2016年10月03日

差別意識と政治の共鳴は戦慄的事態を生む=吉原 功

 信濃毎日新聞8月22日付に次のような投書が掲載された。  「先日相模原市で痛ましい事件がありましたが、『誰しも命の重さは同じ』といった報道がありました。でも私は聞いてみたい。日常生活の中で障害者を差別したことはないですか。職場で邪魔だと思ったことはないですか。国の政治のトップが『一億総活躍』を掲げる社会全体の目が厳しい気がするのは、私だけでしょうか」。この詰問に私ははっとして戸惑う。「差別したことも邪魔だと思ったこともない」と心底いえない自分を見出すからだ。

 同紙には切実な声が相次いで寄せられているようで、9月11日にも、役場の若い男性に「障害児が2人いると手当がたくさんもらえていいですね」などといわれた体験を綴った母親の投書が掲載されている。 障害児をもつ家族がいかに深く傷つけられながら日常生活を送らざるを得ないかが読み取れる。発話者の多くはそのことに気付かないのだ。それだけ差別意識が普遍的に潜在しているということである。
 7月26日未明、相模原市の知的障害者施設で入所者19名が殺害された事件は、このような潜在差別意識が先鋭化したものと言えよう。それだけではない。事件を特集している雑誌『創』10月号はこれが単なる殺人事件ではなく、現代社会の深刻な深層の一部が表出した事件であることを明らかにしている。特に、日本障害者協議会代表藤井克徳さんの「『T4作戦』や優生思想がこんな形で現れたことに驚いた」という報告記事は衝撃的だ。
 「T4作戦」とはヒトラーの命令によって実施された「価値なき生命の抹殺を容認する作戦」でこれにより20万人以上の障害者が殺害され、ホロコーストに直結したものという。その根底にあったのが徹底した優生思想と民族浄化思想で、1920年代初頭からドイツ社会で語られており、それをヒトラーは利用したとも指摘される。

 ホロコーストについてはつとに「国をあげての総括と保障」が行われたが、「T4作戦」についての謝罪は2010年を待たなければならなかった。翻って日本はどうであろうか。藤井さんは、都知事時代の石原慎太郎が入所施設を見学した後「こういう人に人格ってあるのかね」と言ったり、昨年11月に茨城県教育委員会が「生まれる前に障害の有無がわからないのか」という事例を想起する。首相を先頭に戦前回帰志向の面々が政府を構成している。
 「強いものが幅をきかせるのと並行して人権意識が薄らいでいる。そういう日本社会を覆う流れのなかで起こったのが今回の事件」と藤井さんは指摘する。人権意識のない政治指導者と市井に広がる潜在的差別意識が共鳴することにより、戦慄的な事態になりかねない。

*JCJ月刊機関紙「ジャーナリスト」(2016年9月25日号)


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