2013年12月01日

民主主義社会の常識から大きく逸脱した「特定秘密保護法案」――政府・与党は速やかに自ら廃案にすべきである(2)

▽特定秘密保護法案 政府側答弁、二転三転

 特定秘密保護法案の国会審議。ぶれる、ゆれる、ゆり戻す、二転三転する政府側の答弁。もともとが、粗雑で、いいかげんで、生煮えで、民主主義のかけらもみえない「悪法」の法案なのだから当然のことなのだろうが、それにしてもおそまつ極まりない。
 29日には、秘密を扱う公務員と報道機関の接触に規範を設けるかどうかについて見解が二転三転した。毎日新聞は、<さらに現行の特別管理秘密を「各省ばらばらの基準」という森氏の説明を民主党が「虚偽答弁だ」と追及。野党側は菅義偉官房長官の出席を求め、参院国家安全保障特別委員会は約2時間中断した。たび重なる森氏の発言のぶれは、参院での拙速審議の危うさを際立たせている>と伝えた。

(JCJふらっしゅ「報道クリップ」=小鷲順造)

 愛媛新聞は1日付の社説「特定秘密保護法案 国民への影響は計り知れない」で、<新法の必要性について、いまだ政府から十分な説明はない。参院審議でも政府側の発言のぶれは続く。政府内の調整不足、ひいては法案の欠陥を認めたに等しかろう>と指摘し、<「知る権利」を侵すばかりか、一般市民にまで処罰対象を広げた欠陥法案に成立ありきの議論など許されない>として、廃案にするよう強く求めた。

 そのとおりである。
 同社説は、この法案について<報道の自由を脅かすだけでなく、一般市民が罪に問われる可能性を大いに秘める>として、<自分には関係ない。そう考えている人は、法案に向き合ってほしい>と警鐘を鳴らす。キーワードは、「共謀、扇動、教唆」と指摘している。また、<法案は特定秘密の国会提供を原則義務化したものの、受け皿は秘密会に限定>しており、<国民への開示は許されない。国会議員が重要な情報を何一つ把握できない事態さえあり得る>ことをあげて、<この法案に賛成の議員は、国会の責務を自らに問うてほしい。国政調査権の形骸化は必至だ。議会制民主主義の危機と言わざるを得まい>と、すべての国会議員にこの法案に正対するよう促している。

秘密保護法案:森担当相ぶれる答弁…記者との接触規範巡り(毎日新聞30日)
http://mainichi.jp/select/news/20131130k0000m010120000c.html
会期末控え攻防激化=秘密法案、採決強行なら紛糾−国会(時事通信30日)
http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2013113000165
審議大荒れ…"秘密保護法案"与野党で激しい攻防(テレビ朝日29日)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000017028.html
特定秘密保護法案 国民への影響は計り知れない(愛媛新聞1日)
http://www.ehime-np.co.jp/rensai/shasetsu/ren017201312013395.html


▽石破自民幹事長 市民団体のデモ「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」

 特定秘密保護法案のずさんさが露呈し続け、世論の批判が高まるなか、自民党からは信じられない「反撃」が飛び出している。

 石破茂幹事長は、特定秘密保護法案に反対する市民団体らのデモについて「単なる絶叫戦術は、テロ行為とその本質においてあまり変わらない」などと批判、同法案に関する自民党のプロジェクトチーム座長を務める町村元官房長官は、同法案に関する報道について「国民や国家の安全をすっ飛ばして、『知る権利』ばかり言うのはアンバランス」と語る。

 毎日新聞によると町村氏は、参院で審議中の特定秘密保護法案がスパイ冤罪事件を生んだ戦前の「軍機保護法」と類似しているとの懸念について「日本を戦前のようにするんじゃないかと、どうして極端な話が出てくるのか。全く理解できない」と批判、パーティーでは、「国民の生命の安全、国家の安全のためになくてはならないインフラ。諸外国はできているが、日本にだけ無い」と法案の必要性を強調したという。

 これが日本の政権政党の幹部たちである。こうした人物たちが、日本社会の健全な発展・前進の足を引っ張っていることは、だれがみても明白であろう。日本社会は、政府・与党が、たまたま手にした数を頼みに成立を強行しようとしている「特定秘密保護法案」の廃案を決め、いまやるべきことをいまやるまともな政治へと、大急ぎで軌道修正しなければならない。

秘密保護法:石破氏、絶叫デモは「テロ行為」(沖縄タイムス1日)
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=57992
特定秘密保護法案:戦前に類似「極端な話」 町村氏、報道を批判(毎日新聞30日)
http://mainichi.jp/select/news/20131130mog00m010013000c.html


▽「廃案」を求める声、全国から

 中日新聞によると29日、愛知県日進市議会は、特定秘密保護法案への慎重な審議を求める意見書を賛成13、反対6の賛成多数で可決した。地方議会では、福島県議会が同法案に反対する意見書を可決しているほか、愛知県内でも弥富市議会が26日、慎重な対応を求める意見書を全会一致で可決している。

 毎日新聞によると、鹿児島県内の県議や市町村議77人が29日、法案の廃案を求める声明を出した。「国民の目と耳、口をふさぎ、国民の知る権利、言論・表現の自由を脅かす」として、近く安倍晋三首相や衆参両院議長宛てに郵送する。

 福井新聞によると28日、特定秘密保護法案が与党により強行採決され衆院通過したのを受けて、民主党、日本維新の会、共産党、社民党の野党4党の県内組織の代表者らが強行採決に抗議する合同街頭宣伝を福井市のJR福井駅前大通りで行った。4党合同での反対運動は15日に県庁で行った共同アピールに続いて2度目という。

 野田富久・民主党県連副代表は「多くの国民が法案の強行採決に反対しており、与党の暴走に待ったをかけないといけない。今国会での法案成立を阻止し、廃案にすべきだ」と訴え、鈴木宏治・維新の会県総支部代表代行は「国民の人権を侵害する可能性のある法案なので極めて慎重な議論と手続きが必要」として与党の姿勢を強く批判、佐藤正雄・共産党県委員会副委員長は、法案は国民の知る権利を侵害し、国民が知らないうちに法に抵触する可能性があると問題点を指摘、龍田清成・社民党県連合代表は「参院でも強行採決されるだろう」と懸念を示し、「(廃案に向けて)もっと国民一人一人が声を上げよう」と呼び掛けた。(→福井新聞)

秘密保護法案慎重審議を 日進市議会が意見書(中日新聞29日)
http://www.chunichi.co.jp/s/article/2013112990131922.html
特定秘密保護法案:廃案を 県議や市町村議77人が声明/鹿児島(毎日新聞30日)
http://mainichi.jp/area/kagoshima/news/20131130ddlk46010675000c.html
県内4野党が強行採決に抗議 秘密保護法案、福井で街頭宣伝(福井新聞29日)
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/politics/47226.html


▽ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポストも秘密保護法案に「懸念」の記事

 西日本新聞は1日、<秘密法求める米でも懸念 有力紙「報道の自由、制限の恐れ」>の記事を出して、<安倍晋三政権が特定秘密保護法案の成立を急ぐ背景には、「スパイ天国」ともやゆされてきた日本政府に対して、安全保障に関する情報を同盟国間で共有できるように米政府が情報管理強化の法整備を強く求めてきた経緯がある>が、米メディアからは国民の「知る権利」が侵害されるとの懸念が出ていることを伝えた。

1)2000年、アーミテージ元国務副長官(共和党)ら超党派が発表した対日政策 提言は、日米の防衛協力の強化を提言した上で「日本の指導者は機密を守る新たな法制度について、世論と政治的な支持を得なくてはならない」と明記。
2)07年、日米両政府が締結した「軍事情報包括保護協定」は、日本の機密情報に米国と同等の保護を求めた。
3)9月、ワシントンで開かれたシンポジウム。ズムワルト国務副次官補は、中国の軍事的台頭や北朝鮮の核問題などで不透明感が増す東アジア情勢を念頭に「同盟では情報交換が重要だ」と強調。その前提として日本の機密を保護する法の早期成立に期待感を示した。
4)10月に開かれた日米安全保障協議委員会(2プラス2)の共同文書にも「保全された情報の活発な交換で、さまざまな局面や危機でリアルタイムのやりとりを可能にする」との目標が盛り込まれた。

 記事は、上記のように、日本の情報管理に懸念を抱く米国が10年以上前から善処を促してきた事実をふりかえったうえで、一方で、ニューヨーク・タイムズが10月末、「日本の反自由主義的な秘密法」と題した社説を掲載。防衛省が11年までの5年間に3万4千件の「防衛秘密」文書を廃棄し指定解除をしたのは1件だけだったなどと紹介し、特定秘密保護法案は「何が秘密に当たるのかの指針がない」と批判したこと、国民の「知る権利」が侵害される可能性もあると言及したことを伝えている。

 また、ワシントン・ポストも特定秘密保護法案の衆院通過について、「日本の秘密法は、報道の自由が制限されるかもしれないとの恐れをかきたてている」と伝えたことを紹介している。

 記事は、米メディアが日本の秘密保護法案の行方を注視する理由について、「オバマ政権が国内の情報管理を強化し、漏えいに厳しく対処していることも影響しているようだ」と指摘する。

 オバマ政権の国内の情報管理については、「ジャーナリスト保護委員会」(ニューヨーク、独裁国家などの報道規制を非難)が10月に報告書を公表した。そのなかで、オバマ政権の対応を取り上げ、ニューヨーク・タイムズ安全保障担当のスコット・シェーン記者が「機密情報と普通の情報の間にはグレーゾーンがあり、これまで情報源の多くはそこの情報をもたらしてくれていたが、今や訴追を恐れ、それすら話してくれなくなった」と指摘しており、米政府の規制強化で公務員が萎縮し、メディアの政府監視力が弱められていると警鐘を鳴らしている、としている。

 米国から「機密を守る新たな法制度」を求められたからといって、「秘密保護法」の制定に意気込むとは、ずいぶん単純で分かりやすいことである。愚鈍といってもよいくらいだろう。日本で情報公開法が施行されたのは01年のことで、それを実質的に担保する土台とのなる公文書管理法は2009年の成立、11年に施行という状態でしかない。日本の民主主義の背骨と骨格となる公文書管理と情報公開の整備は、まだ端緒についたばかりで、実態は従来をひきずったままずさんな状態が続いている。

 「スパイ天国」と呼ばれかねない状態も、日本の市民社会の話ではなく、政界・官界の話である。それも公文書管理と情報公開のシステムと概念の未成熟によるものであり、今回の特定秘密保護法案が示すものがいかに的外れで、こっけいで、なおかつ民主主義の精神ともシステムともかけ離れていることも、公文書管理と情報公開のシステムと概念の未成熟による(あるいは、それにつけこもうとする)ものである点を見過ごすわけにはいかないだろう。

 公文書管理と情報公開の概念とシステムを欠くなかで、米国の注文の「秘密保護」のみに傾斜・前のめりになること自体が、視野があまりに狭く、見当違いで愚かすぎることである。日本の政府・政治家は、日本の公文書管理と情報公開について、正しく機能する概念とシステムの構築に傾注すべきなのであって、それを日本社会のベースとするなかで、範囲も時期も限定した「秘密」について国民にその許容を求めるべきなのである。

 そうした基本的なとらえ方を軽視・無視する水準であるがゆえに、安倍自公政権による特定秘密保護法案が、ニューヨーク・タイムズから「反自由主義的な秘密法」と批判され、<国民の「知る権利」が侵害される可能性>を指摘され、ワシントン・ポストに同法案の衆院通過について、「日本の秘密法は、報道の自由を制限する恐れ」を指摘される。

 これは、米国が9・11以降、ブッシュ共和党政権のもとで強化された情報統制の流れを止めることができずに、それに反対していたはずのオバマ政権に至ってもなお、情報統制ばかりか情報収集の側面でも活動が国内外に肥大しつづけており、「ジャーナリスト保護委員会」が、米政府の規制強化で公務員が萎縮し、メディアの政府監視力が弱められていると警鐘を鳴らすことにつながっている。

 公文書管理と情報公開についての基本認識と法的基盤と社会的整備と歴史的経過を経てきた米国と、ソフト面でもハード面でも依然入り口に立っているに過ぎない日本社会では、まったく状況は異なるのに、公権力による「秘密保護」にのみ飛びつき、市民の「知る権利」をおびやかし、さらには国民を監視し、情報統制にまで結びつきかねない「特定秘密保護法案」のような、法案としても成立していないものを出してくる。

 この逸脱、異常ぶりについては、東京新聞が<自民「人権規約」二枚舌 「秘密法案は違反」を無視>の記事で、関連する指摘をしている。記事は、<国民の「知る権利」を侵害する恐れがある特定秘密保護法案をめぐり、国際人権団体や国連の担当者から基本的人権を定めた多国間条約「国際人権規約」に反するとの批判が相次いでいる>ことを伝えたうえで、これを<政府・自民党は無視しているが、自民党が昨年、改憲草案をまとめた際は、人権規約の中の表現を引用し正当化する理由に使った。政府・自民党は国際条約を自らの都合に合わせて無視したり、利用したりしている>実態を浮き彫りにした好記事だ。

 民主主義の基盤の構築をないがしろにするうえに、国際社会の常識や条約にはご都合主義で対応する。これで日本の政治がよくなるはずがない。今回の安倍政権による「特定秘密保護法案」など、その最たるものといえるだろう。

 NHKによると、アメリカ国防総省の次官補代理や国家安全保障会議の上級部長などを務めたモートン・ハルペリン氏は、「法案はアメリカとの情報共有のために必要だと説明されているが、アメリカが日本との情報共有で求めている水準を大幅に超え、多くの官僚に過大な権限を与えるものだ」と述べ、「法案は、情報の公益性や知る権利などについての考慮が十分でなく、政府が、秘密の指定や解除について、外部からの監視を受けるようにする必要がある」と述べ特定秘密を巡る外部のチェック機関の重要性を指摘している。

 安倍自公政権の「特定秘密保護法案」。その逸脱・異常ぶりが露呈し続けている。
 参院はこの粗雑で生煮えの「法案」を、そのまま通すのか。参院の構成メンバーである国会議員すべてに、その見識と責任とが問われている。特に自民、公明の与党両党に所属する国会議員は、何のためにこの法案に「賛成」するのか、その根拠としているものは正しいか、法案のもつ負の可能性についての検証は怠っていないか、本当に日本社会の、日本の市民の役に立つのか、そして自らが議員の職を選んだそもそもの初心に照らして、それに反しないか。――心して自らに問い直してほしい。

秘密法求める米でも懸念 有力紙「報道の自由、制限の恐れ」(西日本新聞1日)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/55572
自民「人権規約」二枚舌 「秘密法案は違反」を無視(東京新聞1日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2013120102000124.html
秘密保護法案「外部の監視が重要」(NHK30日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20131130/k10013464251000.html


*メールマガジン「JCJふらっしゅ」*
http://archive.mag2.com/0000102032/index.htm

posted by JCJ at 20:06 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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