22日〜上映
大 阪 九条 シネ・ヌーヴォ 12月22日〜上映
京 都 東寺 京都みなみ会館 12月22日〜上映
神 戸 元町映画館 12月22日〜上映
全国順次
◆配給社 和エンタテインメント

《公式サイト》http://www.odayakafilm.com/

posted by JCJ at 12:44 | TrackBack(1) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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Excerpt: これまでの震災映画とは異なる切り口で「震災後の世界に生きる人」の姿を真摯に見つめた『おだやかな日常』が公開される内田伸輝監督と、困難な企画に賛同しプロデューサーと主演を務めた杉野希妃さんに、東京フィル..
Weblog: INTRO
Tracked: 2012-12-22 00:41