2016年06月04日

記者個人の言論「尊重を」──社外活動の規制強化に反対=新崎盛吾

 新聞労連は4月19日、「社外言論活動の規制強化に反対する」との声明を発表した。新聞社や通信社の社員であっても、外部媒体への執筆や講演など記者個人の社外言論活動は、言論・表現の自由に基づいて尊重されるべきだと考えるからだ。
 最近、社外活動を抑制する規定を新設したり、運用に幅を持たせていた規定を厳格に適用したりする動きが広がっている。北海道新聞社は昨年12月、社外活動に事前承認を求める規定を労組側に提示した。記者が職務上知り得た情報を外部執筆や講演などで発表する場合、7日前までに社に事前申請するなどと定めている。社が必要と判断した場合は、発表原稿の事前提出を求めるという事実上の事前検閲も含まれていた。
 問題視した北海道新聞労組は、新聞労連を通じて全国の加盟単組に同様の規定の有無や運用状況などをアンケート調査。約30組合から回答が寄せられた結果、事前提出などの規定は例がないことが分かった。労組が強く撤回を求め、編集職場でも有志が反対声明を出すなど反発が強まったためか、会社側は2月1日としていた運用開始を直前になって断念し、規定をいったん撤回した。

 新聞労連は3月の中央執行委員会で一連の経緯を検討。新聞業界全体の問題として考える必要があるとの判断に至り、声明の発表を決めた。
 会社側が規制強化を進める背景には、自社の記者らが外部媒体で発表した記事などによるトラブルを防止し、社内のコンプライアンス強化を図る狙いがあるとみられる。ネット社会が広がる中、不用意な発信でトラブルを招く「ケースは、確かに増えている」。

 昨年11月、ツイッター上で個人を中傷する匿名発言を続けていた新潟日報社の支社報道部長が、懲戒処分を受ける事態も起きた。このような人権侵害につながる発言を言論の自由として許容するつもりはない。組織に所属し、会社の名前を使って取材活動をする以上、迷惑行為があれば、各社の就業規則に基づいて処分されることは当然あり得る。最低限の規定が必要との考え方も理解できなくはない。
 しかし、コンプライアンス強化を求めるあまり、むやみに社外活動を規制する動きが広がることは好ましくない。言論・表現の自由は、憲法21条で保障された最も重要な基本的人権の一つであり、この自由によって立つ新聞社であれば、なおさら個人の言論活動を尊重するべきだろう。

 新聞労連の組合員の大半は、組織ジャーナリズムの中で取材活動に取り組み、自社の媒体で成果を示すことで、国民の知る権利に応えようとしている。ただ、すべての社員が社の論調と同じ考えを持つことはあり得ないし、社と社員の間で記事掲載の可否をめぐる判断が常に一致するとも限らない。紙面の編集権は会社側にあるとしても、個々の社員が持つ表現の自由を狭めてはならない。

 私たちは、国民の知る権利や健全な民主主義を守るため、日々の取材活動に従事している。この目的さえ揺るがなければ、外部執筆などの社外活動は、多様な言論を守る上でも推奨されるべきだろう。明らかな事実誤認があったり、人権侵害につながったりする内容でなければ、自らの姿勢を取材先などに明らかにして了解を得た上で、あえて会社名を明記しなかったり、匿名で発表したりすることも認められるべきだと考えている。
 政権によるメディアへの圧力が強まり、取材現場に自主規制や忖度の動きが広がる中、国民の知る権利に奉仕し、権力を監視する役割を課された報道機関であればこそ、個人の多様な価値観を認め、社員を萎縮させることがないよう最大限の配慮を求めたい。

(新聞労連委員長) *JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2016年5月25日号



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posted by JCJ at 05:00 | TrackBack(0) | パブリック・コメント | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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