安倍自公政権は、特定秘密保護法の国会会期内成立に執着、多数を頼んで、11月26日の衆議院強行採決ののち、12月6日の参議院でも、姑息な方策を弄し、事実上の与党単独強行採決を会期内に繰り返し、国会の審議権を蹂躙した。それらは、首相の祖父、岸信介首相の1960 年・日米安保条約改定の際の、衆議院強行採決を想起させるものだった。しかも今回は、両院での強行採決であり、憲政史上初の暴挙だ。安倍政権はこの行動だけでも、民意に背き、議会制民主主義を踏みにじった、といわなければならない。
衆議院は、11月25日開催の福島・公聴会での、陳述者全員による反対・慎重審議の意見に、耳を傾けなかった。参議院は、同28日に広島高裁岡山支部が、7月・安倍政権下の参院選をめぐる「1 票の格差」裁判で、「違憲・選挙無効」を判示したのに対して、良識の府としての自省もみせず、厚顔にも強行採決を重ねた。国民は、問題の法案に潜む危険を、急速に理解し始め、反対の声を強めていたが、石破自民党幹事長はそれを尊重するどころか、日ごと声を高める市民に向かって、あろうことかテロ呼ばわりの攻撃を加えた。
国家安全保障会議と秘密保護法を手にした安倍政権は、集団的自衛権行使の環境整備を急いでいる。内閣法制局の見解を変え、憲法9 条の解釈を変更、自衛隊を米軍の友軍とするために、戦略・戦術両次元で日本の分担領域を拡大しつつある。政権は、普天間基地の県外移設を求める沖縄の自民党国会議員団を脅し、辺野古への移設方針を呑ませた。このようなゴリ押しを広範に進めるには、秘密保護法が大いに役立つ。国家安全保障政策上の目標達成を「公益」とし、これを阻害するものを「公の秩序」の妨害者としてしまえば、政府はこの法律の曖昧さを生かし、自分に逆らう者を思い通りに取り締まれるからだ。
集団的自衛権の解釈変更は、憲法の9 条を空文化させ、秘密保護法は、個人に国家への隷従を強制、思想・集会・結社・言論・表現の自由を奪い、13・19・21条などを死文化する。現実をそう変えたうえで、これをそっくり自民党改憲草案のなかに落とし込むというのが、政権の究極の狙いだ。首相は、憲法の平和主義を否定するために、アメリカとともに戦争をする「積極的平和主義」なる珍概念を、にわかに唱えだした。このような壊憲、立憲主義を否定する時代錯誤的なニセ憲法のでっち上げを、私たちは断じて許さない。
私たちは、安倍政権の即時退陣を求め、その実現のために、良識ある国会議員や、秘密保護法反対のために闘ってきた多くの市民とともに、運動を進めていく。安倍内閣は総辞職せよ。国会を解散し、改めて国民に信を問え。私たちは、この時点から新たに、秘密保護法廃止を求める市民勢力・政治勢力の結集を目指し、運動を大きく前進させていく。
2013年12月7日
マスコミ九条の会
日本ジャーナリスト会議(JCJ)
<解説>声明をまとめた考え方とその今後の活用方針について
マスコミ9条の会とJCJ(日本ジャーナリスト会議)は、安倍自公政権が、選挙公約にもなく、首相の所信表明でも触れなかった「日本版NSC(国家安全保障会議)設置法」と「特定秘密保護法」の制定に、にわかに動き出した事態を重くみ、ただちにそれらの阻止、とくに秘密保護法案反対の運動に、取り組むことにしました。残念ながらマスコミの立ち上がりが遅く、当初は世論調査でも、法案を知らない国民が7割もいるような状況でしたが、11月に両法案審議の国会特別委員会が発足すると、現場のジャーナリストが危機感を募らせ、秘密保護法案反対のメッセージを市民公開の場で、直接発するようにもなり、法案の実態を知った国民は、急速に反対、法案廃案の声を強め、それが広がるなりゆきとなりました。しかし、安倍政権は、さらに大きくなるその声を潰すために、衆参両院の2度にわたる強行採決で法案を可決、国民抑圧の体制を整えました。
私たちは11月26日、明治大学リバティータワーの大教室に第一線で活躍中のジャーナリスト8名を招き、政府の企みを跳ね返すためのリレートークをお願いしました。会場には定員を遙かにオーバーする300名余の市民の方々が集まりましたが、そのほとんどの関心はすでに、安倍政権が強引に法案を通した後でも、その発動をどう阻んでいくかとする、将来の問題に向けられていました。それはまた、そのときメディアはどうするのかという、鋭い問題提起も含むものでした。その場の空気は、あの盛りあがった60年安保闘争においてさえ、自然成立のあと、市民の多くが大きな虚脱感に襲われ、政府のつくる政治情勢のなかに、そのまま吸い込まれていったことを、思い出させました。
そうなってはいけない。そうなって流されていく先に出現する日本の危機は、60年代より遙かに深刻で、戦後日本の民主主義を根底から覆すものとなる、と私たちは考えました。そして、これまでの運動の成果を未来につなげていくために、どのように考え、行動することが必要かを検討し、この声明をまとめ、これをネットに上げ、発表することにしました。あわせて私たちは、この声明を各界に広げてまいりたいと考えていますが、現在そのための呼びかけ人を、言論・表現の世界の諸先輩のあいだから募っております。それらの方々がそろいましたら、速やかに記者会見を開催、呼びかけ人のご紹介とともに、この声明を生かした運動の進め方についても、方針を説明したいと思っております。
さし当たり私たち二つの会は、呼びかけ人のお名前の下に、さらに秘密保護法反対を進めてきた主要な個人・団体に訴えて賛同人を募り、最終的な安倍政権退陣・総選挙を視野に置き、福島・沖縄・集団的自衛権行使・教育反動化・NHK支配・社会保障削減などの策謀を通じて憲法死文化・自民党改憲を押しつけてくる、政府の企みを許さない共同戦線の形成・拡大を追求したいと考えます。もちろん、秘密保護法の撤廃は大きな目標です。この悪法が生み出す危険を具体的に明らかにし、市民運動に対する弾圧阻止の体制強化にも努めていきます。これら全体の問題との取り組みは、多くの賛同団体が連合してつくりあげる共闘体制のなかで、ともに進めてまいりたいと存じます。(終)