毎日新聞によると、首相の安倍氏は18日発表の2016年1−3月期の国内総生産(GDP)の速報値で個人消費の回復が鈍かったとして、来年4月に予定されている消費税率10%への引き上げを再延期する検討に入ったという。予定通り増税した場合、デフレからの脱却が困難になるとの判断が背景にある。
また、これに伴い、衆院を解散し、夏の参院選と同時に衆院選も行う衆参同日選を視野に入れて、政権の経済政策である「アベノミクス」の継続への支持を訴える考えもあるという。
消費税率10%への引き上げの先送りと衆院解散、つまり夏の参院選と同時に衆院選も行う衆参同日選の上記二項目の判断は、26−27日の伊勢志摩サミット(主要国首脳会議)での議論を踏まえて最終判断するつもりのようだ。
(JCJふらっしゅ「ニュースの検証」=小鷲順造)
記事によると、同日選について、熊本地震の発生後、実施は困難との見方が強まっていたが、熊本地震の復旧・復興のための16年度補正予算が成立し、復興の道筋が付いたとして「同日選の障害にはならない」(首相周辺)との判断が出始め、また、地震対応などへの評価から内閣支持率が堅調なことも影響しているのだという。
首相の安倍氏は14年11月に、15年10月に予定されていた消費税率10%への引き上げを一度延期している。その際、「国民の信を問う必要がある」として解散に踏み切った経緯があるが、「再び延期することはない」と明言していた。これを再度延期するとなると、再度「国民の信を問う必要がある」として衆院の解散にふみきる理由が立つ、との考えがあるようだ。
記事は、昨日の党首討論で、<民進党の岡田克也代表が「もう一度、消費税の引き上げを先送りせざるを得ない状況だ」と明言したことについて、<増税先送り自体は争点にはならない見通し>となり、<首相の再延期判断を後押しする形となった>としている。公明党は予定通りの消費増税実施を求めてきたが、「首相が決めれば従う」(同党幹部)と増税先送りの容認論が出ているとしている。
しかし、<増税先送り自体は争点にはならない見通し>と単純に切り捨ててしまうことには疑問が残る。首相の安倍氏の<増税先送り>の根拠には、「アベノミクスの失敗」があがることはないだろうが、野党の<増税先送りすべし>の主張の論拠は「アベノミクスの失敗」が明白であり、それを政府ははっきり認めよという点にあるからだ。
同日選にふみきる場合、首相周辺が<「アベノミクス」の継続への支持を訴える>路線を盛り込むほかないのは、「アベノミクスの失敗」の評価自体をここで固定化せずに、先送りしたいからにほかならないのではないだろうか。
同日選を決断するとすれば時間が迫っていることも事実だが、この段階でこの手の情報が首相周辺から出てくるのは、民進党内部の「保守派」にゆさぶりをかける狙いがあると考えたほうがいいように思う。<内閣支持率が堅調>というが、同日選を即断できるほどの勢いはすでにこの内閣にはない。
▽民進党・岡田氏「9条を当面変える必要はないと思うから案はない」
18日、今国会で初めてとなる党首討論が行われて、民進党の岡田代表は、集団的自衛権を全面解禁する内容の自民党の憲法改正草案について、<今の憲法の大原則「平和主義」が壊れると主張した>。これに対し首相の安倍氏は「議論をいただくたたき台の役割を果たしている」と返し、民進党の憲法改正案を策定するよう求めた。岡田代表は「憲法9条を当面、変える必要はないと思っている。だから案はない」と拒否するというやりとりがあった。
これをうけるかたちで、菅官房長官が同日の記者会見で、民進党に対して、憲法改正に関する立場を明確にするよう改めて求めるという動きがあった。菅氏は「一度政権の座に就いた政党として、自らの考え方を示した上で(国会の)憲法審査会で議論してほしいというのが国民の思いではないか」と考えを述べ、「それぞれの政党が憲法についての考え方を出し、合意する中で決めていくことが民主主義、国会のあるべき姿だ」と話した。これなども、明らかに民進党内部のゆさぶりに主眼をおいたものであろう。
さらに19日朝には、読売新聞が「党首討論 岡田氏は護憲を貫くつもりか」の社説を出して、その援護射撃を試みている。読売社説の論点はおよそ次のとおりだ。
1)憲法は今年11月、公布70年を迎える。様々な改正の論点が浮上している。首相が国会での改正論議の活性化を求めたのは妥当だ。
2)岡田氏の消極姿勢の背景には、党内に改憲派と護憲派が混在し、意見集約しづらい事情もあろう。だが、岡田氏は従来、改正にもっと前向きだったはずだ。より良い最高法規を追求する作業を最初から放棄するのは無責任である。
3)中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル開発で、日本の安全保障環境は確実に悪化している。首相が自民党改正草案について「平和主義は貫かれている」と指摘したように、9条改正と平和主義は矛盾するものではない。
(同社説は続いて、「再増税の是非」に話題を移して、<世界経済の動向を含め、多角的かつ慎重な検討が求められよう>と結んでいる)。
上記2)、3)は、党首討論、官房長官の会見での発言、続いて「部数(だけ)を誇(りとす)る」読売新聞の社説と三段構えで繰り出されたプロパガンダともいえそうな流れを形成しており、まさに民進党内部および民進党支持者の分断と揺さぶりをここで繰り出し、衆参同日選へのはずみをつけ、様子を見た上で最終判断しようという腹がほのみえるような感じで推移している。
党首討論、官房長官発言、読売政府御用新聞の社説のすべてが、衆参同日選に本当に踏み切るかどうかのアドバルーン(でありかつ観測気球)を構成しており、これまでの「同日選ありか」の情報リークの類も同種のものだったが、いよいよ政権としては腹をくくる時期に入ってきたことを物語る動きのようでもある。
安倍自公右翼カルト・プロパガンダ政権にとって、参院選だけであろうと衆参同日選であろうと、それこそ「取り巻く環境」は良好ではない。政権や与党内部から「同日選」の観測気球や情報が出続けているのは、野党をゆさぶる狙いだけでなく、参院選そのものの「厳しさ」への予見もあり、政権与党としてはこの際、同日選に打って出て野党勢力の分断(すでに政権与党寄りの御用野党も存在する)をはかり、一気に起死回生をはかるほかないという判断も働いているものと思われる。もちろんプロパガンダ政権の体質として、自らに都合のよい情報にしか目がいかないという限界、稚拙さも混在するのだろうが――。
政府与党にとって、いま何とか比較的いい数字のようにみえるのは、前述の毎日新聞の記事にもあったように<内閣支持率>、そしてせいぜい<政党支持率>ぐらいのもので、その他はなかなか厳しいというのが実情ではないだろうか。
▽安保法:公明党支持層でも「反対」49・2%と圧倒的(高知)
たとえば、「安保法」の関連だ。2015年12月実施の全国世論調査(日本世論調査会)では、「反対」48・9%、「賛成」43・6%、2016年4月の共同通信の調査では、安保法を「評価しない」49・9%、「評価する」39・0%だった。
また、たとえば5月13〜15日に高知新聞社、徳島新聞社、高知放送、四国放送が合同で実施した世論調査(電話調査、高知県と徳島県の有権者計1413人から回答を得た)では、集団的自衛権の行使などを可能にした安全保障関連法について、高知県民の49・5%が「反対」、「賛成」は32・7%だった。
与党の自民党支持層でみた場合でも反対が27・7%を占め、公明党支持層では反対が49・2%を占め、賛成の37・1%よりずっと多いのが実情だ。反対・賛成を支持政党別でみた場合、賛成のほうが多かったのは自民(賛成60・8%、反対27・7%)と、おおさか維新(賛成73・5%、反対26・5%)だけだった。
支持政党をもたない無党派層における「反対」は54・0%を占め、「安保法」に賛成は18・0%にとどまっている。徳島・高知選挙区で安保法廃止を掲げて共闘する野党3党の支持者は、民進の84・2%、共産の91・9%、社民の100%が反対で一致している。
ちなみに今度の参院選の比例代表で、どの政党等の候補者に投票するかについては、「決めていない」が35.9%、「分からない・無回答」が3.4%を占めた。また、政党支持は多い順に並べると、自民党36.9%、民進党10.2%、共産党5.6%、公明党4.5%、おおさか維新2.5%、社民党0.5%、生活の党0.2%などとなっている。
「アベノミクス」への評価は、高知県内で「景気回復を実感していない」83・7%、「実感している」12・0%。徳島県もほぼ同様だった。2014年衆院選前に高知新聞が実施した県民世論調査では、アベノミクスを「評価しない」は「あまり」を含めて5割強だったという。
「消費税率の10%への引き上げ」については、2017年4月に予定される消費税率の10%への引き上げに対し、高知県内では反対66・5%、賛成28・2%。徳島県内も反対64・4%、賛成32・5%(共同通信が4月末に実施した全国の世論調査結果=反対66・9%、賛成28・6%=ともほぼ同じ傾向)だった。
最も関心のある政策課題は、「医療、介護、年金、福祉など社会保障」が36・9%と突出して高く、次いで「景気・雇用対策」15・7%、「憲法改正」13・0%、「消費税増税など税制改革」11・4%と続く。
今回の参院選に対する有権者の関心は、高知県内では「大いにある」19・1%、「ある程度」42・4%、合わせて61・5%となった。一方、関心が「あまりない」30・1%、「まったくない」8・2%と、有権者の4割近くが関心を向けていない状況が浮かぶ。投票率の極端な低下が懸念されている。同日選となった場合どのように変化するのか、あるいはあまり変化はないのか。重要なチェックポイントとなってこよう。
(つづく)
(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)
安倍首相 同日選視野 消費増税先送り検討(毎日新聞19日)
http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160519/ddm/001/010/179000c?fm=mnm
【報ステ】党首討論で「消費増税」「憲法問題」(18日)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000075096.html
民進は改憲への立場明示を=菅長官(時事通信18日)
http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0518/jj_160518_0309045054.html
党首討論 岡田氏は護憲を貫くつもりか(読売新聞19日)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20160518-OYT1T50148.html
半数が安保法に反対 参院選を前に県民世論調査(高知新聞18日)
http://www.kochinews.co.jp/article/22292
http://mainichi.jp/senkyo/articles/20160519/ddm/001/010/179000c?fm=mnm
【報ステ】党首討論で「消費増税」「憲法問題」(18日)
http://news.tv-asahi.co.jp/news_politics/articles/000075096.html
民進は改憲への立場明示を=菅長官(時事通信18日)
http://news.biglobe.ne.jp/domestic/0518/jj_160518_0309045054.html
党首討論 岡田氏は護憲を貫くつもりか(読売新聞19日)
http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20160518-OYT1T50148.html
半数が安保法に反対 参院選を前に県民世論調査(高知新聞18日)
http://www.kochinews.co.jp/article/22292
◇JCJふらっしゅ
http://archives.mag2.com/0000102032/