私が読むことのできた範囲に限るが、これまでのところ20日付で、西日本新聞が「安保廃止法案 速やかな審議入りが筋だ」、信濃毎日新聞は「安保をただす 廃止法案提出 違憲立法を問い直さねば」、高知新聞が<【安保法廃止案】「違憲立法」に焦点を>、沖縄タイムスが<[安保法廃止法案]「違憲」の疑い再論議を>、21日付で、北海道新聞が「安保法廃止案 与党は逃げずに論戦を」、愛媛新聞は「野党の安保法対案 議論を根本的にやり直すべきだ」を出している。
(JCJふらっしゅ「ニュースの検証」=小鷲順造)
それら各紙の社説を紹介する前に、ここで一度、ここに至る経緯と民主、維新両党が18日に提出した対案の内容をみておきたいと思う。
日本経済新聞が21日付で「安保法対応で民維二段構え 5党で廃止法案、対案も提出」の記事を出した。見出しにある「二段構え」が、今回の民主、共産、維新、社民、生活の5党の共同の動きをとらえるキーワードの一つのように思える。
民主、維新両党が政府の安全保障関連法の対案をまとめて共同提出したのは18日で、民主、共産、維新、社民、生活の野党5党が安全保障関連法廃止法案を共同提出したのは19日。見出しにあるように、5党で廃止法案を共同提出する連携のかまえと、民主、維新両党が政府の安全保障関連法に対する3対案を共同提出という「二段構え」となっている。この「二段構え」でいく方針を民主党は12月に決め、党内をまとめあげた。維新の党もこれに乗った。
日本経済新聞の記事によると、<民主党内の保守系議員らは共産党との連携に反発し、これまで廃止法案の提出に難色>を示していて、そのため民主執行部は廃止法案とは別に(1)領域警備法案(2)周辺事態法改正案(3)国連平和維持活動(PKO)協力法改正案――を維新と共同提出することで、保守系の意向に配慮したという。
民主党内の保守系議員も巻き込んで、強靭な野党連携を構築できるか。民主党保守系の<共産党との連携に反発>の姿勢には、そんなことを言っている場合かとの厳しい批判がネット上などでも広く飛び交ったが、その結果生み出された「二段構え」だった。
あえて区分けすれば、民主、維新両党提出の対案は日本国憲法の枠内、平和主義と民主主義の堅持とあわせて集団的自衛権によらない自衛隊活動の強化を盛り込むものであり、民主、共産、維新、社民、生活の5党提出の廃止法案は立憲主義・民主主義の遵守を主眼に平和主義からの逸脱は許されないし、許さないという5党の基本姿勢を示したものといえる。前者を2党の目標(戦術)、後者を5党の理念(戦略)ととらえ、今回の5党の動き全体を包む理念の円の中に、2党の改正案という円をまず内包していると考えるとわかやすいのかもしれない。
民主、維新両党が提出した対案は、1)領域警備法案、2)周辺事態法改正案、3)PKO法改正案だが、なぜか政府・与党は、この対案の国会審議を認めない方針だという。
法案の内容をみておこう。
1)領域警備法案
政府は安保法で、グレーゾーン対処での法制化を見送る一方、自衛隊に海上警備行動などを迅速に発令できるようにしたが、対案は、海上保安庁の警備を補完する必要がある場合に、自衛隊が海上警備準備行動を行うことや領域警備区域を定め、その区域内で治安出動や海上警備行動等に該当する事態が発生した場合には、個別の閣議決定を要せずに迅速に下令できるようにすること等を定めようとする内容である。
2)周辺事態法改正案
政府は安保法で、周辺事態法から「周辺」の概念を外してしまった。これに対し、「周辺事態法改正案」は「周辺」の概念を堅持して自衛隊の海外での活動に歯止めをかける。日本経済新聞の記事は、周辺事態法改正案について、<安保法の一つに含まれる「重要影響事態法」への対案だ。自衛隊の活動範囲の地理的制約を外し、支援対象を米軍以外の他国軍にも広げる。活動範囲はこれまで通り、日本周辺にとどめる>と解説している。
3)PKO法改正案
政府は安保法でPKOにおける「駆けつけ警護」を認め、自衛隊の海外での武力行使にもつながりかねない状態を生み出した。一方、対案のほうは、「PKO活動に従事する文民等からの緊急の要請を受けたとき自衛隊が文民等保護措置を行うこと」などを定めて、自衛隊の海外での武力行使には歯止めをかける内容である。
安保法対応で民維二段構え 5党で廃止法案、対案も提出(日本経済新聞21日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H17_Q6A220C1PE8000/
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS20H17_Q6A220C1PE8000/
それでは各紙の社説を読んでいくことにしよう。
まず、20日付の西日本新聞「安保廃止法案 速やかな審議入りが筋だ」の社説から。
同社説は、5党の安保法廃止法案衆院共同提出をうけて、<(政府の安保法)が「憲法違反」だというのが廃止法案提出の理由である。この動きに注目したい」と書き出している。
安保法成立から5カ月が経過し、今国会の焦点は経済政策や閣僚のスキャンダルに移っている。そうした中でも、安倍晋三政権は3月下旬に安全保障関連法を施行する方針でいるが、<廃止法案提出を契機に、国会であらためて安全保障に関わる論議を活性化させるべきである>とする。
その理由について社説は、以下の理由をあげる。
1)集団的自衛権の行使を容認する安全保障関連法については、前国会での審議中、多数の憲法学者が「憲法解釈の変更で許される範囲を逸脱しており、違憲」と指摘した。しかし、安倍政権は国会で「数の力」を頼り、国民の疑義を押し切って同法を成立させた。
2)成立直後に共同通信社が実施した世論調査では「国会で審議が尽くされたと思うか」との問いに「思わない」の回答が79%に上った。
3)本来なら秋の臨時国会で引き続き論議すべきだったが、安倍政権は憲法の規定に基づいて野党が求めた臨時国会を開かず、結果的に安保論議を避けた。
そこから、今回、民主党と維新の党は廃止法案提出に先立ち、領域警備法案など3法案を提出しているが、これは<政府の安保関連法の対案となるものだ。これも十分論議に値する>とする。
法案審議については、<一般に野党提出法案は与党多数の国会ではたなざらしにされることが多>いことから審議入りさせるのは難しいが、しかし、<今回は早く実質的な審議を行い、いまだに国民の不信が強い安保関連法の問題点をただす機会とすべきである>とし、<与党も安保関連法に自信があるのなら、堂々と審議に応じるのが筋だ>と厳しく注文をつけている。
社説は最後に、<このまま安保関連法が施行されれば、「憲法違反」と疑われる法律に基づいて自衛隊が実際の活動を始めることになる>と警鐘を鳴らし、「それでいいのか、と政府や与党に問いたい」と結んでいる。
安保廃止法案 速やかな審議入りが筋だ(西日本新聞20日)
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/225794
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/225794
次は、20日付信濃毎日新聞社説「安保をただす 廃止法案提出 違憲立法を問い直さねば」。
書き出しは、「(政府の安保法は)憲法違反と指摘される法律である。法案審議を通じ、あらためて問題点を徹底的にたださなくてはならない」。
社説は、政府の集団的自衛権行使容認の閣議決定と安保法について、<密接な関係にある他国が武力攻撃された場合、日本が直接攻撃を受けていなくても武力行使できるのが集団的自衛権だ。歴代内閣は憲法9条の解釈上、行使できないと繰り返し答弁してきた。それがなぜ一転、可能になるのか>と厳しく問い、<政府、与党は合理的に説明できないまま、「専守防衛は変わらない」と強弁し、安保法を成立させた>経緯の奇妙な点を問い、<憲法学者をはじめ、国民から違憲との批判が絶えないのは当然のことである>としている。
政府・与党がそうしたおかしな、許されない手法で成立させた安保法は、<「非戦闘地域」などに限定した従来と違い、戦闘が起こり得る場所でも活動できるようになる>内容で、<他国の武力行使の一部を自衛隊が担うことになりかねない>ものである。ゆえに、<海外での後方支援の拡大も、憲法に触れる恐れが拭えない>ものであり、夏の参院選が終われば国連平和維持活動(PKO)での任務拡大など目に見える形で動きだすと考えられるいま、<このまま既成事実にはできない>と諌める。
そして昨年の通常国会では、憲法違反をはじめ、安保法の疑問や問題点について堂々巡りが続き、議論が深まらなかったことを指摘して、あらためて問い直すべき三点をあげて、<根本から問い直さなくてはならない>と、政府・与党に対し厳しく指摘している。
1)日本の安全を守る上で従来の法律には不備があるのか、
2)国際社会の中でどんな役割を果たすべきなのか。
3)民主、維新両党の対案との違いは何か。
さらに、<安保環境の厳しさを強調しながら、海外で自衛隊の活動を広げることの妥当性>にも疑問があると指摘して、<新たな法制が必要なのか>を含めて、<今度こそ掘り下げた論議が求められる>と強調、<与党は野党の法案を棚上げにせず、審議に応じるべきだ>と求めている。
安保をただす 廃止法案提出 違憲立法を問い直さねば(信濃毎日新聞20日)
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160220/KT160219ETI090007000.php
http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20160220/KT160219ETI090007000.php
続いて、同日付、高知新聞<【安保法廃止案】「違憲立法」に焦点を>。
「安保法は昨年9月、自民、公明両党などによる強行採決で成立した」ことから、野党が指摘する通り、<多くの国民が「違憲立法」への疑念や平和主義が崩れることへの不安を抱き続けているに違いない>として、<政府は安保法が必要で「合憲」とするなら、正面から野党の挑む論戦を受けて立つべき>と指摘する。また、<野党は安保法の問題点を浮き彫りにし、いま一度国民的な議論につなげる責務を負っている>ことも、あわせて強調している。
そのうえで、成立までの経過を振り返り、<野党による廃止法案の提出は、安保法とその起点にある閣議決定の数多い問題点に、あらためて焦点を当てる機会になり得る>としている。経過は、以下を辿ったとする。
1)安倍政権は2014年7月、歴代の内閣が認めてこなかった集団的自衛権の行使を、憲法解釈の変更によって容認する閣議決定を行った。
2)長年定着した解釈を一内閣が都合良く変える手法には、多くの憲法学者や元最高裁長官らが「違憲」と指摘した。その具体化である安保法にはむろん、「違憲立法」の疑いが強く残っている。
3)国会での審議には200時間を超える時間が費やされた。とはいえ、違憲論に対して同じ説明を繰り返し、集団的自衛権を行使する要件など基本的な問題でも、一貫性を欠いた政府の答弁が目立った。
4)国民の理解は深まるどころか、国の根幹をなす立憲政治の揺らぎ、平和主義の変質への不安はかえって増幅されたといえよう。
5)論点が尽きないにもかかわらず、与党は一方的に審議を打ち切り、最後は「数の力」をたのんで強行採決した。議会政治史に大きな汚点を残したといってよい。
そのうえで、<自民、公明の両党は、国の方向性を大きく変える問題での拙速さ、強硬姿勢を大いに反省し、議論を避けてはならない>こと、<国民の疑問に丁寧に向き合い、理解が得られないなら安保法を撤回すべきである>とした。
さらに、廃止法案に先立ち民主、維新の両党が衆院に提出した安保法への対案3法案については、<安保法で際限なく広がりかねない自衛隊の活動やその範囲に一定の枠をはめる>内容だが、その一方で、米軍などに対する後方支援を公海上に広げるといった内容も含んでいる>と指摘して、<民主、維新両党は「合憲の範囲内で自衛隊活動を充実させる」と説明するが、憲法などに照らして当然、慎重に吟味しなければならない>と丁寧な議論を促している。
あわせて、この対案をきっかけにして、安保法の持つ問題点をより詳細に浮かび上がらせる議論こそが求められるとした。
そして、野党から廃止法案や対案が提出されるなか、政府は安保法を来月下旬に施行するよう調整しているという点について、<「違憲」への疑念や国民の不安を置き去りにしたまま強引に施行に踏み切れば、再び国民の反発を招くことは間違いあるまい>と付け加えて社説を結んでいる。
【安保法廃止案】「違憲立法」に焦点を(高知新聞20日)
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=352157&nwIW=1&nwVt=knd
http://www.kochinews.co.jp/?&nwSrl=352157&nwIW=1&nwVt=knd
沖縄タイムスも20日付で<[安保法廃止法案]「違憲」の疑い再論議を>と求めている。
その根拠について、以下のように整理している。
1)まだ施行もされていないというのに廃止法案が提出されること自体、「安保法」の「異常性」を物語る。
2)法律は与党の数の力で可決・成立したが、「異常性」が解消されたわけではない。
3)安保法制については、最高裁の元判事、内閣法制局の元長官、憲法研究者、弁護士ら法曹関係者の大部分が口をそろえて「憲法違反」だと指摘した。
4)政府・自民党は集団的自衛権の行使容認の根拠として「1972年政府見解」や「砂川判決」を挙げたが、この二つの文書から「行使容認」を読み取ることはできないというのが多くの専門家の見解だ。
5)衆院採決時に安倍首相は「まだ国民の理解が進んでいる状況ではない」ことを認めた。法成立から5カ月たっても、説明責任が尽くされたとはとてもいえない状況である。
6)安倍政権は「安全保障環境の変化」を強調するが、変化への対応は国民の理解が前提である。国民の理解を得るためには、なによりもまず「違憲の疑い」を解消しなければならない。
ゆえに、廃止法案の提出を機に、<中途半端なまま打ち切られた国会論議を再び立ち上げてもらいたい>と求めている。
また、民主、維新両党が対案として衆院に提出した領域警備法案など3法案については、<集団的自衛権によらずに自衛隊活動を強化する内容>と指摘したうえで、<これで野党から、廃止2法案と対案3法案が出そろったことになる>と整理、<国民への説明も不十分なまま、無理に無理を重ねて成立した安保法をもう一度、国会の内外で再論議する絶好の機会である>とした。
(つづく)
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
社説[安保法廃止法案]「違憲」の疑い再論議を(沖縄タイムス20日)
https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=154756
https://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=154756
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