2015年11月29日

知る権利を蹂躙? TBS岸井氏を槍玉に/国民の“三猿化”狙うアベ政治=桂 敬一

 見開いた大きな両眼の上に「私達は、違法な報道を見逃しません。」と真っ赤な文字で大書、その下に「放送法第四条をご存じですか?」と問いかけるコピーが並び、「政治的に公平か」「報道は事実をまげてないか」など、同条の番組編集準則を例記する。
 そのあとが凄い。TBS「NEWS23」のメインキャスター=司会者の岸井成格氏が番組中で「メディアとしても(安保法案の)廃案に向けて声をずっと上げ続けるべきだ」と主張したが、司会者は番組と放送局を代表するものであり、この発言は「国民の知る権利を蹂躙するプロパガンダ」だと、岸井氏を放送法違反の好例として槍玉に挙げる長文のコピーが、縷々と続く。その脇見出しは「私達の『知る権利』はどこへ?」。

 11月15日、読売朝刊に出現した、全ページ多色という異様な「意見広告」だ。出稿者は「放送法遵守を求める視聴者の会」。今後、放送法第四条違反のある放送内容の情報開示運動をしていくという。呼びかけ人は、作曲家のすぎやまこういち(代表)、上智大名誉教授・渡部昇一、拓大総長・渡辺利夫など7人。なるほどという顔触れだが、彼らにそうカネがあるとも思えない。本当のスポンサー、仕掛け人はだれかが気になる。(なお産経新聞も14日、全く同じ内容の広告を出している)

 秘密保護法・安保法制につづき、パリ同時テロに便乗、つぎは「共謀罪」まで繰り出し、国民を完全に「みざる・きかざる・いわざる」の世界に閉じ込めようとするアベ政治に対して、正直いってメディア全体が受け身に流され、不甲斐ないという思いが募る。そんななかでTBSはよく頑張っている。その中心にいる岸井氏に誹謗中傷を加え、彼が不法行為を犯し、国民の「知る権利」を侵害しているとはよくいえたものだ。

 さらにこうした攻撃が、昨年5月放送のNHK「クローズアップ現代」の“やらせ”疑惑問題に対するBPOの意見書が出たタイミングで出現したことの意味も、無視できない。

放送の自由に不当介入 政府、BPO見解に危機感
 メディア総がかりで反撃を


 BPO(放送倫理・番組向上機構=放送界の自主機関)の放送倫理検証委員会(委員長は川端和治弁護士)は11月6日、この不必要かつ拙劣なやらせ≠ヘ放送倫理違反だとNHKに注意、その措置を公表した。だが、この見解は最終部分で、政府が最近、放送界の自主規制に委ねるべき倫理問題に不当に介入してきたのは、放送の自由に対する「圧力」だと批判、反省を求めるものとなっており、それが公表され、多くのメディアが援軍来たれり≠ニばかりにBPO見解を大きく報ずると、この動きに対する政府の「放送法違反」攻撃が始まったのだ。

 昨年からのBPO審理が終わっていない今年4月、高市総務相は「クローズアップ現代」問題でNHKに厳重注意の行政指導をし、自民党情報通信戦略調査会もNHK幹部を呼びつけ、聴聞にかけた。
 この調査会は「沖縄の地元二紙は潰せ」「いうことを聞かない放送局には広告を出させないようにする」などの発言が飛び出したことで名を馳せたところだ。

 BPO委員長の結語はこうした事情を踏まえて出されたものだ。だが、これが出るや、11月10日の衆院予算委員会では高市総務相が、「放送法四条の準則は単なる倫理規定ではなく法規定であり、放送法を所管する総務相は法違反を取り締まる責務がある」と開き直り、安倍首相もこれを支持した。そして、これを応援する意見広告が登場したのだ。

 現行放送法は2010年改正で三条が二つに分割され、もとの三条二項以下が現四条とされたが、その全項が先行する現三条「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」の原則に従うとされている点は不変だ。「何人」には政府も含まれる。  「法律に定める権限」とは、メディアによる名誉棄損は刑法によって処罰されるが、この場合の刑法がそれに当たる。放送法を所管するものは放送法によって放送番組に介入できるなどという話にはならない。むしろ放送法を所管するものは、政府の不当な介入から放送番組を守ることが責務になるのだ。

 こうした原則、メディアの民主的なあり方までが、政府の勝手でグズグズにされそうになっている。そこに大衆扇動の動きまで加わろうとしている。この広告を受け入れた読売新聞の判断も疑問だ。広告掲載基準はどうなっているのか。
 メディア全体がこの危機を真剣に受け止め、不当な介入、圧力を総がかりではね返していくべきときがきている。

(かつら・けいいち/元東京大学教授/日本ジャーナリスト会議会員)


*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2015年11月25日号


<JCJ機関紙購読・会員加入申込みHP> http://jcj-daily.sakura.ne.jp/postmail/postmail.html
・「ジャーナリスト」はタブロイド判8面、毎月25日の発行です。
・年間購読料:3000円(12号分)です。
※会員の場合、機関紙購読料は会費に含まれています。(←いまなら郵送料込み)
・見本(PDF)をご覧ください。
 JCJ機関紙「ジャーナリスト」見本(2015年11月25日号1面)
  http://www.jcj.gr.jp/jcjdtp/20151125jcj/01men.pdf

posted by JCJ at 11:00 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

この記事へのトラックバック