2016年08月02日

不況直撃、小さな出版社の生き残り戦術=守屋龍一

 小さな出版社「本の泉社」を訪ねた。創業50年、社員5人。月刊誌「日本の科学者」をはじめ、八つの定期誌と書籍を刊行する。代表を務める喜寿の比留川洋さんと面談した。
 彼は、開口一番、「本を作り売る環境が破壊されています。電車内はスマホでゲームに夢中な人ばかり、9割がそうだ。しかも取次の倒産が相次ぐなか、取次大手は6カ月末シメの売上金のうち、30%分については、さらに6カ月後の支払いに繰り延べ。青息吐息の出版社に過酷な仕打ち。出版文化の重大な危機だ」と語る。
 2年前に文化庁が行った調査によれば、月に1冊も読書しない人が47・5%、1日の読書時間は全体平均で13分。出版の売り上げが、前年比マイナス845億円と、最大の落ち込みになるのも当然だ。

 日書連の全国調査では、経営状態の悪化した書店が85%を超えた。スマホなどの影響で雑誌売り上げの激減、さらに大手通販が展開するネット書店に押され、全国で1日あたり「町の本屋さん」が、3店舗ずつ閉鎖。加えてアマゾンジャパンは、電子書籍5万冊の読み放題サービスを、8月から月額980円で始める。本屋を全く通さないで購入し、読むことができるのだから、本屋さんは、たまったものではない。
 いかに対応するか。比留川代表は、こう答える。
 「まずコスト削減のため、定期誌は企画・原稿依頼など、編集委員会が全責任を持ち作業してもらう。私たちは従来の取次任せから脱皮し、購読希望者への直販を強化する。代金のコンビニ決済も導入する」

 昨年、フジTVのクイズ番組で、7年前に刊行した井上憲雄『小学生学習漢字1006字が読める漢字童話』が取り上げられた。放映後、読者からの電話注文に加え、楽天やアマゾンなどの通販経由の注文が殺到。あっという間に、10万部を超すベストセラーになった。
 「まず通販や直販の威力にドギモを抜かれました。アマゾン商法に批判もありますが、迅速に読者に本を届ける点では優れています。電子書籍化もタメラっていてはだめです。IT時代に対応するため、5年前から定期誌や書籍を電子版にする研究や作業に取り組み、今では実際に、販売しています。どんな形であれ、多くの人に読んでほしいからです」

 帰りぎわ、入口わきの書棚を見ると、田代三良『インパール作戦敗軍行』(本の泉社)が並んでいる。筆者の高校時代の恩師が、一兵卒として従軍した際の記録だ。
 黒田日銀総裁の始めた異次元金融緩和が、旧日本軍による無謀な「インパール作戦」と同じく泥沼に踏み込んだといわれ、「アベノミクスの破綻」は明白となった。
 あらためて、私たちの生活を貧しくさせ、出版界の低迷を招いている元凶への想いが走った。

(JCJ代表委員)

*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」2016年7月25日号


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