2016年03月13日

【声明】あらためて原子力災害ハザードマップの作成を求め、再稼働された原発の停止を求めます=昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志

 また3月11日がめぐってきました。未曾有の大災害をもたらした東日本大震災から5年の月日が経ちましたが、復興はいまだ道半ばです。
 ことに原発の放射能の影響で住み慣れた故郷に戻ることの叶わないかたがたのことを思いこころを痛めております。そのような中で、政府は事故原因も究明されないまま、熔融した核燃料の取り出しのめども立たないまま、原子力規制委員会が「安全基準」を満たすと判断した原発を再稼動させています。
 私達、昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志一同、はこれまで政府、安倍総理大臣、および原子力発電所のある各地方自治体の長に対して原子力災害ハザードマップを作成するように呼びかけると同時に昨年は一歩踏み込んで原発再稼動に反対する意見を表明致しました。
 昨年に引き続き今年も声明を発表しました。この声明は総理大臣、都道府県知事、立地自治体首長、マスコミ等に郵送する予定です。

昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志




声明:あらためて原子力災害ハザードマップの作成を求め、
再稼働された原発の停止を求めます


 私たちは化学を学んだものとして、2011 年3 月11 日の東日本大震災に伴い発生した福島第一原子力発電所(以下「福島原発」)での重大事故の被害と汚染について関心を持ち、過去四回、毎年3月11日を期して原子力災害ハザードマップの作成を求めて声明を発してきました(注1)。また原発再稼働への動きを目前にした昨年の声明では、再稼働に反対する意思表示をしました。しかし、ハザードマップの作成や福島原発事故の検証が不十分なまま、政府は原発を再稼働させてしまいました。そもそも私たちは原子力規制委員会の安全評価に大きな疑問を抱きます。

 政府は「世界一厳しい新規制基準」を満たすと原子力規制委員会が認めた原発(注2)は順次再稼働して行く方針に基づき、私たちを含む多くの国民の反対にも関わらず、川内原発(鹿児島県)・高浜原発(福井県)で再稼働させました。しかし、昨年発表された国際原子力機関の「福島第一原子力発電所事故−事務局長報告書」(注3)には、世界的には、自然災害が原子力発電所の設計基準を超えた例があるとして、以下のような指摘が含まれています(英語版要約部分から独自に翻訳して引用)。

 ―自然災害を評価するに際しては十分に慎重でなければならない。原子力プラントの設計基準の策定に際して、歴史上の主要なデータを考慮するだけでは極限的な自然災害の危険性の特質を記述するのに十分ではない。たとえ包括的なデータが利用可能であっても、それらは相対的に短い観測期間のものであるため、自然災害の予測において大きな不確定性が残るのである。
―原子力発電所の安全は知見の進歩を考慮して定期的に再評価する必要がある。
―自然災害の評価においては、それらが同時又は連続的に発生する可能性や複合的影響を考慮する必要がある。

 日本は地震・火山爆発等の自然災害が多く、また国土も狭いため放射性物質汚染に弱く、原発を運用するには世界一危険な地理的条件にあることを考え合わせるとき、今回の二つの原子力発電所の再稼働を認めた原子力規制委員会の評価には大きな疑問を抱きます。

 原発事故の危険性を国民に周知し、万一の事故に備えた避難計画を策定するために、ハザードマップの作成は必須です。福島原発事故をもたらした大震災から5年目を迎える今日、未だに廃炉や汚染除去の見通しすら立たない福島原発事故の教訓を活かし、国民の生命と財産を守るために、1.ここに改めて原子力災害ハザードマップの作成を要求し、また、2.原発再稼動に反対し現在再稼働されているすべての原発の停止を求めます。

1. ハザードマップを作成して避難指示範囲を適正に設定するべきです。

 福島県ホームページに福島原発事故後の避難指示範囲の変遷が掲載されています(注4)。それによれば、避難指示は震災当日の3月11日まず福島原発から3km以内(3km〜10kmの範囲は屋内退避指示)に、翌日避難指示は20kmに拡大されました。3月15日には20km〜30kmの範囲に屋内退避指示が出されました。4月22日に20km〜50kmの範囲の一部(飯館村全村を含む)に計画的避難区域(指定されてから1ヶ月以内に退去する)が指定され、これ以外の20km〜30km の範囲のほとんどが緊急時避難準備区域に指定されました。アメリカ政府は福島原発事故発生後のきわめて早い時期に、福島原発から80km 以内に立ち入らないよう自国民に指示しました。

 この様な経験にも関わらず、原子力規制委員会が定めた「原子力災害対策指針」(注5)では、原発から半径概ね5km以内をすぐに避難する地域、概ね30km以内を放射線量の上昇度合いに応じて避難する地域としています。
 上記のような福島県内の状況に加え、東京や関東を囲む山沿いなど100kmを越す範囲に少なからぬ放射性物質が到達したことを記憶している私たちは、この指針をそのまま受け入れることはできません。原発事故に伴う放射性物質による汚染の予測を現存するすべての原発に対し、様々な気象条件を考慮しておこない、地域住民にその結果を判りやすい形のハザードマップ(予想汚染マップ)として公表し、それに基づいて避難指示範囲と避難方法を科学的に見直すよう求めます。より精度の高いシミュレーター(コンピューターとソフト)の開発も期待されますが、現存のものでもこの様な目的には十分な精度を既に持っています。

 現在運転を停止している原発にも大量の核燃料(使用済を含む)が保管されていることを考えれば、ハザードマップや適正な避難準備計画を、現存するすべての原発について策定することが必要です。また、非常事態に陥った原発に対しては、大型シミュレーターを優先的に投入し、リアルタイムでその予想結果を当該地域住民に周知する体制を整えることを求めます。

2. 再稼働に反対し再稼動原発すべての停止を求めます。

 地球温暖化問題にからめて、原発再稼働の議論がなされていますが、日本の二酸化炭素排出量に対する原発停止の影響は大きくありませんでした。2014年度温暖化ガス排出量の速報値によれば、すべての原発が停止していた2014年度の二酸化炭素の排出量は、多くの原発が稼働していた2005年度に比べて、発電に限れば火力に依存した結果として排出量は増加したものの、エネルギー起源の二酸化炭素排出量全体としては2.4%減少しています(注6、注7)。この事実から、再生可能エネルギー(地熱・水力・風力・太陽光等)の活用を積極的に推進するなど、環境適合型社会を指向する技術の開発へ投資するよう政策を転換すれば、世界に冠たる省エネルギー技術とあわせて、原発に依存しないエネルギー源のベストミックスが見つかり、それに伴う技術開発が将来の日本経済を支える柱の一つになるのは明らかであると考えます。

 「エネルギー基本計画」(2014年4月)(注8)において、示された原子力が低コストで安定的という考えは、福島原発事故を顧みれば見直さざるを得ません。私たちは、原発再稼動に反対します。ことに第1項に述べたような減災への努力をすることなく、再稼働されてしまった原発を直ちに停止するよう求めます。

2016年3月11日
昭和43年東京大学理学部化学科卒業生有志
有志氏名(順不同):
今成啓子、大石茂郎、奥山公平、尾島 巌、栗原春樹、櫻木雅子、
添田瑞夫、坂内悦子、山田耕一、山村剛士、吉田 隆


(注1)www.asahi-net.or.jp/~xy3t-ysd/jiji.html
(注2)新規制基準を満たしても安全ではないことは原子力規制委員会自身が認めています。
 http://www.nsr.go.jp/activity/regulation/tekigousei/shin_kisei_kijyun.html
(注3)The Fukushima Daiichi Accident (IAEA,2015)
 http://www-pub.iaea.org/books/IAEABooks/10962/The-Fukushima-Daiichi-Accident
(注4) www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/cat01-more.html
(注5) 原子力災害対策指針」原子力規制委員会(平成27 年8 月26 日全部改正)。
(注6)www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg/2014sokuho_gaiyo.pdf
(注7)www-gio.nies.go.jp/aboutghg/nir/nir-j.html
(注8)www.meti.go.jp/press/2014/04/20140411001/20140411001-1.pdf

posted by JCJ at 09:00 | TrackBack(0) | パブリック・コメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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