2016年5月9日
NHK経営委員会委員長浜田健一郎様経営委員各位
NHK会長籾井勝人様
NHKの自主・自律を否定する籾井会長の辞任、
もしくは経営委員会による罷免を求めます
〜原発報道に関する発言に抗議する〜
もしくは経営委員会による罷免を求めます
〜原発報道に関する発言に抗議する〜
放送を語る会
日本ジャーナリスト会議
日本ジャーナリスト会議
4月20日、熊本地震への対応を協議するNHK内の災害対策本部会議で、籾井勝人会長が、「原発については、住民の不安をいたずらにかき立てないよう、公式発表をベースに伝えてほしい」「当局の発表の公式見解を伝えるべきだ。いろいろある専門家の見解を伝えても、いたずらに不安をかき立てる」と指示したと報じられました。
4月26日の衆院総務委員会の質疑では、籾井会長は指示した事実を認め、公式発表が何を示すかについて、「気象庁や原子力規制委員会、九州電力が出しているもの」を挙げました。その上で、「原子力規制委員会が安全である、あるいは続けていいということであれば、それをそのまま伝えていくということ」と説明しました。
この一連の発言は、NHKの基本的な在り方と、NHK会長の資格要件に明確に反するものです。私たちは次の理由から籾井会長の即時辞任、もしくは経営委員会による罷免を強く求めます。
第一に、会長の原発報道の方針は、住民の命とくらしを危険にさらす可能性があります。 福島第一原発事故の際、発生当時繰り返された政府「公式発表」は、放射能汚染について、「直ちに健康に被害を及ぼすものではない」というものでした。緊急時の放射能影響予測システムSPEEDIのデータの公表が遅れ、メルトダウンの事実も長期にわたって伏せられました。結果として高濃度に汚染されたホットスポットに住民が取り残される事態が起こっています。
福島の原発災害に関する政府や電力会社の「公式発表」とはそのようなものでした。
籾井会長の「公式発表」をベースに、という指示は、公式発表がはたして正しいのか、隠されているものはないのか、という独自の取材に強いブレーキをかけるものです。
これでは、原発に危険な事態が発生し、取材が行われても、公式発表までは伝えないことにもなり、住民の命とくらしを危険にさらすことになりかねません。
第二に、籾井会長の指示は、放送法の精神、NHKの自主、自律の精神に反します。
いうまでもなく、NHKは政府のための放送機関ではなく、視聴者・市民のためのものです。今回の籾井会長の指示は、自主的に取材し、事態の真実に迫る、というNHKの自律的なあり方に真っ向から反し、NHKを政府広報機関にするに等しいものです。
特に「いろいろある専門家の見解」を伝えない、ととれる主張は重大です。
放送法第四条は「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を倫理的な要請として定めています。
原発の緊急事態というような重大かつ見解が分かれうる状況で「公式発表」をベースにするというのは、この規定の精神に反し、許されるものではありません。
籾井会長は、「慰安婦」関連番組は政府のスタンスが見えないから慎重にする、など、放送内容は政府見解にしたがう、という趣旨で発言したことがあります。就任会見でも、「民主主義は多数決、そのイメージで放送すれば(放送は)政府と逆になることはありえない」と述べました。
籾井氏の発言の根本には、NHKは政府のための放送局であるべき、という基本的な主義・主張があると言わざるをえません。今回の「公式発表をベースに」という指示もその主張に基づくものといえます。
この姿勢は、経営委員会が定めたNHK会長の資格要件「NHKの公共放送としての使命を十分に理解している」とはとうてい相容れないものです。
このような会長をいまだに会長職にとどめている経営委員会の責任は重大であり、数々の問題発言にも拘わらず、罷免の検討さえしない経営委員会の姿勢は、結果的に公共的放送機関としてのNHKを傷つけ、損害を与えているのではないでしょうか。
私たちはこれまで繰り返し籾井会長の辞任、罷免を求めてきました。
今回の「原発報道」に関する指示は、住民、市民に直接被害を与える可能性のある重大な発言です。あらためて会長の辞任、もしくは経営委員会による即時罷免を要求するものです。
以 上