2013年04月03日

京都で「調査報道」セミナー開催 メディアの信頼回復のカギ探る/JCJ、アジア記者クラブ、平和・協同ジャーナリスト基金=伊藤新二郎

 「調査報道セミナー2013冬in京都」が2月16日、京都キャンパスプラザで開かれた。メディアの信頼回復のカギとなる「調査報道」の実践指針を深めようという試みで、昨年春、夏に続いて3回目。日本ジャーナリスト会議、アジア記者クラブ、平和・協同ジャーナリスト基金による実行委員会が主催した。ゲスト登壇者5人を含め各地から記者、マスコミ志望者、市民など約80人が詰めかけた。

 第1セッション=「権力」の内側と不作為を問う、では上脇博之さん(政治資金オンブズマン代表、神戸学院大学教授)と大西祐資さん(京都新聞・社会報道部記者)が報告、高田昌幸さん(高知新聞記者)が司会した。
 上脇さんは「日本維新の会」の松井幹事長らを政治資金規正法違反容疑で大阪地検に刑事告発したいきさつを詳しく紹介。新聞のスクープ報道とオンブズマンによる丹念な政治資金分析が組み合わされて、告発に至ったと説明した。
 大西さんは京都市の「市医」制度をめぐる不明朗な謝礼の疑惑、宇治市のNPO法人による介護給付費不正受給の報道事例をとりあげた。いずれのケースも「1本の内部通報電話」がきっかけ。記者たちが人手の少なさにめげず、疑惑の周辺を徹底的に調べあげ、「モノによる証明」にこだわったいきさつを、克明にあとづけた。そして「調査報道は一度やるとやめられない」と総括した。
 質疑応答では、「取材・報道にあたり情報提供者は必ず守らなければならない」「調査報道のノウハウが個人のところで止まり、広く伝わっていない」などの指摘があった。
 第2セッション=原発報道にどう取り組むか、には森瀬明さん(福井新聞政治部長)と青木美希さん(朝日新聞特別報道部記者)が、実際の紙面展開、現地取材活動などを体験的にリポート、坂本充孝さん(中日新聞大阪支社編集部長、前東京新聞特報部総括デスク)が司会を務めた。
 森瀬さんは、15基の原発が集中立地している福井県で、取材・報道の軸足として「安全ということを何よりも大事に考えて記事を作ってきた」「虫の目で地域に分け入り、丹念にリアルな日常を探った」と披露。最も戒めるべきこととして「原発問題での安易なレッテル貼りとステレオタイプな見方が、真実を見えにくくする」と指摘した。
 青木さんは3・11後の福島で現場作業員たちの被曝労働の実態を明らかにする取材に取り組んだ。ナマの話を聞いて、東電にぶつけても、それだけでは否定されて記事化できずにもがく日々が続いたという。
 しかし、放射線の線量計に鉛カバーを装着していた「被曝隠し」の事実を、作業者証言の積み重ねと偽装工作の録音記録入手などによって明らかにできた。これを皮切りに「除染手当の不払い」「手抜き除染の現場確認」など、次々に記事を送り出した。「あくまで現場重視でがんばりたい」と報告を結んだ。
 質疑では、原発事故後の報道に不十分さを指摘する声に対し「ウソ報道のレッテル貼りはやめようと、セミナーを開いた。発表の虚偽を、その時点で十分に検証しきれなかったのが本当ではないか」とする意見も出た。セミナー全体の進行はJCJの鈴木賀津彦運営委員が担当した。

(いとう・しんじろう/JCJ新聞部会)

posted by JCJ at 11:25 | TrackBack(0) | 新聞 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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