2016年06月11日

トランプ旋風の背後で進む「共和党タカ派一本やり体質」の窮地(2)──クリントン支持表明前のオバマ、サンダース会談が流れを変えた

 7日、代議員総数の過半数を確保して、7月の民主党全国大会での指名獲得を確実にしたクリントン氏(前国務長官)が勝利を宣言した。
 オバマ大統領はその日は、まだクリントン氏の支持を表明しなかった。同日夜、指名獲得に必要な代議員数を確保したことを祝福するに留まった。またオバマ氏は、クリントン氏と抜きつ抜かれつの大接戦を繰り広げたサンダース氏にも電話を入れたことが伝わった。この段階の各種報道の末尾には、民主党内部の亀裂、分裂の危機を懸念する一文が付けられるケースが多く見られた。
 そして8日、ロイター通信が「ウォーレン上院議員がクリントン氏支持へ=関係筋」の記事を流した。

(JCJふらっしゅ「ニュースの検証」=小鷲順造)


 記事は、複数の関係筋によると、エリザベス・ウォーレン上院議員が米大統領選で民主党候補に指名される見通しのヒラリー・クリントン前国務長官への支持を近く表明するとみられる、とするもの。ウォーレン氏はウォール街への批判的な立場で知られるが、副大統領候補となることに現時点で関心はないとしつつも、その可能性を排除していないという、との補足情報も含まれていた。
 若者層にも深く広く浸透し、広範な支持者をまとめあげてきたサンダース陣営だが、あまり好かれていないクリントン氏の勝利宣言をうけて、エリザベス・ウォーレン氏が「クリントン氏を支持表明か」の報道が出たことで、「サンダース氏はどうなるのか」との悲鳴ともつかない抗議の声がネット上などで湧き上がり、ウォーレン氏はじめ関係者に向けられたという話もある。

 事態が動いたのは9日だった。
 同日、オバマ米大統領は、11月の大統領選の民主党候補指名を確実にしたヒラリー・クリントン前国務長官への支持を正式に表明した。
 その際、クリントン氏の選挙対策本部が、支持表明のビデオ映像を公開した。
 その中でオバマ氏は、「大統領にこれほどふさわしい人物はいない」と指摘。本選に向け、ヒラリー氏と共に有権者に支持を呼びかけるのが「待ちきれない」と述べている。大事なのは、この映像の中で大統領はサンダース氏にも言及している点だろう。「経済格差や政治に及ぼすカネの影響といった重要な課題にスポットを当てた同氏の選挙戦を評価」している(CNN)。

▽オバマ、サンダース会談/サンダース氏が盛り上げてくれた国民の関心を共に協力して維持していく方法について語り合った

 実はこの日、オバマ大統領は1時間以上にわたってサンダース氏と会談していた。
 そして会談を終えたサンダース氏は、トランプ氏が大統領になれば惨事を招くとの認識を示し、「ドナルド・トランプを大統領にさせないために全力を尽くす」と言明して、クリントン氏に協力すると表明したのだ。
 サンダース氏は、「近い将来(クリントン氏に)会って、ドナルド・トランプを打ち負かすため、そしてわずか1%だけでなく私たち全員を代表する政府を発足させるため、どんな協力ができるか見極める」(CNN)と語った。

 そしてアーネスト米大統領報道官が、同日午後の記者会見で、オバマ大統領とサンダース氏の会談について「未来に的を絞った友好的な会話」だったと話した。会談の中でオバマ氏は、民主党の予備選でサンダース氏が「目覚ましい実績」を挙げたとして称賛したという(→CNN)。

 時系列でいうと、サンダース氏との会談のあとオバマ大統領のクリントン氏支持表明のビデオが公開された。
 これらを伝えたCNNの記事のタイトルは「サンダース氏、クリントン氏への協力を宣言 米民主党結束へ」だった。

 The Huffington Postに載ったDaniel Marans氏の記事がさらに詳しい。
1)サンダース氏はオバマ大統領とジョー・バイデン副大統領に対し、大統領予備選期間中に両氏が「中立公正」の立場をとったことに感謝の意を述べた。
2)サンダース氏はトランプ氏について、彼が大統領になることはアメリカの「大惨事」だと改めて苦言を呈した。
 「言うまでもないが、ドナルド・トランプがアメリカ合衆国大統領になることがないよう、力の限り全力を挙げて戦うつもりだ」
3)サンダース氏は、自身の主要政策を「引っさげて」大会に臨むつもりだという。社会保障の拡張や貧困の軽減がその政策の一例だ。
4)14日のワシントンDCで行われる予備選に向け、選挙選を続ける意向を表明した。DCに州自治権を与えることを支持する自身の立場をアピールすることを狙っている。「我がバーモント州は、ワシントンDCとほぼ同じ人口で、全権を委託された上院議員2人と下院議員1人がいるのに対し、ワシントンDCには1人もいない」。サンダース氏は長年にわたってDCの州自治権を支持する立場を表明しており、クリントン氏もその考えを支持している。

 ホワイトハウスのジョシュ・アーネスト報道官の発言もこの記事がより詳細だ。
 アーネスト報道官は、オバマ大統領はサンダース氏の選挙戦での成果を称え、民主党を可能な限り多様性のあるダイナミックな党としていくため、サンダース氏が盛り上げてくれた国民の関心を共に協力して維持しく方法について語り合ったと話した。

 また、より多くの国民の支持を民主党に集めるために、「オバマ大統領の長年の目標であり、多くの若者たちや民主党以外の人々と手を組む連立政権の構築に関してオバマ大統領自身が成功した」と評価しつつ、「サンダース上院議員はその成果をさらに引き継いでくれた」とアーネスト報道官は語ったという。
 私はこの日の約1時間といわれるオバマ、サンダース会談こそ、米国の未来に一条の光をもたらすものとなったと考えている。暗闇の中から搾り出すようにあげられた市民の願いが、大統領選挙の一部として組み込まれることがほぼ確実となったと思われる瞬間だったからである。

▽問われる日本の米大統領選報道のありよう

 オバマ大統領のクリントン氏支持に対し、トランプ氏(共和党候補指名を確実にしている実業家)はどう動いたか。
 トランプ氏はTwitterで、<オバマがインチキのヒラリーを支持した。奴は、オバマ政権をもう4年続けたいようだが、他の誰も望んでないことだ!>と発信、これに対してクリントン氏もツイッターで「Twitterからアカウントを消しなさい」と応戦する一幕が起きた。
 クリントン対トランプの舌戦については、NHKも「クリントン氏とトランプ氏 首都ワシントンで舌戦」の記事を11日に出している。

 10日午前には、クリントン氏はエリザベス・ウォーレン上院議員(マサチューセッツ州、民主)と会談した。
 両者は、共和党候補指名を確実にしているドナルド・トランプ氏への批判を強めているが、ブルムバーグは、クリントン氏の大統領選キャンペーンの関係者が匿名を条件に語ったとして、「クリントン、ウォーレン両氏は進歩派のアジェンダ推進やトランプ氏阻止でどう協力していくかについて話し合った。またクリントン氏はウォーレン議員の支持に感謝の意を表明した。同議員は会談後、何もコメントせずに去った」と伝えている。また記事は、「ウォーレン議員による支持は、クリントン氏が、予備選でバーニー・サンダース氏を支持していた進歩的な有権者を呼び寄せる上でプラスに働く可能性がある」と末尾に付け加えて報じた。

 このクリントン、ウォーレン会談に関連することだが、8日にウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)のローラ・メックラー記者がクリントン氏にインタビューして、経済顧問団に金融関係者を含まないようにするかの質問をした際、クリントン氏は「(起用の可能性を)決めてもいないし、排除してもいない」とした上で、「私はいつも機会があればベストな人々を探している」と返したことから、同紙は10日付で「クリントン氏、金融業界から政権要職の可能性排除せず」の記事を出していた。

 11月の大統領本選に向けて動き出した民主党陣営。サンダース氏やウォーレン氏との連携の具体化も含めて、7月の当大会には詳細を明らかにするのだろうか。
 オバマ大統領がクリントン氏支持の正式表明をする前にサンダース氏と会談し、<経済の不均衡や、私たちの政治にお金が与える過大な影響といった問題にスポットライトを当ててくれたこと、そして、若い人たちを選挙の過程の中に呼び込んでくれたこと>に賛辞を述べ、そのメッセージを公約にも受け入れるとする姿勢を打ち出して、党内結束を促進させたことで、7日付フィナンシャルタイムズが「米大統領選史上、最もえげつない戦い」と評したクリントン氏とトランプ氏の間で始まった舌戦は収まっていくのか。

 日本のメディアの米大統領選報道も、トランプ氏の暴言やクリントン氏とトランプ氏の「えげつない」舌戦にスポットをあてる傾向が出ている。さらに次期大統領の決定後には、少なくとも日本社会にも影響が及んでくる話であり、この機会にしっかりと日本の米大統領選報道のありようも、注視しておきたいところである。

 民主党サンダース陣営は、若者層も含めて予想外の支持の広がりを獲得し、熱烈な支持層を掘り起こしてきた。私にとって米大統領選前半、各党候補選出のための予備選における最大の注目点は、全米を席巻し世界にも飛び火した「ウォール街を占拠せよ!」「99%運動」の流れは、その後いかに熟成され練りこまれてきたのか、そしてそのムーブメントは次期大統領選びにどのように生かされるのかにあった。閉塞した米国の未来に光は差すのか――そのバロメーターの一つが、私にはその点にあるように思えてならないのだ。

 今回、クリントン氏への正式支持表明の際にみせたオバマ大統領の気配りとサンダース陣営に対する具体的な賞賛などによって、「ウォール街を占拠せよ!」「99%運動」の流れは、少なくとも公約などのかたちで大統領本選へと生かされていくことになったと判断できるように思う。全米を襲ってきた深刻な貧困や格差。背景には、市民生活などそっちのけで独りよがりに暴走する金融界の腐敗・堕落、チャンスさえあればいつでも首をもたげようとする米軍産複合体の戦争依存体質、そして弱ったものは徹底して打ちのめして退場へと追い込み、未来を平然と封鎖してやまない弱肉強食の論理、それらのさらに奥底には際限のない傲慢極まりない資本の論理が横たわっている。この問題は米国だけでおきているのではない。

 「野党は共闘」の市民の声をうけた4野党の共闘が日本の政治を変えようとしている。その流れや、そこへの期待の高まりもまた、サンダース陣営に対する大きな熱烈な支持の広がりとさまざまな点で共通している。私が、日本の4野党の共闘が生み出そうとしている流れについて、日本だけに留まるものではなく、大きく世界が変わっていこうとしている流れの一部として機能し、さらに流れそのものとなっていくことを期待してやまないのも、そのためなのである。

(こわし・じゅんぞう/日本ジャーナリスト会議会員)


オバマ氏、クリントン氏支持表明「誰より大統領にふさわしい」(ロイター10日)
http://reut.rs/21aM0kG
米大統領選、ウォーレン上院議員がクリントン氏支持へ=関係筋(ロイター9日)
http://jp.reuters.com/article/usa-election-warren-idJPKCN0YU2TM
サンダース氏、クリントン氏への協力を宣言 米民主党結束へ(CNN10日)
http://www.cnn.co.jp/usa/35084054.html
President Barack Obama endorses Hillary Clinton for president(YOUTUBE9日)
https://www.youtube.com/watch?v=S9W0F2mz1jc
バーニー・サンダース氏、トランプ打倒への協力を誓う クリントン氏との連携は?
(The Huffington Post、Daniel Marans10日)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/06/10/bernie-sanders_n_10391080.html
オバマ大統領、クリントン氏支持を表明 トランプ氏が早速噛みつく「オバマがインチキを支持した」(The Huffington Post 10日)
*オバマ米大統領のクリントン氏支持正式表明映像の日本語訳付)
http://www.huffingtonpost.jp/2016/06/09/obama-endorses-hillary-clinton_n_10385404.html?ir=Japan
クリントン氏、金融業界から政権要職の可能性排除せず(WSJ10日)
http://jp.wsj.com/articles/SB11520750371802253976804582119031063976696
クリントン氏とトランプ氏 首都ワシントンで舌戦(NHK11日)
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160611/k10010552961000.html
クリントン氏、ウォーレン議員と会談−トランプ氏阻止に向け協力(ブルームバーグ11日)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2016-06-10/O8KL2ZSYF02001

トランプ旋風の背後で進む「共和党タカ派一本やり体質」の窮地(1)

posted by JCJ at 17:13 | TrackBack(0) | メディアウォッチ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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