だが、安倍首相は「罪を償わせるために、国際社会と連携する」と報復の姿勢を打ち出し、政府は、自衛隊による人質救出を国会の論点に浮上させた。ニューヨーク・タイムズは2日、「軍事的な対立を嫌う日本ではこれまで聞いたことがない」とする記事を出し、7日・8日に行われたJNN世論調査では「『イスラム国』と戦う国への2億ドルの支援表明が『イスラム国』の日本への対応を刺激した」と考える人が過半数を占めるなど、安倍内閣の強硬姿勢への批判が広がった。 それでも安倍政権は、この機を逃すまいとするかのように、自衛隊の派遣にその都度特措法などの制定を必要としない「恒久法」の制定へと突き進もうとしている。
「IS(イスラム国)」による邦人人質殺害予告が表面化したのは1月20日だった。後藤健二氏の自宅には身代金要求が届いていたが、政府はそれを知りながら、安倍首相の中東歴訪での「イスラム国対策として約2億ドルを拠出する」との発言を許していた。
JCJが、1回目の緊急声明「人命第一に、日本人2人の『即時解放』へ全力を」を出したのは1月22日。翌23日には、テレビ朝日の「報道ステーション」で、コメンテーターで元経済産業省官僚の古賀茂明氏が、安倍氏の「イスラム国」を刺激するようなパフォーマンスについて、「人質の命よりイスラム国と戦っている有志連合の仲間に入れてもらうことを優先したのでは」と語り、「日本は戦争をしない国なんだ」というところに立ち返るべきだとして、「?I am not Abe(私は安倍じゃない)?と言っていく必要がある」と思いを述べた。
この発言に対し、テレビ朝日にはネット右翼などが非難を浴びせかけたが、逆にたくさんの人が「I am not Abe」のプラカードを掲げて意思表示する姿が、国境を超えて広がった。
「報道ステーション」に対しては、外務省が2月3日、2日放送分について抗議し訂正を求めるという動きも出た。その後、同番組対し種々の「圧力」がかかっているとの情報が伝わってきている。外務省は7日には、シリア渡航を計画していたカメラマンのパスポートを押収するという前例のない動きにも出た。
また政府は、事件に対する政府の対応についての検証委員会を10日に立ち上げたが、一方で外交上の情報は秘密保護法の適用範囲内であるとの国会答弁もしている。政府主導の検証委には疑問の声が広がっている。
この事件を機に、「政府を批判するのはテロリストを利する」という主張が横行し、市民の自由を制限する動きや、言論やメディアを抑圧しようとする動きが出、そして安倍首相のスピーチや中東歴訪の経緯までもが秘匿される恐れが出ている。そうした状況を跳ね返す徹底した取材と論評、そしてそれを支える市民の協働が欠かせなくなっている。
*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2015年2月25日号
<JCJ機関紙購読・会員加入申込みHP>
http://jcj-daily.sakura.ne.jp/postmail/postmail.html
http://jcj-daily.sakura.ne.jp/postmail/postmail.html
・「ジャーナリスト」はタブロイド判8面、毎月25日の発行です。
・年間購読料:3000円(12号分)です。
※会員の場合、機関紙購読料は会費に含まれています。(←いまなら郵送料込み)