2014年09月02日

「閣議決定」の夏――被爆者の言葉を真摯に=吉原功

 近代科学による最先端技術はしばしば戦争のために開発される。69年前、広島・長崎に投下された原子爆弾はその典型例であり、人類史上最悪の事態を生んだ。世界の指導者たちが人間的理性の持ち主であったなら、原子力の技術的利用は1945年8月をもって停止されていたはずである。
 不幸なことに歴史はそのような方向には進まなかった。加えて「平和利用」という名の原子力発電がある。スリーマイル、チェルノブイリ、福島という巨大事故を経た今日、その危険性は今や明明白白である。中小の事故は枚挙にいとまがなく、増え続ける廃棄物や使用済み核燃料の安全な処理の見通しも立っていない。「平和利用」の行く末もまた人類滅亡の要因となりかねない。

 広島・長崎はこのような中で69回目の夏を迎えた。苦難の道を歩かされてきた多くの被爆者の、心の底から絞り出すような言葉がこの夏も紡ぎ出されたが、今年の特徴は、それらが集団的自衛権行使容認の閣議決定への強い批判となったことである。
 広島では被爆者7団体が首相と面談、閣議決定を「歴史的事実を偽り」「憲法の精神を消し去ろうとしている」と批判し、強く撤回を求める要望書を提出した。長崎では平和祈念式典において、城台美弥子さんが被爆者代表として「平和の誓い」を述べたが、その中で「集団的自衛権の行使容認は、日本国憲法を踏みにじる暴挙です」「武器製造、武器輸出は戦争への道です。いったん戦争が始まると、戦争が戦争を呼びます。歴史が証明しているではないですか」と痛烈に批判し「日本の未来を担う若者や子どもを脅かさないで下さい。被爆者の苦しみを忘れ、無かったことにしないで下さい」と迫った。
 これらに対し安倍首相は「閣議決定は、国民の命と平和な暮らしを守るため。戦争をする国にするつもりは毛頭ない」と型通りの答え。6日、9日の両式典で昨年のコピペにあふれた挨拶をする首相に誠実さのかけらも感じられない。
 8月6日付の信濃毎日社説に紹介されている前座良明さんの言葉にも触れておこう。広島で被爆し松本で活動していた前座さんは次のような言葉を残して5年前に他界したという。「戦場は人間を人間でなくしてしまう」「私は(原爆の)被害者であり、(戦場では)加害者でもあった」「戦争を知らない人たちが戦争のために働いている今の状況が怖い」「子供や孫たちを自分と同じ目に遭わせないようにするためにはどうしたらよいか。再びそういうことが起きないようにさせる活動を(市民が)するしかない」。
 昭和初期の日本、1945年の世界の指導者の過ちを繰り返さないためにも被爆者の言葉を真摯に受け止めよう。
(JCJ代表委員)

JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2014年8月25日号


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