だが私たちの周りでは、公共図書館に所蔵されている『アンネの日記』やナチスのホロコーストに関する大切な本が、何者かの手によってビリビリに破られ、被害は39館・計306冊に上る事件が起きている。
またヒロシマの原爆の悲惨さを描く、中沢啓治『はだしのゲン』を有害図書に指定し、小中学校の図書室から追放する動きがある。
こんなに本が、粗末に扱われていいのか。いま日本の出版界は未曽有の危機にある。2013年の雑誌・書籍の販売金額は、前年比マイナス3・3%の1兆6823億円。9年連続で前年割れ。1996年ピーク時の2兆6564億円から、1兆円が消えたことになる。
とくに雑誌の落ち込みは激しく「漫画サンデー」「すてきな奥さん」が休刊。出版社も取次業も売上上位10社中7社が減収、書店は1996年の2万店から1万5千店に激減し、本をどこに行って買ったらよいか戸惑う、悲惨な事態だ。
電子書籍に食われているからだとの指摘もある。電子書籍の販売金額は2012年度729億円、前年度比プラス16%。2017年度には2390億円と予測している。
電子書籍がもてはやされるが、購入元の電子書籍ストアが廃業・倒産などすれば、まったく読めなくなる。購入した紙の本は、所有権を得て永久に読めるが、電子書籍は「会員制ウェブサイト」と同じ、所有権はない。
日本の出版市場で、米国のアマゾン・ドット・コムが、伸長しているのも脅威だ。アマゾンは、日本で消費税を支払っていない。電子書籍コンテンツを配信するサーバーが、海外に置かれているためだ。そこから配信する以上、消費税が課税されず、日本で安く電子書籍を販売できる。昨年1年間で約250億円の消費税の税収が失われているという。
さっそく楽天もデータ配信用のサーバーをカナダに置き、Koboという子会社からの配信とし、消費税逃れの手を打った。これでは日本の出版業界は太刀打ちできず、公正な競争が阻害されるのは明白だ。
消費税を負担する日本の出版業界と消費税を負担しないグローバル企業の「価格競争力」の差は、決定的なものになる。さらに4月からは、消費税5%が8%になる。来年10月から10%となれば、日本の出版業界が大打撃を受けるのは目に見えている。
(JCJ代表委員)
*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2014年3月25日号