福島原発事故の教訓を活かし、その危険性を周知するために、ハザードマップの作成は必須であり、ここに改めて要求致します。しかし、最近はハザードマップの作成や福島原発事故の検証がなされないまま原発再稼働への動きが急になってきたため、私たちは現時点で原発再稼働に反対することが重要と考え、以下のような見地から声明をここに発表します。
1.日本の原発は極めて危険な環境に設置されている。
政府は「世界一厳しい新規制基準」を満たすと原子力規制委員会が認めた原発は順次再稼働して行く方針です。しかし、日本は、地震、火山爆発等の自然災害が多く国土も狭いため放射性物質汚染に弱く、原発を設置するには世界一危険な地理的条件にあると言えます。新規制基準を満たしても安全ではないことを原子力規制委員会自身がホームページで認めていて、「これを満たすことによって絶対的な安全が確保できるわけではありません」と記載されています(注2)。欧州の基準等に比べ新基準が「世界一厳しい」ものではないことも明らかです。
2.原発の事故は甚大な環境破壊をもたらす。
福島原発事故では広い地域が放射性物質で汚染され、今日未だに居住できない場所が多い。一旦事故を起こせば広範囲の国土を利用不能にしてしまうことは、チェルノブイリやスリーマイル島での事故と同じです。また除染で集めた放射性廃棄物や原発から出る汚染水処理など困難な課題が未解決のままです。最近は、福島原発事故に由来する放射性の「セシウムボール」も発見され、健康への影響が懸念されています(注3)。これらを考えると、原発の事故が極めて厳しい環境破壊をもたらすものであることは明白です。
3.地球環境問題の解決は原子力発電がなくてもできる。
地球温暖化問題にからめて、原発再稼働の議論がなされていますが、日本の二酸化炭素排出量に対する原発停止の影響は小さく、この問題は原発を再稼働しなくても解決できます。発電所からの二酸化炭素排出量は2012年以降増えていますが、これは主に電力消費の増加に伴うものです(注4)。地球環境と生命の保護の立場からは、省電力や再生可能エネルギー(地熱・水力・風力・太陽光等)の活用を積極的に推進する必要があります。
4.エネルギー政策は原子力発電を除外したエネルギー源のベストミックスへ転換する。
「エネルギー基本計画」(平成26年4月)(注5)において、原子力は、コスト低廉で安定的に発電でき、継続的に稼働できる「ベースロード電源」として、地熱、水力、石炭火力と共に位置づけられました。しかし、原子力が低コストで安定的という考えは、福島原発事故を顧みれば見直さざるを得ません。私たちは、環境適合型エネルギー源、大容量蓄電池、火力発電におけるCO2低減化等の技術開発へ投資するよう政策を転換すれば、世界に冠たる省エネルギー技術とあわせて、原発に依存しないエネルギー源のベストミックスが見つかり、それに伴う技術開発が将来の日本経済を支える柱の一つになるのは明らかであると考えます。
2015年3月11日 昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志
有志氏名(順不同):
吉田 隆、山村剛士、山田耕一、坂内悦子、高井 誠、添田瑞夫、櫻木雅子、栗原春樹、尾島 巌、奥山公平、大石茂郎、今成啓子
(注1) www.tmoritani.com/Todai-Chemistry/
(注2) www.nsr.go.jp/activity/tekigousei/shin-kisei-kijun.html
(注3) www.nhk.or.jp/zero/contents/dsp489.html
(注4) http://www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html
(注5) www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001-1.pdf