2013年09月07日

『本当の戦争の話をしよう』を読んで=守屋龍一

 高知新聞の高田昌幸さんが、7月号の〈’13緑陰図書─私のおすすめ〉で挙げた、ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』(村上春樹訳・文春文庫)を、さっそく読んだ。
 著者が1969年2月から14カ月、ベトナム戦争にアルファ中隊の歩兵として従軍した体験をもとに綴る22の物語で構成されている。

 物語のほとんどが、「雨と糞尿と爆弾の破片」の泥沼にあがき、夜間の歩哨に立つ恐怖感に脅える兵士たちの姿で埋め尽くされている。除隊後20年を経ての執筆でも、本当の戦争の姿を伝えて心を揺さぶる。
 その一編〈ナイト・ライフ〉に、次のような状況が描かれている。「長い夜間の行軍が彼らの頭を、すっかり狂わせてしまい」、衛生兵のラット・カイリーは、「肘のところの皮膚を、深く爪を食い込ませるようにぼりぼり掻く」ようになり、持っていた銃で自分の足を射抜くほど、おかしくなってしまった。
「みんなは小さな輪になって彼を取り囲み、同情の言葉を口にした。そして彼の気持ちを明るくしようとして、日本での御機嫌な夜について馬鹿な冗談を言い」ながら、事故扱いの処置で、日本に送った。

 この描写を読みながら、私が「週刊現代」の編集記者をしていた時、熱海に来ているベトナム帰休兵を追い、その姿をルポした状況がよみがえった。1968〜9年ごろだったと思う。
 第7艦隊の上陸用舟艇で熱海に接岸し、米軍と協定を結んだニューフジヤホテルに泊まり、街へ出るときは平服に着かえたGIたちが、熱海・渚町の糸川と初川に挟まれた歓楽街にあるバーなどに繰り出す。
 その一軒に入ると、ベトナム帰休兵が代金引換でショットグラスのウイスキーを煽っている。グラスを重ねるうちに、一人がポケットから彼女の写真を取り出し、見つめながら「I want you」と叫ぶ。さらには泣き出す。
 若いGIは〈ちょんの間〉に出かけたはいいが、勃たずに、しょんぼり帰ってくるのがザラだとも聞いた。一服打ったか、ホテルのドアガラスにぶち当たり、伸びてしまったGIもいた。
 その中に、ティム・オブライエンが描く兵士がいたのでは。あるいは米空母イントレピッドからの脱走兵がいたのでは。今になって思いがよぎる。
 昔、読んだ彼の『カチアートを追跡して』(国書刊行会)を、書棚の奥から引っ張りだした。いまや内容はうろ覚え。惹句には、ベトナム脱走兵のカチアートを、老いぼれ中尉の率いる第3分隊が、花のパリまで追跡する奇想天外な物語とある。しかも〈ベトナム戦争が生んだ最高の小説〉という。
 「作品に向かい体ごとぶつかっていくような骨太なまじめさがこの作家の身上である」(村上春樹)だけに、心して読みなおそうと思う。
(JCJ代表委員)


*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2013年8月25日号3面から


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