2013年02月28日

【映画の鏡】死んでたまるか!再審決定を取り消されてうめく奥西死刑囚「約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯」日本の裁判を強く批判する抗議の作品=今井潤

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名張毒ぶどう酒事件とは

1961年三重県名張市葛生という住民100人の小さな村で起きた事件。村の 懇親会でぶどう酒を飲んだ女性15人が倒れ、5人が死んだ。重要参考 人とし て連行された奥西勝が三角関係を清算するために、ぶどう酒に農薬を入れたと自 供、しかしその後自白は強要されたものとして無罪を主張。 1964年津地方 裁判所は自白は信ぴょう性がなく、物的証拠も乏しいとして、無罪を言い渡す。 しかし検察側が控訴、1969年名古屋高等裁判所で 無罪判決を破棄、死刑判 決が言い渡された。戦後の裁判で初の無罪から極刑への逆転判決、そして 1972年最高裁で死刑が確定した。その後、弁護団 が結成され、再審請求が 行われるが、ことごとく棄却。2005年名古屋高裁でようやく再審が決定され たものの。検察の異議申し立てにより、ふたた び棄却。事件から40年以上を 経て、事件の関係者や奥西の母はこの世を去り、現在86歳の奥西は今も強く再 審請求を求めているが、その行方は見え ず、弁護団の鈴木泉弁護士は「奥西さ んに死刑宣告をした50人以上もの裁判官の責任を問いたい」と語る。


再審請求へ懸命の努力

 4度の再審請求をしながら、いつ死刑になるかも知れない奥西死刑囚の無実を信 じている母は獄中の息子に950通もの手紙を書き続けるが、その母と の約束 は「無実を晴らす」こと。逮捕から26年目、川村という特別面会人が奥西を訪 ね、言った「あなたの力になりたい」。ここから再審請求への支 援が広がって いく。川村氏との約束は「この国の司法が無罪だと、認めてくれるまで頑張る」 こと。結成された弁護団は奥西がぶどう酒に入れたという 農薬を苦労して見つ け出し、鑑定。ぶどう酒のビンの王冠の折れ曲がり方を検証して、奥西の自白の ように歯では不可能な曲がり方をしていることを証 明するなど、懸命に努力す るが、裁判所はこれを採用しなかった。

奥西勝を演じる仲代達矢の思い
2月16日公開初日の舞台あいさつで仲代は「80歳を迎えた今、俳優として終 りの時期にこの作品と出会えたことは幸運だが、覚悟も必要だった。奥 西さん の無実を信じており、仮にこのまま獄中で亡くなるようなことになれば、司法が 殺人者になってしまう」と訴えた。2011年仲代は小林政宏監 督の「春との 旅」で北海道の老いた漁師が若い孫娘と兄弟たちを訪ね歩き、自分の身の振り方 を相談するが、皆自分の都合を言うので迷った末、ふたた び孫娘と北海道へ戻 るという、つらく、さびしい作品に出演した。日本の高齢者社会そのものを描い たものだった。今回の「約束」では、独房での食 事・袋はり・就寝のシーンと 面会所でのシーンがほとんどで会話も少なく、それだけに難しい演技を求められ たと思う。演出側が仲代という役者を主役 に選んだ理由は、老いてゆくが、生 きる約束をした男の表情を随所に見せてもらいたいと願ったのであり、また仲代 もそれに応えたものと思う。

この「約束」を製作・配給した東海テレビ 放送の仕事

 東海テレビはここ数年、「平成ジレンマ」で戸塚ヨットスクールの戸塚宏に密着 したドキュメンタリーを製作、「青空どろぼう」では四日市公害問題に 取り組 んだ労組員と地元住民に当時を語らせ、「死刑弁護人」では麻原彰晃や林真須 美、光市母子殺人事件の元少年などの弁護を務める弁護士の生き方 を描くド キュメンタリーを作ってきた。今回の「約束」はドキュメンタリー・ドラマとい うより、事件をもとにしたドラマというべき作品で、今までの ドキュメンタ リーとは異なった作品だ。それだけに、主役の奥西と母の役のキャスティングは 重要で仲代、樹木という名優を起用したのは見事だった。

日本の冤罪事件はまだある

 「東電OL殺人事件」、「足利事件」、「布川事件」はDNA鑑定などで無罪が 確定したもので、一般の人たちの関心を集めた。しかし、1966年に 清水市 で起きた「袴田事件」、1975年鹿児島市大崎町で起きた「大崎事件」、 2001年仙台市で起きた「北陵クリニック事件」など冤罪を訴え、 再審請求 を求めている人たちがいる。彼らは奥西氏死刑囚と同様、80歳以上の高齢とな り、一日も早い再審を願っている。仙台北陵クリニック事件の 守大助さんは 41歳、昨年2月に再審請求したが、まだ決定されず、無期懲役で千葉刑務所に いる。彼の場合、逮捕された時、新聞テレビは警察情報を 流し「恐怖の点滴 男」と犯人と決め付けた大報道がなされたことを忘れてはならない。

冤罪事件をなくすために

 2012年10月14日放送のETV特集「永山則夫 100時間の告白〜封印 された精神鑑定の真実〜」は重要な問題提起をしている。連続殺人事件 の永山 則夫が逮捕されて6年後、八王子刑務所で行われた100時間にわたる精神鑑定 した録音をもとに、彼の生い立ちが犯罪を犯す上で重要だと精神 科医は指摘し たのである。冤罪をなくすためにも、精神鑑定が日本の裁判の審理に有効に生か されることを提起している。また、弁護士の鴨志田祐美氏 は2月7日の朝日 「私の視点」で再審請求の証拠開示の手続きを定めよと発言している。針の穴に ラクダを通すより難しいと言われた再審の世界にも変 化の兆しが見えている。 「足利事件」、「布川事件」、「東電女性社員殺害事件」など再審無罪の確定が 相次いで出されたからだ。警察や検察が隠して いた無罪方向の証拠が再審段階 で初めて姿を現し、再審開始の決め手になるケースが増えている。しかし、現在 の法律では再審での証拠開示手続きを定 める条文がなく、証拠開示を積極的に 促すか否かは裁判所の裁量に委ねられている。「再審手続き法」を制定し、確定 審段階で捜査機関が収集したすべ ての証拠を開示させる詳細な手続きを定める しかない。この2月2日から8日まで、第2回死刑映画週間が東京・渋谷のユー ロスペースで開かれた。日 本だけでなく外国の作品も上映され、多くの観客が 集まった。映画「約束」の中で、ようやく決まった再審が取り消された非情な決 定に仲代が「死んで たまるか!」と叫ぶシーンを忘れることが出来ない。

(上映時間120分)
写真提供:(C)東海テレビ
東 京 渋谷ユーロスペースにて公開中
愛知・伏見ミリオン座 3月2日〜上映

posted by JCJ at 13:21 | TrackBack(0) | 映画の鏡 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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