2015年01月22日

根底にムスリム差別―仏風刺紙襲撃事件=伊藤力司

 風刺漫画を売り物にしている仏週刊紙シャルリ・エブド編集局がイスラム過激派に襲撃され、付随して起きた2件の人質立てこもり事件で起きた惨劇は世界に衝撃を与えた。衝撃は「表現の自由」を守ろうとする熱気を呼び、欧州では空前の大規模デモが展開された。
 表面的にはイスラム過激派と表現の自由の衝突だが、根底には欧米キリスト教社会と中東・アフリカ・アジアに広がるイスラム社会の、歴史的・文化的相克がある。欧州帝国主義が、アジア・アフリカを植民地化した歴史が背景にあるからだ。

 1789年のフランス革命は絶対王政を倒して共和国を生み出した。王政を支えた国王・貴族・カトリック僧侶の三身分を廃止し、市民が主人公になった。国王はギロチンに掛けられ、貴族の特権は廃止され、僧侶の優位を排除した世俗社会が成立した。
 以来フランスでは公共の場で、十字架など宗教的シンボルが禁じられることになった。ところが20世紀後半、アルジェリアなど旧植民地から仏本土に移住するムスリム(イスラム教徒)が増える中で、ヒジャブ(ヴェール)を付けた女性が目立つようになる。

 仏国民議会は革命以来の伝統に従って、宗教的シンボルのヒジャブは世俗性に反するとして、ヒジャブの女性が公共の場に立つことを禁じる法律を作った。しかしイスラム教が起こった7世紀以来、ヒジャブと共に生きてきたムスリム女性にとって、ヒジャブを脱ぐことは公衆の面前で「ヌードになる」と同じような恥辱を意味するという。

 かつてアフリカに植民地を持っていたフランスでは人口の7%強、450万のムスリム少数派が多数派キリスト教徒の中で生きている。旧植民地から移住した1世から生まれた2世、3世は仏市民権を持ちながら差別されている。これがイスラム過激派を生む温床だ。

 「表現の自由」は民主主義を支える根底にある。一方、宗教的・民族的差別は民主主義に反する。シャルリ・エブド事件は「表現の自由」と宗教的・民族的差別の相克を21世紀の世界に投げかけたものであるが、その解決法は今のところ見えていない。

*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2015年1月25日号


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posted by JCJ at 16:33 | TrackBack(0) | 政治・国際情勢 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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