2016年04月12日

「G7外相 平和公園を訪問 広島宣言を発表へ」の報道についての一考察――「国務長官の広島訪問は謝罪のためかと聞かれれば、答えは『ノー』だ」

▽デビッド・ケイ氏来日 国民の知る権利や表現の自由が脅かされていないか、政府の対応などを調査

 国連人権理事会が任命した特別報告者で、「表現の自由」を担当する米カリフォルニア大アーバイン校のデビッド・ケイ教授が来日、12日から、日本で国民の知る権利や表現の自由が脅かされていないか、政府の対応などを聞き取る調査に入る。調査は昨年12月の予定だったが、日本政府の要請で直前に延期になっていた。
 毎日新聞が来日前に、同教授に調査のポイントなどを聞いている。ぜひ全文に目を通されたい。
 毎日新聞によるとデビッド・ケイ氏は、米国と比べ問題点はありそうかとの質問に対して、次のように答えている。

(JCJふらっしゅ「報道クリップ」増補版=小鷲順造)


1)米国は機密や秘密に分類されるものが多すぎる。しかし内部告発者を保護する強い法律がある。(日本)政府がどのように国民を守ろうとしているのか聞きたい。
2)米国ではジャーナリストが機密情報にアクセスしても原則、違法ではない。日本の秘密保護法で罪になり得ることを懸念している。  また、高市早苗総務相が放送法の「政治的公平」の解釈を巡り番組に問題があれば放送局に電波停止を命じる可能性に言及した件については、次のように答えている。
3)もし政府が放送局に特定の観点を強要することがあれば問題。公平とは何か。常に政府側の見方なのか。政党の主張を述べないことなのか。
4)テレビキャスターが交代した話題も関心がある。政府には規制だけでなく、報道しやすい環境を促進する役目もある。もしジャーナリストが厳しい質問を控え、情報にアクセスできなくなれば、人々は情報に基づく選択ができなくなる危険性がある。

国連人権理事会:「機密取材で罪」懸念 訪日調査へ(毎日新聞10日)
http://mainichi.jp/articles/20160410/k00/00e/040/100000c


▽日本国憲法の解釈を変えるということ「日本が先走って大きな過ち犯している」

 琉球新報が10日付社説として、<ムヒカ氏初来日 戦争なき世界実現考えたい>を掲載した。
 書き出しで、南米ウルグアイのホセ・ムヒカ前大統領が来日して、「日本国憲法の解釈を変えるということは、日本が先走って大きな過ちを犯していると思う」と批判したことを伝えている。
 結びで、ムヒカ氏の「私たちにとって、人生、命ほど大切なものはない」「戦争を終わらせる義務がある」との訴えについて、沖縄の「命(ぬち)どぅ宝」の精神と同じだ。実現する方策を世界の人々と考えたい、と書いている。
 ムヒカ氏は、2012年6月の国連持続可能な開発会議で、「貧乏な人とは無限の欲があり、いくらモノがあっても満足しない人のことだ」と発言し、質素な生き方の実践は、大量消費社会が引き起こす気候変動や環境破壊、貧困や格差への強い疑問と、戦争、テロなどをもたらす現代世界の矛盾に警鐘を鳴らした(→社説)。

 同氏は、2010年から15年までの大統領在任時代、豪華な大統領公邸には住まず、郊外の農場で暮らした。月額報酬約115万円の9割近くを社会福祉基金に寄付し、約10万円で清貧な生活を送った(同社説)人であり、なおさら説得力がある。
 社説は以下を挙げて、日本の政府の現状を厳しく批判している。
1)(ムヒカ氏は)初来日での会見で「軍備の拡張は世界的に大きな問題であり、経済的な観点からも非常に深刻なことだ。膨大な軍事費で無駄遣いされているお金を貧困や環境問題の解決に使うべきだ」と述べ、世界の軍事化の動きを批判した。
2)欧州などで相次ぐテロとの関連で「政治でもスポーツでも『熱狂』は危険なものだ」と指摘し「その人が信じることだけを正しいとする盲目につながり、あらゆる疑問を覆い隠す。それは賢さとは対極にあるものだ」と語った。
3)この発言で真っ先に思い浮かんだのが、米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画に対する日本政府のかたくなな姿勢だ。

 社説は言う。
 普天間飛行場の名護市辺野古への移設計画については、<世論調査、名護市長選、知事選、衆院選の結果を見ても県民の大多数が反対しているにもかかわらず、政府は「辺野古が唯一の手段」と繰り返して作業を強行してきた。民意に耳を傾けず沖縄の軍事拠点化を進める政府の姿勢はムヒカ氏が指摘する「その人が信じることだけを正しい」とする、「賢さとは対極」にある「熱狂」そのものではないか>と。

 「賢さとは対極」にある「熱狂」。常に要注意だ。
 それを生み出す社会背景、経済状況、労働条件、教育環境、メディア環境・状況……さまざま条件が相互に影響し合い、反発と融合を繰り返しながら、単純化され、“分かりやすい”状況へと向かってしまうことがある。
 そこに貧困・差別・格差の蔓延していないか、それによる失望が広がっていないか。そうした状況を隠蔽し、別の方向へと民意を誘導しようとするプロパガンダが公権力などのどこかから絶え間なく発せられていないか。政権批判を隠蔽・沈静化・忘却させるための別の情報操作は行われていないか──。

 私たちはもう一度、ムヒカ氏の「貧乏な人とは無限の欲があり、いくらモノがあっても満足しない人のことだ」という言葉を思い返して、豊かさについて、貧しさについて、考えておきたい。それをベースに、政権や公権力などが発してやまないプロパガンダをすばやく、はっきりと見極め、広く手をつないで堂々と、いまあるべき日本社会の作り直しに邁進したい。

<社説>ムヒカ氏初来日 戦争なき世界実現考えたい(琉球新報10日)
http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-254069.html


▽日米同盟強化一辺倒でなく、外交と防衛との最適バランスを日本独自に考えるべき

 東京新聞が10日付社説「トランプ氏と日米安保 週のはじめに考える」で、次のような指摘をしている。大事な指摘だと思う。
――ついにそこまで踏み込んだか、という感がありました。トランプ氏が米紙ニューヨーク・タイムズのインタビューに対し、前提条件付きながらも在日米軍撤退の可能性に言及した発言です。

 社説はトランプ氏の発言について、以下のように問題提起する。
1)トランプ氏は、日韓両国の核保有容認論にも言及します。両国が独自に核武装すれば「核の傘」を提供してきた米国の軍事的負担を軽くできるとの論法です。
2)集団的自衛権の行使を可能にする安全保障関連法によって「日米同盟の絆」が強くなったと、安倍晋三首相が宣伝したばかり。
3)大統領になろうという人から在日米軍撤退論や日本の核武装容認論が飛び出すようでは、日米同盟の絆は本当に強くなったのかと勘繰りたくもなります。

 トランプ氏はまだ共和党の指名を争う一人にすぎず、勢いに陰りがあるとはいえ、選挙戦を勝ち抜く可能性があるため、その主張を単なる暴言として見過ごすわけにはいかなくなっているとして、同社説は<「安保ただ乗り論」の誤り>を指摘している。

4)米国内には、日本は自国の防衛を米国に委ね、巨額の軍事費を負担させているという「安保ただ乗り論」が根強くある。トランプ氏の発言は、それを勢いづかせてしまうかもしれない。
5)米国政府はこれまでも、財政状況が厳しくなったり、軍事行動に踏み切ったりすると、日本に駐留経費負担の増額や軍事的役割の拡大を求め、日本政府はその度に、米国の要求に応じてきた。

 しかし、<そもそも、安保ただ乗り論は誤解に基づ>くもので、<日米の同盟関係が、一方だけが義務を負う「片務的」だというのも誤り>と、以下の事実を挙げて前提をただす。

6)60年に改定された日米安全保障条約は、米国に日本防衛義務を、日本には米軍への基地提供義務を課している。
7)米軍の日本駐留に関わる費用は条約上、米国政府が全額負担することになっているが、日本政府は支払い義務のある土地の借料などに加え、本来支払わなくてもよい費用を含めて、約6000億円を毎年負担している。
8)在日米軍専用施設の約74%が集中する沖縄県の例を挙げるまでもなく、騒音や事故、米兵の犯罪など米軍基地の存在は周辺住民にとっては重い負担。 9)日米安保条約体制は双務的であり、ただ乗りなどではありません。

 トランプ氏の発言について日本の安倍首相は「コメントすることは、適切ではない」と論評を避けている。社説は、<他国の選挙に、政府が口出しすることは適切ではありませんが、誤った認識は候補者といえども正すべきでしょう>と提言する。
 また、トランプ氏の発言は、<米国の事情に翻弄されてきた日本の外交や安全保障の在り方を再検討する好機>とする。

 理由は、<日本を含むアジア太平洋地域の平和と安全のために、米軍の日本駐留は当面必要でも、米側の求めに応じて際限なく駐留経費負担を増やしたり、軍事的役割を拡大すればいいわけでは>ないからだ。さらに、警戒すべきこととして、<この発言を憲法改正につなげようとする日本国内の動き><米軍撤退に備えて国防軍を持たねばならない、核武装は当然だという主張>の台頭を挙げている。

 そして日本社会は、<軍拡競争しない覚悟>を示すときであると呼びかける。
 その理由として、次の三点を挙げている。
・日本が強大な軍事力を持ったり、核武装するようなことになれば、地域情勢は緊迫化し、軍拡競争を加速する「安全保障のジレンマ」に陥る。
・日米安保条約に基づく義務を誠実に履行しつつ、特に沖縄では基地負担を減らしていく。日米同盟強化一辺倒ではない、外交と防衛との最適バランスを、日本独自に考える必要がある。
・専守防衛に徹することで国際的信頼を得てきた私たちが軍拡競争に加わることはない。トランプ氏に示したい、私たちの覚悟です。

 まったくそのとおりだと思う。
 繰り返しておこう。

 日本が軍事力の強化に走れば、地域情勢は緊迫し、軍拡競争を加速する「安全保障のジレンマ」に陥る。日米同盟強化一辺倒でなく、外交と防衛との最適バランスを、日本独自に考えるべきときだ。しかし、その際にも、専守防衛に徹することで国際的信頼を得てきた私たちは、軍拡競争に加わることはない。

トランプ氏と日米安保 週のはじめに考える(東京新聞10日)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016041002000150.html


▽「G7外相 平和公園を訪問 広島宣言を発表へ」の報道についての一考察

 広島市で開かれていたG7(先進7か国)外相会合。
 広島の関連サイトは、今回のG7外相会合について、<サミットに合わせて開催される関係閣僚会合の一つで、直近の国際情勢について外相間で議論を行い、その後の首脳会合での議論の基礎ともなる重要な会合です。2016年のG7外相会合は、伊勢志摩サミットに関連した10の関係閣僚会合の中で最初となる2016年4月10日、11日に、広島で開催されます>と紹介している。
 サミットについては、<日本、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリア、カナダの7か国(G7)の首脳並びに欧州理事会議長及び欧州委員会委員長が参加して、国際社会が直面する様々な地球規模の課題について議論する首脳会議です。伊勢志摩サミットは、2016年5月26日、27日に三重県伊勢市で開催されます>と解説している。

 11日午後、「核兵器のない世界」の実現を呼び掛ける「広島宣言」を採択して閉幕した。北朝鮮の挑発行為が実現に向けて重要な課題だとした。
 AFPによると、G7外相らが市内の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花したのちに取りまとめた広島宣言は、「国際的な安定を促進できるように、全ての人にとってより安全な世界を目指すこと、核兵器のない世界に向けた条件を整えていくことを再確認する」と強調する内容で、「この課題はシリアやウクライナ、とりわけ挑発を繰り返す北朝鮮などの治安状況の悪化によって、より複雑となっている」としている。
 各国外相らは、平和記念公園を訪れ、平和記念資料館(原爆資料館)を訪問し、その後、原爆死没者慰霊碑に献花した。ジョン・ケリー氏が米国務長官として初めて同公園を訪問した(米政府関係者の訪問としても最高位)。(→AFP通信)
 また同通信によると、ケリー長官に同行している国務省高官は同日夜、第2次世界大戦中に約14万人が犠牲となった米軍による広島への原爆投下についてケリー長官が公式に謝罪することはないと発言した。「国務長官の広島訪問は謝罪のためかと聞かれれば、答えは『ノー』だ」と記者団に述べたという。

 私は、この「ケリー長官は謝罪はしない」の報道をAFPのニュースで知った。当日、こうした情報も受け取りながら中継をみるなり、繰り返し流される関連ニュースにふれるのと、全く知らずに漫然と垂れ流されるニュースにふれるのとでは、ニュースの受け手の認識の深まりや蓄積には、大きな違いが生まれてしまうのではないかと心配になる。

 なお、昨年8月6日、AFPが伝えた記事によると、現在でも米国人の大半は原爆投下が正しかったと考えていることがわかった。米調査機関ピュー・リサーチ・センターが2月に実施した調査では、対象となった米国人の56%が、日本への原爆投下は正当化されうると回答している。一方、日本人回答者の79%は正当化できないと答えている。

 また共同声明は、米国が主導するイラクとシリアでのイスラム過激派組織「イスラム国(IS)」との戦いに対する支援を「強化・加速する」ことを確約する内容で、「テロリズムは世界の安全保障上の喫緊の脅威であり、国際的な協調と結束した対応が必要だ」と述べ、G7としてテロ対策行動計画を作成する方針を表明した。
 広島宣言については翌12日、毎日新聞が<G7外相会合 「核兵器の非人道性」盛らず 広島宣言>の記事を出して、停滞する軍縮協議の弾みとなることが期待されるが、<核廃絶に直結する「核兵器の非人道性」という文言が見送られ、核保有国と非保有国の溝も浮き彫りになった>と報じた。この視点での報道は当日11日には、どこの報道にもなかったもので貴重だ。

 宣言は、原爆投下が「極めて甚大な壊滅と非人間的な苦難という結末」を引き起こしたと記して核軍縮の必要性を強調する一方、「核兵器の非人道性」の記述を見送った背景には、「非人道性」という文言に反発する核保有国との<妥協を図った>とみられる、としている。記事は、岸田外相はその後の記者会見で「核兵器は二度と使われてはならないという広島、長崎の強い思いを共有する内容も盛り込んだ」と理解を求めたという。

 毎日新聞の記事はまた、今回のG7外相の訪問を踏まえ、広島では、5月の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)に合わせたオバマ米大統領の訪問に期待が高まっているとして、ケリー氏が原爆資料館の芳名録に「全ての人がこの施設を見て、力を感じるべきだ」と記帳したことにふれ、ケリー氏がその後の記者会見で「私が見たことと、いつの日かここを訪ねることの大切さを大統領に伝える」と述べたと伝えている。ケリー氏は、オバマ氏が広島を訪問する可能性については明言しなかった。
 また、岸田外相は「核のない世界に向けた国際的機運を盛り上げる歴史的な一歩になった」と強調し、2大核保有国の米露がウクライナ問題で対立している状況を念頭に「軍縮・不拡散を巡る現状は大変厳しい」と語ったという。

 核廃絶に直結する「核兵器の非人道性」という文言が見送られ、核保有国と非保有国の溝も浮き彫りになった状況、2大核保有国の米露がウクライナ問題で対立する大変厳しい「軍縮・不拡散を巡る」現状。広島でのG7外相会合の議長国の外相として、つまり議長として岸田氏の関心や配慮は、そうした点に集中していたものと思われる。AFPの「ケリー長官は謝罪はしない」の米国側の姿勢については、岸田外相は当然知っていたはずだが、ニュースを受け取る側である市民社会は、報道されなければ知ることはできない。
 そうした点で、今回の広島でのG7外相会合に関する日本のマスメディアの報道はどうだったのか。あらためて、よく問い直しておく必要があるように思う。  ここでは以下で、11日の事前報道のうちのいくつかをふりかえっておくことにする。

 ◇NHK、TBS、日本経済新聞の事前報道をみる

 それでは11日、外相らが市内の平和記念公園で原爆死没者慰霊碑に献花などを行う日、日本の報道はどうだったか。
 NHKは11日のニュースで流し始めた。
──広島市で開かれているG7=主要7か国の外相会合は、11日に最終日を迎え、核保有国のアメリカ、イギリス、フランスをはじめ、各国の外相がそろって平和公園を訪れ、原爆資料館を視察するとともに、原爆慰霊碑に献花をすることにしています。そして、核軍縮に向けた国際的な機運を高めるための「広島宣言」を発表することにしています。
──初日の議論ではテロ対策や難民問題などの国際的な課題に加えて、議長国である日本が重視している南シナ海を巡る問題や、北朝鮮の核やミサイル、拉致の問題などについて意見を交わしました。議長を務める岸田外務大臣は、「充実した議論を行い、いいスタートを切ることができた。特に印象的だったのは北朝鮮問題について想像以上に各国の関心が高まっていたことで、議論が白熱し、予定時間を大幅にオーバーした」と述べました。
──核保有国のアメリカ、イギリス、フランスの現職の外相が平和公園を訪れるのは初めてで、会合終了後には、2日間の議論の成果を盛り込んだ共同声明に加えて、核軍縮・不拡散に関する「広島宣言」が発表される運び。
──世界の核軍縮の動きが停滞し、核保有国と非核保有国の対立が先鋭化するなか、G7が広島から打ち出すメッセージによって、再び「核兵器のない世界」を目指す国際的な機運が高まるのかが注目されます。

 NHKのこのニュースに若干の違和感を感じた。TBSのニュースを見る。

 TBSは11日、ニュースで次のように報じた。
──アメリカの国務長官・ケリー国務長官をはじめ、核保有国のイギリス、フランスの外相が平和公園を訪れたのは史上初めてのことになります。
──今回の訪問についてケリー国務長官は11日朝、「過去を振り返るためだけではなく、現在、そしてこれから強固な日米関係、友好関係や強い同盟、世界平和のために欠かせない思いを築くためである」と話しました。
──原爆慰霊碑には死没者名簿が納められていて、「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」という一文が刻まれています。その慰霊碑の前に史上初めて、原爆投下国・アメリカの現職の国務長官が姿を現します。
──原爆投下を正当化する意見がいまだに根強いアメリカで、この訪問がどう受け止められるのか。
──果たして、核兵器なき世界を提唱するオバマ大統領の広島訪問につながるのか。大きな関心が寄せられています。

 NHKのニュースは、この各国の外相そろって平和公園訪問、原爆資料館を視察、原爆慰霊碑に献花、「広島宣言」を発表のニュースのポイントがどこにあるのか、混乱させるか、あるいは劇的、時代の画期を示す動きを伝える映像とは異なるメッセージを流そうとしているようにも思えるもので、あまりニュースとしての価値が伝わってこなかった。感じた違和感は何だったのか。さらに整理を試みる。

 TBSが伝えたニュースには、いくつかの大事なキーワードが含まれている。
・核保有国のイギリス、フランスの外相が平和公園を訪れたのは史上初めて
・原爆慰霊碑には死没者名簿が納められていて、「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」という一文が刻まれている
・原爆投下を正当化する意見がいまだに根強いアメリカで、この訪問がどう受け止められるのか。
・核兵器なき世界を提唱するオバマ大統領の広島訪問につながるのか。

 NHKのニュースが伝えたエッセンスを箇条書きにしてみる。
1)核保有国と非核保有国の対立が先鋭化するなか、G7が広島から打ち出すメッセージによって、再び「核兵器のない世界」を目指す国際的な機運が高まるのか、
2)議長国である日本が重視している南シナ海を巡る問題や、北朝鮮の核やミサイル、拉致の問題などについて意見を交わした、
3)議長を務める岸田外相は、「特に印象的だったのは北朝鮮問題について想像以上に各国の関心が高まっていたことで、議論が白熱」と述べた、

 次に、日本経済新聞の11日の記事のポイントを書き出してみる。
1)菅義官房長官は「核兵器のない世界に向けた機運を高めていく上でも極めて重要だ」と述べた。
2)核軍縮の目標は、日本が置かれた現状などを踏まえると早期の実現は困難な情勢だ。中国や北朝鮮が軍拡を進める東アジアの安全保障環境は厳しさを増しており、日本は米国の「核の傘」による抑止力に依存せざるを得ない現実もある。
3)外相会合では、主要議題の海洋安全保障をめぐり、南シナ海で軍事拠点化を進める中国を念頭に、地域の緊張を高める一方的な現状変更に各国が懸念を共有。国際法を順守する重要性を確認した。過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロを非難し、G7が主導してテロ対策での国際連携を強化する方針で一致した。
 北朝鮮や中国を含む東アジア情勢や難民対策なども討議した。岸田外相は終了後、「価値を共有するG7で率直で予定の時間を大幅に超える白熱した議論が行われた」と述べた。
4)2日目はロシアとの対立が続くウクライナ情勢などを協議。ロシアとウクライナを含むすべての当事者がミンスク合意の完全履行を促し、平和的、外交的解決を実現するのが重要との認識で一致した。
5)軍縮・不拡散ではG7として具体的な行動と力強いコミットメントを示す「広島宣言」を同日に発表する方針で一致。共同声明と、軍縮・不拡散に絞った「広島宣言」、海洋安全保障に関する声明などを採択し、11日午後に閉幕する。
 海洋安保の声明は、中国をけん制するのが狙い。領有権を巡る紛争の当事国が司法判断に拘束されるとの趣旨も盛り込む。南シナ海を巡り、フィリピンがオランダ・ハーグの仲裁裁判所に中国の主張を違法と申し立てているのを踏まえる。

 NHKのニュースと日本経済新聞の記事。
 NHKニュースのタイトルは<G7外相 平和公園を訪問 広島宣言を発表へ>、日本経済新聞の記事の見出しは<G7外相、原爆慰霊碑に献花 官房長官「核廃絶の機運高めて」>。なお、先ほどのTBSニュースのタイトルは<核保有国外相が初めて平和公園を訪問、G7外相が慰霊碑に献花>だ。
 NHKニュースと日本経済新聞記事のタイトルも内容も同種といえそうだが、日本経済新聞の記事は、<核軍縮の目標は、日本が置かれた現状などを踏まえると早期の実現は困難な情勢だ>と早めに入れて報道の姿勢や意図の明確化をはかっている。NHKニュースも<G7が広島から打ち出すメッセージによって、再び「核兵器のない世界」を目指す国際的な機運が高まるのか>と入れて、慎重に手放し歓迎のトーンと受け止められないようにはしている。

 日本経済新聞は<中国を念頭に、地域の緊張を高める一方的な現状変更に各国が懸念を共有、国際法を順守する重要性を確認、過激派組織「イスラム国」(IS)などによるテロを非難し、G7が主導してテロ対策での国際連携を強化する方針で一致、北朝鮮や中国を含む東アジア情勢や難民対策なども討議と、政権筋を情報源としつつも視野は“安定”した報道の姿勢を感じ取れる(NHKのニュースよりもはるかに情報が多いが、本来取り上げるべき内容、検証すべき点などにもう少し工夫がほしかったという注文はある)。
 だが、NHKのほうは<原爆資料館を視察するとともに、原爆慰霊碑に献花、そして、核軍縮に向けた国際的な機運を高めるための「広島宣言」を発表>から、続いて<初日の議論ではテロ対策や難民問題などの国際的な課題に加えて、議長国である日本が重視している南シナ海を巡る問題や、北朝鮮の核やミサイル、拉致の問題などについて意見を交わしました>へと逸れ、そのまま<議長を務める岸田外務大臣は、「充実した議論を行い、いいスタートを切ることができた」「特に印象的だったのは北朝鮮問題について想像以上に各国の関心が高まっていたこと」>へと突っ込んでいく。最後に、<世界の核軍縮の動きが停滞し、核保有国と非核保有国の対立が先鋭化するなか、G7が広島から打ち出すメッセージによって、再び「核兵器のない世界」を目指す国際的な機運が高まるのか>と、冒頭に提示した部分と中身をはさみ込むかたちとなっている。

 新聞と放送では、同じ素材でもニュースの伝え方が大きく変わるのは当然だが、何をどう伝えるか、そこが常に問われることは変わらない。繰り返しになるが、TBSの<核保有国外相が初めて平和公園を訪問、G7外相が慰霊碑に献花>はタイトルに<核保有国外相>といれ、A)原爆慰霊碑には死没者名簿が納められていて、「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませぬから」という一文、B)原爆投下を正当化する意見がいまだに根強いアメリカ、3)核兵器なき世界を提唱するオバマ大統領の広島訪問につながるのか、と歴史をふまえた素材を加えて明確に日本独自の視点から今回の<G7外相らの平和公園訪問>報道を構築している。

 NHKのニュースは、中身は<議長国である日本が重視する問題について議論を交わし、議論白熱>という成果におき、それを冒頭の<原爆資料館視察、原爆慰霊碑献花、「広島宣言」発表>と、最後の<G7外相らの平和公園訪問は、核軍縮・不拡散の国際的な機運の高まりにつながるのか>でくるんだかたちをとっているため、政府広報をニュースでくるんだようなニュースとなっている。これでは、プロパガンダ臭を漂わせてくるのは当然である。日本の公共放送のなかに、放送人とはとうていいえない堕落・腐敗・劣化が入り込んでいる。

 日本の事前の報道について、上記のような問題を含むことが多くなっているように感じるのは私ばかりではないだろう。

 この日のその後の日テレのニュースによると、一行は、ケリー国務長官の提案で急きょ、原爆ドームも訪れた。岸田外相は「平和公園訪問は、核兵器のない世界に向けた機運を盛り上げるための歴史的な一歩になった」(日テレ)とコメントしたという。
 G7外相は、伊勢志摩サミットに関連した関係閣僚会合の中で最初のものだ。
 政治家であれ官僚であれ、原爆の悲惨さと現実に向き合うことを避けていれば、核廃絶の必要を身をもって実感することなどできない。想像で思い起こすには人間の想像力はあまりに貧しい。その意味では、予定になかった原爆ドーム訪問も喜ばしいニュースといえるだろう。

 しかし、TBSがニュースで伝えたように、アメリカでは原爆投下を正当化する意見がいまだに根強いとされている。AFPが伝えたように、「ケリー長官は謝罪はしない」との米国側の姿勢は、そうした状況と深く関係する。ケリー長官は、その上でオバマ大統領にここを訪ねることの大切さを伝えるとしている。オバマ大統領の被爆地訪問は実現するのかしないのかも、そうした情報が伝わっていてこそただの予想やゲームのような表層的な話題としてではなく、唯一の核被爆国の民として深い関心をもつことができる。核廃絶をめぐる世界の現状は、毎日新聞が伝えたように、核廃絶に直結する「核兵器の非人道性」という文言が見送られ、核保有国と非保有国の溝も浮き彫りになっている。2大核保有国の米露がウクライナ問題で対立する大変厳しい「軍縮・不拡散を巡る」現状もそのまま動きそうにない。

 そして、北朝鮮の暴走というべき核関連挑発行動に関連して、米国の共和党指名候補であるトランプ氏が、日韓両国の核保有容認論にも言及しているほか、事実を履き違えた「安保ただ乗り論」が登場するなどしている。そこには「地球の平和を維持するには原爆投下もやむをえないことだってある」という心情が抜けがたく根付いているものと思われる。

 そうした状況のなかでも、核保有国のイギリス、フランスの外相が、史上初めて平和公園を訪れ、原爆ドームも訪れたことは歴史的価値があるといえるだろう。これを契機に、少なくとも地球上で首脳と呼ばれる地位にある人物は、在任中に少なくとも一度は日本の被爆地を訪れることが慣習とされていく機運が高まることを期待したい。繰り返し繰り返し、核兵器がもたらす想像を絶する事実と向き合い、人類社会が世界の平和について、核兵器のバランスに頼るような時代から少しでも早く脱出する時代を具体的に展望してゆかねばならないと思う。

 当然のことではあるが、私たちは、報道に接することでさまざまな動きやその背景を知り、今後を考えたり展望したりすることができる。私は今回の広島での外相会合について、TBS、AFP、毎日新聞の報道から多くのことを知ることができた。そうした貴重な日々の報道に混じって、一方では政府広報とニュースが奇妙に入り混じっただけのニュースともプロパガンダともつかない情報もあった。

 私たちはいま、必ずしも健全な情報環境とはいえない状況に置かれている。それを前提に、ニュースのポータルサイトやSNSなども活用しながら、歪んだ情報環境に陥らない努力や工夫のネットワークを広げ、列島規模に広がる市民連帯の強固な足場としたい。

(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)

核のない世界へ「広島宣言」採択 G7外相会合が閉幕(AFP11日)
http://www.afpbb.com/articles/-/3083616
ケリー米国務長官が被爆地を訪問、「謝罪はしない」と米高官(AFP11日)
http://www.afpbb.com/articles/-/3083564?act=all
ヒロシマから70年、米国人の大半は今も原爆投下を肯定(AFP2015/08/06)
http://www.afpbb.com/articles/-/3056552?act=all
G7広島外相会合HP http://g7hiroshima.jp/summit.html
G7外相 平和公園を訪問 広島宣言を発表へ(NHK11日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160411/k10010474501000.html?utm_int=news-international_contents_list-items_009
核保有国外相が初めて平和公園を訪問、G7外相が慰霊碑に献花(TBS11日)
http://news.tbs.co.jp/newseye/tbs_newseye2747029.html
G7外相、原爆慰霊碑に献花 官房長官「核廃絶の機運高めて」
(日本経済新聞11日)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS10H1J_R10C16A4MM0000/?n_cid=NMAIL001
米国務長官ら平和公園で原爆慰霊碑に献花(日テレ11日)
http://www.news24.jp/articles/2016/04/11/04327044.html


*メールマガジン「JCJふらっしゅ」

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