2014年03月12日

【声明】原子力災害ハザードマップの作成を再度提案します

1.はじめに

 未曾有の災害をもたらした3.11東日本大震災から3年が経ちました。依然として被災地の復興の道は遠く、大いに心が痛みます。特に福島第一原子力発電所(以下「福島原発」と記す)の立地する福島県浜通は、増え続ける汚染水の処理とその漏洩問題、除染しても思うように低下しない空間線量と除染に伴う廃棄物の保管問題など、多くの難題に直面し厳しい状況に置かれ続けています。

 私たちは化学を専門に学んだ者として、福島原発の事故以来、その被害と除染について関心を持ち続けてきました。2年前、大震災一周年を期して、何よりも住民の安全と生命を重視する立場から、

 (1) 原子力災害に関する正確な情報をハザードマップの形で提供すること、
 (2) 予想される災害に向けてどのような対策を用意するのかを明らかにすること
 
 の2点を政府に対し強く求める声明を発表(当時の野田内閣総理大臣および細野環境大臣宛書留送付)しました。しかしながら政府からこのような方向への対応はまったくないまま、関西電力大飯原発の再稼動が容認されてしまいました。そこで私たちは昨年3月、大震災二周年を機に改めて原子力災害ハザードマップの作成を求める声明を発しました。

 にもかかわらず、昨年、今年と原子力災害ハザードマップを作らないまま原発再稼動の動きが次第に高まって来ています。3.11東日本大震災で福島原発事故が天災のみならず人災によって増幅されたものであること、また、何れかの原子力発電所で甚大な災害を及ぼす事故が今後発生する可能性を否定しきれないことを知り、私たちは原発再稼動に深い疑問を禁じえなくなりました。東日本大震災三周年を迎える今、原子力災害から国民の命を守り、可能な限りの減災を実現する考えから、

原子力災害ハザードマップの作成を再度提案します。

 2011年8月には名古屋市が福井県嶺南原発の視察をおこなってハザードマップ作成の要請を国に対しておこない、また、2012年3月上旬には滋賀県が大飯原発の大事故を想定したSPEEDIによるシミュレーション実施を文科省に対して要請しています。さらに、県庁所在地から20km圏以内に建設後約40年を経た原子力発電所を有する全国で唯一の県である島根県は2012年に原子力防災訓練をおこなっています。原子力ハザードマップはこのような訓練に先立って整えられなければならないものであることは、火山の防災マップと防災訓練の関係を見ても明らかです。

2.高精度拡散シミュレーション法の開発とシミュレーション結果の公表

 福島原発事故後に発足した原子力規制庁は、一昨年10月24日放射性物質の「拡散シミュレーションの試算結果」を公表しましたが、直後にミスが判明し批判を浴びて訂正すると言う事態になりました。まず、拡散シミュレーションの試算を丁寧にやり直し、国民にわかりやすく提示することが肝要です。そのためには次のような作業が必要です。

・政府が責任を持って高精度な計算が可能なシミュレータ(コンピューターとソフト)の開発をおこない、精度を確認した上で、
・現存するすべての原発に対し、様々な気象条件を考慮した予測計算をおこない、地域住民にその結果を判りやすい形(最大限の安全性を見込んで避難を要する範囲を同心円で示すことと、災害時の典型的気象条件に応じた予想汚染マップの双方)で公表すること。
・また、非常事態に陥った原発に対して、大型シミュレーターを優先的に投入し、リアルタイムでその予想結果を当該地方自治体に報告する体制を整えること。

 一昨年発表されたような形式のハザードマップでは、私たち大学で化学を専門として学んだ者にとっても、容易に理解できるものではありません。3.11東日本大震災に伴う福島原発事故のような原子力非常事態を想定したとき、事故直後の一週間で100mSv(ミリシーベルト)の被曝をしてしまう可能性のある(IAEA Safety Standardsでも緊急防護行動が必要であるとされている)範囲を稼働中の大飯原発はもとよりすべての原子力発電所について予測し、同心円で示してください。

 一昨年の試算によると、柏崎刈羽原発では40kmを超える範囲になります。この範囲は、半減期8日で強い放射線を出すヨウ素131による被曝が主となるため、直ちに避難指示が出されるべき地域と考えます。福島原発事故で経験しているように、放射線被曝は最初の一週間では終わりません。引き続き主としてセシウム134(半減期2.1年)及び137(半減期30年)による被曝が続きます。弱い線量でも年間50mSvも被曝すると健康に悪影響が出ることは誰もが認めるところです。この範囲の住民は早期に圏外へ避難するよう指示されなければなりません。

 そこで最初の一週間に100mSv被曝が予測される範囲と最初の1年間に50mSv被曝が予測される範囲を、地図上に同心円で示すことは簡便ながらきわめて重要です。たとえばアメリカ政府は福島原発事故発生後のきわめて早い時期に、福島原発から80km以内に立ち入らないよう自国民に指示しています。

3.避難先と避難指示を明確に

 次に、原子力非常事態に際し、ハザードマップに基づき避難先を確保し、緊急時に的確に避難先を指示できるよう準備してください。避難時の不測の事態や避難民の苦痛を最小限に抑えるために、あらかじめ避難先を周知し、避難訓練しておくことも重要です。避難は広域となり、都道府県をまたがることが明らかですので、避難及びその救援のための行政対応を省庁の枠を超え、都道府県の枠を超えて、国レベルでするよう制度の整備をする必要があります。大量の避難者が発生することになりますが、避難指示だけが出て、人々が避難先を求めて路頭に迷い、挙句の果てに高濃度汚染地域に入ってしまうというような、福島原発事故の二の舞は絶対に避けるべきです。

4.最悪の事態を想定し、それに対処する準備を

 昨年、一昨年の声明に書いたことの繰り返しになりますが、科学的・技術的に絶対安全な原子力発電所など存在しないという認識を国民が共有することが必要です。原子力規制委員会は、世界一厳格だと称する「新安全基準」に基づき原発再稼動へ向けた審査を進めていますが、これがまた新しい「安全神話」を生み出すのではないかと大いに危惧するところです。福島原発事故は世界史上最大の放射能汚染をもたらしましたが、それでもなお不幸中の幸いであって、もっと規模の大きい災害となった可能性すらあるのです。さらに「エネルギー基本計画」(平成22年6月閣議決定)の「前文」に書かれているようにテロなどのリスク、また航空機・隕石等の落下のリスク等も想定する必要があります。わが国の原発は現在すべて停止していますが、それだけで安全ではありません。

 使用済み核燃料が施設の容量限界近くまで各原発に保存されているわが国の現状では、何らかの事故によって、これら使用済み燃料の飛散がおこるリスクも少なくありません。今回の福島原発事故で私たちは最悪の事態を想定し、それに対処する準備をしておくことがいかに重要かということを知らされました。

5.国民的議論を

 福島原発事故のもう一つの教訓は、原子力発電所を再稼動すべきか否かといった重要な判断を原子力関連の省庁と一部専門家や政治家だけに任せてはいけないということです。政府は原子力を「重要なベースロード電源」と位置づける閣議決定を急いでいますが、これは将来のわが国のエネルギー政策にかかわる高度な政治判断です。このような重要な政策課題は我々国民がリスクを十分検討した上で判断しなければなりません。だからこそ、その判断をする前に、政府が原子力災害のリスクに関する正確な情報をハザードマップの形で提供し、原子力災害の及ぶ範囲の広さと厳しさを、広く国民に周知する必要があります。また予想される災害に向けてどのような対策を用意するのかを明らかにし、原子力非常事態の際の避難を迅速かつ円滑に行える準備をすることを強く求めるものです。また多くの良識ある専門家の皆さんが科学的知見に基づく意見を表明されることを強く期待します。その上で、広範な国民の間で議論を深めることが、わが国の将来にとってきわめて重要と考えます。

2014年3月11日
昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志
今成啓子、大石茂郎、大村陽子、奥山公平、尾島 巌、栗原春樹、
桜木雅子、添田瑞夫、坂内悦子、山田耕一、山村剛士、吉田 隆(順不同)

posted by JCJ at 09:24 | TrackBack(0) | パブリック・コメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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