2016年02月17日

政権維持に固執し、言論ねじ曲げ・抑圧も辞さない安倍自公政権の「総合戦術」の悲惨(1)

 閣僚の「政治とカネ」をめぐる疑惑が相次ぐ安倍政権。甘利明経済再生担当相が辞任した。その闇の深さが日々明らかになりつつある。他の閣僚も資質を疑わせるに十分すぎる逸脱発言や失態の数々だけでなく、その答弁や釈明の過程でも問題の根深さをさらに露呈し続けている。小手先の嘘やごまかしにとどまらない。政権の行き詰まり・末期を覆い隠すために強調して繰り出される逸脱したプロパガンダ、ミスリード、根拠なきあいまい答弁の数々が目に余る状況となっている。
(JCJふらっしゅ「報道クリップ」増補版=小鷲順造)


 除染などで国が長期目標として示す年間追加被曝線量1ミリシーベルトについて「どれだけ下げても心配だという人は世の中にいる」「何の科学的根拠もない」などと発言した丸川珠代環境相。「発言は一言一句覚えていないが、誤解を与える発言をしたとしたら本当におわびを申し上げたい」と陳謝、その後撤回。環境相としての資質が疑われるだけでなく、問題の発言は放射線の影響と放射線防護の必要を過小評価し、廃棄物貯蔵施設の件にとどまらず、それはそもそも政権が進める原発再稼働の動きの正当化を試みるものだったのではないかと疑われる。
 岩城光英法相は、特定秘密保護法で秘密指定された文書が会計検査院に提供されるか否かを問われ、「法的には適用されるが、会計検査院に情報開示されないことはおよそ考えられない」としつつも、その根拠をまったく示せない。根拠があるのかないのかも示せない。またTPPをめぐる「協定違反の訴訟」生起において、国際機関と日本の最高裁の判断が違った場合どちらが優先されるか答えられない。
 島尻安伊子氏は沖縄北方担当相でありながら、「千島はぼ…何だっけ」と「はぼまい」を読めず、そもそもの担当能力を疑われている。
 安倍政権のメディア担当の一翼を担う高市早苗総務相は、放送法設立の目的や敬意を知らず、放送法を政府や役所によるマスメディア統制規律と履き違えているふしがある。一番組でも放送電波「停波」する可能性に言及、政府統一見解もそれを追認。安倍自公政権のメディア介入体質をあらためて浮き彫りにしている。

▽国連人権担当、国連人権理事会に<調査によっては刑事責任を問われるということを金氏や他の幹部に伝えるよう勧告>

 2014年2月、北朝鮮の人権状況に関する国連調査委員会は、北朝鮮が国家最高レベルによる「人道に対する罪」を犯していると厳しく非難する最終報告書を公表していた。報告書は、拷問や市民の迫害、公開処刑、外国人の拉致など数々の残虐行為を挙げ、「これほどの規模で人道に対する罪を働いている国家は現代世界で比類がない」と批判していた。(→共同通信)

北朝鮮における人権に関する国連調査委員会(COI)最終報告書(日本語訳)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000035873.pdf


 金正恩体制における異常とも見える「強硬姿勢」数々の背景には、この「人権状況」に対する国際的な批判の高まりがあるとの指摘も出ていた。日本のメディアは、海外の報道と異なり、北朝鮮のロケット打ち上げを「事実上の長距離弾道ミサイル発射」「衛星打ち上げと称する長距離ミサイル発射」などと報じて、「北朝鮮の脅威」をことさらにあおる習癖から抜け出せないでいるが、本来問題にすべきはこちらのほうであり、かつ金正恩体制が真に恐れ、それをいかに国内外に隠蔽するかに追いまくられてさらなる暴走に陥っているのではないかと考えてきた。
 報道によると15日までに、北朝鮮の人権問題を担当する国連のダルスマン特別報告者(インドネシア)は、金正恩第1書記に「人道に対する罪」で調査する可能性があることを直接伝えるよう国連人権理事会に求める報告書をまとめた。
 共同通信は「事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行するなど金体制が強硬姿勢を崩さない中、人権状況改善に向け圧力を強める狙い」と伝えているが、やはり「米国に到達する能力」など米国を巻き込んでまで飛距離の観察に目を奪われ、大騒ぎする日本型「弾道ミサイル発射さわぎ」を脱していない気がする。
 もちろんダルスマン特別報告者が、今回のロケット発射さわぎもテコに、2014年2月に出した最終報告書の存在をあらためて強調し、国連人権理に対して、今後の調査によっては刑事責任を問われるということを金氏や他の幹部に伝えるよう勧告する機会としたということはありうるだろうが――。ただ、共同通信の記事は、「事実上の長距離弾道ミサイル発射を強行」として日本型「ロケット発射=ミサイル発射」の枠を脱していないが、一方で、2014年2月の北朝鮮の人権状況に関する国連調査委員会最終報告書についてわかりやすくふれている点は評価されてよいだろう。
 記事は、ダルスマン氏は10年に特別報告者に任命され、今年7月に任期を終えること、そして3月の国連人権理事会で北朝鮮の人権状況に関する報告書を発表を予定しており、その情報収集のため1月に来日していたことも伝えている。
 それについてはNHKが、<ダルスマン氏はことし1月、来日した際に日本で拉致被害者の家族などと会談して、「刑事責任を追及することが拉致被害者の帰国を早める手だての一つになりうる」と述べていて、今回の報告書はその考えを反映したかたちとなって>いるとしている。
 NHKはあわせて、国連総会は昨年12月、北朝鮮による人権侵害が「人道に対する罪」に当たるとして安全保障理事会に対し、国際刑事裁判所への付託を求める決議を前年に続いて採択したこと、中国やロシアなどは人権問題を取り上げることに反対していることを伝えた。
 「人権状況」に対する国際的な批判の高まりを背景に、幹部粛清の報も相次ぐ北朝鮮。「衛星ロケット発射」アピールは技術力の誇示、軍備輸出促進を狙う側面もあるだろうが、国際社会は北朝鮮が陥っている最大の問題は「人権状況」「人道に対する罪」にあり、数々の「強硬姿勢」についてもその一連の流れに位置づけて報じるのが筋であろう。ただし、『戦争広告代理店』(高木徹、講談社文庫)を持ち出すまでもなく、「人権状況」「人道に対する罪」の調査・追及の動きが深刻な地域紛争などへ短絡させるようなことはあってはならない。「ミサイル」報道だけでなく、この面についての報道についても、センセーショナルな画一的報道は戒められる必要があるだろう。北朝鮮の人権問題への国際的な取り組みを通じて、拉致問題の進展にもつなげていけるような民間交流・北朝鮮の民衆との接点の拡大をいかに実現していくか。それが大切になってくるのだと思う。

金正恩第1書記に「人道に対する罪」で調査可能性も(共同通信〜日刊スポーツ16日)
http://www.nikkansports.com/general/news/1605110.html
正恩氏に通告を=「人道の罪」調査対象―国連報告者(時事通信16日)
http://news.biglobe.ne.jp/international/0216/jj_160216_0090377153.html
国連人権担当 金第1書記らに「人道の罪」可能性、通告を(毎日新聞16日)
http://mainichi.jp/articles/20160216/k00/00e/030/157000c
国連報告書 キム第1書記ら「人道に対する罪」も(NHK16日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160216/k10010410791000.html


▽甘利事務所が補償交渉に深く介入――甘利氏らの証人喚問を求める

 甘利明前経済再生担当相の金銭授受問題。
 15日、民主党は衆院予算委員会で、甘利明前経済再生担当相の口利き疑惑をめぐり、甘利氏側に現金を提供した千葉県の建設会社と甘利事務所のやりとりを記録した音声データと議事録を入手したと明らかにした。玉木雄一郎議員は「甘利事務所が補償交渉に深く介入している生々しいやりとりだ。あっせん利得処罰法違反は免れない」と指摘した。甘利氏は記者会見で「秘書が交渉に介入したことはない」と説明していたことから、これと矛盾するとして、甘利氏らの証人喚問を求めた。

 時事通信によると、民主党が公開した音声データは24秒あり、甘利氏秘書と建設会社総務担当者が、2015年11月2日に神奈川県大和市内の喫茶店で交わした会話とされる。男性の声が「一応推定20億掛かりますとか、そういう言葉にしてほしいんですね」など具体的な補償額をUR側に示すよう促している。甘利氏の秘書とみられている。
 この件について、毎日新聞が14日、《<甘利氏秘書>「20億円提示しよう」…URの補償巡り》の記事を出している。取材に対して建設会社総務担当者が、昨年10月ごろ甘利明前経済再生担当相の公設秘書(先月辞任)から追加補償額として約20億円をURに求めるよう提案されたと証言。同氏は、甘利氏側が補償交渉に積極的に関与していた証左だとしたと伝えた。
 記事を読むと、そもそもこの「あっせん」の件の対象となった道路工事は、千葉県が都市再生機構(UR)に委託したもので、その敷地は40年以上前、当時の地主が産廃を不法投棄していた。県は敷地を南北に分断し、道路予定地について県は、工事開始前に約31億円で産廃を撤去していた。  建設会社は道路工事開始前に、補償約2億3600万円をURから受け取った。また工事開始後、建物の一部が振動でゆがんだなどの理由で2015年3月以降に約5100万円の追加補償を得た。建設会社はその後、予定地外の産廃の撤去、「地中の産廃撤去」も必要としてUR側に追加補償を求め、交渉はこう着状態に至り、甘利氏の秘書らに口利きを依頼したという経過をたどったもののようだ。

 そして今回、甘利明前経済再生担当相の公設秘書(先月辞任)が昨年10月ごろ、建設会社側に対して、追加補償額として約20億円をURに求めるよう提案したとの証言とテープが出てきたということである。提示した建設会社側は、甘利氏側が補償交渉に積極的に関与していた証左だとしている。甘利氏事務所と建設会社には多額の金銭授受があったことがわかっている。
 1月28日、甘利氏は、弁護士による秘書らへの聞き取り調査に基づくとして、補償交渉(13年)について「話はしたので、あとは当事者同士でやってほしいということだった」(毎日新聞)などと介入を否定、それ以降については調査するとしていた。
 毎日新聞によると、甘利事務所は、建設会社側が甘利氏秘書らから20億円の追加補償額を提案されたという証言について、「何を根拠に述べられているのかわかりませんが(甘利氏が)記者会見で述べた通り」としているという。

 いったい何のため誰のための政治なのか、政治家なのか、閣僚なのか、政権なのか。自民党は見事に「日本を取り戻」したが、取り戻したかった動機がこれかと思うと、あまりにばかばかしい。経済再生担当相を辞任した甘利氏は、「TPP合意」の立役者でもある。2012年12月の総選挙の時に自民党が掲げた「ウソつかない。TPP断固反対。ブレない。日本を耕す!自民党」のポスターは忘れられない。
 「TPP合意」をうけて首相の安倍氏は、「TPPは、私たちの生活を豊かにしてくれます」と話している。だいぶ当初と異なる。安倍政権はアベノミクスと改憲をセットで打ち出し、NHK会長選出に象徴されるように早々とメディアにも介入した。なかなかの「総合戦術」である。国づくりの総合ビジョンなどないから、戦略ではなく、目先の延命策としての戦術でしかないわけだが、戦略なき戦術は悲惨である(この政権の場合、戦略やビジョンに該当するのは「戦争の出来る普通の国」とか、理由も狙いも明確にせずに「改憲」とを至上命題にするなどしかないので、見せかけやプロパガンダだのみだけで本来求められる牽引力はそもそも不在である)。
 スキャンダルや失政などが表面化するとそのたびに改憲を強調し、同時にメディア懐柔とメディア批判を繰り返し、今年に入り政権のおそまつな姿がいくつもまとめて噴出すると、いよいよ放送電波「停波」と改憲の声を高める始末だ。

 日本社会はいったい、いつの時代に逆戻りしてしまったのだろうか。立憲主義も理解していない。民主主義も理解していない。それを体現する役割も能力ももたず、逆に日本社会は、彼らを永続的に雇用し続けることが当然といわんばかりの逸脱した発言ばかりが飛び出している。
 この政権の、政権維持に汲々とするセコさ、幼稚さにはほとほとあきれる。甘利氏の件だけではない。首相の安倍氏は閣僚や自民党議員の失策や不祥事や事件が顕在化するたびに「任命責任は私に」と口にするが、みじんも責任をとろうとしない。責任から逃れることしか頭にはないようだ。

 しかし日本社会は、どんなことをやっても、どんな手を使っても政権にしがみつこうとする政治家の無責任や傲慢を断じて許さない。いま私たちは、それを証明する局面にいる。メディアにも役所にも、いかなる政治家たちがいま政権についていようとも、日本社会が健全に機能すること、機能していることを日々明らかにし、それを共有してい使命を負っている。
 安倍自公政権の壊憲・壊国の政治は末期に向かって突進している。日本社会はそれに引きずり込まれることなく、失望したりあきらめることもなく、次への準備を力強く進めなければならない。あきらめ、逃避し、退場すべきは日本の市民社会ではなく、立憲主義を知らず、日本国憲法を知らず、民主主義の何たるかも知らず、それらを無視して前時代的な強権政治を行い、政権にしがみつこうとしてやまない彼らであるからだ。
(つづく)


(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)


秘書の音声データ公開=甘利氏らの証人喚問要求―民主(時事通信15日)
http://jp.wsj.com/articles/JJ11847240581334574087519432355201326493482
<甘利氏秘書>「20億円提示しよう」…URの補償巡り(毎日新聞14日)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160214-00000002-mai-soci&pos=4


posted by JCJ at 12:19 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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