意見書は、自民党の調査会がNHK幹部を聴取したことについても「放送の自由とこれを支える自律に対する政権党による圧力そのものであり、厳しく非難されるべきだ」と批判した。総務相らは放送法第4条などを「注意」の根拠としているが、意見書は「4条は放送事業者が自らを律する『倫理規範』で、総務相が個々の番組に介入する根拠ではない」と指摘した。安倍政権のメディア支配が強まる中、BPOがこれだけ明確に指摘したことは高く評価できる。
これに対し安倍首相は10日の衆院予算委員会で、「単なる倫理規定でなく法規であり、法規に違反しているのだから、担当官庁が対応するのは当然だ」と正当性を主張した。しかし、首相は放送法成立の経緯に関する無知をさらけ出し、その制定趣旨と法理を曲解している。一例を挙げれば、「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによって、放送による表現の自由を確保する」と定めた放送法第1条2号について、同法制定の責任者は1950年1月の国会で「政府は放送番組に対する検閲、監督等は一切行わない」と明言しているのだ。
問題は、安倍政権がBPOの意見書公表を奇貨とし、これを意図的に悪用、放送に対する政府の全面的な介入システムづくりに乗り出していることだ。自民党の「情報通信戦略調査会」会長は今春、BPOを「お手盛り」と誹謗し「テレビ局がお金を出し合っている機関ではチェック出来ない」として「独立した機関」に言及している。この「独立した機関」とは事実上、自主的なBPOの解体後、戦前型の「報国放送機関」とされることは、火を見るより明らかだ。
BPOの意見書が公表されるや、14日に産経新聞、15日には読売新聞に異様な意見広告が掲載された。TBSの「NEWS23」アンカー岸井成格氏のコメントを槍玉に挙げ、「放送法違反の報道」と悪罵を浴びせたのだ。そのコメントは、安保法に対する圧倒的多数の国民の反対の声を伝えたもので、放送法違反でも何でもない。岸井氏への不当な攻撃は、昨年の朝日・植村元記者への攻撃と同様、メディアの萎縮効果を狙ったもので、この時機に大衆煽動に加担した読売新聞などの見識が疑われる。
私たちは、メディアを思いどおりに支配しようと企む、安倍政権の攻勢が新たな段階に入ったことに、深刻な危機感を表明する。ジャーナリズムに携わるすべての個人・団体に呼びかけたい。この危機を真剣に受け止め、不当な攻撃・介入を視聴者・読者・市民と共に総がかりではね返そう。
2015年12月5日
日本ジャーナリスト会議(JCJ)
日本ジャーナリスト会議(JCJ)